66話 ヒルダとの出会い
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そんなこんなで森を出る俺達に同行したアルだったが、最初は「一人でどこか遠いところへ行くから」と、村へ行くことは頑なに拒んでいた。
が、俺を筆頭に皆で説得し、ほぼ無理矢理に村までつれてきた経緯があったりもする。
だってみんな森での一件で俺ばかりを英雄扱いしてるけど、そもそもアルが今の今まで呪いに耐えていてくれたお陰で、こうして俺達が間に合った訳だろ?
そうでなかったら、とっくの昔にアルは…あの赤い霧を撒く化け物になっちゃっていただろうし、森も村も為す術なく霧に飲み込まれていたはずだ。ぶるぶる。
そう考えると、アルこそが村を守った恩人なんだよね。
恩人をたった一人で放逐するなんて、そんな酷いこと俺が許さない。
だから、もう引き留めるために必死で無茶苦茶なことまくしたてて、終いには地面に転がって駄々っ子みたいにごねて、わりと無理やり村までついて来てもらったんだ。
今思えばちょっと恥ずかしかったかもしれん。でもいいよね、俺いま赤ちゃんだし。深く考えないようにしとこ。
でも他の皆も俺を止めなかったってことは、口には出さなくても多分同じことを考えていたんだろう。
そういや、なんかそれからアルに「旦那様」って呼ばれだしたけど、なんでだろ。
地べた転がってバタバタしながら一緒に行くのー!って駄々っ子した奴が、ナゼに旦那様に昇格するんだ。ううむ。
でもまぁ、そんなこんなで全員揃って無事村へ帰った。森で起きたことを聞き、村のみんなは顔を青くした後で歓喜に沸いた。
団長ズは俺が活躍したのも説明してくれて、英雄だ英雄だって大喜びする村のおっさん達に危うく胴上げされるところだったぜ。俺の体格でそれやられたら、軽すぎてどっか飛んでっちゃうっつーの。
それから、アルがここにいる理由も聞いて、皆口々に感謝を伝えていた。
本人は、てっきり「災いを招いた」と糾弾されると思い怖がっていたらしいが、この村の人達はそんな馬鹿じゃないのさ。
むしろ、精霊としての自分を捨ててまで森を守ってくれた、森の姫とかお姫様とか呼ばれだして困惑してた。でも、嫌そうではなかったと思う。
キャシーとリタはアルを見るなり「可愛い!」って言って頭撫でまくってたし。あの頭から生えてる細い蔓がすべすべさらさらで気持ちいいとか言われて照れてたっけ。
そんなふうに村の入り口でわいわいしてたら、頭に氷嚢を載せたライアットのじいさんが村長におんぶされて登場した。何故おんぶ。
顔色真っ青だったけど騎士団とかに労いの言葉をかけて、クルルと俺にも感謝の言葉を述べて。なんか、ちょっと「偉い人」っぽかった。
つーかほんと、賢者様とか呼ばれてるんだからお前が活躍するべきだろ。たかが二日酔いで何日弱ってんだよ。
なんて考えてたら、じいさんがおもむろに語りだしたんだ。
長かったしよくわからなかったけど、要約すると「今回の件は自分達の考えが甘かった。自分達が普段通りに村にいれば、被害は少なく迅速に対応もできたはず」「そもそもここを普通の村にする目的は、平和と安全を守るため、邪な思惑を持つ者に目をつけられないため。なのにそのせいで子供らを危険にさらしていては本末転倒。よって“普通の村計画”は変更!これからは我らなりの普通でいいではないか」
って感じのことをつらつらと言っていた。
そしたら村中の人が、おーっ!って嬉しそうに叫んでガッツポーズしてたんだ。
良かった良かったと笑い合う村人の中で、話の内容がいまいち理解出来なくてクルルと二人で首を傾げてたら、キャシーが教えてくれた。
この村には本来もっとたくさんの人が住んでいて、でもその中には少々「普通の村にはいない」ようなのがけっこういて、彼らはじいさんの言ってた“普通の村計画”のために他の土地へ移る予定になってたらしい。
この土地を治める領主様は立派な人らしいが、それほど高位の貴族ではなくて。
この村の話が広まると「悪い人」に狙われる事は予想に固くない、でも低位貴族である領主様の力では守りきれないかもしれない。
その事態を防ぐために仕方なく今回の計画を立てたみたいだ。
で、それが変更になって、引っ越ししてった連中を元通り呼び戻そう、と。そんな話もしてた。
でもさ、車も電車もない世界で住む場所変わるってすごい大ゴトじゃん?理由はどうあれ一度引っ越しを決めた人が、すぐまた戻ってくるのかね?
