93話 村に来た新たなお客様がトラブっています
ひさしぶりの更新です。待っていて下さる方がいらっしゃったならごめんなさい<(_ _)>
まだまだ終わりませんよ~。
「……の力を授け悪しき者に灼熱の業火を」
「だーかーら!やめろっつってんでしょコラァーー!!」
集めていた魔力を一瞬で上半身へ纏わせ、全力で踏込みながら、前傾姿勢になって肩口からぶち当たる。ガルムに習った「タックル」という技だ。
ドカーッ!!
「敵を燃やしtぐはぁ!?」
詠唱途中で私の突進攻撃を受けたローブの男が、後ろに吹き飛びおもいっきり尻餅をついた。
良かった、ホントは同じ火の攻撃魔法で相殺する予定だったんだけど、この人すごく詠唱早いんだもん。あたしじゃ間に合わないわ、早口言葉って苦手。威力もあっちのがありそうだったし。
ガルムに「魔法つかいの詠唱の邪魔をする方法」を聞き出しておいてよかった。
「んな、何をするんだ君!?」
「そうよ、何のつもり?私達はあんたらを守るために戦ってるの!邪魔しないで!」
「いてて……」
「アルフィス、大丈夫!?」
剣とか槍とか構えてる冒険者の人達が、驚いた顔をして動きを止めてこっちに向き直る。
そして、そんな彼らが囲んでるのは……ふわふわの真っ白な毛並みをした、可愛らしいあたしの妹分。村の皆からも娘みたいに大切にされている、素直で可愛いヒルダ。
「キャシーおねえちゃん……この人達、なんで怖い顔してるの?」
弱弱しくかすれた声で、悲しそうにつぶやくヒルダに胸が痛む。
可哀相に、あんな大勢におっかない顔で睨み付けられて武器を向けられ、いつもなら元気に揺れてるしっぽがお腹の下に丸まってしまっている。丸い円らな目も困惑に満ちて、耳も垂れてるわ。
「だ、大丈夫よヒルダ。あの人達はちょーっと恐がりなだけだから、ほら。あそこを鳥が飛んでるでしょ?アレに驚いただけよ」
慌てて適当なことを言いながら彼女に駆け寄り、ふわふわの頭を優しく抱き締めた。そのままほっぺたをワシャワシャと撫でて顔を覗きこむ。
ああ、すごく怯えてるわ、体が震えてる。あんなもの向けられたことなんてないもの、怖くて当然よね。可哀そうに、この子は何もしてないのに。
「き、君!早く離れるんだ、食われるぞ!?」
もー、さっきからなんなのよこの人達!まるでヒルダが化け物みたいに騒ぎ立てて!
こんな可愛くて優しい娘、他にいないでしょうに。この純粋無垢な瞳とかふわふわツヤツヤの毛並みとか見てわからないっていうの?
……あ、しまった。
うっかりしてたわ、そういえばヒルダは魔物だったんだっけ。
皆で作った「歓迎マニュアル」ではヒルダは誰にも見つからない場所に隠れてる予定になってたから、練習とは違うんだった。
そっか、ヒルダは知らない人からすると「化け物」なのは仕方ないのか。釈然としないけど。
一瞬遅れてそのことを思い出した。
って、また詠唱始めてるわあのローブの人!
なによ、ヒルダがいくら魔物にしか見えないったって、あたしがこうしてて襲われないんだから危険じゃないって解るんじゃないの!?
内心激しく憤りながら再度タックルをかまそうと姿勢を低くするけど、今度はローブの人の前に槍を持った女の子が立ちふさがって邪魔をしていた。くそぅ。
「おー、あんたらそのへんにしとけー。ヒルダはこれっぽっちも危険じゃないぞー、むしろお前らが一方的に苛めてるように見える」
「ガルにーに!」
間の抜けた、呑気な声が後ろから聞こえたと同時にヒルダが嬉しそうに勢いよく振り返る。しっぽもブンブンと激しく揺れだした。
気だるげにのっそのっそと歩いてきたのはやっぱりガルムだった、あたしの腕をするりと抜け出したヒルダが軽快な足取りで奴に駆け寄っていく。
う、軽くへこむわ、なんかふられた気分。
「よーしよーし、怖かったなー」
「うふふー、怖かったけど大丈夫だよ!キャシーおねえちゃんがいたもーん」
あ、ら。
キュンと来た、ヒルダったら素直なんだから。そんなに頼りにしてもらえると姉冥利に尽きるじゃない。
ガルムに片手で頭をわしゃわしゃされて、気持ちよさげに目を細めるヒルダが可愛すぎる。
でも冒険者の人達は、そんな楽しそうな二人を見てさらに険しい顔になっていた。なんか妙な汗かいてるし。
まさかこの人達、ガルムのことまで化け物だとか言い出さないでしょうね?
