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くろねこの冒険~目指せ!異世界一周~  作者: 葉桜丸
第2章 ウェスリー王国あっちこっち
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88話 邪精霊

しばらくぶりの投稿となります。読んで下さっていた方、遅くなって申し訳ありません。

まだ終わりませんよー、おっそいけど頑張って書き続けます。

傍らの真っ白な毛並みを撫でながら、串に刺さったでかい肉を受けとる。焼きたてだから湯気がすごい。

「絶叫猫祭りってのは?」

「いやー、名前を決める時に村長と賢者様が譲らなくってな。仕方なく間をとってこうなった」

俺に渡したのより小さめの肉をふーふーと冷ましつつ、髭のおっさんが笑って答えた。

「何と何の間をとったらそうなるんだよ」

「はっはっは!いいじゃねぇか覚えやすくて」


俺は今、たくさんのランタンに照らされた広場で、むさいおやじ供に囲まれていた。

広場のあちこちに散らばった村人達はそれぞれに祭を満喫しているようで、うまそうな匂いが漂い楽器の音も聞こえている。


どうでもいいが。あそこ、なーんかカップル誕生してね?

向こうにもそれっぽい感じの面映ゆい空気を漂わせてる男女がいるし。おお、あっちにも二人の世界で浸ってる奴等が。祭りの時ってこういうの増えるよなー。

羨ましいねえ、どうせなら俺もおっさんじゃなくて女の子に囲まれたいもんだ。


「ねーねー、ガルにーに!」

「んー?」

広場を眺めてた俺の肩に、もふっと白い頭が乗っかる。

隣を見れば、期待に目をキラキラさせたヒルダがいた。ちょこんと座ったその背中では大きなしっぽがバッサバッサと揺れている。



あー、そういやいたわ女の子。俺も今、若くて可愛い女の子と並んでるじゃーん。

「高い高いしてーっ」

「よしきた」

あーもう、体はでかくなっても変わんねーなこいつ、可愛い。

よっこいせと立ちあがり、俺と同じくらいの大きさの彼女を両手で持ちあげて真上に放り投げる。

「きゃっきゃっ」

「ははは、それもう一回」

「きゃーっ」

拾った時と変わらない無邪気な声をあげて笑うヒルダ、ほんと大きくなったなぁ。

嫁すらいないけど娘が出来たらこんな感じなんだろうか、自然と笑顔になっちまう。


「おーおー」

「オレらじゃもう高い高いしてやれないもんね。良かったなーヒルダ」

何度か放り投げてやってたら、周りのおっさん達が微笑ましそうに見上げてた。




しかし、祭か。いいねぇ皆楽しそうじゃん。

ちら、と広場から視線をずらして村の中を眺める。広場からだと木々が邪魔になってよく見えないが、さっき上から見たもんな。


村の建物のいくつかが少しだけ崩れてる、石畳を並べて敷かれた道もあちこちが崩れて、割れた石が隅に積み上げてあった。植え込みも酷い有り様で、焦げて炭になっている物もあるようだ。畑も、教会の牧場も何か所か穴が開いたりモノが壊れてる所があった。


さっきおおまかな話は聞いたが、こりゃけっこう苦戦したみたいだ。

この村には戦える奴が多いからなんとかなったのかもしれない。もしこれが他の村だったら、全滅もありえた。50頭を越えるオークの群れというのはそのくらいヤバい、武器を持ったことのないただの村人にゃ到底立ち向かえるモンじゃないだろう。

そして森の中にあったというオーク共の巣、自警団の連中が戦ったオーククイーンと邪精霊の話。


「よく無事だったもんだ」

内心では冷や汗を流しながら、傍にいるおっさん達に気づかれないようポツリと呟く。


邪精霊、それは瘴気を取り込み魔物に変じた精霊だ。

ただの獣が瘴気と魔力を取り込み変異したと言われる魔物と違って、邪精霊は生まれた瞬間から桁違いに強い力を持つ。そりゃそうだ、元が精霊なんだから。

精霊ってのは水や火や大地、風や森などの化身であり、普通の生き物と違い実態を持たない。そして老いることがなく、人間からすると理不尽としか言えないほど強大な魔力を持つ。

彼らはそれぞれが司る要素が強い場所では強化され、弱い場所では弱体化する。例えば火の精霊は火山の火口の中では何をしても死ななかったり、水の精霊は水中では絶対傷つかなかったりする。

そんなでたらめな存在だが、彼らはことごとくが善性のため悪心を持つことがない。

だが、邪精霊は違う。瘴気によってその善性が歪み、悪意の塊となっているのだ。

あらゆる命あるモノを恨み、光の当たる場所を憎み、ただただ呪いを振りまく存在となる。


邪精霊が生まれた土地は瞬きをする間に滅ぶとも言い伝えられていて、国単位で逃げるか立ち向かうかしないと、そこに住む人間や獣、魔物はすべて死滅してしまう。

元になった精霊のタイプにもよるが、最悪の場合は他の精霊にも呪いを移してしまい、大地が腐ったり水が毒に変じたり、風が瘴気をまとうようになったりもする……そうなったらもう、邪精霊を殺してもそこの土地はすぐには正常な状態には戻らず、何百年もかけて浄化するしかない。


世界中を飛び回っている俺でも邪精霊なんて数回しかお目にかかったことがないな。当然だ、邪気を持たない精霊がそこまで堕ちることは滅多にないし。



それにしても本当なのかね、低レベルの使い魔が一撃で邪精霊を無力化したっていうのは?

