98話 一夜明けて
今朝は夜明け前に爽快な気分で目が覚めた。
どうやらオレは一昨日の祭で酒を飲みすぎて、丸一昼夜眠っていたらしい。
酒を飲んだのは覚えてるんだが、昨日一日の記憶が全くなかった。
聞けば、昨日は一度も目を覚ますことなくずっと眠っていたという。
そんなに長く眠り続けたのなんて生まれて初めてである。お陰で今朝は体がとても軽い。
そういえば、昨日オレが眠っている間に、ジャックに新しい友達が出来ていた。
今朝、教会を出てすぐの道で行き合い、嬉しそうに紹介されたその友達というのは、冒険者で魔法つかいなのだという。
昨日ジャックが村の子猫達に引っ張り回されて困っていたところを助けてくれた、優しい人なんだと言っていた。落ち着いた雰囲気の若い男で、この村には王都のなんとか祭を見に行く途中で立ち寄ったのだそうだ。
「ミュー」
「キキッキ?キー(杖は必ず必要か?と)」
「そうだな、初心者にとって杖は大切な補助になる。達人ともなると杖どころか詠唱もなく魔法を使いこなせるらしいがね」
「ンミュ……ミー?」
「キーキキキ…キッキィ(旦那様にあうサイズの杖……あるのでしょうか)」
「え、ジャック君の?う、うーん。見たことはないが、店に特注すればあるいは作れる、かも?」
テーブルの上にちょこんと座ったジャックとアルが、アルフィスという男に一生懸命話を聞いていた。
彼は魔法を使えるようになりたいらしく、ふわふわの黒いしっぽをピコピコと振りながら、いつになく真剣な眼差しでアルを介して次々に質問を繰り返している。
「はー、ほんとにジャックちゃんて頭がいいのね。人間みたいに会話しちゃってるわ、このぶんなら魔法もすぐ使えるようになるんじゃない?」
「いやいや、そんな簡単に使えるようになられて堪るかよ。俺だって使えないってのに」
「フューリーはそもそも、魔法を使えるだけの魔力がないんでしょ?ジャックちゃんはまだ赤ちゃんなんだから、これから成長すればわからないわよ」
ジャックの友達になったアルフィスには、一緒に旅をしているという仲間が三人いた。
剣を背中にしょった少年のフューリーと、槍を担いだ少女のティアナ。それから、弓を担いだ女性のリデアだ。
彼らは「白銀の刃」という名前でパーティーを組んでいるといった。同じ村で育った幼馴染で、Cランク?なんだと言う。
冒険者についてはあまり詳しくないが、説明しながら彼らが誇らしげだったから多分優秀なんだろうな。
彼らとオレ、キャシーは、女将がいい天気だからと外に運んでくれたテーブルと椅子に陣取り、果実水を飲んでいた。
朝、昨日は一日寝ていたとジャックに聞き、昨日の分も今日頑張らないとと教会の草むしりをしようとしたら、シスターにたまには一日のんびり過ごしなさいと言われたのだ。そこへキャシーが届け物に来て、ちょうどいいから二人で食堂でおやつでも食べてこいと小遣いをもらってしまった。
そのついでに、村に来たばかりの人がいたら気を付けて見ててやって、と頼まれた。
そういえば、酒を飲んだせいか記憶が曖昧だが、祭の直前に村で保護した三人組は、身の振り方が決まるまで教会に住むことになったようだな。
鎧を着た立派な体格の女性と小さな二人の兄妹で、てっきり親子だと思っていたら「兄妹と、その護衛の冒険者」だった。
なにやら彼らには込み入った事情があるらしく、もう故郷には帰れないのでこの国で生きて行きたいと言ったらしい。身の振り方が決まるまでは、俺と同じく教会で過ごすみたいだ。
昨日は、それ以外にも何人もの人が新しく村を訪れて、動ける状態の者が総出で応対したらしい。
二日酔いで寝込んでいたオレや男連中のせいで人手が足りず、慌ただしかったとキャシーに文句を言われた。
だから、今日は頑張ろう。アルフィス達も外から来たお客なので、俺が彼らをもてなすのだ。
自信はないが、村で数日過ごして多少はモノを習った。どの店がどっちにあるかとか、村で有名なのは何かくらいなら多分説明できる、はずだ。うん、がんばろう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
決意を胸に視線を巡らせ、改めて顔を確認する。共にテーブルを囲んでいる白銀の刃の面々はみんな表情が柔らかく、微笑みが途絶えることがない。
隣国から海を越えての長旅だと聞いたが、くたびれた様子はないな。
そういえば、宵の明星の人達も隣の国から来たと言っていたな。鎧の女生と兄弟もよその国から来たらしいし。ここウェスリーは、他国から来る人が多いのだろうか?
