☆ここは呪われておったんじゃ
外観は、何だか古びた洋館といった感じだった。
血文字のような、おどろおどろしい文字で『お化け屋敷』と記されており、中から少し冷たい風まで吹いている気がする。
外観だけで、かなりのクオリティだ。たかがお化け屋敷と侮っていたが、なかなかに怖そうである。
「ほ、本当に大丈夫なんじゃろうな……こ、これ、下手したら死人が出るぞ……」
隣で、クティが顔を青ざめさせながら震え声を発する。
あんなに大丈夫だと息巻いていたのに、今ではもう誤魔化す気すらなくなっている。
まあクオリティは確かに凄まじいが、あくまでお化け屋敷。中で何かあったとしても、それらは全て作り物だろう。
きっとそう怖がるほどのことでもない……と、一歩を踏み出そうとしたとき。
左右から僕の袖が引っ張られる感覚に、思わず足を止めた。
左ではクティが、右ではククルが。
僕の袖をぎゅっと握り締め、青ざめた顔で僕を見ていた。
ククルには怖ければ手を繋いでいいとは言ったけど、まさか入る前に、しかもクティまで一緒に袖を握ってくるとは。
「おおっ、リオンちゃん大人気だね……なんか妬けちゃうなあ。あたしも抱きつくっ!」
「定員オーバーだよっ!」
僕の正面に抱きついてこようとするフーリーを、慌てて制止する。
と。今度は背後で、僕のフードがぐいぐいと引っ張られていることに気づいた。
「ご主人の一番はわたしだぞー、わたしを忘れたら泣くぞー」
その発言通り、シールが何だか涙目になっている。
何だ、これ。お化け屋敷に入る前から、何でこんなことになっているのか。
フーリーは……まあ少し悔しそうに唇を尖らせてはいるものの、怖いものとかは平気そうだ。
「あ、じゃあさ、じゃあさ。せっかくだから、二つのチームに分かれようよ。三人と二人でさ!」
「……チーム?」
「うんうんっ! ほら、全員で行っちゃうと怖さも半減しちゃうし、あとリオンちゃんが独り占めしちゃって悲しいし」
人数が多いと怖さが半減するというのは分かるけど、もうひとつの理由はただの私怨じゃないか。しかもそれ、僕は悪くないよね。
ククル、シール、クティの三人はどこか不安そうにしていたものの、特に反論意見も出なかったため、即興のくじで決めることにした。
先端が黒い棒と、先端が赤い棒の二種類、計五本をフーリーが取り出す。
そしてシャッフルし、先端だけを隠して全て握り締める。
それぞれが選び、同じ色の棒を手に取った者同士がチームというわけだ。
シンプルだが、実に分かりやすい。
正直、僕は誰とでもいいから適当に選び、棒を一本引いた。
各々一本ずつ棒を取ったのを確認したのち、一斉に先端の色を確認する。
黒チームが、僕とクティ。
赤チームが、シールとククルとフーリー。
どうやら、僕は二人側だったらしい。
「えーっ、ご主人と別々なのかー? そんなの嫌だぞー、やり直しを要求するぞー」
「はう……リオンさぁん……っ」
「ちょっとちょっと、あたしもいるんだから大丈夫だってば。じゃあね、リオンちゃんたち、先に入ってるねー」
抗議するシールと悲しそうに涙目になるククルを連れ、フーリーは僕たちに手を振りながらお化け屋敷に入っていった。
シールと別れたのは、何気に初めてかもしれない。
「じゃあ、僕たちも行こっか」
「う、うぬ……おお、おぬし、わしから離れるでないぞっ? 別にわしが怖いわけではないが、おぬしがはぐれたり、万が一にでも物の怪に襲われてはいかんのでなっ!」
万が一でも億が一でも、物の怪が出てくることは絶対にないと思うけど。
どうせ、出てきたとしても従業員の変装とかだろうし。
何はともあれ、体を小刻みに震わせるクティと一緒にお化け屋敷へと入る。
かなり暗い。足元がよく見えないくらい闇に覆われ、所々に松明の炎が灯っているだけだった。
二人で肩を並べながら、歩を進める。
何かが倒れたり、近くで物音がする度に、びくっと体が震えるクティが何だか面白かった。
と、数々の仕掛けにいちいち驚くクティを横目で見ながら歩くこと、およそ数分。
突然、クティが僕の腕に抱きついてきた。
何事かと思って、そちらを見てみれば。
白い装束に身を纏った影が、地面から浮いていた。
しかも。
ゆっくりと、僕たちのほうへ迫ってきていた。
「おお、お、おにゅし、にに、にげ、逃げるじょ……っ」
「えっ? あ、ちょっ――」
怯えるあまり呂律が回らなくなっているクティが、僕の腕を引っ張ってどこかへ走り去っていく。
頑張って止めようとするも、よほど必死なのか僕の声は聞こえておらず、そして手の力も僕より強くて止まらせることすらできなかった。
やがて、ひとつの部屋の中に入り、物陰に身を隠す。
クティは頭を抱えて座り込み、ぶるぶると震えていた。
「や、やっぱりだめじゃあ……ここは呪われておったんじゃ……」
凄まじいビビリっぷりである。
確かに僕も驚きはしたが、あれだって作り物なのだろうし呪いとかではないと思う。
「大丈夫だよ、そんなに怖いものでもないから」
「わ、わしが怖がっておるかのような言い方はやめろっ!」
ここまで来て、よくもまあそんな強がりを言えたものだ。
これが怖がっているわけじゃなかったら、一体何だというのか。
とはいえ、いつまでもここにいるわけにもいかないし。
どう励まそうか、頭を悩ませていたら。
不意に、この部屋の扉が開く音がした。
「ひぃぇ……っ!? だだ、誰か入ってきおったぞ!? 幽霊か? 妖怪か? 物の怪か? 宇宙人か!? 異世界人か!?」
「ちょっ、落ち着いて……。どうせ普通の人だから」
またもや腕にしがみついてくるクティを、必死に宥める。
異世界人なら、すぐここにいるんだけどな……なんてことを思いながら、扉のほうへ視線を移す。
入ってきたのは、一人の少女だった。
だけど、普通の少女ではなかった。
オレンジ色のおさげに、水色の双眸。
小学生くらいにしか見えない幼い顔立ちに、僕やクティより少し高い程度の低身長。
何故か巫女装束のような服装に身を包み――頭部には狐耳が、臀部には狐の尻尾が生えていた。




