68話 謎の戦士とサンドイッチ
普段はお米のほうが好きですが、たまに猛烈にパンが食べたくなります。
森で不可思議な体験をした後、村へ戻り無事を喜ばれてほどなく「今夜は祭じゃ!」と宣言された。
そして今、オレは荷運びに追われている。
「クルルー、それこっちに置いて、そしたらあれを反対側の端っこまでお願い」
こくりと頷き、指で示されたほうの木箱を持ち上げ、歩き出す。
ふと胸元に目を落とせば、紐で首に吊るした笛が揺れていた。ジャックが森の精霊、デリュフィリーデから贈られた笛。
御守の意味もこめて彼に持たせたかったのだが、本人の体より数倍長いので代理としてオレが身に付けている。
「………」
いや駄目だ、考えない、考えないように。
前見た時は何もなく一面の原っぱのようだった広場は、今では様々な荷物で溢れあちこちで人が忙しなく作業する賑やかな場所へと変わっていた。
これと似た光景をどこかで見たような…そうだ、早朝の市場で出店の準備をするのに似ているんだ。
どんどん運ばれてくる様々な道具や食べ物に気を引かれながらも、広場の反対側に辿り着くと、頭に花柄の布を巻いたリタがいた。
「あ、クルル君ありがとう。その辺に降ろしていいわよ、ごめんね、疲れてるでしょうに…でも人手が足りないからすごく助かるわ」
額の汗を拭いながら朗らかに笑う少女は、他の何人かと協力して料理を作っている。
石で組んで拵えた竃が並び、もくもくと煙を上げる側で女達が野菜や肉を持って駆け回っているのだ。
ぼーっと眺めていたら水瓶を担ぎ早足に近づいてきたおばあさんに頼まれ、今度は井戸へ水を汲みに歩き出す。
…それぞれに役割を持ち祭の準備を進める村人の中にあって、俺は特にこれといった役割を持っていなかった。なので、こうして声がかかるたび手が足りない所を手伝って村中をうろうろしている。
考えてみると、オレに出来ることと言っても…料理をしたことはなく、天幕を組み立てる知識も器用さもなく、飾り付けや諸々の作業においても役に立てるとは思えず。手先も器用とは言えず、物分かりもよくない。
結局自分には荷運びくらいしかできなかったのだ。
だが、こうして動き回っていないとジャックが心配になって頭の中がジャックでいっぱいになってしまうから、やることがあるのはありがたかった。
思い返せば彼はいつもオレと一緒にいた。が、ずっとそれでは良くないのだという。
人の子供もそうだが、小さい内はなるべくたくさんの人と交流させ、様々な体験をさせておかねば大人になった時に困るらしい。
他人との対話が出来ない、人付き合いが出来ない人になってしまうんだそうだ。
よく解らなかったが、なんとなくわかる気もする。少なくともオレみたいな奴にはならないでほしい。
なので、今ジャックはオレから離れて「友達」を作るべく別行動をとっていた。
キャシーが言うには、猫同士ではそれなりに仲良く出来ているようだし、使い魔として育てることと普通の猫より知能が高いことを考えると、森の精霊であるアルや知恵のある魔物のヒルダと仲良しになるのはとてもいい事!らしい。
あの利口そうなアルがついてるなら迂闊に村から出ることはないだろうし、「護衛」となったヒルダはとても強そうだった。何も心配はない、と分かってはいる。だが。
いつもこの肩に乗っている小さな子猫が、いない。
そう思うと、なんだか寂しく、何かが足りない気分になってしまう。そしてじわじわと沸いてくる不安。
あの森でジャックを永遠に失ってしまったと思った時の絶望が、まだ頭から消えていないのだ。
水瓶を持って歩きながら、もやもやとした気持ちをもて余している間に、村の中央の井戸についていた。
井戸の水汲み…実はまだちょっと不慣れで、気を付けないと壊してしまいそうなのだ。慎重に桶を掴み、ゆるゆると下へ降ろし、水音が聞こえたらそろそろとロープを引く。
初めてやった時は力を入れ過ぎたせいか桶が欠けてしまった。キャシーに「馬鹿力」と呆れられてしまったし、本当に気を付けなければ。
つい真剣な顔で水を汲んでいたら水瓶を持った子供がいつの間にか後ろに並んでいたので、もう一度水を汲んで渡した。一瞬驚いた顔をした子供だったがすぐ笑顔を浮かべ、オレに向かってお礼を言って再び駆けて行く。
この村に来てから、人に嫌な顔をされることが減った。むしろ数えるほどしかない。
今でも不思議な気分だ、奴隷として生きていた時はオレを見る人の目は常に険しく、汚らわしい獣人と呼ばれ毎日なじられていたというのに。
この国と以前いた国では、住む人々の種族でも違うのだろうか?
