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くろねこの冒険~目指せ!異世界一周~  作者: 葉桜丸
第2章 ウェスリー王国あっちこっち
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70話 サンドイッチの行方

真正面から凝視してくる、猛禽類を思わせる鋭い眼光。兜に開いた細いスリット越しにしか見えないはずなのに、まるで目の前に獲物を狩る姿勢の鷹がいるかのような威圧感だ。


め、目が離せない。目を逸らした瞬間に食われる……!

瞬きも出来ず身動きも取れず、ただ髭を震わせることで自分が生きているのだと、まだ死にたくなんてないんだという気持ちを奮い立たせる。

「……ないか」

ふと、俺のちっさい三角の耳が、微かな囁きを拾った。

え、誰?女の人の声がしたけど。妙に掠れた声だったな。

命の危機を忘れてキョロキョロと周囲を見回し、声の主を探した。


アル、じゃないよな?

首を捻って下を見下ろせば、アルもようやく立ちあがり不思議そうに俺を見上げた所だった。彼女にもさっきの声が聞こえたんだろう。

「それを、ゆずって…くれないか」

「ミュ!?」

へ、この声、ヨロイの奴から聞こえてる?こいつ女!?


か、カラアゲ、いやカツアゲだー!?

うわ生まれて初めてだよカツアゲされるなんて!漫画とかドラマで見たことはあるけど、ホントにあるんだ!

って、違う。

そうじゃない。譲ってくれないかって言ったぞ今。

まさか……俺のピンチョス…サンドイッチのこと?

サンドイッチが…俺の特注昼飯……こいつに取られちゃう?えー、やだー。


拙い考えを巡らせると前足にぐぐっと力が入る。

は、腹の虫がね、腹ペコだって昼飯食べたいって訴えてるのよ。だから、こ、これは俺の!悪いけど誰にもあげられないぞ!

竹串を挟む肉球に全力を込め、取られまいと身構える。ヨロイの女はそんな俺の変化に気づいたのかどうか、わずかに目を細めた。


ドドンッ!!


うおびっくりした、いきなりでかい音……太鼓みたいな音、が。な、なに?

「キキィキキキキーッ!(旦那様をお離しなさい不埒者ーッ!)」


ドドドドドドドドドッ!!!


「ぐっ!」「フギャ!?」

突如響き渡る爆音。

下腹にズンズンと重石が積まれるような激しいリズムに合わせて地面が振動する、これはもはや音というより脳みそと内臓を直接揺らされてるようなもんだ、平衡感覚が狂って吐き気が、目眩がする。

ぐああああ鼓膜破けるぅーーー!?


って、今アルの声がしたよね?

これもしかしてアルが……いやならなんで俺までダメージ与えられてんの!?つーか多分体力的に俺のほうが先にヤられるんじゃないコレ!?


あまりにも大きい音量の雪崩にもがく俺、だが苦しんでるのはヨロイの奴も同じらしく、視界が揺れてるのでこいつもふらついてるっぽい。

う、わ、あのちょっと、倒れるんだとしたらその前に俺を下に下ろしてからにして?くれぐれもそっと下ろして、この高さから地面に落とされたら洒落になんないよ、俺非力な小動物だから。こないだ大空飛んだばかりだからマジでやめて。

「く、この程度で……」

兜の奥から苦しそうな声が漏れ聞こえてくる。

あわわ、めっちゃ苦しそうだけど俺を離そうとはしないヨロイの奴。掴まれてる俺もふらふらと左右に揺られ大変怖い。

「キッキー!キキキィ!(しぶといですわね!このこのこのぉ!)」


ドドドドドンドドドドンドドッッ!!


ぐぉあ、テンポアップした!?やめて無差別攻撃っ頭が割れちゃう、奴より俺のほうが瀕死なの気づいて!


「シャルやめてーーーっ!」

最早地響きになって轟く音に紛れて、甲高い悲鳴が響き渡った。

と、音がピタリと止んだ。


俺の胸のバクバクはすぐには収まらず、耳に「ビーン」という音が残っている。

た、助かった……誰か俺の代わりに止めてくれたのか?


