85話 コポート村 第1回・絶叫猫祭り(2)
クルルに抱っこされて祭の会場を見て回っていたら、奴がふいに立ち止まった。
なんか木が生えてる辺りをじっと見て動かないなと不審に思っていたが、視線の先にゾンビみたいに陰鬱な空気を背負った男が数名いるのに気づいてビビった。
あ、良かった、よく見たらゾンビじゃないっぽい。はー驚いた。
んな薄暗いとこで膝抱えて蹲ってたら怖いだろ、なんなのこいつら。今日はお祝いの祭だっつーのに暗い、暗すぎる。
「……マリオ?」
クルルが小さく呟く声がした。マリオ?
アルに毎度お馴染み念話で聞いてもらったところ、村に滞在中の冒険者とのこと。薪割りを教えてくれたそうだ。
って、何人もいるけどどいつがマリオなの?
あ、端っこの一番貧相……いや、細っこい……うん、地味めな人がそうなのね。
ほうほう、冒険者か。
お祭りで浮かれる村人を眺めながらアルと相談して、せっかく村中の人がいるんだからいっぺん全員の顔を確認しておこう!となって広場をうろうろしてた俺ら。
実は、祭開始直後に一応あらかたの人に声をかけられてはいたんだけど、みんないっぺんに寄ってきたもんだから正直誰が誰やらわからなかったのだ。
んじゃ、次はこいつがターゲット!レッツご挨拶。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
クルルを促し、陰気な男達の傍へと近づく。
もちろん、会話の糸口にと酒・各種オツマミ持参である。
これまでに挨拶してきた中でもらった物で、クルルが袋に入れてまとめて持っている。中々大量だ。
ちなみに、やはりというか俺は酒を飲ませてもらえなかった、くそう。
薄暗い木蔭のすぐ傍まで進むと、マリオという男が気づいてこっちを向いた。
特徴のな……いや、馴染みやすい顔に頬笑みを浮かべ手を挙げる。
クルルもややもたつきながら左手を挙げ、それに返した。どうやらわりと仲良しになってるらしい。
が、マリオはクルルの右腕に俺がいるのを見ると複雑そうな顔に変わった。なんだ?
疑問に思って耳を片方傾げていたら、マリオと並んで地面に座り膝を抱えてる辛気くさい面の、ゾンビ1号(仮)も顔を上げた。
わぁ、目の焦点合ってねぇ。しかも何、その目の下の隈。可愛くねーパンダだよ。つーか髭剃れや、むさいわ。
ゾンビ1号の俯いていた顔が正面から見えた事でより一層不快なツラと認識してしまい、思わず盛大に顔をしかめる。ぶっちゃけ汚い。
でもまぁ、俺子猫だから見た目的にはたいして表情変わらないんだよね。なのでわりと正直に生きてます。顔面全力で「むさ苦しい」と訴えかける、届けこの思い。
あ、横のゾンビ2号と3号も顔あげた。
って、やっぱ顔色悪い、まさかこいつらもう二日酔いなのか?酒飲んだ直後ってもっと血色良くならね?
青ざめたげっそり顔の中年(青年?)が並んでこっちを向いてる光景は、なんだかシュールだった。
立ち上がる気力のないゾンビ、むしろアクションホラーゲームで物陰に潜み主人公待ちしてる雑魚敵ゾンビ?
「そ、その猫は……!」
あ、ゾンビ2号がしゃべった。なんか驚いてる?
それよりあいつ案外声が若いぞ、まだ中年じゃなかったのか。こっちの人はみんな顔立ちが濃ゆいから年齢がイマイチわからない。
俺から目を反らさず口をモゴモゴさせてたゾンビ青年ズは、意を決したように互いの顔を確認しあうと、突然地面に頭と手をついた。俗に言う土下座ポーズである。
「「「「すまなかった!」」」」
そのまま声を合わせて謝られた俺達は、あまりのことにぽかんと口を開けてそのつむじを見下ろすしかなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
何度も謝り続けるゾンビ達をマリオが見かねて間に入ってくれたんだが、このゾンビ連中はあの毒茸騒ぎの時の、俺と子猫達を浚った奴等だったらしい。
俺は袋の中にいてあんまり顔見てないからわからなかったけど。
そういや、狂い茸の件はヒルダに謝られて終わったと思ってたけど、実行犯のこいつらには会ってなかったんだ。
こっちはもう忘れかけてたのに、あっちはむちゃくちゃ気にしてたんだ……こいつらは茸のせいで錯乱してただけだし、俺らにゃ実害なかったしそんな気にすることないのに。
直後のオークの洞窟のアレのせいでインパクト薄かったんだよねー。
アルにそう伝えてもらうと、ゾンビ連中もとい冒険者パーティー宵の明星の奴等はびっくりしていた。土下座もやめてもらった、なんかこっちが悪いことしてる気になるからね。
「いやしかし、あの時は参ったよ。朧気にしか覚えていないが、自分があんなことをするだなんて……」
「ああ……気がついたら宿屋に寝かされててさ。頭痛と吐き気が酷かったが、それより自分等のしたことを思い出した時のが苦しかった」
「フミューン」
へー、錯乱から覚めてもそんなだったのか。頭痛と吐き気なんてきっつそうだ。
話を聞きつつ、俺はゾンビ1号の膝で腹這いになり、背中を撫でてもらっていた。
なんせ小さいからね、この体。もし本来の自分の体だったら人の膝になんてとても載れない。
あ、重量的な意味でも絵的な意味でもな。
うむ、ちょっと堅い筋肉質な膝だが、ガチッと安定感があって落ち着く。若い女の子の膝がビーズクッションなら、こいつの膝は20年ものの座蒲団ってところか。