この国全体のことかは分からないが、ここでは獣人も普通の人間も何も変わりないように生活している。実際に目にしていても、中々見慣れることがない。
それにしても今まであまり経験がなかったが、人から笑顔を向けられるというのは、なんとも…
うん、嬉しい。そう、嬉しいのだ。この気持ちはきっと、喜びや満足感というものなんだろう。
水で満たした水瓶を抱え広場へ向かって歩き出す。
立ち去るオレの背後では井戸にまた新しい村人が来ていて、数人で楽しそうに笑い合っていた。
「今回のお祭りは村の名物に出来るわね、これからは毎年やりましょうよ!あらあんた達、薪割りは終わったの?ずいぶん早いけど、またサボったんじゃないでしょうね」
「ち、違うよ!なんかもういっぱいあったから、今週分はもういいよって言われたんだ!嘘じゃないぞ!」
「本当かい?まぁいいわ、じゃあこれ持ってっておくれよ、おばちゃん最近腰が痛くってねぇ」
「うぇ、そのっくらい自分でやれよ妖怪ばば…」
「なんだって?」
「…ごめんなさい」
水汲みをしていた声の大きな女性が、傍を駆け抜けていこうとした子供を捕まえて水瓶を渡している。
そうか、水汲みというのは小さな子供に任せるような簡単な仕事なんだ…
正確な年はわからないが、オレは多分成人する年齢になっている、はず。
オレも、何か出来るようにならなければ。村の人達のように、大人として生きていくために必要な何かを身に着けたい。
自分が生きていくため、なによりジャックを守り育てていくために。彼にとってオレは兄か親のようなものなのだから。
漠然とそんなことを決意していた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
なんやかやあって、俺達は祭の準備を免除され、こうして遊んでいた。
今朝はものすごく落ち込んでるように思えたヒルダだったが、俺が「護衛ってあんたのことか?」と声をかけたら即ご機嫌になり「あたし護衛やる!猫ちゃん達を守るよ!」としっぽをぶんぶん降り出して、以降はとても溌剌としていた。
出会って間がない俺とアルだったが、明るく物怖じせず話しかけてくるヒルダを挟んで会話する内に、ごく自然に会話できる仲になっていた。なんていうか、体格的には逆だけど二人で協力してちびっこの面倒を見てる気分ていうか。
それにしてもヒルダは懐っこい、行動だけ見てるとフツーに犬っぽいかもしれん、ホント可愛い奴だ。
嬉々として村を案内してくれてるし、こうして頭に載せて運んでくれてるし、お礼に頭でも撫でてやりたいけどこのちっこい前足じゃなぁ。
ふみふみ。あ、くすぐったい?ごめんね。
人間の住む場所に来るのは初めてなアルに、ずっとここで育ったというヒルダが村を紹介しながら、一番奥にある教会の敷地まで時間をかけてまったり散歩。
もふもふの白い毛並みの上に寝そべる俺と、そんな俺を背もたれにちんまり座るアル。
「隊長!前方、異常ありません!進軍します!」
「ミャー!(らじゃー!)」
「キーィ(らじゃですわ)」
元気な声で宣言してから勢いよく道を曲がるヒルダ。太くて長いしっぽがプインと弧を描く。
さっき冗談で言った軍隊風の言葉遣いが気に入ったらしい。
ヒルダは下っ端兵士で、俺が隊長、アルは参謀なんだそうな。微笑ましい。
ヒルダの頭の上から眺める景色は、ほぼクルルの肩の上と同じくらいだった。
道行く人の顔が近い、地面から見上げるとつい鼻の孔に目がいっちゃうけど、この高さだと顔全体が見えていいやね。
皆忙しそうだけど、鼻歌歌ってたり爪先でリズムとってたりと、全体的に浮かれてる空気が漂っている。つーかオークの襲撃で壊された建物の修繕ほったらかして、大量のお酒っぽい瓶を運んでるおっさんが。おいおい、この状態でお祭りすんのかよ。
あ、それジュース?え、一箱くれるの?いやいやそんなに飲めないって、三本でいいですから。
およ、果物くれるって?なんだろ、イチジクっぽい実だな。ありがとーおいちゃん。
笑顔で瓶がたくさん詰まった木箱を差し出すおばちゃんに、果物を大きな袋一つ分差し出すおいちゃんに、アル通訳でお礼を伝えてもらう。
