83話 お祭り子猫
あー、うっさい。
ピッピピピー!プップカプー!
ドドンドンドドン!
キュキュキュッキュキュー!
ジャラランジャランジャラーン。
「こりゃまた面白い音じゃなー」
「じいちゃん、次これ鳴らしてー」
「あはは、楽器なんて初めて触ったけど楽しいわね」
「自分の意外な才能を発見したぜ!俺天才っ」
わいわい言いながら、勝手気ままにそれぞれ違う曲を演奏する老若男女。っていうか全員程よく酔っぱらい。
パフッパフー。
ブォーーーー
キュキュキュッキュキュー。
ジャンカジャンカジャーン!
ああもう、楽器ってきちんと楽譜に合わせて鳴らさないとこんなにうるさいもんだったのか。都会の交差点かってくらい耳触りだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
結局夕方まで寝ていた俺は、ちょうど目覚めた頃祭の準備が出来たと言われて外に連れ出されていた。
すると広い原っぱだった村の広場は素朴な飾りつけを施され、人で溢れていた。
いや、小さい村だし溢れるってほどの人数じゃないんだろうけどさ、俺から見るとそのくらい迫力があるのよ。間違っても足元を歩きたくはないな、俺なんてぺちゃんこになりそう。
祭の準備を手伝ってたクルルやキャシーと合流し、奴らがなんか妙にこざっぱりしてると思ったら、夕べ森で野宿した連中でまとめて風呂に入ってきたらしい。
その話の流れで、そういやこいつのことも洗っとくか?と俺を囲んで相談しだしてドキドキしたけど、クルルに念入りに匂いを嗅がれ「大丈夫」と御墨付きをもらった。
水が苦手だからすごくほっとしたけど、なんでだろ?あんだけ埃まみれ土まみれになったのに。
……とアルに聞いてみれば、俺が昼寝してる隙にこっそり濡らした布巾で全身を拭いたのだという。それでも起きなかった俺、すげぇ。
そしていよいよ夜も更けて、祭りが開始となる前にライアットのじいさんが祭の挨拶ってのをしたと思ったら、すぐさま酒盛りスタート。村の連中ほぼ全員が速攻でお酒飲み初めたんだよ。
いやいやいや、違うだろ?祭っつったらさ、歌とか踊りとか出店とか、せめて楽しい音楽くらい流してもらいたいじゃん。
……決して自分が酒飲めなくて酔えないからつまらないって訳じゃなく。
盆おどりしたい!とまでは言わないけどさ。ま、異世界だし。
でも、せっかくお祭りなのに酒飲んで飯食うだけじゃすぐ終わっちゃうじゃん。俺体が小さいからたいして量食えないし。
回りでグビグビ酒を飲みまくってるおっさんおねいさん方はそういう細かい事気にしていないみたいだけど、これじゃちょっとお祭りとして物足りない。そう思った俺。
なので、隣にいたアルに「音楽が欲しいね」と一言言った。確かに言った。
アルは音楽と歌が大好きな種族だったと聞くし、軽い気持ちで言ったのさ。
そして今、この有り様である。
プープッププー!
ピッピピップピー!
ジャーンジャーンバーン!
シャラリラリーン!
「ウミャーアー!(うーるっさーい!)」
「キ、キキ!キッキキーキキー!?キキキキーキキ!(み、皆様!もう少し静かに演奏しましょー!?せめて皆で同じ曲をー!)」
堪えきれず前足で耳を押さえて叫ぶと、アルが慌てて念話で廻りに訴えてくれた。
そうそう!俺が言いたかったのはそういうこと!
