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転生幼女くんは文章が上手くなりたい  作者: 果実夢想
四筆【龍族姉妹は強弱を履き違える】
26/50

☆友達を守るためなら

 そこは、町の外れに位置する高台だった。

 とても見晴らしがよく、町の夜景が見渡せる。


 そんな場所で、綺麗な満月を背に。

 カウさんとククルが、真剣な表情で向かい合っていた。


「決心がついたみたいね」


「……うん。私、帰るよ。お姉ちゃん」


「そう。だったら、さっそく行きましょう」


 カウさんは歩み出し、ククルはそれについて行く。

 だめだ。このまま行かせてしまったら、もうククルに会えなくなってしまう気がする。

 あんなのが最後の別れなんて、絶対に御免だ。


「待って!」


 だから、一歩を踏み出して声を張り上げた。

 途端、二人はこちらに振り向く。

 カウさんは眉をぴくりとも動かさなかったが、ククルは何だか泣きそうな顔で、尚且つ少し怒っているかのような複雑な表情で、口元に手を当てていた。


「ククルは、本当にそれでいいの? あんなに頑張ったのに、本当にこれで――」


「――すいません。もう、リオンさんたちに迷惑はかけたくないですから」


 僕の言葉を途中で遮り、ククルは頭を下げる。そうやって頭を下げられたのは、もう何度目か分からない。

 自分でもよく分からない苛立ちが、腹の中で湧き上がるのを感じていた。


 いや、違う。この苛立ちは、ククルに対するものじゃない。

 こんなところまで追いかけてきておいて、大した説得材料すらない僕自身に、だ。


 でも、仕方ないだろう。考えるより先に、体が動いてしまったのだから。

 帰るかどうかなんて結局本人の意思で、僕たちが止める権利などないことくらい分かっている。


 だけど、ククルが言っていたことは今でも覚えている。

 故郷にククルの弱さを受け入れてくれる仲間はいない。家族ですらも、その限りではない、と。

 そして、僕たちと一緒にいたいと、確かにそう言ってくれたのだ。


「――帰ろう、ククル。龍族の里に、じゃない。僕たちの、家に」


「……リオン、さん。だめです、帰れるわけ、ないんです……」


 ククルの瞳から一滴の雫が零れ落ち、頬を伝う。

 僕の誘いを拒む声は震え、自分の身を守るように両腕を前で交差させていた。


 故郷に帰ったところで、楽しい日々を過ごせるとは思えない。

 僕たちのもとに帰ったところで、幸せになれるとは限らない。


 それでも。また今までのように迫害され、泣き続ける日々が繰り返されるくらいなら。

 誰に咎められようと、誰からも否定されようと。

 僕は――。


「あんた、あたしの前でいい度胸じゃない。この落ちこぼれを連れて帰るのは、長からの命だって言ったでしょう? あんた、龍族の里そのものを敵に回す気?」


「――いいよ。友達(ククル)を守るためなら」


 真っ直ぐカウさんの目を見据えて、僕はそう答えてみせた。

 隣ではフーリーが「何言っちゃってんの」と言わんばかりに慌てているし、シールは「おー」と場違いなくらい明るく拍手しているが。


 言ってしまったからには、もう取り消すことなどできない。

 ま、どっちにしろ取り消すつもりなんてないけど。


「な……何で、ですか。何で私なんかのために、そこまでできるんですか」


 ククルは涙で顔をくしゃくしゃにしながら、その場にしゃがみ込んで震え声を発する。

 何で、か。

 そんなの、こっちが聞きたいくらいだが。


「別に、おかしいことじゃないでしょ。だって、僕は――」


 そこで一拍あけ、僕は言い放つ。

 ククルを見据え、口元に確かな微笑みを刻みながら。



「ククルの、師匠だからね」



「そ……そん、なの……私が、勝手に言っただけで……っ」


 確かに、その通りだ。

 最初は師匠になんかなるつもりはなかったし、今でも師匠とかいう器じゃないと思っている。

 結局あれから師匠らしいことは何もできていないし、何を今更って感じかもしれない。


 でも。その不確かな関係のおかげで、僕たちは家族になれた。

 その不明瞭な繋がりのおかげで――少なくとも僕にとっては、大切な存在だと思えるようになった。

 そんな相手が辛い思いをしてしまう可能性が高いのなら、全力で止めたくなってしまうのが当然だ。


 だから、誰にも邪魔させてなんてやらない。

 それが、本当の家族だったとしても。


「ああ、ああ、それじゃあ仕方ないわね。邪魔されてしまったんだもの。三人の人間を消し炭にしてしまうことくらい、許してくれるはずよね……ッ」


 毅然とした無表情から一転、歴戦の戦士のような勇ましい表情へと変わり。

 龍の尻尾を地面に叩きつけ、大きな物音がたち、辺りに砂埃が舞う。

 そして、背中から羽を生やし、空へと飛び上がり――。



 瞬間。辺りに、異変が生じた。

 さっきまで何もいなかった空に、大量のコウモリが飛び始めたのである。

 まるで、僕たちを取り囲むかのように。


 さすがのカウさんも訝しみ、周囲のコウモリを見回す。

 何だ、これは。一体、何が起きたというのか。

 コウモリの数は次から次へと増えていき、周りの光景すらよく見えなくなってきた頃。


 ひとつの足音が、やけにはっきりと聞こえた。

 その足音は徐々に僕たちのほうへと近づき、やがてぴたりと足を止めた刹那。

 さっきまで僕たちの周囲に飛び回っていた大量のコウモリが、一斉にとある一箇所へと集まっていく。


 怪訝に思い、僕たちは一様にそちらへ視線を向けた。

 いつの間にそこにいたのか、一人の女性が立っていた。


 肩先くらいまでの長さで、前は左目が隠れている紫色の髪。前髪には、コウモリのような髪留めをしていた。

 ゴスロリのような服を身に纏い、背中からはコウモリに似た羽が生えている。


 赤い瞳をこちらに向け、無表情のまま右手を前に突き出すと。

 その動作に呼応するみたいに、無数のコウモリが周囲で飛び回り始めた。

 まるで、あんなにも大量のコウモリを、全て仕草ひとつで操っているかのようだ。


挿絵(By みてみん)


 この女は、一体何者なのか。

 困惑する僕たちに、少女はようやく口を開く。


「私は、リリア・ニュクテリス」


 そうして、僕たち全員を順に見やり。

 静かな、それでいてよく通る美声で、その言葉を放った。



「あなたたち人間を――滅ぼしに来たわ」

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