わーいジュースだー、こっちの世界で初めて見るぞー。
ここまで歩く間、行く先々で村の恩人だとか英雄だとか声をかけられ、撫でられたり褒められたり、色んな差し入れをもらったり。
そんなわけで今日一日でかなりの貢ぎ物が集まりました。
素直に俺一人で飲み食いするって考えると、何十年分あるかわからない量だ。クルル達と分けっこしても絶対余るよな、日持ちしなさそうな物が多いし教会の小悪魔供に進呈するか。
その大量の貢ぎ物はヒルダが荷袋みたいのに入れて運んでくれている。左右の革袋を繋ぐベルト?を背中に担ぐ、ごっついやつだ。
ちなみにもらった貢ぎ物は食い物ばかりで、さっきのジュース三本とか相当重いだろうに「まだまだ持てるよ!」と余裕がありそうだ。体格以上の力持ちらしい。
「………」
何の気なしに、寝そべった己の背中を振りかえってみる。
うん、ちっさい。背負って運べるとしたら、みかん一個くらいだろう。
…ぐぬぬぅ。
声に出さず唸っている間に、目の前の景色が開けた。
「ミャー!」
「うわぁ、気持ちいい風だねー」
涼しげな風が吹き抜ける一面の緑の草原に、思わず感嘆の声をあげる。
いつのまにか教会につき、さらに牧場に入っていたようだ。
見慣れた牧場ではあるが、改めて見てみると案外雰囲気がいい。ここの村はまわりを森に囲まれていて、端っこにある牧場からはその森の木々が眺められる。広い空と草原のコントラストも素晴らしい。
これはあれか、電柱や電線、標識とかなんにもないから清々しく見えるのかもしれん。
はぁー、お日様の照り具合によって同じ緑でも違って見えるもんだ、風で葉がキラキラ靡いて、草原が若葉色の海のよう。
青い空に緑の海、これで間に茶色い壁が伸びてなければ完璧なのに。少し残念な景色。
あの壁の向こうは村の外だ、なので頑丈そうな石積でかなり高さもあり、けっこう物々しい。壁に沿って植え込みや木が並んでなかったら刑務所みたい。
しっかしここ、牧場なのにあんまり臭くないのな。
敷地に対して牛が少なすぎるのか?見えないとこにたくさんいるのかもしれないけど、見える範囲には10頭もいない。
「ねえねえ、ちょっと走ってきてもいーい?」
そう言ってそわそわしだしたヒルダを快く見送り、俺達二人は少し地面が高くなっている芝生っぽい草地に腰を落ち着ける。
壁の近く、木の影になってるので日差しが暑すぎなくていい感じ。爽やかな葉の匂いがたまに鼻先に届く。
俺もアルも背もたれがないとひっくり返ってしまうので、ヒルダの担いでた荷物をクッション代わりに寄りかかり座っていた。これなら安定するぜ。
広々とした牧草地を駆け巡る白い狼とおたおた逃げ惑ってるように見える牛を眺めながら、後ろ足を投げ出して荷物に深々と寄りかかる。
あれ、狩られてるワケじゃないよね?ほっといて大丈夫だよな?
「キーキキーキー(ヒルダちゃんは走るのが速いですわね)」
「ミュー、ミーミャミャンミー(いいなぁ、あれだけ速いと走るの楽しいだろうなー)」
思わず本音を溢してしまった。
隣のアルが気遣うようにこっちをチラ見し、右手の先の蔓で頭を撫でてくれる。
うむ。いや、別に落ち込んでないし気にしてもないけど?
よちよち歩きが精々で走れもしないとか、気にしてもないんだけど?でもありがとう。
お返しに俺も左の前足を伸ばし、アルの頭を撫で返そうと…
ずり…ぽて。
「ミュ」
バランスを崩し無様に転がった。尻が前にずって後頭部を地面にぶつけ、後ろ足が上に上がってしまう。
く、くそう、この体はただ座ってることすら録にできないのか。
天を向いた後ろ足の爪先を眺めながら密かに憤る。
「キキー(旦那様…)」
う、なんか慈悲深い視線を感じる、同情されてる気配。
な、何か違う話題を。
「ミ、ミャーミミー(これ、なんて書いてあるのかな?)」
でんぐり返った状態で視界に入った布を前足でつつき、聞いてみた。
さっきバリーに掛けられたタスキっぽいモノだ。白くザラリとした細長い布を輪っか状に縫い付けてあり、黒いインクで妙な模様?が書かれている。
これ、多分文字だよな?アルは頭がいいみたいだし、もしかしたらこっちの世界の文字読めたりする?