たまにいるのよ、他所からうちの村に来た人の中に、ガルムを怖がったり意味もなく避けたりする人が。
しかも怖がる理由が訳わかんないわ、何回か顔合わせてるとすぐ怖がらなくなるし。
髪が青いからそれが何だって言うのよ。
「青髪だ……!」
「お、落ちついて、きっと大丈夫よ!港町でギルドの人に聞いたじゃない、この国で槍を持った青髪の男がいたら怖がらないで、人畜無害な奴だから心配ないって」
「そうだ、そういや俺こいつ船着き場の近くで見かけたことあるぞ。落とし物だっつって衛兵の詰所に財布届けてた」
「え……めっちゃ良い奴」
「言われてみれば、なんか優しそうかも」
「あの狼も、綺麗な目してる……」
冒険者の人達がひそひそと相談をはじめた。
つーかガルム、ほんとに良いやつだったのね。なんかほのぼのする。
冒険者の人達とあたしの視線が柔らかくなったのが解ったのか、ガルムがちょっと恥ずかしそうに頬を掻いた。
「見てた奴いたのかよ……ま、いいや。落ち着いたなら、武器を下ろしてくれ。ヒルダが怖がってる」
「お、う、悪いな」
冒険者の人達は慌ててガシャガシャと武器をしまうと、ゆっくり近寄って来た。
あたしもヒルダに駆け寄り背中を撫でる、震えは止まったみたいね、良かった。でもやっぱガルムが一番好きなのかー、ちぇ、いいなー。
冒険者の人達がガルムの前に来ると、ヒルダがそろりと一歩後ろに引いた。そして不安げにあたしの顔を覗きこむ。
「お前ら、他所の国の奴?祭でも見に来たのか」
「ああ、ちょっと早めに来たほうが楽しめるって聞いてな。あー……その、すまなかった、怖がらせてしまって」
剣士っぽい人がチラリとヒルダを見ながら、気まずそうに小さく頭を下げる。するとそれを見ていた他の三人も次々に頭を下げ、謝罪してきた。
なんか、悪い人達じゃなさそう。てっきり喧嘩っ早い気の荒い人達だと思ったのに。
あ、でも目の釣り上がった弓士っぽい女の子だけは顔を上げた後まだ怖い顔してる。
と思ってたら、その釣り目の娘がずいと前に踏み出して、ギッとガルムを睨みながら口を開いた。
「なによ、首輪も腕輪も着けてないじゃない。使い魔なら分かるようにしといてよね!それじゃ野良魔物と間違われて殺されても文句言えないでしょ、テイマーギルドに違反で訴えるわよ!?」
「ま、待て待て!落ち着けリデア、なんで喧嘩腰になってんだ」
「そうよ、ほら怯えてるじゃない!」
他の人達が彼女の肩を抑えて止めてくれた、でも釣り目の娘はまだ射殺しそうな目付きでヒルダを、ガルムを睨んでる。
そのあまりの剣幕にビクンと震え耳を下げてしまったヒルダは、隠れるようにガルムの背後へと移動していた。ああ、しっぽがまた下がっちゃってる。
「あのひと怖い……」
「ヒルダ、大丈夫だからね。ちょっとあんた!いい加減にしなさいよね、何もしてない子供を囲んで脅しておいて、咎められたら相手を悪者にするなんて最低よ!」
「んなっ、なんですってー!?」
思わず怒鳴ると吊り目女もすぐさま顔を赤く染めて怒鳴り返してきた。
「あーあー、ほら落ち着けリデア。確かに俺らが悪いんだから」
「私たちの判断が間違ってたっていうの!?白狼っていったらAランクの化け物じゃないっ、そんなのが村の中にいたら戦闘態勢になるのは当たり前でしょ!?」
「ヒルダは化け物なんかじゃない!こんな可愛い娘になんてこと言うのよ、あんたのほうこそ鬼婆だわ!!」
「ばばっ……わ、私のどこが婆なのよ!!あんたこそ魔法使いのくせに肉弾戦かますとか馬鹿じゃないの!?」
「ぐっ…ば、馬鹿って言うやつのほうが馬鹿なんだから!」
「あんたが馬鹿じゃなけりゃなんなのよアホ女!」
全然反省しないどころか聞捨てならないことを言い出したので、咄嗟に反論する。