ふわり、と体が浮く感覚を覚える。その後で伝わるわずかな振動。

目線が低くなった、どうやらヨロイの奴が地面に膝をついたようだ。


「キィキキキー!?(旦那様ご無事ですかー!?)」

あ。アルだ、やっぱ太鼓叩いてたのこいつだ。

ごつい太鼓のセットを前にスティック握ってる、つーか何あの太鼓、さっきまであんなのなかったよね?しかも地面から生えてるっぽいんですけど。

スティックをぶん回して俺のほうに手を振るアルに無言で頷く、アルさんには後でよーく言い聞かせておかねばなるまい。助けようとしてくれたのは嬉しいんだけれどもあの攻撃手段(?)は俺にも多大なダメージがあるということを。


そして彼女を見たとき、同時に後ろにいる人影が目に入った。

そこにいたのは、俺らからすれば大きいけどまだ赤んぼに近いような、あどけない顔をした子供だった。手を地についてしゃがみ、頬を真っ赤に染めて泣いている。

「キ?キキー……」

俺の目線で自分の背後に人がいると気づいたアルが、べしょべしょに泣いてる子供を振り返り戸惑った表情を浮かべる。

「かわっ、かわいそうだよ!やめてよぅ、そんなちっちゃいの、いじめないで!!」

「リ…リュート様……」

びえーと声をあげて大泣きしはじめた子供と、それを見て途方にくれてるように見えるヨロイの奴。さっきまでの殺気はカケラも残っていない。


ヨロイ(仮)は、なんか弱々しい声でぼそぼそ言い出した。

「で、でも、もうサラ様は限界です。む、村の人間に見られる訳にも…行きません…し…」

ふむ、声の感じからするとやっぱこいつ女なんだね。少し低くて掠れてるけど、なんか恐くなさそう。

でも肩幅すっげぇ。いや、この角度で見てるからごつく見えるだけか?


お、なんか地面に下ろしてくれそう?

ゆるゆると地面が近づいてきて、俺はぽふっと地に足をつけていた。腹と後ろ足を拘束していたでかい掌が離れていく。

でも前足にサンドイッチを掴んでいるので四つ足では着地できない、やむなく尻を地面に着け、どべっと胡座をかくような姿勢になる。

しっぽのおかげか意外な安定感、背もたれなしでも座れるもんだな。


「キキッ(旦那様ッ)」

さかさかと蔓で這うようにしてアルが寄ってきた。


ぽふっ。


「ミュ」

「キー」

ぎゅーっと抱き締められた。俺が前足を肩の高さに上げてる上にアルの姿勢が低いせいで、ラグビーのタックルを喰らったような体勢だ。

そのままわさわさと蔓で体をなで回された、くすぐったい。怪我の確認をしてるみたいだな。

アルの顔を見下ろせば、普段から潤んだ目がさらにうるうるしてて、なんていうかめっちゃ心配そう。

……無差別爆音攻撃はしんどかったけど、文句言える雰囲気じゃないね。

「ミィミャ。ミュウ、ミゥ(大丈夫だよ。ありがとな、アル)」

彼女の優しさが嬉しくて声をかければ、さらにぎゅーっと腹にしがみつかれた。


お互い非力な小動物になってしまった者同士、なんとなく親近感が強い俺達。しかもアルはこの村に来たばかりで知りあいが少ない、つーか今までは人間と関わったことがなかったらしい。

もしも俺が急にいなくなってしまったらと思って、不安になったんだろう。可愛そうなことしちゃったな。


うー、アルに心配かけないためっていうか自分のプライドのためにも、さすがにもう少し大きくて頑丈な体になりたいぞ。せめてなんらかの攻撃手段プリーズ、そしたら逃げる時間くらいは稼げるだろうに。


無事を喜びあう俺達の頭上では、ヨロイ(仮)が泣きじゃくるちびっこに対峙していた。

「リュート様、このままではサラ様が…死んでしまいます。食べ物を諦めるなら…せめて、せめて水だけでも飲むように、もう一度説得して……」

おう、なんかもめてるっぽい?

