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くろねこの冒険~目指せ!異世界一周~  作者: 葉桜丸
第2章 ウェスリー王国あっちこっち
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76話 精霊と妖精と

あけましておめでとうございます(遅い)

年末に車検、正月に我が家のパソコンさんが引退・新しいのを購入、と怒涛の年越しと相成りました。気が付いたら正月休みが終わっておりましたが、妙な達成感があります。


こんなへっぽこですが、今年もよろしくお願いいたします。読んでくださった方、ありがとうございますw

もし更新を楽しみにしてくださってる方がいたなら、遅れてごめんなさい。

「子供達の作るパンケーキに、僕のジャムを載せたらどうかなぁ?」

「まぁ、それはおいしそうね!じゃあ私が焼くクッキーにもジャムを混ぜて色を付けてみましょうか」

「わー!それならきっと小さい子達も喜ぶよっ」


「なぁクルル、お前あれどう思うよ?」

首や背中をボリボリと掻きながら、前を歩く二人をバリーが顎で指す。が、顔がちょっといやらしい感じにニヤニヤしている。

その微妙に不快な顔を眺めながら、なんと答えたらいいのか分からず口ごもってしまった。


するとシスターがくるりとこっちを振り向き、顔を真っ赤に染める。

隣に並ぶ小柄な獣人の少年も頬を赤らめ、長い耳をぺたんと下げ頬を膨らましてバリーを睨んでいた。


「も、もう!バリーさんはすぐそういうこと言う!ぼ、僕達はお料理のほうに行きますからっ!行こ、ジュリ」

「は、はい♥」

唇を尖らせてそう言うと、シスターの手を引いて早足で駆けて行ってしまった。

うーん、あの兎人の少年は誰だったっけ?村で見かけたことはあるんだが、名前が思い出せない。



「あー痒い痒い甘酸っぱいわー。全く、若いってのは羨ましいねぇ」

バリーはまだ頬や背中を掻いている、よほど痒いんだろう。

そうだ、オレの爪で掻いたらスッキリするかもしれない。


思い付いた妙案に、そっと両手の爪を出してバリーに見えるよう胸の高さに掲げた。

「掻く、か?」

「は?…………い、いやいい!大丈夫、もう痒くないぞっありがとうな!」

一拍の間の後、ものすごい勢いでぶんぶんと頭を横に降られた。

なんだ、もう痒くないならよかった。


手を下ろすと、何故かバリーは額の汗を拭っていた。今日はそんなに暑かっただろうか?

「ふー背中抉られるとこだったぜ、あっぶねぇ……しかしまぁ、これでやっとあの小僧にも嫁が出来るのか。今年で25になるってのに浮いた噂の一つもないと心配してたらいきなりこれだ、人生わかんねーよなぁ」

話の最初のほうは声が小さくて聞き取れなかったが、後半は晴れやかな顔で言っているからきっと嬉しいことなんだろう。



それから嬉々として彼が話してくれたが、あの兎人は自分の頼りない外見をとても気にしていて、女性に対して積極的に出られず、そのせいで昔から失恋ばかりしていたそうだ。


だが、先日オークの群れが村を襲撃した際に、教会の子供を守りながらオークと戦っていたシスターが危機に陥り、それをあの少年が助けたのだという。

彼は見かけによらず中々に強いらしく、命を救われたシスターがその勇姿に惚れたんだそうな。



そういえば、兎人は大人になっても子供のような体躯の者が多い、そしてその外見に似合わず凄まじい脚力があり、一蹴りでゴブリンの首を飛ばすとか…今まで兎人が戦っている姿を見たことがなく、噂でしか知らなかったけど。

オレが今まで見たことのある兎人はみんな奴隷だったし、ひらひらの服や宝石で飾られ貴族の傍に侍らされてたからてっきり弱い種族なのだと思い込んでいた。

そうか、彼らは体こそ小さいけれど皆立派な戦士だったんだな。今まで彼らを誤解していた、なんとも申し訳ない。



それにしてもここに来てからというもの、自分の持つ知識が拙いことを痛感してばかりだ。……文字の読み書きだけでなく、一般教養とかいわれるやつも学びたいなぁ。


なんとなく物思いに耽りそうになったが、ふいに立ち止まったバリーが辺りを窺うと、オレのほうに顔を寄せてきた。

「なあクルル。ヴァイス様、いつぞやの精霊様なんだが…あの時よ、あの方はいきなり現れたろ?もしかして、その前にお前魔法を使ってたか?」


「……?」

ヴァイス……たしか、しゃべる雲が女に化けて……あの女性は雲の精霊なんだったっけ?

いやそれより、魔法を使った?オレが?


