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くろねこの冒険~目指せ!異世界一周~  作者: 葉桜丸
第2章 ウェスリー王国あっちこっち
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86話 コポート村 第1回・絶叫猫祭り(3)

更新が遅くて申し訳ありません。もし待っててくれた方がいたら、ごめんなさいです。

全然違うお話の短編を思いついてそっちを書いてたり(汗)

同時にいろんなことを出来るほど利口じゃないんですが、もし書きあげられたらそっちも載せたいです。

すっかり元気になった宵の明星の人達とマリオに手を振り、次のグループの元へと向かう。

広場を見回して……うんとあっちのグループは行った、あいつらも、そっちの奴らんとこも顔を出したな。

あー、さっきのとこでだいたい一巡したのか。よし。


……あれ、そういやあの色黒なエルフの兄ちゃんは?

おかしいな、今夜の祭は多分村の全員が出てるはずだよね。あいつ見かけてないかも。

まだ子供が寝るような遅い時間でもないし、教会の悪魔共も向こうで踊ってる。


あれー?色白エルフの人達はあっちで固まってたけど、やっぱあいつだけいなかったぞ。女性の一部は料理のほうで忙しいみたいだったけど、そっち覗いた時にもいなかったよな。

あれか、騒がしいとこ嫌いなのかな?自宅に引き込もってんのかね。

ちょっと気にはなったが、聞いて回るほどでもないと思った俺は意識を賑わう祭会場へと戻した。



いよっし、村へ来た新参者としての挨拶回りはこれにて完了!

じゃ、そろそろまったりしますかねぇ。どこに混ざろっかな。

クルルとアルに聞きながら、広場をのんびり横切っていく。

うーん、よくよく見比べてみるとそれぞれ違う料理が置いてあるっぽいな。メニューで選ぶのもいいかも。楽器振り回して騒いでる連中のとこは断然なし、だ。ちょっとの間なら楽しいけど。


「あ!クルルくーん、これ食べた?新作だって」

お、あれはたしか猫人のベンジャミンとかいう奴だ、手を振ってる。

その手にあるのはこんがり焼けた平たい……パン!


「ミュッ、ミーミー!」

あ、あっち!あっち行こクルル!ほら呼んでるからぁ!

クルルの腕に乗った状態で全身を忙しなく動かしわたわたとアピール、パンに向かって方向転換してもらう。そんな俺を微笑ましそうに見つめるアル、よくよく見れば小さなボトルみたいのを手の蔓に持ってる、彼女も楽しんでるみたいで何よりだ。


って、あれあのパン今までに見たことないよ!新作だって、すげぇいい匂いすんじゃん!?

はやく!はやーく俺のお口にプリーズ!


「ウミャミャミャ」

クルルの腕にしがみつき髭を震わせている俺に気がついたらしいベンジャミンが、きょとんとした顔をしてクルルの顔と見比べる。


「なんかその子すっごい鳴いてるね、どうしたの?」

「キキ、キッキキー(ふふっ、早く食べたいそうですわ)」

「ミュッ」

力いっぱい頷く俺と念話通訳アルの言葉を聞き破顔したベンジャミン……めんどくせぇ、もうベンて呼ぶ。ベンは、手に持つパンを半分に割ると、にっこり笑顔で差し出してきた。それを、クルルが恐る恐るといった感じで片手を伸ばし受けとる。


ふぉー、この匂いはシチューか!しかもチーズのコゲコゲの匂いもする!

は、早く食わせろー!!

「ミャー!」

わちゃわちゃとパンを持つ左腕のほうへ移動しようともがく俺。ふぬっ、届かない!落ちるぅ!


「落ち着け、危ない」

そう言ってクルルは右手で俺の体をわしっと支えて、左手で目の前にひょいとパンを出してくれた。堪らずシュバッとかぶりつく。

「かっぷ、かぷ。あぎあぎあぎあぎ」


うんまぁーい!

なにこれふわっふわ、なのに表面カリカリ!中のシチューがちょっと熱いけど濃厚で肉!牛乳の甘味が!芋もほっくほく!端っこのほうにもちゃんと具が入ってるのがさらに高ポイント!うおおおお!


自分の体より大きなパンを四本の足でしっかと抱き込み、全力でかじる。


「うわぁ可愛いねー、そっかおいしいのかー。でもクルルくん、それ全部は食べさせないほうがいいんじゃない?どう考えてもその子の体よりパンのが大きいよ」

「……う、うん。どうしよう」

「ウー、シャーッ!」

「あー……もう引き剥がすの無理そう。小さいのにずいぶん食いしん坊だね」

体を捕まれ引っ張られるが、死ぬ気でパンにしがみついて耐える。

離すかボケー!このパンは俺のじゃー!



