☆大切な仲間で、第二の家族
ひたすら走った。
街の中を、フーリーとククルの二人を探して。
その道中で、倒れている人は一人もいなかったところを見ると、おそらく二人が避難を完了させてくれたのかもしれない。
そうして、僅か数分程度で。
僕は、お目当ての二人を見つけた――の、だが。
広がっていたのは、予想外の一言で片づけるにはあまりにも凄惨な光景だった。
木を背にして、血を流したまま気を失っているフーリー。
その傍らで座り込み、大粒の涙を流しながらフーリーの体を揺するククル。こちらも、フーリーほどではないとはいえ、それなりに傷や血が体の至るところに散見された。
そして――少し離れた位置で、一人の見知らぬ女が突っ立っていた。
ウルフカットの白髪に、鬼のように殺意に彩られたグリーンの瞳。
ヘソや脚など露出の多い服に身を包み、豊満な胸部や褐色肌が際立って見える。
黒い手袋が嵌められた拳は、血で赤く染まっていた。
「……り、リオン、さん……フーリーさんが、フーリーさんが……」
僕が来たことに気づき、ククルは涙でくしゃくしゃな顔をこちらに向ける。
やはり、チュマーの他にもまだ仲間がいたのか。
いや、そんなことより、これは一体どういう状況だ。
あの女が、こうなるまでフーリーを痛めつけたというのか。
拳の血と、他に誰もいないこの状況が、それを物語っていた。
「……君、は……?」
「……また人間が来たカ。ワタシは、ハーティー・スローン。人間は――鏖にすル」
若干カタコトで、そう答えた。
リリアも言っていたが、どうして彼女らはそこまで人間を滅ぼそうとするのか。
並大抵の事情ではないのだろうけど、どんな事情があったって、無関係の人間を傷つけていい理由にはならないはずだ。
「ククルは、フーリーをお願い。ここは、僕が――」
何とかする、と言いかけて。
言葉は、途中で途切れた――否、途切れさせられた。
一瞬で肉薄したハーティーの拳が、僕の腹部にめり込んだから。
「が、ぁ……ッ!?」
声にならない呻きを漏らし、口から血を吐く。
そして拳の一撃により、僕の体は軽々と木の幹に激突するまで吹っ飛ぶ。
お腹も、背中も、色々なところに激痛が走る。
今の一撃だけで、立ち上がる元気も、声を発する元気も、あっという間に失われてしまった。
「り、リオンさん……っ! そんな……」
僕が一瞬でやられたのを見て、ククルの顔が絶望と涙で歪む。
自分の口から、ヒューヒューと乾いた吐息が漏れる。
視界は霞み、呼吸すらままならなくなる。
「次はオマエダ。オマエも、人間ダロ?」
「わ、私は……」
ハーティーに問われるも、ククルは畏怖で体が震え、まともに受け答えができなくなっていた。
そうか。こいつらは、人間を滅ぼそうとしている。
それなら、ちゃんと人間じゃないと説明さえすれば、ククルだけは助かるかもしれない。
でも。ククルは、そう言わなかった。
考えにすらなかったのか、もしくは考えてはいたけど自分で拒否したのか。
それは定かではないが、ククルは意を決したように頷き、立ち上がった。
「フーリーさんも、リオンさんも、私の大切な仲間で、第二の家族なんです。そんな人たちが傷つけられたら、私だって、さすがに怒ります」
そうして、近くのフーリーを庇うように前に出る。
今のククルに、今までの弱気で泣き虫なククルの姿は、どこにもなかった。
ただの、強くてかっこいい一人の女の子だ。
「……なら、しょうがなイ。オマエも、同じようになればいいだけダ」
吐き捨てるように言い、駆け出す。
狂ったような、楽しげなような、どこか狂気を滲ませた表情で。
ククルを、力の限り殴り飛ばした。
「きゃぁっ!?」
頬に直撃し、ククルの小柄な体は容易く倒れてしまう。
しかし、それでもククルは諦めなかった。
一度殴られたくらいでは、今のククルが纏った心の鎧を壊すことはできなかった。
「私、は……私は、もう、弱いままでいたくないんです。みんなの足でまといには、もう……っ!」
叫ぶ。涙を溢れさせながら、想いの丈をぶちまける。
ハーティーという敵を前に、一歩も退かず。
それどころか、一歩ずつ前に踏み出して。
「私は、強くなりたい……いや、強くならないと、いけないんです。みんなを守るために、やっとできた、大切な友達を失わないために……っ!」
ハーティーにとっては、何のことだかさっぱり分からないだろう。
それでも、今だけは手を止め、怪訝そうな表情でありながらもククルの言葉に耳を傾けていた。
ククルの心は強い。
何が弱くて落ちこぼれで何もできない、だ。
こんなにも強くて立派な心を持ってるじゃないか。
ククルの意思は固い。
修行中、何度も泣きはしても決して諦めはしなかった。
それは――今この場も同じ。
努力は必ず報われる。
なんて陳腐な言葉を、とか。なんて綺麗事を、とか。
そうやって笑い飛ばす人も、もしかしたらいるかもしれない。
だけど、今この瞬間だけは。
僕には、その言葉を馬鹿になんてできなかった。
「私は……お姉ちゃんたち、みたいに――ッ!」
そう叫んだ刹那、僕は確かに見た。
ククルの小さな口から。
真っ赤に燃え盛る火炎が、吐き出されたのを。