それにしてもどんな人達なんだろう、小さい村にいると騒ぎになるような人って。ちょっと気になるな。
そうして少しすると、喜び騒ぐ皆が何故か急に静まり返った。
そして人波が静かに割れると、クルルとライアットのじいさんの間に道ができて、じいさんの後ろからそろそろと現れたのがヒルダだったんだ。
俺達はその時初めて彼女に会った。
ヒルダは全身真っ白な毛に覆われた大きな犬…いや、狼の姿をしてて、きれいな青い目でおどおどと俺を見ていた。
じいさんが言うには、オーク騒ぎの最中俺と子猫とリタを誘拐した冒険者達は「狂い茸」という混乱効果のある毒茸のせいで錯乱してて、それを彼らに使ったのが、このヒルダ。
彼女はクルルと俺の前まで歩いてくると、しょんぼりと耳を下げてぽろぽろ涙を溢しながら、幼い子供の声で謝ってきた。
狼が言葉をしゃべったことに驚いてはいたが、その様子があまりにも可哀想で咄嗟に「許す」と言っていた。もちろんアルに念話通訳してもらってだが。
クルルも同じ気持ちでいたようだし、なんか周り中の人もヒルダを庇ってる空気があって、ライアットのじいさんが一人唸ってたけども茸の不正使用の罪はこれで帳消しとなった。
だって可哀想で可愛かったんだもの。
余談だが、ヒルダの登場に一切驚かなかった村人達の中で、マリオだけは俺達以上に驚いていた。
むしろ尻餅ついて泡食って逃げようとしてた、まぁビビるよな、ヒルダ体でかいし。普通に立ってて(四つ足で)クルルの胸の位置に顔があるもんね。
マリオ以外はみんなヒルダとは顔見知りらしく、良かったねって励まされてたっけ。
そもそもヒルダが何故そんなことをしたのか理由を聞くと、発端は一年前、ヒルダの母親代りだった女性が死んだことから始まったらしい。
彼女は村中の人に慕われ愛され、尊敬される優しい人だった。
彼女の死後、村中が暗く落ち込んで朝も夜も泣き暮らすような有様。ほぼ1年たってさえ、ふとした時に泣き出す者もいたそうだ。
だが、今から一ヶ月ほど前。村長とライアットが突然「来月、村を解放する」と宣言し、それから急に村中が明るく賑やかになった。
昨日まで陰鬱に落ち込んでた人々がみんな笑顔で、にこやかに慌ただしく動き始めた。まるで、悲しいことなんか何もなかったみたいに。
…と、ヒルダは感じたそうだ。少なくとも彼女はそう受け取った。
だから、母の死の悲しみを皆が忘れてしまったんだと思い、裏切られたような気持ちになった。
村の皆は母の事を忘れようと、なかったことにしようとしている、あんなに母を慕っていたのに。
だから、村を解放する計画を邪魔してやろうと考えた。
でもみんなを傷つけるつもりなんてなくて、ちょっと懲らしめてやりたいくらいの気持ちだったらしい。
で、ヒルダは思い出した。
以前、村の薬屋の手伝いに行った時にドクロマークのついた瓶を見つけて、店主のヨルン…俺達が最初に村へ来たときに出迎えた、褐色の肌をした眼鏡エルフ青年だ。彼が「これは毒薬じゃなくて、ちょっと強力な下剤ですよ」と言っていたことを。
だから、ほんのちょっと皆が困ればいい、皆が歓迎している「余所者」が困ればいいと。
そう考えてあの薬を持ち出し、たまたま村を訪れた冒険者グループの様子を隠れて窺っていたらしいのだ。
で、広場の辺りで人並みが途切れ彼らだけになった所で薬をほんの少し振りかけた。ほんと、ひとつまみくらいだったらしい。
だがその途端、冒険者グループは別人のように豹変した。それはもう恐ろしい形相に。まさかそんなことになると思っていなかったヒルダは、びっくりして咄嗟に走って逃げてしまったんだそうだ。
そして落ち着いてから、自分の仕出かしたことが怖くなりライアットに相談した、というのが事の顛末。
うーむ、本当に悪意はなくて、ちょっと拗ねてただけって感じなんだな。
だって…周りで俺らの様子を見てる村の人達、すごく心配そうにしてるもん。
被害者側なはずのリタまで泣きそうな顔して俺に頭下げてたし。
