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くろねこの冒険~目指せ!異世界一周~  作者: 葉桜丸
第一章 はじめまして、異世界
61/102

61話 オークの洞窟にて

読んで下さった方、ブックマーク付けて下さった方、ありがとうございます。読みやすくて楽しいお話を書いていけるよう、日々精進したいです。

書き忘れておりましたが、今回残酷な描写がありますので、苦手な方はご注意下さい。申し訳ありません。

それから程なく、騎士団の偉い人達による作戦会議が完了した。

そして騎士団が主体となってオークの集落へ向けて出発することになった。クルルと俺、自警団の何人かはここで留守番である。


ちなみに、キャシーやリタ達は自警団が乗ってきた馬車に乗って一足先に村へ帰っていた。

本人はヤル気満々だったマリオも、護衛役のマリーに無理矢理連れていかれた。あのあんちゃんはどうしてこうも無茶したがるんだか。


今現在俺達がいるのは、森の奥地のやや小高い丘になった場所。

この辺に生えてる木はどれも異様にでっかくて太い、あとなんか木の表面がボロボロに崩れてたり枝振りが歪でねじ曲がってたりする。見てると平衡感覚がおかしくなるくらい歪んでる。一言で言うと禍禍しい。

うーん、薄暗いしじめじめしてるし、オークの巣つうより幽霊とかゾンビとか出てきそうな場所である。

しかもなんか…たまに気持ち悪い気配がする。この辺て動物どころか、虫もいないみたいなのに。

騎士団の全員と、自警団も大多数が集落に向かって出発してしまった。今、ここにいるのは総勢10名ほど。さっきまでものすごい大人数だったから、この人数だと心細いかも。


ちら、と隣にあるクルルの顔を見上げた。

もし俺一人だったら、こんな怖いトコ一秒だっていられないだろうな。

クルルもいるし、自警団の人達もいるから怖くない。でも、やっぱちょっと不安。



「お、まーたひっついてんのか」

「…ミュ」

暇を持て余してるらしきモヒカンぽい髪型の青年が、クルルの首根っこにしがみついてる俺を指先でつっついてきた。仕方ないだろ、本能ってやつが怖がってんだよ。

ぶるぶる震えながら爪をたててへばりついてる俺を、クルルは困ったように見下ろし微笑んだ。

「団長達はそろそろ集落を見つけてる頃かね。まぁ王国最強の第二師団がついてんだから、心配なんざしてねぇけど」

モヒカンさん(仮)は口の端を上げふてぶてしくそう言いはするが、言葉と裏腹に手元がそわそわと落ち着かない。短めの剣みたいのを右手、左手、とぽんぽん放って持ち替えたり、頭を掻いたり尻を掻いたりと動きもうるさい。

他の自警団の面々も、腕組みをして仁王立ちしてたり、辺りを警戒してたりはするが…よーく見ると全然落ち着いてないな。小さく貧乏ゆすりしてたり目線が慌ただしくあっちこっちしてたり。


うう、俺も怖いけどやっぱ他の人もなんとなく恐いんだろう。

この場所、あの…地面に開いた穴が、ものすごく怖い。




オークの集落があると思しき場所、それはなんと地下へと続く大きな穴ぼこだった。

これには騎士も自警団の人達も首を捻っていた。


オークという魔物は、この近辺ではそれなりに強い。

しかも俺らが捜してる群れは個体数も多いから、他の魔物から逃げ隠れる必要はほぼない。オークジェネラルの率いる群れだもの。


そんな魔物が、こんなただの穴っつーか洞窟の奥深くに隠れるように潜んでいるのはおかしいんだ。

日の当たる安全な場所に集落を作れる群れが、わざわざこんな所に巣を作り。さらには広大な縄張り内に他のイキモノが入ってこれないよう各所に見張りがいたり、手の込んだ罠がしかけてあったり(一部クルルが破壊したが)

どう考えてもこの場所を守るための何かしらの理由が存在する、と騎士団の団長は言っていた。


さらに言うなら、この辺りだけが異様に雰囲気悪いのも妙である。

聞くところによると、この森にどんな魔物がいるかとかは国主導で定期的な調査が行われているらしく、王国の調査隊が数か月前に来た際はこのへんも別段他と変わりない、ただの森であったというのだ。