そうそう、軽ーく優しーく撫でてね。でもほんのちょっとだけ力入れる感じで、手の平全体で柔かーく包んで、頭からしっぽまでゆーっくりと。
むふー。
ほぉう、そうそうそこそこ。耳の付け根いいわぁー。
「ぷるるるるる、ぷるるるるる」
「はー、癒される……」
「あ、あのさ、そろそろ俺も撫でたいなーって」
「ずるいぞ、俺が先だろ」
「キー、キキッキキー……キキキー(ああ、旦那様を巡って争いが……なんて罪な可愛らしさですの)」
頭上で繰り広げられる攻防に気づくことなく、俺はうっとりと全身マッサージに身を任せていた。
「良かったな、きちんと和解できて」
「おう!ありがとな、マリオ」
「ははっ、俺はなんにもしてないだろ」
すっかり表情の明るくなった元ゾンビ達は、ようやく酒を楽しむ余裕が出来たらしい。酒は楽しく飲まなきゃね。
クルルも木陰のゾンビコーナー(仮)に仲良く坐り込み、持ち込んだつまみを並べて杯を持っていた。
俺とアルはゾンビをちょっとくらい元気づけられるかと、彼らの膝の上をいったり来たり。むしろ右に左にひっぱりだこ。どうやら彼らも小動物が好きなようだ。
ゾンビ達……いや、宵の明星という名前の冒険者グループ?パーティー?だかは、聞くところによるとこの近辺では中堅くらいのわりと名の知れた奴等らしく、活動拠点にしてる近くの村で、何度かマリオとも組んでたことがあるそうだ。
この村には冒険者ギルドってのがないが、そっちの村にはあるらしい。つか、ここに村があること自体知らなかった、今までこの森は何度も探索してるのになんで気づかなかったんだろうと不思議がっていた。
あー、なんかそれライアットのじいさんが話してたような…なんて言ってたっけなー。
忘れちった、でも確か話に出てたと思うし、後で聞いといてやろう。
で、酒とつまみを片手に楽しく話し込んでる内容に聞き耳を立てる俺。
こいつらみたく冒険者ってのは、ソロで働いてる奴より何人かのグループで動く事が多いようだ。ま、安全を考えたらそうなるよな。
ソロで活動してる奴等は、よほど腕っぷしに自信があるのでなければ、魔物と戦わないですむ仕事を選ぶっぽい。村内の雑用、荷運びとか草むしりとかね。
で、マリオは本人いわく「手先は器用だが超弱い」らしく、でもあちこちの村や街を移動しながら冒険者をしていて、魔物のいる場所を移動したいときは臨時でパーティーを組んで他の冒険者に荒事を任せていたそうな。うん、まぁ見た目からしてそんなこったろうと思ってたよ。
マリオはちょっとした用事があって、こっからだと南東にある王都っていう大きい街から、森を北上した村まで移動したかったそうだ。
でもその時は、よく組んでるパーティーがどこも出払ってて、知らないパーティーと組むことになった。ランクは全員マリオと似たり寄ったり、人数も装備品もそれなりで雰囲気も悪くない、と思ってたそうなんだが。
…ぶっちゃけ、そいつらはかなーり問題のある連中だったようで、ちょっと魔物がたくさん出たらチームワーク崩壊・パニックになり森の中ほどでバラバラになってしまった。マリオ曰く、そいつらが落ち着いて協力していれば難なく倒せた魔物だったろう、とのことだ。うわぁ。
そのアホパーティー(仮)は全員若くて、一番年上だったマリオがなんとなく仕切っていたそうだが、皆を庇って重傷を負ったマリオを放ったらかしにして逃げていき、彼らとはそれっきりなのだそう。そいつらまだ生きてるのかな?
で、森の中で魔物に追われ絶体絶命のマリオを偶然通りかかって助けたのが、ここ・コポート村の自警団の連中である。
なんでも、これまで村の存在はよその人には内緒ではあったが、悪い人以外が村周辺で困っていたら、前々からわりと救いの手を差し伸べていたようだ。
そして、絶対内緒ね!?と約束できた人だけは解放、内緒にできなそうな人は村に吸収、(無理やり)住人にしていたという。
なにそれ怖っ!昔話に出てくる神隠し的なアレかよ!?
と思ったが、村から出られなくなった当初は怒ってた人も案外馴染むにつれて不満を言わなくなってくるものらしく、今では皆良き隣人になっているらしい。なんでも、争いも飢えもなく横暴な貴族もいない、種族による差別も宗教や政治的な軋轢も一切ない、そんな環境がこの上なく幸せだ、と。
うーん、住めば都的なものか?
あ、でもマリオが笑ってたけど、そういった「無理やり移住」させられてた人達も、こないだじいさんが言ってた「村を開放する!」とかいうイベントで無事解放されるらしいね。
これからは外からも行き来できるからって、家族や親せきを呼ぶ!って息巻いてる人が多いらしく、その流れから村の土地が足りなくなりそうだから周辺の木を一部伐採して、村を広げる計画があるようだ。
ほうほうほう、いろいろタメになる話を聞けたな。ふんふん。
「かみかみかみかみ…」
「うはっ、見てみろよ一生懸命スルメ齧ってるぜ。かーわいいなぁー」
「おいおいスルメは猫にゃマズイんじゃないか?、……え、こいつ猫じゃなくて使い魔?マジ?」
「え、これ魔物?うそだろ」
ふうむ、異世界に来てからけっこう経つが、今日一日でわりと色んなことを知ることが出来たかもしれない。
やっぱ情報は力だろ、もっと色んな話を聞いて学ばねば。この貧相な体が立派な魔獣に育つまで無事に生き延びるためにも。
かみかみかみかみ。スルメ旨い。