…あ、来月だか再来月だかに、王都でなんとか祭りがあるから世界中から人が集まるとか言っていた、か。忘れていた、だから人が増えるのか、そうか。
再度、テーブルに並ぶ面々に意識を向ける。ティアナの膝の上には茶色いブチ柄の猫が一匹寝そべっており、優しく背中を撫でられ喉を鳴らしていた。
フューリーはテーブルの横に座った灰色の犬の頭を撫でていて、足元には毛の長い茶色い犬が寝転んでいる。
なかなか見慣れない光景だが、この村の犬や猫は、日中はわりと自由に村の敷地内で過ごしている。
飼主に始終くっついている犬もいれば、畑のあぜ道を悠然と歩く犬、屋根の上で昼寝する猫や子供達と駆け回る犬もいた。
村を守る塀を飛び越えたり、門から出ていってしまわないのか?と聞いたことがあるが、成体の犬猫に付けてある首輪の魔道具の効果で、登録された敷地内から出ることはないんだそうだ。
子猫や子犬は首輪をつけていないが、それぞれの親がしっかりと躾ているそうで離れることはない。
オーク騒ぎの時のような非常事態への備えはしていなかった、と村長達は悩んでいたが、さすがに子猫サイズの首輪だと特注になってしまい、高額になるからどうしようかと皆で相談していた。
しかしすごい魔道具だと思う。これがあるから、この村の犬や猫は自由気ままに過ごせるんだな。
ちなみにジャックとアルは首輪をつけていないが、この二人は人間並みに頭がいいので「なくても平気だろう」とのことだ。
でも、それとは別の話で「使い魔」には専用の首輪かリボン、腕輪などのアクセサリーを着用する義務があるらしいから、手に入ったら着けてもらおうと思っている。
残念ながらこの村には「テイマーギルド」も「冒険者ギルド」もなく、モノも売ってないらしい。
でも使い魔の登録自体は村長がしてくれたらしく、ひとまず問題ないようだ。
って、あれ?リデアがいない……
さっきまで一緒にテーブルに座っていたはずなのに、と視線を巡らせば広場のほうから何か馬のような生き物が駆け回る音がしはじめた。
「あはははは!おねーさんはやーい、追い付かれちゃう!」
「ヒルダちゃあーん待ってー、うふふふふふ!」
なんだ、ヒルダとおいかけっこをしてたのか。
広場と道とを区切る木々の隙間から、激しく尾を振りながら駆けるヒルダと笑顔でそれを追うリデアがちらちらと覗く。
彼女らはほんとに仲良しなんだな。昨日会ったばかりとは思えない。
「ヒルダ楽しそう。ひとりっ子だから、お姉さんが出来たみたいでうれしいのね」
声に気づいたキャシーが、微笑ましげに振り返って見ていた。
ヒルダはひとりっ子なのか。確かに、村でヒルダに似た狼は見かけない。
「ごろごろごろ」
音が聞こえてきたため目線を下げると、オレの膝の上で毛繕いをしていた面白い柄の猫が、喉を鳴らしながら体を上に伸ばし、オレの肩に前足を載せてきた。可愛いな。
猫はそのまま、オレの胸に全身ぺたっとくっついて顎を肩に載せた。
可愛い、すごく可愛い。あと喉の振動が気持ちいいな。
「うわぁ、それって何してるの?抱きついてるみたい!可愛いー!」
ティアナが頬に両手をあてて悶え始めた。フューリーとアルフィスも目尻を下げてこちらを見ている。
「全身くっつくと安心するみたいでね、これ甘えてるのよ」
「わ、赤ちゃんみたい」
キャシーが教えてくれた。
これは甘えているのか……うれしい。あったかいな。
キャシーに助言をもらい、オレにくっついている猫の頭から背中にかけて撫でていくと、ごろごろ音が大きくなった。
「ミー!」
「キキ、キーキキッキィキ(旦那様も、抱っこしてほしいそうですわ)」
「お、おお?こ、……こうか?」
「ミューン」
「キキィキー(ジャストフィットですわ)」
なにやら隣で主張を始めたジャックもアルフィスに抱っこされ、彼の肩の上に前足をかけて体を伸ばしていた。
といっても、彼はオレにくっついてる猫より遥かに小さいので、アルフィスの肩の上で腹這いになってる形になる。結果、オレからは尻しか見えない。
でもしっぽがピンと立ってるから、多分喜んでるんだろう。
「はぁー、あっちもこっちも可愛いいー。何ここ天国?」
「超癒される……生きてて良かった」
ティアナとフューリーは、今朝がたオレ達と会ってから同じことを何度も言っている。
そしてジャックやアルを、可愛い可愛いとしきりに誉めてくれるんだ。
遅くても下手でも、がんばって投稿を続けたいです。




