コスプレって可愛い
「ふーっ、やっと終わったぁ」
あれから、数時間が経過した頃。
ようやくフーリーが持ってきた荷物を部屋に運び終え、フーリーはその場に座り込んで深々と吐息を漏らした。
化粧品や服、ぬいぐるみや様々な雑貨がたくさんで、運ぶだけでもかなり疲れてしまった。
基本的にピンクや明るい色合いのものが多く、最初は何もない殺風景な空き部屋だったのに、まさに女の子の部屋を体現したような部屋に様変わりしている。
ちなみに、タンスやベッドなどの家具は転移魔法を介しても運ぶことなどできず、さすがに筆の能力で出しておいた。
その能力を見て、フーリーはかなり驚いたり興奮していたが……まあ無理もない。
もっと色々なものを出してと頼まれたりしたものの、文章力の欠如とシビアな判定により、そこまで万能ではないので丁重にお断り。
たとえ引き受けたとしても、思った通りのものが出てくる可能性は極めて低いし。
現に、タンスやベッドなどの家具ですら、出てきたのはあまり可愛いものじゃなくて猛抗議してきたくらいだ。
結局諦めてはくれたが……この能力で可愛いものを出す場合、どう描写すればいいのか。
そもそも、僕にはフーリーが思う可愛いの基準すら分からないのである。僕のことも可愛いとか言ってたし……うん、よく分からない。
「ねー、気分転換でどっか行こー?」
フーリーが、足を伸ばして床に座ったまま言ってくる。
ちなみにシールは床にうつ伏せになって倒れており、ククルは壁にもたれ掛かって座っている。
どちらも、かなり疲れていることは明白だった。もちろん、僕も同じ。
「疲れてるなら、休んでおいたほうがいいんじゃ……」
「楽しいことしてたら、疲れなんて吹き飛ぶよー。ね、ね、みんなで行きたいところあるんだよっ」
フーリーは立ち上がり、僕の両手を握って勢いよく上下に振る。
そんなに行きたい場所があるのか……。一体どこのことなのかは知らないが、僕はまだ街を見て回れていないし、行きたい気持ちも少しはある。
まあ、今じゃなくていい気もするけど。
「ご主人が行くなら、わたしも行くぞー。ご主人が行かないなら、わたしも行かないぞー」
顔を床にくっつけたまま、シールは怠そうな声を出す。
シールの場合は、疲れていようがいまいが、やっぱり僕次第らしい。
そんなに判断を委ねられても、ちょっと困るんだけども。
「ククルは……?」
「あ、はい、私は大丈夫ですよ。落ちこぼれの私でも一応龍族なので、人間の皆さんよりは体力があると思います」
ククルも同様に疲労が襲っているのかと思っていたが、僕の問いに返ってきたのは、いつも通りの控えめな笑顔だった。
龍族は少し体力が多めなのか……そこは単純に羨ましい。
「……じゃあ、行くか。僕も、別にそこまでじゃないし」
「やったーっ! ありがと大好き!」
「……はいはい」
フーリーが抱きついてほっぺをすりすりしてきたので、半眼になって引き剥がす。
本当に、素直に感情を表現する子だな。いいことだとは思うけど。
何はともあれ、僕たちは手短に準備を済ませ、家から出た。
§
四人で肩を並べ、十数分。
僕たちは、とある一軒の大きな店の前に立っていた。
看板には、オシャレなフォントで『エクア・スタリオン』と書かれている。
そして、透明な窓ガラスからは、多彩な服が並んでいるのが見える。
そう。フーリーが行きたい場所と言っていたここは、服屋なのだった。
「な、何で、服屋に……?」
「えー? えへへ、それはねぇー」
僕の素朴な質問に、フーリーは笑いながら店の中に入る。
僕たちもあとに続き、店内を見回す。
外からは普通の服が多く散見されていたが、中に入ってみるとそれ以外の服をたくさん見えて絶句せざるを得ない。
ビキニアーマー、巫女装束、ナース服、バニー服、執事服、そしてネコミミなどのケモ耳カチューシャなど。
コスプレ用と思われる衣装が、これでもかと並べられていたのである。
「あたし、実はコスプレとかも好きなんだよ。ほら、コスプレって可愛いでしょ? だから、みんなにも着てみてほしいなーって」
コスプレが可愛いかどうかはその服にも寄るし、何とも言えないが。
そうか……行きたいと言っていたのは、それが狙いか。
執事服とかならまだしも、あんなに女の子らしい服はさすがに着たくない。露出が多いやつなんかは、特に。
「さー、それじゃさっそく選んじゃおーっ!」
フーリーが右腕を上げ、元気よく物色し始める。
何で、あんなに楽しそうなのか……。
僕は見てるだけでいいかな。
「ご主人ー、わたしに着てほしい服を選んでほしいぞー」
「えっ? ぼ、僕が?」
「そうだぞー。ご主人に可愛いって思ってもらえないと、意味がないからなー。ご主人が選んだものなら、どんなものでも着るぞー」
相変わらず愛が重い。
シールは今の和服が似合ってると思うわけだが、確かに他の服を着ているところも見てみたいとは思う。
ただ、僕が選ぶってなると、なかなかにハードルが……。
「あ、あの、私も着ないといけないのでしょうか……?」
「もちろんだよっ、ほら行こ!」
「へっ、あ、ちょっと……っ」
赤面して躊躇いがちだったククルの腕をフーリーが引っ張り、奥のほうへ走り去ってしまう。
何というか、ご愁傷様です。
ククルに若干の同情を覚えながら、僕はシールの服を選び始めた。
何だかずっと期待の眼差しで見つめられ、気が気でない。
必要以上にプレッシャーがかかるので、やめてくれないかな……。