 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



……我を忘れていたようだ。

激ウマパンに食らいつくことしばし、結局食べきれなかった訳だが腹はパンパンに膨らんでて大満足である。大変おいしゅうございました、げふぅ。

「これ、中に入ってる、の…うまい」

「そう!シチューパンは前からあったんだけど、今回丸っきり新しい味付けにしたんだって。塩気が濃いけどおいしいよね」

「うん、おいしい」


ベンと並んで座り、俺とアルを膝に載せたクルルは、ただ今俺が残してしまったパンを食べている。ご、ごめんね酷い食べ方して。



廻りには十数人の獣人の男女が座って、酒を酌み交わしつつ談笑している。このグループはわりと中年の獣人が多いみたいだな。

全体的に向こうでけたたましく楽器鳴らしてる連中よりかは落ち着いた雰囲気がある、こいつらがオトナであっちはまだ子供って感じ。

クルルの膝で真ん丸な腹をさらして寝てる俺にも何人かがちょっかいを出してくるけど、せいぜいふんわり撫でるくらいでとても大人しい。ここ、落ち着くわー。


しかし、なんか気のせいかもしれないんだが、俺この体になってからメッチャ食意地張ってない?食慾すごいし我慢が効かないんだけど、なにこれ。猫ってこういうもん?

ううーん、確かに元から食べるのは好きだけどさ、ここまで食に対してアグレッシブじゃなかった気がする。やばいな、本能のままに過ごしていたらあっという間に激太りしそう。


腹の圧迫感を実感しつつ内心で不安を抱えていたら、隣に座ってたアルが喉を撫でてきた。

彼女の撫で方はとても繊細で優しく、まるで母親が赤ん坊に触れるようにソフトだ。サイズ的にも俺とそう変わらないから、ほかの巨大生物(人間とか)と違い万が一にも潰されるような心配が起こらないのも安心感につながっている。


「キーキキッキィキ?(旦那様はパンが一番お好きですの?)」

んん、一番かー。一番好きなものっていうと、ちょっと違うかも。

悩みつつ、一番はお米かなと伝えるとアルは丸い目をぱちぱちと瞬き、お米とは何かと質問してきた。

森で長く暮らしてきた彼女は、米というものを見たことがないらしい。

村の人達も知らないって言ってたし、彼女なら森の精霊関係のつながりで何か知らないかなーとか期待してたんだけど、残念。少なくともこれまでにアルが関わった精霊達からは聞いたことがないらしいね。うぐぐ、お米食べたいぃー。


はぁ、米……

いや、手に入らないモノを嘆くのは後でいくらでもできる。今は今現在己の元にあるモノを喜ぶべき時。


あのパンのおいしさと出会えた喜びを神に感謝だ。

この世界で有名な神様っていうと大地のメガミ様だっけ?なむなむ、おいしかったですありがとう、サンキューベリマッチ・グラシアース・めるしー・ぐらっちえー、えっとあとなんだったか。とにかくありがとうー。

クルルの膝の上で仰向けになったまま、両前足を合わせて感謝の祈りを込める。どっち向いて祈ればいいんだ?とりあえず南無南無。


「ミュ、ミーミミャミー」

「キキッキー?キーキィキッキキー(パン屋のハンナ様ですの?そういえば見てないですわね)」

うん、こんなおいしいパンを作ってくれたんだから、おいしいって伝えたいんだ。むしろパンを話題にしてハンナ様と親交を深めたいです。

さっき広場をだいたい一周したけどさ、ハンナ様いなかったんだよね。お店ん中でパン焼いてたのかー。


アルの念話を聞き留めたベンが視線を下げて俺達のほうを見た。寝転がって前足を合わせている俺を視界に収めるとふにゃっと笑い、俺の後ろ脚の肉球をちょいちょいとつついてくる。

くすぐったい、爪先をピッと伸ばしてその指先を押し返した。するとベンは猫人特有のとんがった耳をピクピクと揺らし、また肉球をつっついてきた。やめろっての、こそばいわ。

「ふふっ、ハンナさんなら、教会で行き倒れの親子の面倒を見てるらしいよ」

優しいよねーと言ってベンが笑う。おお、確かにそりゃ親切だ。さすがは我らがハンナ様、女神だ。


って、行き倒れの親子?そんなんいたの?

そう思ってよくよく聞いてみると、村の人達は昼間俺の弁当を強奪しようとしたあの鎧を着たでかい女とちびっこ達のことを親子だと誤解していたようだ。親子じゃないぞと訂正すると、ふーんと頷かれる。


ハンナに何か用事かと聞かれ、パンがおいしいと伝えたいと言ったら首を傾げられた。

「パンを焼いてるのはハンナさんじゃなくて、旦那さんのほうだよ?ハンナさんが焼いたパンはちょっと……あ、あれがロベルトさんだよ、ほらそこでパン配ってる」


えー、ハンナ様が焼いたパンじゃなかったのー…てっきり彼女の麗しい手で作られた物だと思ってたのにぃ、なんかしょんぼり。

いや、分かってはいるのよ。お店で買う物が誰に作られた物かとか一々気にしてないし、でも気持ち的にぃー、見知らぬ中年親父が作ったと考えるより美女のほうがーとか心の中でぶちぶち思いつつ、上半身を起こしてベンが指し示す先を向く。


…なんか、いた。


「あ、ロベルトさん!」

「む?ベンジャミン、どうした」

うわこっち来た!

