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転生幼女くんは文章が上手くなりたい  作者: 果実夢想
四筆【龍族姉妹は強弱を履き違える】
32/50

☆大切な仲間で、第二の家族

 ひたすら走った。

 街の中を、フーリーとククルの二人を探して。

 その道中で、倒れている人は一人もいなかったところを見ると、おそらく二人が避難を完了させてくれたのかもしれない。


 そうして、僅か数分程度で。

 僕は、お目当ての二人を見つけた――の、だが。


 広がっていたのは、予想外の一言で片づけるにはあまりにも凄惨な光景だった。


 木を背にして、血を流したまま気を失っているフーリー。

 その傍らで座り込み、大粒の涙を流しながらフーリーの体を揺するククル。こちらも、フーリーほどではないとはいえ、それなりに傷や血が体の至るところに散見された。


 そして――少し離れた位置で、一人の見知らぬ女が突っ立っていた。

 ウルフカットの白髪に、鬼のように殺意に彩られたグリーンの瞳。

 ヘソや脚など露出の多い服に身を包み、豊満な胸部や褐色肌が際立って見える。

 黒い手袋が嵌められた拳は、血で赤く染まっていた。


「……り、リオン、さん……フーリーさんが、フーリーさんが……」


 僕が来たことに気づき、ククルは涙でくしゃくしゃな顔をこちらに向ける。

 やはり、チュマーの他にもまだ仲間がいたのか。

 いや、そんなことより、これは一体どういう状況だ。


 あの女が、こうなるまでフーリーを痛めつけたというのか。

 拳の血と、他に誰もいないこの状況が、それを物語っていた。


「……君、は……?」


「……また人間が来たカ。ワタシは、ハーティー・スローン。人間は――(みなごろし)にすル」


 若干カタコトで、そう答えた。

 リリアも言っていたが、どうして彼女らはそこまで人間を滅ぼそうとするのか。

 並大抵の事情ではないのだろうけど、どんな事情があったって、無関係の人間を傷つけていい理由にはならないはずだ。


「ククルは、フーリーをお願い。ここは、僕が――」


 何とかする、と言いかけて。

 言葉は、途中で途切れた――否、途切れさせられた。


 一瞬で肉薄したハーティーの拳が、僕の腹部にめり込んだから。


「が、ぁ……ッ!?」


 声にならない呻きを漏らし、口から血を吐く。

 そして拳の一撃により、僕の体は軽々と木の幹に激突するまで吹っ飛ぶ。

 お腹も、背中も、色々なところに激痛が走る。

 今の一撃だけで、立ち上がる元気も、声を発する元気も、あっという間に失われてしまった。


「り、リオンさん……っ! そんな……」


 僕が一瞬でやられたのを見て、ククルの顔が絶望と涙で歪む。

 自分の口から、ヒューヒューと乾いた吐息が漏れる。

 視界は霞み、呼吸すらままならなくなる。


「次はオマエダ。オマエも、人間ダロ?」


「わ、私は……」


 ハーティーに問われるも、ククルは畏怖で体が震え、まともに受け答えができなくなっていた。

 そうか。こいつらは、人間を滅ぼそうとしている。

 それなら、ちゃんと人間じゃないと説明さえすれば、ククルだけは助かるかもしれない。


 でも。ククルは、そう言わなかった。

 考えにすらなかったのか、もしくは考えてはいたけど自分で拒否したのか。

 それは定かではないが、ククルは意を決したように頷き、立ち上がった。


「フーリーさんも、リオンさんも、私の大切な仲間で、第二の家族なんです。そんな人たちが傷つけられたら、私だって、さすがに怒ります」


 そうして、近くのフーリーを庇うように前に出る。

 今のククルに、今までの弱気で泣き虫なククルの姿は、どこにもなかった。

 ただの、強くてかっこいい一人の女の子だ。


「……なら、しょうがなイ。オマエも、同じようになればいいだけダ」


 吐き捨てるように言い、駆け出す。

 狂ったような、楽しげなような、どこか狂気を滲ませた表情で。

 ククルを、力の限り殴り飛ばした。


挿絵(By みてみん)


「きゃぁっ!?」


 頬に直撃し、ククルの小柄な体は容易く倒れてしまう。

 しかし、それでもククルは諦めなかった。

 一度殴られたくらいでは、今のククルが纏った心の鎧を壊すことはできなかった。


「私、は……私は、もう、弱いままでいたくないんです。みんなの足でまといには、もう……っ!」


 叫ぶ。涙を溢れさせながら、想いの丈をぶちまける。

 ハーティーという敵を前に、一歩も退かず。

 それどころか、一歩ずつ前に踏み出して。


「私は、強くなりたい……いや、強くならないと、いけないんです。みんなを守るために、やっとできた、大切な友達を失わないために……っ!」


 ハーティーにとっては、何のことだかさっぱり分からないだろう。

 それでも、今だけは手を止め、怪訝そうな表情でありながらもククルの言葉に耳を傾けていた。


 ククルの心は強い。

 何が弱くて落ちこぼれで何もできない、だ。

 こんなにも強くて立派な心を持ってるじゃないか。


 ククルの意思は固い。

 修行中、何度も泣きはしても決して諦めはしなかった。

 それは――今この場も同じ。


 努力は必ず報われる。

 なんて陳腐な言葉を、とか。なんて綺麗事を、とか。

 そうやって笑い飛ばす人も、もしかしたらいるかもしれない。


 だけど、今この瞬間だけは。

 僕には、その言葉を馬鹿になんてできなかった。


「私は……お姉ちゃんたち、みたいに――ッ!」


 そう叫んだ刹那、僕は確かに見た。

 ククルの小さな口から。

 真っ赤に燃え盛る火炎が、吐き出されたのを。

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