65話 お祭りをすることになりました
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章の設定におたおたしています。
時刻は午前8時。
いつもであったら、村の者は畑仕事に精を出したり、商売をしているものは開店準備に料理の仕込みにと忙しく働いている時間。
普段は一人の冒険者として活動してる俺なんかは、隣村のギルドまで足を運んでたり、森で魔物を追い回してたりする時間。
だが今日は村長以下、村中から有権者が集まり熱い議論を交わしていた。
「森の精霊祭じゃ」
「いや、変異オークの大討伐祭!」
「いやいやいや、やはり精霊を讃え感謝する祭なのだから、森の精霊祭以外にあり得ぬぞ」
「ライアット様の言う通り、オークより精霊様を前面に出すべきだ」
「うーん、でも精霊に関する祭の名前は世界中に溢れてるだろう?全般的に地味な祭に多い傾向だしな。今回は大事件なんだから、少しでも特徴のある名にすべきでは?」
「若い衆にゃ奇抜な名前のがウケがいいじゃろなー」
「冒険者連中は規模の小さい地味な祭には興味を示さないが、巨大な魔物を倒した祭だと聞けば集まるかもしれんぞ」
わいのわいのと意見を言い合う人々。つーかさっきから同じ会話を何度も繰り返している。
正直、祭りの名前なんざなんでもいいだろ、と思ってしまう。言えないけどよ。
今回の一連の事件は、マジで下手したら村が一つ壊滅するどころか周辺一体が瘴気で溢れゾンビが大量発生して国レベルの危機に発展する可能性があったのだ。それが、なんと俺ら側に1人の死者もなく解決した。こんな奇跡があるもんか。
この奇跡は、騎士団がたまたまいて、ほんの少し前に村の自警団が結成されていて、あの丸い耳をした猫人のガキとその使い魔がいて。その偶然の先にあった。
女神様が引き寄せてくれた幸運だ、と村の連中は笑い合っていたが、実際そうかもしれないな。
あくびをかみ殺しながら手元の茶を一気飲みする。
うぇ、渋いな。だがお蔭で少しは目が冴えた。
昨夜は結局、全員疲れ切っていた上に夜になってしまったので、あの森で一夜を過ごすことになった。森の精霊女王の奇跡の御業によって外傷や毒の類は完治させられていたのだが、蓄積した疲労ばかりはどうしようもない。騎士団の連中も俺達も、交互に見張りを立てて泥のように地べたで寝た。むしろ倒れて気絶し、朝まで起きない奴らが多かった。
できるなら俺もそうしたかったが…まがりなりにも自警団の団長という肩書を引き受けた以上、気合で一晩見張りに立っていたんだ。俺は頑張ったと思う。ちょっとカッコつけすぎたかもしれないけど。
内心、一刻も早くこんなくだらない議題は終わらせて他の議題に取り掛かってもらいたい。むしろ祭りの後でいいんじゃね?と思いつつ、真剣に話を聞いているふりに徹する。そうしないと寝そうなんだよ。
「はぁ~あ…そろそろ適当な名前に決めて、俺もうちの準備にかかりたいんだがなぁ」
ぼそりと聞こえたその呟きは、隣に座る大男が発したものだった。
こいつは村でパン屋を開いている、急遽今夜の開催が決まった祭りでは村全員にふるまえるだけのパンを用意してやるぜ!と意気込んでいたっけ。
そりゃ、今から焼いてもギリギリな時間だろう。仕込みはともかく、焼き作業は他の奴に任せられないって言ってたもんな。
「俺もやることは山ほどあるんだ。せっかくのめでてぇ祭りの席で、かかぁに蹴られるのだけは勘弁してほしいぜ」
「おまえん家はまだいいだろ、うちは嫁に娘まで俺の尻を叩いてアレやれ、コレやれって言ってくるんだぞ。この会議が終わったら急いで戻んねーと何言われるかわからん」
う、うわぁ。結婚に夢持ってたい若造には聞かせられない話ばっか。
でも、まぁ。うん。
俺達は、じとりとした目でテーブルの中央に近い席で未だ議論を戦わせている二人を見た。
村長と賢者様だ。
「そもそも精霊様が森を守ってくれなければワシらの生活はこうも豊かでなかったのだぞ!」
「そういう話じゃないでしょう!強い魔物を倒した英雄!そういうのに男は憧れるんですよ!」
心底どーでもいい。元気に言い合い続ける二人を見ながら、男達はため息を落とした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
天高く背中を照らすお日様を見上げて目を細め、日差しでぽかぽかする体を、足元のもふもふの毛並みに半ば埋もれさせながら、ゆったりと揺られて進む。
「あら、ヒルダちゃん!それに頭に載せてるのは噂の英雄さん?ふふっ、いいお天気ね」
「うん!ぽかぽかするー」
「ミュフーン」
「お姫様も、もこもこのふかふかでいいわねー」