「キーキー、キキィキーキ(申し訳ありません、私文字が読めませんの)」
眉毛っぽい部分をハの字に下げて頭を下げるアル。心なしか念話の声も小さめだ。
慌てて、謝らないでと取り繕った。
そりゃそうか、今まで森で精霊として生きてきたのに人間みたく文字を書いたり読んだりしないよな。
互いの肩に掛かったタスキを手に取り、じっと見つめる。まぁよく見た所で読めないもんは読めないんだけどね。
んー、言葉か。
アルのお陰で俺にも意思の疎通をするための手段が生まれた。でもやっぱ、それとは別に読み書きとか出来たほうがいいよなぁ。
ライアットがちょっと話してたし、クルルがその内色々習うだろうから、それに便乗させてもらいたい所だ。
お勉強と思うとめんどくさいけど、ただでさえ俺の保護者クルルは頼りない。その分、彼の使い魔である俺がしっかりせねば。そう、生きるために。
理由は分からないけど、耳で聞いて言葉を理解するのは問題ないんだよな、何語かすら知らない言語だろうに。このタスキ見てる限りはなんとなくアルファベットっぽく見えるんだけど。
…ぐーっ。
頭を使うと腹が減る。
時刻はちょうどお昼くらいか、お日様も真上に昇っていた。俺の腹時計が正午をお知らせしております。
ヘソを天に向けたまま前足で腹をぽんぽんと叩く。うむ、腹ペコペコだが別にひっこんでいない、子猫の腹って基本まるっこいのね。
「キキッ、キーキキー(うふふっ、お弁当にいたしましょうか)」
「ミーヤー(そうでございますね)」
う、言ってる間にまた腹の虫が。この体はたいして量を食べられないくせに、すーぐ腹がすくのだ。
ちょっと気恥ずかしいのを隠しつつ起き上がって座り直す俺をにこにこと眺めながら、アルが頭と手の蔓を器用に操りお弁当の包みを取り出してくれた。
木で作られた質素ながらセンスの良い弁当箱に、皮の水袋、布巾。それらを布でくるんで結んである。
わくわくするな、こっちの世界の弁当って初めて見るぞ。
俺とアルのはちっちゃい包み、ヒルダ用にはでっかい包みを。でもあいつはまだご機嫌で走り回ってるから、先に食べちゃおっかね。そばを通るたびちょっと地響きがするのが地味に怖いよ。
いそいそと自分の分の包みを開こうとする。しかし俺の丸っこい前足が、すか、すか、と空を掴んだ。
目測謝った、も少しこう、このへんを。よいしょ、えっしょ。
もみもみ、むにむに、かりかり。
…ほどけねぇ。
ゆ、指が一本ずつ別れてないと掌ってこんなに動かないモノなのか?
弁当箱を抱え込んでムムムと唸っていると横から細い蔓が延びてきて、俺を苦しめた結び目が難なく解き放たれた。
途端に広がる、芳醇なトマトの香り。
「ミューン!(いい匂い!)」
続けて、中に収まっていた弁当箱の蓋も開けてくれるアル。ありがとー!
俺の頭より大きいけど弁当箱としては相当ミニマムな木箱の中には、みっちりとサンドイッチが敷き詰められていた。
やった!俺これ好きなんだよね。村の食堂の名物料理、トマトソースに漬け込んで焼いた牛肉のサンドイッチ!
