そいつら誰だ
「もー、遅いよー」
お化け屋敷から出ると、フーリーが頬を膨らませて言ってきた。
ラトンとメルクの二人に会って、色々と話をしていたせいで、みんなを待たせてしまったようだ。
「ご主人がいないと、やっぱり退屈だったぞー」
「リオンさんたちは、大丈夫でしたか?」
「え? あ、ああ、まあ……」
ククルの問いに、ちらっと隣のクティを横目で見る。
余計なことを言うな、とでも言わんばかりの眼差しで僕を睨んできていた。
よほど怖がりだと思われたくないらしい。正直、わりと手遅れな気もするけど。
何はともあれ、僕たちは昼食にするためレストランへ向かう。
この遊園地にしかないオリジナル料理に舌鼓を打ち、満腹になったところで次のアトラクションへ足を向けた。
§
数々のアトラクションや、ショッピングを楽しんでいたら。
気づけば空はオレンジ色に染まり、夜も近づいてきていた。
時間の経過すら忘れ、思っていた以上に楽しんでしまっていたらしい。
さすがに疲労にも襲われ、僕たちは泊まる予定のホテルへ足を向ける。
遊園地の入り口から真っ直ぐ右へ進み、やがて十数分程度でその建物に辿り着いた。
中に入ってみると、とてもおしゃれな空間が広がっていた。どうやら、ここが受付兼ロビーとなっているらしい。
近くにはお土産を買えるようなお店もあり、かなりいい雰囲気のホテルだった。
そうして手続きを済ませ、鍵などを貰ったあとにエレベーターで部屋へ向かう。
僕たちの部屋がある八階へ到着し、扉の横に書いてある番号を頼りに部屋を探す。
ようやく発見し、中に入り――思わず、感嘆の吐息が漏れた。
広い。人数が多いから当然だとも言えるが、それを抜きにしても広く、そしてかなり綺麗だった。
人数分のシングルベッド、風呂にトイレ、机に椅子、棚にテレビに冷蔵庫。
窓からは、遊園地内の景色が一望できる。
ホテルに泊まったのは久しぶりだけど、まさかこんなにいい部屋だったとは。
たとえ異世界であっても、やっぱりホテルはいいものだ。機会があれば、またみんなで泊まりに来たいとすら早くも考えてしまう。
「ご主人ご主人ー、下のお店、一緒に行きたいぞー」
「えっ、もう何か買うの?」
「んー、お腹が空いたし、喉も渇いたぞー」
なるほど。小腹を満たすための軽食と、飲み物を買いに行きたいらしい。
夕食までにはまだ少し時間があるし、その程度なら別にいいか。
正直、一人で行けって言いたいところではあるけど、僕も少し見ておきたい気もするし一緒に行くとしよう。
「じゃあ、僕たちはちょっと行ってくるね」
「はーい、リオンちゃんとシールちゃんはいつも一緒だねー」
「お化け屋敷では一緒じゃなかったぞー」
「う……根に持ってるの……?」
唇を尖らせたシールに言われて口角が引きつるフーリーを横目に、僕たちは部屋から出る。
エレベーターを降り、一階の店へ行く。
商品は、基本的には食べ物や飲み物が多い。
だけど、中には服やアクセサリー、そして傘などの日用品も置かれていた。
「んむむ……全部ほしいぞー」
「……どれだけ食べる気なの」
僕の突っ込みでさえ耳に入っていないのか、必死にお菓子コーナーを物色している。
まあ、お土産を買う時間とかは確かに楽しくなっちゃうし気持ちも分かる気はするけど、今はあくまで夕飯までに小腹を満たすものを選んでいるだけだからな……。
せっかくだし、僕も何か買おうかとシールから視線を逸らした、瞬間。
視界の端に、何やら見覚えのある影がふたつ映り込んだ。
あのもふもふとした耳と尻尾は、間違いない。
お化け屋敷で知り合った、妖狐の姉妹――ラトンとメルクだ。
そこで向こうも僕に気づいたのか、小走りで駆け寄ってくる。
「また会うたね、リオンおねーちゃん。クティおねーちゃん、どこいると?」
「ああ、部屋で休んでるよ。二人も、このホテルに泊まってるの?」
「うん! すごい偶然ばい」
この二人と会えるなら、クティも連れて来ればよかったかもしれない。もちろん、同じホテルに泊まっているとは知らなかったんだから仕方ないけど。
と、そんなやり取りをしていたら、不意にシールがじーと僕たちを見ていることに気づいた。
「えっと……どうかした?」
「ご主人ー、そいつら誰だー? わたしの知らない知り合いがいるなんて、聞いてないぞー」
そういえば、お化け屋敷で遅れた理由までは話していなかったか。
でも、僕の交友関係まで全て把握しようとしなくていいと思うのだが。
とりあえず、お化け屋敷の中で知り合ったことを手短に説明し、そのあと二人とシールが名乗り合う。
こうして知り合い、友達が増えるのはいいことだ。フーリーやククルとも、できれば仲良くなってもらいたいところだが。
「今晩、ラトンと二人で祭りに行く予定やったんやけど、せっかくやし一緒にどうや? 人数は多いほうが楽しいやろしなぁ」
そんなメルクの申し出で、ここに来る前にフーリーが祭りもあるとか言ってたことを思い出した。
僕たちも行くつもりではあったし、せっかく誘われたのだから断る理由なんて特にない。
「あと二人いるんだけど、大丈夫……?」
「ええよええよ。多くて困ることなんてあらへんやろし」
「だったら、ぜひ一緒に行きたいな」
「わーい! 楽しみにしとるばい!」
ここまで喜んでもらえると、こっちも何だか嬉しくなる。
旅行先でこんな出会いがあるとは思ってなかっただけに、嬉しくて自然と笑みが零れてしまう。
「そういや、浴衣は持って来とるん?」
ふと、首を傾げながら問われ、僕は少し考えてしまう。
祭りがあるとは知っていたが、元の世界と同じように浴衣を着るものなのか。
少なくとも僕は持っていないし、きっと誰も持ってきてはいないはず。
まあ、別に絶対に着ないといけないというわけでもないのだから、私服のままでも問題ないだろう。
「持ってないんやったら、買っといたほうがええよ? せっかくの祭りなんやし、いつもの服のままやったらもったいないやん。ちょうど、この店には浴衣も売っとるみたいやしなぁ」
そう言いながらメルクが顔を向けた先には、確かに様々な柄や色の浴衣が並んでいた。
そうか。今晩は祭りがあるから、こういったところでも売ってたりするのか。
「どうする、シール?」
「わたしは着てみたいぞー、せっかくだからなー」
元々シールは着物なのだからどうなのかと思ったが、こう言っていることだし買ってみるか。
ただ、その場合は他のみんなも呼んでこないと。
ラトンやメルクと別れたあと、浴衣を購入するためみんなを呼びに部屋へ戻った。