さすが万能通訳アル、ナイスだ。
でも誰も聞いてない、聞こえてたくせにニコニコしながらこっちに頷いてるだけで、音を抑える気持ちはないようだ。うんにゃろう。
そこら中でけたたましく盛り上がってる連中が手に持ってる楽器は、全部アルが作り出した物である。
彼女のオリジナル魔法で、地面から望み通りの形の木を生やすことが出来るのだ。それを元に作り出された、世界にそれぞれ一つだけの特別製の楽器。なにげに凄い。
アルは簡単な形状のしか作れないって言ってたけど、そこは村の細工師のおっさんが張り切ってくれて、あっという間に笛やら太鼓やらバイオリンもどきやら、様々な形の楽器が完成していた。
すごいのだ、酒飲みながらノミやトンカチ、彫刻刀みたいのでちょいちょいと整えてあっという間に出来上がっていく様は、それこそ魔法みたいだった。
なんか話を聞くとアルは風の精霊ってのと知りあいらしい。そんで彼らは風のある場所にはどこへでも行けて、森の中で動けなかったアルに自分等の知る世界中の知識を教えてくれてたらしい。
ただ欠点もあり、自分の好きなものや好奇心を刺激するものにしか近寄らないようで、その知識にはやや片寄りが目立つ。
具体的に言うと、風の精霊に聞いてアルが作り出した楽器は、どれもこれもヘンなもんばっかなのだ。
違う世界から来た俺がそれらを知らないのは当たり前だが、こっちの世界の人達から見ても「なんだこれ?」だったらしく、初見は周囲がちょっとどよめいていた。
が、いかんせん酒が入った人間というのはアレである。警戒なんて一瞬のこと、知らない楽器でもおかまいなしに手に取ると、ベンベンジャンジャカ鳴らして遊び始めたんだ。そりゃもう遠慮もなにもないくらい。
「キキー、キッキキーキ(申し訳ありません、こんな騒がしくなるなんて)」
いつもより幾分小さい声に、眉の下がった無念そうな表情のアル。白い顔が焚き火の明かりに照らされおぼろげに揺れる。
しばらく頑張って周囲に「お静かに」と注意して回っていたアルだが、一向に聞いてもらえず、程なくしてしょげきった様子で俺のとこまで戻ってきた。
「ミュー」
俺の隣まで這ってきたアルの、しおしおになってしまった頭の蔓を前足で撫でながら、労りの声をかけておく。アルが丸い目をさらに真ん丸く開きウルウルと見返してきた。
うん、酔っぱらいに玩具を与えるようなことしたらこうなるって解ってたのにね。適当なこと言ってごめんよ、アルはよく頑張ってくれた。
なでなで。
「キキー……!」
アルは緑色の目を眩めかせて俺を見上げると、いそいそと隣に腰を下ろした。そしてやや遠慮がちに寄り掛かってくる、その細い体が俺の黒い毛並にもっふりと半分ほど沈む。
よしよし、俺のふかふかな横っ腹で癒されておきなさい。
並んで座ると俺の肩くらいまでしかないアルの頭を撫でながら、何をするでもなく広場を眺める。
それにしてもほんと、変な楽器ばっかだなー。
へっぽこな演奏を続ける酔っぱらいのダメな大人達を改めて眺め、首を捻った。
うーん、なんていうかオーソドックスな楽器が見当たらない。
つーかそれ楽器なの?って物が結構ある。
「ミャ、ミアミーア?ミャミー(なぁ、あれって使い方合ってる?あの平ったいやつ)」
気になったのでアルに聞いてみた。
大きめの平たいウクレレみたいのを眼鏡のじいさんが得意気に両手で抱えてじゃかじゃか弾いてるんだが、向きが逆なように見える。右手の捻り具合が辛そう、すんごい弾き辛そうだ。
隣のおねいさんも横笛みたいの吹いてるんだけど、この笛もまた馴染みのない形状で上下がわからない。だけど、どう考えても口つけるとこ違くない?プヒーとか空気漏れる音がしてるよ。
アルもそれを見て困ったように考え込んでいたが、皆楽しそうだし一応音も出てるからいいよね、てことになった。
あのテンションの酔っぱらい達にいちいち使い方をレクチャーしに行くの、すっごくめんどくさそうだしね。うん。俺もやだ。
そんなこんなで、俺達の頭上で繰り広げられる全く調和の取れていない不協和音。
最初は耳に痛い演奏だったのに、聴いてる内にだんだん慣れたのか何故か楽しくなってきて、アルにこっちの歌を教えてもらったり、お返しに俺の知ってる歌もいくつか聴かせてみたりもした。
彼女は音楽を好む魔物らしく俺から聞いた日本の歌をすぐに覚えて、即席の演奏を披露してくれた。
