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転生幼女くんは文章が上手くなりたい  作者: 果実夢想
四筆【龍族姉妹は強弱を履き違える】
34/50

自慢の姉

 眩しい光が差し込む。

 重い瞼を頻りに擦りながら、上体を起こす。


 ああ、もう朝か。

 昨日は色々あって疲れたからか、ぐっすりと眠ることができた。

 あんなに激しい戦闘を行ったあとだと、こういった平和な朝を迎えられるだけで幸せだと感じてしまう。

 まあ、さすがに大袈裟かもしれないが。


 などと、自分の思考に苦笑しつつ。

 部屋から出て、リビングへと向かった。

 すると――。


「まず最初に! ククルはどれくらい可愛い!?」


「え、えっと……世界一……?」


「違ぁうッ! 宇宙一! 復唱しなさい! ククルは宇宙一可愛い!」


「く、ククルは、宇宙一可愛い……」


 腕を組んで叫ぶカウさんと、正座をしながら小さな声で復唱するフーリーが見えた。

 な、何だ、これ。どういう状況なんだ。


 そういえば昨日、戦いが終わってから。

 この家はまだまだ空き部屋があるため、カウさんも一晩泊まっていたのだが。

 まさか起床するや否や、こんなことになっているとは。


「何してるの……?」


「決まってるでしょ。ククルをあんたたちに任せることになるんだもの、ちゃんと任せても大丈夫なように色々と教えてあげてんのよ」


 カウさんはフーリーを見下ろしたまま、そう答える。

 もう連れ戻そうとしてこないだけありがたいが、さっきのを聞いた限りだと、大して役に立ちそうもない自分の妹への愛を語っていただけに過ぎない気がするんだけど。


 フーリーが『助けて』と言わんばかりの眼差しを僕に向けてくるが、僕にはどうしようもできそうにない。

 そう思い、踵を返す――寸前で。


「そうだ、ちょうどいいところに来たわけだし。あんたも一緒に座りなさい」


「…‥ふぇ?」


「ふぇ? じゃないわよ。ほら、あんたも正座しなさいって言ってんの。いかにククルが可愛いのかを教えてあげるから」


「い、いや、僕にはそんなもの必要な――」


「すわれ」


「……はい」


 いつも以上に低い声で凄まれ、僕は渋々と頷く。

 怖いよ。何でそんなに本気なんだよ。

 深々と溜め息を漏らし、フーリーの隣に正座で座る。


「それじゃあ! ククルの身長は!?」


「え……っ?」


「146! ほら復唱しなさい! ククルはちっちゃくて可愛い!」


「ククルは……ちっちゃくて、可愛い……」


 僕たちは何を言わされてるんだろう。

 妹にはかなり厳しい姉だと思っていたのに、実際は真逆じゃないか。

 とんだシスコンの姉だ。


「お、お姉ちゃん……っ!? 何やってるの!?」


 ふと、そんな狼狽したような声が聞こえたので振り向くと。

 リビングの入口に、少し顔を赤らめたククルが立っていた。

 その横では、人間の姿のシールが首を傾げている。


「もちろん、あんたがどれくらい可愛いのかを丁寧に教えてあげてるのよ」


「い、いらないよ、そんなの……っ!」


「何言ってんのよ。この世のどんな事柄よりも、最も重要で崇高な――」


「もう、お姉ちゃん! あんまり迷惑かけてると、本当に嫌いになっちゃうよ!」


「……っ!? わ、分かったわよ……」


 ククルの一言に衝撃を受けたような表情となり、渋々といった様子ではあったものの、ようやく折れてくれた。

 よほど妹のことが好きで、妹から嫌われたくないようだ。

 だったら、今まであんなに冷たい態度をとらなくてもよかっただろうに。まあ、それくらい不器用だったということだろうけども。


 やっと開放されたことで、僕たちは足を伸ばす。

 フーリーは僕以上に長い時間正座していたらしく、足が痺れたのか、かなり辛そうにしていた。


「ご主人ー、わたしはー? わたしは可愛いかー?」


 とことこと駆け寄ってきたかと思うと、いきなりそんなことを訊ねてくる。

 言わされたとはいえ、ククルのことを可愛いと言っているのを聞いていたのだろう。


「はいはい、可愛いよ」


「えへへー、そうかー」


 投げやりに答えたつもりだったのに、それでもシールは嬉しそうにはにかんだ。

 本当に犬みたいで可愛い子だ。


「あの、お姉ちゃん……本当に、いいの?」


「いいわよ。だって、あんたたちも――家族なんでしょ?」


 家族。

 それは、僕もククルも、何度も言い続けてきた言葉だ。

 でも、まさかそれをカウさんも認めてくれるなんて。

 目頭が熱くなってしまうほど、素直に嬉しかった。


「でも、本当の家族で、ククルからの寵愛を受けているのはあたしだけだから! それは忘れんじゃないわよ!」


「お、お姉ちゃん、ちょっと気持ち悪いよ……」


「きも……っ!?」


 さすがのククルもドン引きし、またカウさんがショックを受けたような表情となってしまった。

 一度吹っ切れたからか、愛情表現が直球になったのは……まあ、いいことだとは思うんだけど、もう少し自重したほうがいいと思う。

 ……でも、僕の場合はわりとシールも似たような感じかもしれないが。


「お姉ちゃんは、いつまでこっちにいるの……?」


「もうそろそろ帰るわ。ただ、最後に……昨日みたいに、もう一回抱きついてもらえるかしら……?」


「や、やだよ」


「……っ!?」


 あっさりと拒絶され、カウさんは本日何度目か分からない衝撃を受けていた。

 この人は、いつ学習するんだろう。


 ククルは姉のカウさんに対してだけ少し強気になれつつあるみたいだし、和解できて本当によかった。

 色々と言っているけど、お互いのことを大好きなのは見ていて分かる。

 僕には兄弟がいないから、単純に羨ましい。


「……お姉ちゃん」


 ふと。ククルが姉を呼び、カウさんはショックで垂れていた頭を上げる。

 そして――。


「心配してくれてありがとう。助けてくれてありがとう。お姉ちゃんは――私の、自慢の姉だよ」


 そう言って、ククルはカウさんをぎゅっと強く抱きしめる。

 拒絶からの不意打ちを受け、明らかに困惑していた。

 ククルが微笑みながら離れると、カウさんは我に返ったように豊満な胸を反らす。


「な、何よ、急に。ふ、ふん、ククルはあたしがいないと何もできないからね。あれくらい、あたしにかかればなんてことないわ」


「お姉ちゃん……もう、すぐ調子に乗るんだから」


 何だか、今だけはどっちが姉なのか分からないくらい、ククルのほうが大きく見えた。

 ずっと一緒にいたくせに、あまり気づけていなかった。

 いや――ずっと一緒にいたからこそ、その事実を認識できなかったのかもしれない。


 ああ。間違いない。

 ククルは確かに、成長していたのだ。

 こんなにも強く。こんなにも大きく。こんなにも穏やかに。


 それを実感して、また少し目頭が熱くなった。

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