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転生幼女くんは文章が上手くなりたい  作者: 果実夢想
四筆【龍族姉妹は強弱を履き違える】
35/50

☆僕たちの家に

「それじゃ……あたしは、そろそろ帰るわ」


 リリアに遭遇したときと同じ、高台で。

 僕たちは、龍族の里に帰るカウさんと別れの挨拶を交わしていた。


 またこの街を訪れないとも限らないだろうし、二度と会えなくなるわけでもない。

 だけど、それでもしばらく合わなくなることに変わりはない。

 カウさんもククルも、見て分かるほどに別れを惜しんでいた。


「お、お姉ちゃん……また、この街に来てくれる?」


「さあ? それはどうかしらね。あたしだって暇じゃないもの」


「……うう」


「で、でも! あんたがどうしてもって言うなら、来てあげないこともないけど!」


 本当に、カウさんも素直じゃない。

 どうせ心の中では、別れたくなくて仕方ないくせに。

 まあ、本人に言ったら怒られそうだから言わないけど。


「カウも一緒に暮らせないのかー?」


 ふと。僕の隣で、シールが首を傾げる。

 それを聞いたカウさんは一瞬だけ浮かない顔をしたのち、偉そうに胸を逸らして答えてくる。


「残念ながら、それはできないわ。そこのククルと違って、優秀なあたしは里から必要とされてるんだもの」


「う……ごめんなさい」


「あ、いや……で、でも、あんたは、この仲間たちに必要とされてるんでしょ? だったら、それで充分じゃない」


 失言を漏らしてしまうカウさんだったが、そのあとに加えたフォローによって、ククルはまた嬉しそうな顔に戻った。

 既に何度も思っていることではあるが、やはり初めて会ったときより遥かに丸くなったと感じる。


 あとは、そうやって失言をしたり、妹への強すぎる愛を自重さえできたらいいのだが。

 この人の場合、それは難しそうだ。


「リオン」


 不意に、こちらへ視線を移したかと思うと。

 いきなり、僕の名前を呼んだ。


「これからも、色々と迷惑をかけるとは思うけど、あたしの妹をお願い。いい子なのは、間違いないから」


 そう言って、手を差し伸べてきた。

 毅然とした態度や、あの戦いっぷりなどからは想像もつかないくらい、華奢で小さな手だ。

 とはいえ、もちろん今の僕のほうが小さい手をしているわけだけど。


「……分かってるよ。ドジだったり、泣き虫だったり……そういうところも、ククルのよさだと思ってるから」


 そう答え、その手を取った。


挿絵(By みてみん)


「所詮は他人のくせに、知ったような口をきくわね……」


「他人じゃないよ。もう家族だから。仲のよさなら、僕たちのほうが上かも……っ!?」


「ほんっと、生意気な、ガキね……ッ!」


 いつしか、ただの握手ではなく、お互いに力を加え始める。

 しかし、当然体の大きさも種族も異なれば、力の差も歴然。

 カウさんのあまりの力強さに、僕は力を加えることなどできず、さすがに音を上げずにはいられなくなっていた。


「ちょ、待っ……い、いた、痛い……あや、謝るから、ほんと、ごめ……折れる……っ」


「ふん、その程度で終わり? あたしに向かって生意気言うガキには、もっと痛めつけて――」


「……お姉ちゃん」


「――はっ!?」


 途中でククルがこちらを――否、正確にはカウさんをジト目で睨んでいることに気づき、途端にカウさんの頬に冷や汗が伝う。

 妹に嫌われたくないと思っているシスコンのことだ、このまま仲間を痛めつけ続けると嫌われてしまうかもしれないと、いち早く察知したのかもしれない。

 次の瞬間には、握手している手は弱すぎるほどに力が緩められていた。


「も、もう、リオンは演技が上手いわね。あたしはただ握手をしているだけなのに、そんなに痛そうにしているなんて。ね、そうよね」


「……はい」


 僕には、若干泣きそうになりながらそう答えるしかできなかった。

 何この人、怖い。

 初めて会ったときとは違う恐怖心が、僕の中で芽生え始めた。


 そこで、ようやく手を離す。

 僕の手のひらは、かなり赤くなっていた。

 絶対、本気出しやがったな、これ。ドラゴンと人間なんだから、ちょっとくらい手加減してくれてもよかったのではなかろうか。


「リオンちゃん、大丈夫? あたしがペロペロして治してあげようかっ?」


「そんなに目を輝かせながら言わないで……大丈夫だから、本当に、舌を伸ばそうとしないで」


 すっかり忘れていたが、こっちはこっちで別の意味で怖い人もいるんだった。

 危機が去った途端、フーリーも変態性を惜しまず出してきたな。

 そもそも、舐めたところで治ったりしない……と心の中で指摘しておく。


「もう行くわ。元気でいなさいよ、ククル」


「うん、お姉ちゃんもね」


「リオン、ククルに何かあったら許さないわよ」


「だ、大丈夫だから」


 どうして僕をそんなに睨むのだろうか。

 カウさんが来たとき以上の危機なんて、そうそうないだろうに。

 もしあったとしても――僕たち全員が力を合わせれば、何とかなる。

 僕は、そう信じてやまなかった。


「それじゃあね」


 そして、カウさんは踵を返す。

 翼を広げ、大空に飛び立っていった。


 最初に『ククルを連れ戻す』とか言われたときは、どうしようかと悩んだものだが。

 ちゃんと分かってくれて、本当によかった。

 おかげさまで、僕は。

 僕たちは、またみんなで、一人も欠かすことなく平穏な日常生活を送ることができる。


「それじゃあ、帰ろっか――僕たちの家に」


「はいっ!」


 僕が、去っていくカウさんの背中を見上げながら告げ。

 ククルを始めとする、みんなの元気な返事を受け。

 誰からともなく、僕たちは笑顔となった。


挿絵(By みてみん)


 何かが可笑しかったわけではない。

 特に理由があったわけでもない。

 だけど、それでもみんなで笑い続けた。


 何かが楽しくて。何かが嬉しくて。何かが面白くて。何かが幸せで。

 笑顔を絶やさないまま。

 みんなで肩を並べて、足を向ける。


 他でもない。

 僕たち全員の。家族の、家に。

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