ヒルダが村の皆からすごく大切にされてるのが判った。俺とクルルが本当に怒ってないのがわかると、みんなして心底ほっとしてたな。
ヒルダが拗ねた原因の、みんなが急に明るくなったその訳も聞いてて、ヒルダは心の底から自分の行いを悔やんでた。
なんか、ヒルダのかーちゃんて人が残した遺言だったらしい。自分の死後いつまでも悲しんでないで、1年経ったら頭を切り替えて村のこれからのことを考えてくれ、って。
ヒルダはそれを解ってなかった。いや、言葉では聞いてたけれど、まだ幼い彼女には難しかったんだろう。受け入れがたい事だったろうし。
まぁ、それで村の今後を考えて色々やってたみたいだけど、今回のオーク騒動でまた方向性が変わってしまった。後は村長とかライアットがうまいことやるだろ。
つーか、なんでここの村は余所者を入れて来なかったんだかそこんとこが分からなかったけど、きっと何か理由があるんだろう。悪い奴等じゃないっぽいし、後で聞いてみよ。
で、ライアットはもう一人の犯人…問題の、持ってるだけで軽犯罪な茸をヒルダみたいなお子さまの目に入るところに置いていたヨルン…のことは、そもそも俺らに聞くまでもなく「許す訳にはいかぬ」と断言していた。
「狂い茸」というものは毒性が高く強い中毒性があり、今回使われたのは粉末状だったそうだが、下手したら脳に重度の障害が残る可能性もある危険なシロモノだったのだ。
この国では、法律でこういうヤバい植物関係が厳重に管理されていて、無断で持ってるだけで「軽犯罪」、人間に使用したら「重犯罪」になる。悪質な場合はなんと死刑だ。
ちなみに問題ないとされるのは事前に申請、許可を取ってから、魔物の掃討や犯罪組織の鎮圧に使う等した場合。この場合も、いついつにこれだけの量を使う、ブツはここで入手して、ここで保管して、とか色々めんどくさいらしい。
んー、日本で言うと病院の麻酔薬とか、学校とかで実験に使う薬品とか、そういった扱うためには資格がいる物に近いのかな。
もちろんヨルンは、許可なんか取ってない。
そもそも持ってること自体内緒だったようだ…つーかなんでまたそんなもん、店に置いてあったんだ?
あのにいちゃん犯罪者なのかな?ぱっと見た感じ頭良さそうだったけど。そこんとこ聞くの忘れたわ。
でも、ま。ライアットからきっちりお仕置しといてくれると聞いたら、誰も文句を言わなかった。
エルフの眼鏡にいちゃん、死ぬなよ。
「さて、この件で巻き込まれた冒険者の者達に関しては、本人達が目覚めてからでいいじゃろう。とりあえず今夜は祭りじゃ!皆の者、この奇跡を、今を生き延びた幸運を盛大に祝うぞ!」
なんてことを最後に宣言して、ライアットは再び村長におんぶされて家に戻っていったのだった。
それからはもう皆、祭だー!って叫んで、あれしよう!これ作ろう!って大盛り上がり。
腕まくりして小躍りしながらあっという間に村中に散らばっていった。
クルルもキャシーも皆祭の準備を手伝うみたいだったから、俺も手伝うつもりだった。一緒にいたアルも手伝いたそうにそわそわしてたし。
でも、ふと気がついたら皆が散らばってって人がまばらになった村の門の影に、でっかい白いもふもふがしょんぼり俯いてたんだよね。
気になって見てたらバリーのおっさん…こいつも無傷でピンピンしてた…が、おもむろに寄ってきて、クルルの肩にいた俺とアルを地面へそっと下し、何か輪っか状の布を被らせてきた。
「お前らは今夜の祭の主役!だから働かせる訳にはいかない。でもお前らはちっさいからな、護衛をつける!祭の準備が出来るまでのんびりしてろ」
そう言うとバリーはニヤッと笑い、白いもふもふことヒルダにも何かを被らせて、クルルとキャシーとリタを引っ張って行ってしまった。
彼らを見送り顔を見合わせる俺とアル。互いの肩には何か文字が書かれた小さなタスキがかけられていた。
これ、もしかしておっさんの手づくりかな。
門のほうに目を向ければ、もふもふ狼ことヒルダもタスキをつけて、戸惑ったように俺達の様子を伺っていたのだった。
そんなわけで2章ではヒロイン増量です!人外ですが(笑)