しかも今聞いた話からすると、その使い魔ってウロが言ってた例の猫キマイラじゃね?

ウロのとこで見かけた時はそんな力があるようにゃ見えなかったが。むしろ弱っちすぎて放っといても死にそうだったけど……


首を捻りながら、ひとまず手の中のエールを一杯空ける。ふいぃー。

笑いながら絡んでくるおっさん共に返事を返しながら、ヒルダを伴って賑わう広場を歩き出した。



楽器を掻き鳴らすグループを通りすぎ、あちこちから声をかけられるたび笑顔で応えながら探すことしばし。

目当ての猫キマイラがやっと見つかった。

なんせ本人は手の平より小さい、「目」の力は極力使いたくないから奴の契約者のほうを探すと、こっちはあっさりわかったのだ。


ほー、あのガキ髪を切ったのか。中々いい顔してたんじゃねーか、前見た時は口元くらいしか見えてなかったからな。

「しかし……やっぱ虎人だよな?ちっさいけど」

「にーに?」

「あ、いや何でもない」

俺の呟きを聞き留めて見上げてきたヒルダ、その頭をわしわしと撫でてごまかす。


村にいる他の獣人達の誰とも異なる気配、離れていてもわかるほど強い魔力。虎人らしい威圧感は欠片も感じ取れないが、まぁまだガキだしな。

この小さい子供が、そのうちあんな化け物じみた大男に……記憶にある虎人達の姿を思い浮かべ、ちょっと複雑な気分。立派に育って欲しい反面、そのままでいてもらいたい気もするぞ少年。


そうだ、この虎人の件も一応ライに確認しとかないと。

このガキの「普通の孤児」な扱いを見る限り、たぶん本気でライのやつは気づいてない。あんだけ気になる種族だって言ってたくせに実物目の前にして気づいてないとか、そんなところがあいつらしい。

本音を言えば本人が気づくまで黙っていたいが、んなことしたら猛烈に怒るだろう。じいさんだし無駄に血圧を上げさせるべきじゃないよな。



で、見つけた猫キマイラをちょっと離れた場所から観察してみる。

……なんか、白い輪っかみたいのを首と前足にかけてるな。ゴミでもひっかかってるのか?

と、じーっと見つめてみるとその輪っかに模様?いや、文字が書いてあるのに気づいた。

「あんたが主役」ってなんだ。この下っ手くそな字はバリーのおっさんか……


おっと、そんなことよりも。

気を取り直して、猫キマイラ……黒いちび猫に意識を集中させ、瞳を閉じてスキルを発動させた。

「これ、使いたくねーんだけどなぁ」

ぼやきながら、目を開く。


ちび猫は……お、前と少しだけ変わってる。

へぇ、今は「ジャック」っていうのか。転生前は……変わった名前だな。

他の転生勇者達も妙ちくりんな名前が多かったが、向こうの世界では皆こんななのかね。


ん、前は種族名がなかったが、やっと確定したんだ。

いやこれ確定、したのか?はてなマークついてんぞ、「猫もどき?」ってなんだよ。

これ本人には教えないほうが良さそうだ、黙っといてやろう。


ふむ、スキルとかも特にまずそうなもんはない。

目の前に浮かんだステータスの文字列を目で追っていく。

俺のスキルは「鑑定魔法」と微妙に違うらしいから、一度鑑定で見られる内容も読んでみたいな。

鑑定使える奴はだいたい各ギルドが抱え込んでるから、俺なんかとは話すらさせてもらえないんだよね。親しい奴はいつ見かけても滅茶苦茶忙しそうで、なんか聞きづらいし。


お、これか!


スキル:ベビーシャウト……スタン効果に加えて2パーセントの確率で混乱させる、混乱状態だった場合は回復させる。なるほど、ほうほう。

これで邪精霊を正気に戻したのかね?

これ以外にそれっぽいのなんてないぞ、だが瘴気に染まった精霊を元に戻せるようなすごいスキルには思えない……んんー?でも実際、猫キマイラが叫んだら邪精霊が倒れたって聞いたしなぁ。


あー、そういや邪精霊になった直後だっつってたから、もしかしてそういう時は戻りやすいもんなのかね。新情報だ。

もしそうなら、今後同様のことが起きた場合に取れる対策が増える。

今回のは騎士団連中と村の自警団も一緒だったとか聞くし、多分ライアットが詳しい話を聞きだしてるだろうから、忘れずに確認しとかなきゃな。


子猫に意識を合わせてのんびりステータスを確認していたら、隣に座るキマイラの契約者…虎人のガキが急にこっちを向いた。水色がかった淡い灰色の瞳がまっすぐに俺を射抜くように見つめる。

お、おおう、気づかれた?めっちゃ俺のこと見てるよ。


そっか、こんな離れて盗み見するようなことしてないで直接話そ。

俺はとりあえず笑顔を浮かべて手を振り、虎人のガキに向かって歩き出した。


今日はもう1回投稿します(*´ω`*)

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