「キッキー♪」
「えへへ、あたしもこもこ?ふわふわ?」
「ええ、とってもきれいな毛並みよーヒルダちゃん」
俺の体の下で、真っ白な毛並みの大きな狼がぱちぱちと青い目を瞬かせ、ばっさばっさと立派なしっぽを振った。
そして腹這いに寝そべった俺の横っ腹を背もたれにしてちょこんと座っている、淡く緑色がかった白い小枝の姿をした…女の子。うん、多分女の子って表現で合ってるはず。
俺より小さなその体は、摩訶不思議にも完璧に「木」そのものであった。足こそないものの、頭から生えたたくさんの蔓を自在に動かして体を補訂し、危なげなく座位を保っている。
八百屋のおばちゃんにそれぞれ頭を撫でてもらった俺達は、意気揚々とお散歩を再開した。
「ねぇねぇ、お弁当どこで食べるー?」
「ミ!ミャンミャー(俺!牧場がいいっ)」
「キッキーキキキ、キーキキー?(私も旦那様も賛成ですわ、子供達は祭のお手伝いで不在なのでしょう?)」
「うん!多分みんないないと思うよ」
よっしゃ!あの教会の小悪魔共さえいなければ、牧場は少し高台にあるし、この天気なら景色も良さそうだ。
「ミャー!(決定!)」
「キキー(ですわね)」
「じゃー牧場へレッツゴー!おっべんっと、おっべんっと♪」
「ミャッミャミャッミャ♪(おっべんっと♪)」
「キッキキッキー♪(おべっとー♪)」
三人…いや、三匹で足取り軽やかに村の真ん中の道を行く俺達を、周りじゅうで慌ただしくも楽しげに祭の準備に追われる人々が笑いながら見送っていた。
はぁ、たまにはこういう、予定なしでのんびりする日があってもいいもんだ。
彼女らと出会い、今のこの状況に至るまでには、少々話が遡る。
昨日、俺が森の奥で赤い霧のオバケを倒した後(あんまり覚えてないが)、森の精霊だっていうきれいなおねいさんが現れて、村を襲ったオークについて事情を説明してくれたりした。
で、おねいさんが姿を消した後、花畑の中で何か小さな物が動いているのに気づいたクルル。調べてみたら、なんとこのアル…アルフリーデがいたのだった。
花と花の間に埋もれるように、白く小さな若木のような物が生えてるな、と最初は思った。
その時見た彼女のイメージは、地面に埋まってたどんぐりから芽が出たばっかりって感じの、大人の小指程度のひょろひょろした小枝だった。
だがその小枝には目と口があり、てっぺんからは髪の毛みたいな細い蔓がわっさり生えてて、メッチャ「顔」っぽかったんだ。しかも瞬きしてたし。
地面から顔を出して困ったように眉根を寄せ俺達を見上げてくる、キラキラうるうるした緑色のつぶらな目。その目の色には、なんとなく見覚えがあった。
クルルも、近くにいた自警団の団長…ルッドもメボックも、皆して茫然と地面を見つめてた。
訳わかんなくてしばらくお互い固まってたんだけど、さすがに相手が対話できる存在だと思うとさ、こう、地べたで身動き出来ない相手を見下ろしてるってのは、なんかちょっと気が咎めた。
だから、つい聞いてみたんだ。
「ミー、ミャミャアミーア?」
言ってから気づいたけど、俺が話しかけても通じる訳なかった…んだよね。普通だったら。
「キー、キキッキキィキー。キッキィキー(いえ、土に埋まっていなくても大丈夫ですわ。私は木ではありませんので…)」
なんと彼女は俺の言ったことを理解していた。しかも彼女の言っていることが俺にもわかったのだ。
耳から聞きとれた鳴き声(?)と同時に、頭に直接伝わってきた日本語での返答に俺は大口開けて驚いてた。団長も口パッカーと開けて鼻筋に皺寄せてたな。
「ね、ねねね念話ぁーーー!?い、いま!念、ねん…!」
「キー、キッキー!?(あれー、なになさるのー!?)」
突如大興奮してしまったメボックが、勢いでアルを地面から引っこ抜いて持ち上げてしまいちょっとしばらく大変だったが、詳しく聞いてみたら奴の興奮する理由がわかった。
ちなみにだが、今のアルは精霊と魔法植物のあいの子みたいな存在らしく、土から養分を得てる訳ではない。なので、引っこ抜いても命に別状はないのだった。
ただ、この時はいきなり触ったもんから「せくはらですわ!」と怒ってしまっただけ。
んで、アルが使った「念話」ってのはスキルの一種とのことだった。
これは、言葉を発することなく直接相手の頭に話しかけたり、話してる言葉を相手の理解できる言語に自動翻訳できたりする、とってもとっても便利なスキルらしい。これを使える人は多くなく、むしろほとんどいないそう。
使用言語が異なる人同士はもちろん、獣や魔物などの間でも使用できるナイスすぎるスキル。まさに今の俺のためにあるような。素晴らしい人(?)と仲間になれたもんだ。