ヨロイ(仮)がもたついてる、様つけて呼んでるしこいつら親子って訳じゃないのかな。

……ん?なんか、こいつ胸んとこにおんぶ紐みたいの巻いてるぞ?


ひとまずもう害意はなさそうだ、なのでとりあえず死守したサンドイッチをモギュモギュと頬張る。ふぅ、やっと腹が膨れて落ち着いたぜ。美味なり。


で、なんかぼそぼそ話を続けてる彼らをどうしたものかとアルと並んで見上げていたら、ヨロイ(仮)がごそごそとおんぶ紐をほどき背中に背負っていた荷物をおろし、前に抱えた。

荷物は、ボロ布の塊っぽいものだった。ずいぶん慎重に扱ってるな、こんな汚い包みなのに。

「サラ……ぐすっ、目をあけてよぅ、もういいよ、きぞくとかどうでもいいでしょお!川のおみずでも、のまなきゃ死んじゃうんだよ!?」

泣きじゃくりながら、ヨロイ(仮)の膝のボロ包みにすがりつくちびっこ。


……ん?

な、なんかあの包みから足みたいのはみ出てない?

俺の目線では包みの下のほうしか見えない、でもあれ人間の足にしては色がおかしいぞ。


そこで泣いてるちびっこよりさらに幼げな、多分2歳くらいの子供の足首から先と思われるモノ。骨と皮って感じで赤みが全くない、擦り傷だらけの裸足、爪も瑞々しさがなくかさついていた。

そして、血色が悪いとかそういうレベルでなく、皮膚が青い。うーん、水色?ちょこっと暗く薄い青で、少しだけ白っぽいつーか。

なにが言いたいかと言うと。

あれ、もう死んでない?


幼児の死体をまるで生きてるかのようにおんぶして話しかける鎧の女という、思いがけぬショッキングな光景に戦慄していると、アルが険しい顔でつぶやいた。

「キキィキ、キー。キィ、キッキキー…(微かですが、まだ生きていますわ。でも今にも命が消えそう…)」

「ミュ!?」

ええ!?た、大変じゃん!

つーか良かった、死体だったらどうしようかと思ってたよ。生きてるんなら話は別だ。ごめんよ、死体だなんて誤解して。

「ミャアウ、ミィミー。ミュ、ミャミャミャア?(こいつらが誰だか知らないけど、村の連中なら助けてくれるかもしんない。アル、念話通訳頼める?)」

思わずそう頼むと、アルは一瞬きょとんとした顔をした後、にっこり笑って俺の頭をなでた。なぜ撫でる。


「キー、キキィキッキ。キーキキ、キキーキィキキ?(あのぅ、この村の人間はいい方ばかりですわよ。教会には治癒術師もおります、よろしかったらご案内いたしますが)」

「!?」

うおっ、ヨロイがすごい勢いでこっち見た。

あ、念話に驚いたのかな?そういやこのスキルけっこう珍しいって聞いたっけ。

ちびっこも泣き止んで、目をまん丸にして俺とアルを凝視してる。

う、うん。とりあえず落ち着かせることは出来た、かな。


「は、はな…今、頭に声が…???えぇ、とうとう私、頭おかしくなって?」

「ち、ちゆじゅつっていうので、サラはなおるの!?いきかえるの!?」

「ミュ!?」

「キー!!」

よっぽど驚いたらしく返事する余裕もなくうろたえているヨロイ、涙でぐしゃぐしゃの顔のまま猛然と接近して俺を鷲掴みにするちびっこ、その暴挙に抗議すべく腕の蔓でちびっこをぺちぺち叩くアル。

「おねがいサラをたすけて!サラは、サラを、たすけてたすけてー!!」

「ギュー!(つぶれるー!)」

「キキィー!!(離しなさーい!!)」

ちびっこの締め付け攻撃に悲鳴を上げながら、近づいてくる地響きに気が付く。騒動を聞きつけたヒルダが戻ってくるまで、俺はなんとかつぶされずに耐え抜いた。根性。


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