ひひひひぃえええええ……!


「この子がね、パンおいしいよって」

「なんと!お気に召して嬉しいのであるっ、もっともっと食べていいのだぞ子猫よ」

黒い肌をしたでっかい腕が伸び、上体を起こした状態で硬直している俺の横に、紙で包まれたパンをひょいひょいと何個も並べていく。おおお、いい匂い!いい匂いだけれども!


褐色の肌をした筋肉ムッキムキの大男、これがあの数々の美味なるパンを作り出したパン職人ロベルトさん、らしい。

ひいい胸板厚い、下から見上げる俺の視点だと超巨乳(筋肉)のせいで顎が見えないぜ。髪の毛真っ赤な上に短くてツンツンと棘みたいに飛び跳ねてるし、シャツから出てる首も腕も、手の甲のほうまで緻密なイレズミが刻まれてる。

ぶっちゃけ、すごく怖……いや、迫力が半端ない。


「黒い子猫とは珍しい」

いかついパン職人ことロベルトさんは、その強面を優しく歪めて微笑み(?)を浮かべると俺の頭を指先で撫でた。

つ、潰されるかとドキドキしたけど、意外とソフトタッチ…!でも指が太すぎて、俺のオデコからはみ出てしまい耳が両方押され、ぺしょんと倒れる。


なんだ、見かけに反して優しい人じゃん……ビビった、ビビったけど良かったぁ。

料理には人柄が出るとか聞いたことあるけど、あんなおいしいモン作るってことは外見に反してきっとすごく優しい人なんだろうね。

おとなしく撫でられていると、巨人のようにごっつい指は鼻筋や顎も撫でてきた。


って指ぃ、ちょっ、第2関節まで毛が生えてます…!

眼前で確認した事実に愕然とする。袖から延びる丸太のように太い腕も手首も越えて指の背までも、赤い剛毛の草原がそよそよと広がっていた。

こ、この手でパンを…!?いや、手の平に生えてる訳じゃないんだ大丈夫何も問題ない、んだが、い嫌っでも…!ううううう……っ


至近距離にある草原を目が血走るほど凝視しながら言いようのない葛藤に苦しむ俺。

ぬふぅううう、そうだよ俺だって全身毛だらけじゃん、そうだ何も問題なんてない。ないんだ。あああでも。


「今回のパンはどれもとっておきの自信作なのである、好評なようで何より……おお、しまった忘れていた」

俺を撫でていたぶっとい指が離れていくと、ベンは何かに気づいたような顔で口をぱかりと開きこくこくと頷いた。

ロベルトと小声で何か会話すると、周りでパンを食べようとしていた人らに声をかけ、自分の持っていたパンと合わせてロベルトの持つ籠にまとめて納めていく。


あれ、食べないのかな?

隣のアル、頭上のクルルと顔を見合わせた。

不思議に思いながら、ロベルトの持つ大きな籠とそこに山と積まれたパンの包みを見る。

と、ロベルトが籠を足元へ下ろし、ふぅーと一度深呼吸をした。

「ぬぅうううん……!」

地鳴りのような唸り声と共に辺りの空気が張り詰め、背中の毛がピリピリする。あ、あれ?


「ふおおお……!お・い・し・く・なぁーーーれっ!破ァッ!!!」


ドンッ!!!


赤毛の大男ロベルトの気合いの入った裂孔の声に合わせて、何か……ジェット機のエンジンを顔面から食らったような衝撃が全身を貫いた。堪らずころころと転がり地面に落ちそうになった俺を、クルルが既の所で掴みあげる。


「ふぅ、これでよりいっそうおいしくなったのである」

満足げに、それはそれはエエ顔で言ったロベルトさんは籠を持ち上げると、駆け寄る人々にひょいひょいとパンを配り歩いていった。


「わー!やっぱこれがなくちゃねっ、ありがとうロベルトさん!」

「食べると元気になるのよねー」

「おいしい!」

口々に賞賛の声を上げながらパンにぱくつく人達。

俺もアルもクルルも、何が起きたのか理解できなかった。

む、胸がドッキドキしてます…!なんスか今の、何だったんですか!?


動揺が冷めない俺達にベンがまた違うパンを渡してくれた。メッチャおいしかったです(まだ食うか)


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