さすがと言っていい素晴らしい演奏で、思わず拍手。周りの酔っぱらい達も大喜びしていた。で、対抗意識が沸いたのかさらにやかましく楽器を奏で始めたりもしたけど… 違う、全然音が違うよ。
アルは、ほんとは演奏だけじゃなく歌って聴かせたいと寂しそうに言ってたけど、キキキキって鳴き声で口ずさんだだけでも充分にきれいな歌声だった。
うーん、もっといろんな歌を覚えておけば良かったな。そしたらアルのプロの音楽家みたいな生演奏で聴けたかもしれないのに。
ちなみにクルルは楽器を一つ無理やり持たされて、固まったまま動かなくなっていた。酔っぱらいのダメ人間達に笑顔でせっつかれては手元の楽器を見下ろし、でもそれをどうすることもできず硬直する。
見かねてアル通訳で聞いてみたら、楽器は希少で高額なことが多くて触るのが怖いとのこと。下していいぞと助言してやったら、まるで爆弾触るみたいに恐々と地面に下ろしていた。それはアルが作ったやつだから高額じゃないぞー。
ふぅむ、しかしこっちの世界で「歌」「曲」っていうのはそうたくさんあるものじゃないみたいだな。
村の人達が普段歌うらしいのは、素朴な恋の歌や収穫を喜ぶ歌など、あと女神様を讃えるという歌がいくつか。あと魔除けの歌とかなんだけど、なんていうか種類が少ない上に単調で静かなものばっかり。短いリズムの繰り返しで、歌詞も真面目すぎる。正直、つまんない。
皆が楽器を手にしてすぐ演奏しようと悪戦苦闘しだしたそれらの曲を聴いてると、今日聞いたばっかの俺でもすぐ覚えられてしまうくらい、どれもがシンプルで単純なものなのだ。実際もういくつかは覚えちゃってるし。
そこでアルが「こんな歌はいかがですか?」と森で歌っていたという物をいくつか教えてあげたので、俺も便乗して日本の童謡を教えたり。しかし酔っぱらい共が一つの曲を協力して演奏する訳もなく、結果的には広場に響く音がさらに滅茶苦茶になる結果を招いただけだったりする。
でも、皆すっごく喜んでくれた。新しい歌を知るのって楽しいもんなぁ、こいつらにももうちょっといくつか教えてやろうかな。
これが聞いてる側も面白い。
俺があんまりリズム感良くないせいもあるだろうけど、皆、俺が教えた通りに歌ったり演奏したりしないで絶妙に違う歌にしちゃうんだ。
もうね、元の曲の面影が消えるレベルの人もいて中々刺激的。そんな天才(?)の群れにはついつい色んな歌を教えたくなっちゃう。
とはいっても、やっぱ歌謡曲とかは教えちゃマズいかなと思ったので、流行りのアイドルの歌とかは教えてない。この世界に合わない気もするしな。
一応、俺が教えたのは学校の音楽の授業で習うようなのばっか、あと歌詞にこっちでも伝わる言葉だけ出てくるのを選ぶのも忘れずに。「駅で携帯電話に~♪」とか歌って歌詞の意味を聞かれても困るし。
あ、間違ってもアップテンポなダンスナンバーなんてのは聴かせていない。そもそも俺の歌唱力じゃ再現出来ないだろうけどさ。
とまぁ、俺なりに気を使ったんだけれど。皆が俺の真似をして歌ったり演奏すると……なにこれ。
小学校で習う穏やかなしっとりした歌を聴かせりゃ、サンバみたいな明るいリズムにアレンジする。物悲しげな冬の歌を聴かせりゃ、トルコの民族舞踊の曲みたいなのになるのだ。
なんてーか、この人達ただ知識がないだけで音楽的なセンスは俺らよりよっぽどあるんじゃなかろうか。
高校の時の音楽の成績が微妙だった俺は、ちょっと嫉妬。こいつらにオリジナルソング作ってもらいたいくらい。
あと真面目な歌でも酒が入った状態で聞くとああなるってのがよーく分かった。作曲家の人には御愁傷様だと思うけど、ほんと今の皆は心底楽しそう。
笛吹きながらステップ踏んでるおっさんとか、太鼓鳴らしながらピョンピョン跳び跳ねてる兎耳の女の子とかもいるし、どいつもこいつも全身で喜んでるのがわかる。
あれかな、こっちって案外こういう娯楽が少ないのかな?
……盆踊りとか教えたら、案外受入れられるか?
アルと並んでジュースを飲みながら、はしゃぎまわる人々の演奏を聴きつつ、うんうん悩む。
全くもってけたたましい。でもなんか楽しい、わくわくする。体がムズムズ、しっぽが無意識にリズムをとってるし。
「キキ、キーキ(楽しいですわね、旦那様)」
「ンミュ」
俺の腹に寄り添うアルに言われ、力強く頷く。うん、楽しい。やっぱ、お祭りには音楽だよね。
気づけば二人肩を揺らしてリズムを取りながら、やかましくも心地よい音楽に身を任せていた。