見た目は良くないけどほっぺた落ちるほどウマイ焼き肉が、パンとレタスとチーズに挟まれて鎮座している。焼き目をつけたパンの香ばしさとレタスのパリパリ感、そこにトマトの爽やかな酸味に薄切り牛肉のどっしりとした存在感、さらに味の濃いチーズが絡まってものすっごくおいしいのだ。
大興奮の俺の隣、アルはというと蔓で水筒を開け、包みの中に一緒に入っていた小さな平皿を足元へ。皿にトポポと水を注ぎ入れるとそこへ足を…付け根までしかない根の部分を入れて、よいしょと立ち上がった。
もちろんそのままでは立っていられないから、蔓を駆使してバランスをとっている。
皿に浸した根からじわじわと水が吸収されていくのが見てとれる、心なしか顔も嬉しそうだ。
彼女は魔法植物「マンドラゴラ」…厳密には違うイキモノになっちゃってるそうだけど、基本的に植物ではあるらしい。なので固形物は食べられず、水を摂取してエネルギー源にする。
聞いた時は水しか飲めないの!?って驚いたが、本人はさして気にしてないっぽい。でも出来れば森の湧水とかおいしいのがいいらしい。
そういや異世界で何が不安って食べ物関係だったんだけど、村で出る食事を見る限りそれほど酷くはなかった。むしろ俺的には素朴ながらけっこうおいしいという印象がある。
まぁ、騎士団と一緒の時に見た保存食は不味そうだったけど。保存料とか科学調味料とかのないこっちじゃ、日持ちさせるためなら味は二の次になるんだろうなぁ。
あの時のパンは黒くカチカチに乾燥してたし、干し肉も水気ゼロ。
対して村の中で食べてるのはふかふかの茶色や白のパン、もちもちした粒の大きい米みたいな…麦?とか、肉や野菜もたっぷり出る。果物に焼き菓子、紅茶飲んでる人もいた。
うん、これならそんなに辛い思いをせずに生きて行けそうだ。中世ヨーロッパみたいな世界かと思ってたけど、そこはやっぱ「魔法」がある世界は色々違うんだろうね。
願わくば和食も食べたいけど。
そんなことを考えながら、まずはじっくりと目で見て楽しむ。俺専用に食堂のおばちゃんが用意してくれた、ちっちゃな可愛い弁当箱を。
おお、サンドイッチもしっかり俺サイズにコンパクトに作ってある、それによくよく見たらバラけないように竹串みたいの刺して固定してあるぞ。
って、これパーティーとかで出るピンチョスってやつじゃねぇの?一口サイズのおつまみ…ひとくち…
うう、たまに自分の小ささを自覚させられるな、ホントどうしてこうなった。
ふぅ、と小さくため息が出る。
ま。今さら気にしても、ね。
さて、落ち込んでる場合じゃない、この御馳走を思うさま味わわなくては。
しっかりと後ろのカバンに背中を預け、腰と後ろ足に力を入れて尻を安定させる。
弁当箱内のサンドイッチことピンチョスをロックオン!前足で慎重に竹串を一本挟み、えいやっと持ち上げた。持ち上げた勢いを利用してくるりと串を一回転させる、肉球に挟まれたそれを具の部分が真上に来たところでがっちり保持!
俺の目の前で日差しを受けツヤツヤ輝く、神々しい焼肉様。じゅるり。
「ミンミャー(いっただっきまーす)」
大口開けてかぶりつこうとし…た所で、ふっと視界が暗くなった。
おんや?雲が出てきたのかな、あんな晴れ渡ってたのに。
「キーッ!?(旦那様ーっ!?)」
うお、何だ?
叫ぶように俺を呼んだ声にビビって振り向くと、横のアルが皿の中でころんでいた。慌てて助け起こそうと、したんだけれども。
な、なに、何事?動けないよ!?
立ち上がろうとしたが動くことが出来ず、ふわっと体が宙に浮く。
よくよく見れば俺は大きな手に体を鷲掴みにされて持ち上げられていたのだった。
黒い手袋に覆われた堅い指に捕まれたまま混乱する俺、でも前足で挟んだピンチョスは放さない。
「ミャーッ!(アルーッ!)」
「キ、キィー!?(だ、旦那様ー!?)」
互いを呼びあうもどうすることもできず、俺はかなり高い位置にまで持ち上げられた。
後ろから捕まれてて見えないけど、この手のでかさと身長からしてかなりの大男と見た。
なんでこいつは、いきなり俺を捕まえたんだ?
む、村の知り合いの中にはそんな失礼な奴いないよね、抱っこするときは必ず声かけてからだし。ピンチョスを掴んだ前足とヒゲを震わせながら、嫌な予感に動悸が激しくなってきた。
すると、くるりと体を掴み直され、真後ろに向き直される。
「………」
目の前に聳えるのは、すべらかなゆるい曲線を描く金属質な壁。
錆と泥、赤黒く乾いた何かとでまだらに染まった、ボロボロの牢屋みたいな鈍色の…屈強なフルフェイスの兜のスリットから覗く、鷹のように鋭い眼光が俺を睨んでいた。
「ピャアアアア!?」
射すくめられた瞬間、俺の喉からは普段より一オクターブ高い悲鳴が飛び出した。