余談だが狼の魔物の一種であるところのヒルダ、彼女は魔物なんだが、普通に人語を話すことが可能だ。なので、アルは専ら俺専用通訳として期待されている。
彼女、アルが言うには、自分は森の精霊としての力を失い、魂の一部分だけが残り今の体に宿っているのだそう。
元々彼女は魔法植物である「マンドラゴラ」として生を受け、だがその種族としての能力を超えた高い知性と保有魔力の強大さから、100年を経て精霊へと進化した稀有な存在であったらしい。
なんでも、普通の森の精霊は森の木々から自然に生まれ、長い時間をかけて高位精霊を目指していくもののようだ。魔法植物が精霊へと進化することは、滅多にない。
規格外の魔力を持ち、他の森の精霊達とは一線を画する完成度の高い精霊魔法を瞬く間に身に着けたアルは、あの森を長く治めてきたデリュフィリーデの跡継ぎに大抜擢された。
他の精霊達に祝福されながら森の主としての役目を継ぎ、この大陸の森全てを治めるに相応しい存在をめざし、更なる進化を行い「高位精霊」へとなるために。森の精を受け力を蓄える目的である場所で眠りについていたところを、なんとも運悪く件のオーク達に見つかり捕まってしまった。
アルがオーク共に捕えられたと知った精霊達は必死に助け出そうとしたそうだ。だが、オーク共は彼女の「足」である根部分を根こそぎ奪い、一瞬にして進化を遂げる。高い再生能力を持つ彼女が足を再生させるたびに、奪い取り続けた。
さらに呪いの儀式によって彼女を魔物へと変容させていったという。
意志を歪められ、存在を穢され。だがすでに「森の主」としての権限はアルへと移行してしまっていた。だから、他の精霊達は彼女の意志なくして手出しが出来なかったのだ。
俺があの時、なんかわからないけど全力で叫んだ時。あの叫び声でなんらかのスキルが発動したらしい。
って、あれ?
そういや俺、レベル上がってステータスを見て、スキルと魔法が使えるー!って喜んでた、ような。ありゃ、そういや初めて魔法使って、そのまま気絶しちゃってたんだ。
うん、それは後で改めて確認しとこう。謎の叫びスキルについても気になるし。
まぁ、その訳わからんスキルのおかげで、洗脳されかけてたらしいアルは正気を取り戻せた。
そしてすぐに「森の主」の権限をデリュフィリーデへと返した。そこで初めて、デリュフィリーデはあの森で自由に行動できるようになった、と。
アルは森の主の任を一度受け入れていながら、仕方ないこととはいえそれを拒絶してしまったのだ。
よくわからないけれど、彼女らにとってそれはとんでもない罪であるらしい。もはやアルは次代の森の主になることはできない。
そしてこの森に災厄を呼び起こしそうになった張本人だから、ただの精霊としてここに残ることも出来ない。どこか他の土地に移動…追放される、ようだ。
あのオーク達が悪いんであって、本人の意思じゃないのに、なんだかかわいそうな話である。
さらにアルは、今の新しい体に生まれ変わっても、失われた足が這えてくることはなかった。なんでも、オーク達がかけた呪いが強すぎて魂にまで影響を与えているのだという。
…森から出て行かなければいけない、でも歩けないから森の外へ運んでくれないかと遠慮しながら言われて、一体誰が断れるというのか。
団長のルッドなんか鼻すすって泣いてたし、多分彼女のことは村で保護してくれそうだな。
精霊進化前に近い、むしろこの世に生まれてすぐの状態に近いらしい今の身体にはなんの力もない上に、行く宛もないみたいだし。
ちなみに騎士団も自警団もみんなボロボロだったんだが、最終的におねいさん…デルフィなんとかさんがキラキラーっとなんか魔法で治してくれたお陰で、あんな酷い事態になっていながら死者は出なかったそうだ。
でも、さすがに魔法で怪我は治っても疲れはとれなかったらしく、半数近くがそのまま気絶するように寝込んでしまったのだ。かくいう俺もその一人…ほっとしたら、なんかどっと来たんだよね。
いやはや、昨日はホント大変な一日だったわー。
で、一晩休んで今朝やっと村に戻ってきたのだった。
村に戻ってみたら、建物があちこち壊れててビビった。
地面も焦げてたりえぐれてたり、どんな天変地異の後だよって戦慄したんだが、魔法を使って戦うとだいたいこんな感じになるそうで皆ケラケラ笑いながら補修作業に追われてた。異世界の村人、たくましい。
キャシーもリタとかも心配したと言って泣いてたみたいだけど、村の人達もみんな無事でなにより。
あぁ…大変な目にあったなぁ。あらためて。
もふもふの白い毛並みに埋まって村を進む俺。なんと平和なことか。うっとり目を細めた俺は今現在の幸せを、ぐっと噛みしめた。