なんて性格の悪い女なの、ヒルダがこんなに怖がってるのに信じられない。この子は体こそ大きいけど、喧嘩一つ出来ない優しい子なのに。
一歩も引かず怒鳴りあうあたし達を、剣士の人とガルムが抑えにかかった。つーか邪魔しないでよ、この女にはお灸をすえてやらないと気がすまないわ。
ガルムの腕を押しやってなんとか前に出ようとバタバタしてたら、突然後ろからガシッと頭を掴まれた。
「あんた達さ、白狼だと思ってたんならなおさら武器なんて向けるんじゃないよ。知らないのかい?白狼ってのは知能が高くて争いが嫌いな生き物だ。ギルドに加入してるなら魔物図鑑で見たことないの?」
真後ろから聞こえた声は、パン屋のハンナさんだった。
あ、あれ?前に進めないわ、掴まれた頭が固定されて動かない、って言うか痛。なんか体が浮いてる、爪先が地面につかないし。
いった、段々力込めてきてるこれ!
ゆ、指が食い込んでない?ミシミシって音がするんだけど!
いた、いった!割れる!頭割れる!?
「いいい痛い!?ハンナさん、ちょっ、頭が割れちゃうから!」
「そんで、キャシーのお嬢様は一体何をやってるんだい。お客さんと喧嘩するつもりか?」
「うっ」
た、確かに。この人達は村に来たお客さん……でも、ヒルダを苛めたのよ、やっぱり許せない。
ハンナさんに片手で頭を掴んでぶら下げられたまま、そんなことを考える。
釣り目の娘はちょっと地面から浮いてるあたしを見て怪訝な顔をした後、その背後に立つハンナさんに気づいてギョッとしていた。
他の三人の冒険者も、さっきのハンナさんの言葉を聞いてから狼狽えるように顔を見合わせていた。
「白狼じゃ……ない?」
「半分は白狼だから、あながち間違っちゃいないがね。こんなところにそんな凶悪な魔物要るわけないさ。この子は白狼の血が少しだけ混ざった混血だ、さっきから人語を話してるだろ?」
「そ、そういえば」
剣士の人が、はっと気づいたようにヒルダを見て頷く。他の人達も口を開いてヒルダのほうを向いた。
そっか、普通の魔物ってしゃべらないんだった。ヒルダが魔物だってこともさっきまで忘れてたし、馴れって怖いわね。
横でガルムも「あーそうだった」って顔してる、多分ハンナさんだって忘れてたのよ、だってお客さんが来たのにヒルダをそのままにしてたんだもの。
「ねーねー、あたしのパパとママって会ったことあるの?どんなだったー?」
「えっ、や、あー。まぁね。でもこの話はガルムのが詳しいんじゃないかな」
「「え!?」」
あら、ガルムも知ってるの?あたしも聞いたことないんだけど、ヒルダの親のこと。
期待に目をキラキラさせてガルムを見つめるヒルダに便乗して、あたしもその隣に並ぶ。
そういや、ヒルダを村に連れてきたのってこいつだったっぽいし、絶体知ってるわよね。ヒルダの親、すっごく気になる!
ヒルダと二人で、期待に胸を膨らませながらガルムにジリジリ迫っていく。
「ねーねーあたしのママ、どんなだったの?パパは?あたしみたく真っ白?それとも黒とか灰色―?教えてー」
「や、その、はははっ……お、おいぃ姐御ー」
何故か目を合わせないし頬をひきつらせてるガルムが、困ったようにハンナさんのほうを見た。ハンナさんはそっぽを向いてる。
「ねーねーねー」
「(姐御ぉ、言える訳ねーだろ……どうすんだよ)」
「(両親とも普通のグレイウルフだっつっときなよ、それが一番平和に済む。もう少し育てば嫌でも分かるだろうし、今は適当でいいんじゃないか)」
「(適当っつってもなー)」
「にーに?ねー、聞いてるのー?」
結局ガルムもハンナさんも、コソコソと内緒話をするだけで、ヒルダの親については口を濁して教えてくれなかった。ちぇ。