少し考えた後、首を降って否定した。

うん、やっぱりオレは生まれてこのかた魔法なんて使った記憶がない。

しかしバリーはそれが意外だったような顔をして、しかしすぐ何かに気づいたしたようにパクリと口を開け、何度も頷いた。

「そうか!そういや、お前テイマーだけど獣人だったな。忘れてたぜ。いや、テイマーっていうと魔法も使える奴が多いからよ」

てっきり魔法も使えるもんだと思ってた、と笑われた。


……そう、なのか。テイマーは魔法も使えるのが多い、のか。

魔法、いいなぁ。

オレにも一つくらい使えるようにならないかなぁ。火の玉まではいかなくとも、一瞬の火花だけでもいいから使えたら嬉しいのだが。


「いやー、あのよ。ヴァイス様が言ってたろ?魔力の波動を感じたからお前のいる場所が分かった、って。そういやあれから姿は見たか?」

「ヴァイスか?み、てない」

あ、そういえばまた会いに来ると言ってたような気がする。

バリーはしばらく腕を組み渋い顔で考え込んでいたが、言葉を選ぶようにポツポツと話し始めた。



精霊とは、火や水、草花や大地など自然の中に宿る魔力から生まれた、それらの化身だと言い伝えられている。

人とも魔物とも神とも異なる神秘の存在。ぶっちゃけ人間からすると「謎」の一言でしか説明できない。


彼らには独自の価値観があり、彼らに愛されたものは絶大な力を得るとも、嫌われたものはあらゆる不運に見舞われるとも言う。


なにより、普通の人間はその存在を認識することすら出来ない。

精霊を感じとることが出来るのは彼らに好かれている存在か、強大な魔力を持つ者、はたまた神の加護を授かった者だけ。


そして精霊の姿を見ると寿命が伸びるとか、声を聞いたら良縁に恵まれる等。どの噂でも精霊は縁起が良いものとされているみたいだ。

「精霊は自然を保ち人々を見守ってくれる、女神様とは別のありがたい存在ってのが一般的な見方だろ。でもなぁ、そこに妖精っつぅ厄介なのが……アレが問題なんだよ」


妖精。

これはわりとその実在が知れ渡っている。


その姿はだいたい掌よりも小さな、羽の生えた可愛らしい小人である。

始終落ち着きなく飛び回り、気になるものを見つけると飛び付いていき、周りに誰がいて何をしていてもおかまいなしに我があるがままに振る舞い、その場を引っ掻き回す。そしてすぐに飽きて去っていく。


彼らは全般的にまるで幼い子供のように無邪気で、好奇心旺盛だ。

かくいうオレも二回その姿を目撃している、むしろ被害にあったことがある。

最初に見た時はいきなりしっぽの毛を毟られた。二回目は突然馬車の前に突き飛ばされた。

どちらも唐突だった。

そして、どちらの妖精も楽しそうにケラケラ笑いながらオレを指差し、そのまま去っていったのだ。幸い怪我をしたりはしなかったが……

正直、彼らが何を考えているのかさっぱりわからない。


ちなみにこの二件はオレが殊更不運だという訳でなく、言ってはなんだが世界中で起きているありふれた事なのである。誰しも、一生に一度は妖精から悪戯されるらしい。

……あれ、オレ現段階ですでに二回……や、やっぱり運が悪いのかもしれないな。


妖精に関する噂話は、オレの体験と同じようにどれもこれも「いたずらもの」「気紛れな通り魔」「厄介な隣人」といったものばかりだ。

盗賊達は妖精を疫病神と呼んでいたし、商人が彼らを追い払い本を投げつける光景を見たこともある。


そういった行動からか、可愛い悪戯とは言えないような……時に甚大な被害を出す事態を引き起こしたり、悲劇を産む悪魔になったりもするのが妖精だ。

ので、まともな人からは忌避される生物である。中には彼らのいたずらを喜ぶ特殊な人もごく少数いるらしいけど。

まぁ、分類上「妖精」となっているが性質が異なる生物もいる。が、それらは本当に極一部の話。


バリーが心配しているのは、女神教の一部の信徒内で広まっているある噂なんだそうだ。

それは「妖精は精霊の手先であり、精霊もまた妖精のような気質を持っている」というもの。


誰が言い出したのやら初めは根も葉もない噂と皆軽く考えていたのだが、普通は精霊とは姿を見ることも声を聞くことも出来ない存在。

ゆえに「そんなことない」と言える根拠を持つ者などおらず、だが「そうである」と言える者もまたいない、結果「そうなのかも?」と考える人がじわじわ増えつつあるんだそう。


確かに妖精は神出鬼没で掴み所がなく、悪質な悪戯の数々に業を煮やした権力者などが度々捕縛を試みているものの、捕まったという話は聞かない。

姿も声も認識出来るという点で精霊とは別物だと理解出来るのだが、その不確かな存在、得体の知れない力、人間には理解出来ない原理で動いているという部分などは、言われてみれば似かよっていると思えなくもない。


その噂を信じる信徒達が主張するのは「妖精は悪、ならば精霊も悪!」というもの。


精霊と親交があると知られたら、その人達が何かしてくる可能性がある。

バリーはそう言ってさらに言葉を付け足した。

「お前、ヴァイス様に白虎って言われてたしなぁ……」


そうだった。

オレはもしかしたら珍しい種族かもしれない、のだった。

本当に信用出来る相手以外には決してどっちの話もしてはいけないと説かれ、もしヴァイスが来たら人がいない場所に連れて行け!と言われた。


大切なことだから絶対に忘れるな、というバリーはいつになく真剣な顔だった。

ヴァイスがもし遠く離れた場所からオレの居場所を探ることができるのだとしたら、いつ会いに来るか分からないのだ。

「魔力の波動で」と言っていたらしいけど…魔法を使えないオレでも、そんなモノが出ているんだろうか?

バリーは「気を付けたほうがいい」と言うが。何に気を付けるべきなんだろう。

ヴァイスが来た時…うーん、やはり魔法なんて使っていない、と思う。何か変わったことをしたんだろうか、自分では分からないんだが。モヤモヤする。


でもその後なぜか「知らない人についていかない」「怪しい人から何かもらっても食べない」「大きな町の裏通りには行かない」など訥々と説かれた。

それって小さな子供に言う事じゃ……?

釈然としない気持ちのまま、バリーの後について広場へ手伝いに行くオレだった。



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