もちろん、今回探してる異様に知能の高いオーク達もいなかった。いたのは、専らスライムやゴブリンなどの低位の魔物ばかり。


もう一度、足元に突然ぽかりと口を開いた暗闇をちらりと見てみる。

地面から急な下り坂になっていて、中は横にも縦にもかなり広い。まぁオークの身長2メートル近いらしいからな。

うへぇ、入り口から3mも先に進むと全然先が見えないぞ、いくら明かりの類がないとはいえおかしくね?まだ夕方にもなってないのに…

俺達は洞窟の奥にいる仲間たちの無事を祈りつつ、肌にまとわりつくような不安と共にただ待つしかなかった。



 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



暗闇の中を魔法の灯りだけを便りに進む。

灯火を作り出す魔法「トーチ」は、火属性の初級魔法だ。

球状のやや弱々しい炎を作り出し、空中や掌の上に浮かせて保持する簡単なもの。安定性は使用者の力量による。

攻撃魔法は使えなくともこれなら出来るという者もいるが、そこはやはり魔法を使える者自体が少数派なことから、冒険者を生業にしててこれを使えるとそれなりに有難がられる。

実際、今まで冒険者としてあちこち旅してきたが「トーチ」が使えるメンバーがいるのといないのとではかなりの違いが出てくる。

松明で片手が塞がる者がいないだけでも、色々備えられる。


「嫌な空気だな」

誰にともなく呟き、先の見えない暗い穴蔵の奥を見つめた。

洞窟内は風の流れこそあるものの、湿度が高い上に足場が悪く、鼻につく腐敗臭が漂っている。


やっぱり、あのガキ…クルルも連れてくるべきだったか?

狼の獣人である俺を遥かに越える嗅覚でもって特定の魔物の位置を正確に辿り、猫の獣人としては異様なほどの怪力を持つ。

村の自警団のリーダーを努める自分には、最適な作戦をたて被害を最小限に抑える義務がある。

だが、あれはまだほんの子供なのだ。

偽善と言われるかもしれないが、やはりオークの集落などというおぞましいものを見せる気にはなれなかった。


まぁ、騎士団の連中の腕は確かだし、治癒術師達もポーションを使うことで魔力を温存出来てることだ、何かあっても対処は可能だろう。




洞窟に踏み込んでさほど歩かない内に異様に広い空間に出たと思えば、そこは見渡す限りのオークで埋まっていた。

ここが集落なのはもはや間違いがない。素早く指示を出し、殲滅にかかる。

俺らも騎士団も言ってはなんだが年がら年中魔物と戦っている。隊ごとに別れて連携をとり、着々とその数を減らし、思ったより時間をかけず殲滅が完了した。


…その広い空間で何ヵ所か、やたらたくさんのオークがひしめきあっていた場所があった。そこには、それぞれ一つずつ…若い女性の死体が埋もれていた。

彼女らに見覚えがある者はいない、おそらく森の反対側にある村のものか、たまたま森で彼らに遭遇した不運な者だろう。


それは俺たちの村が襲われる前に、すでに他の村が襲われていたということ。

最悪の想定が当たってしまった。一瞬、村に残してきた娘のことを思い出し、やるせない気分になる。下手をしたら、俺たちもこうなっていたかもしれないんだ。


死体の状態は凄惨を極め、オーク共が獣欲を発散させた後、本能の赴くままに貪り食っていた痕跡がそこかしこに見られた。

もう少し発見が遅れていたら、おそらく骨の欠片も残らなかっただろう。


オークに襲われた女性が生き延びることは、まずないと言っていい。

体格の差もあり乱暴された段階で死んでしまうものも多いが、奴等は性欲を解消するとすぐさま犠牲者を生きたまま食らいだす。


これは彼らの習性が原因といえる。

オークは交尾の後、食欲が増大し、獰猛になる。

そして繁殖の際オスはメスに食われるのが普通である。メスのがでかいし、強いからな。メスの相手をするということは死ぬ時なんだ。


やりきれない思いを堪えながら、犠牲者の遺体をオークの山から掘り起こすように回収し、布で包んでやる。

奥のオークも全て仕留め終わったら、彼女らも一緒に連れて帰ってやろう。


ゴブリンもそうだが、オークも人間を見つけるとかなりの確率で襲ってくる。そしてゴブリンとオークで大きく違うのは、襲われた人間の生還率。


ゴブリンは体が小さく、非力で動きもそれほど早くない上に単純な頭をしている。群れていればそれなりの危険はあるものの、武器の心得がない者でも逃げることくらいは出来る。

対してオークはというと、例え一体だけが相手であっても相当危険度が高い。

並の人間よりはるかに大きな、分厚い筋肉に覆われた体。

動きは鈍重ながら、その怪力で振るわれる武器は木製の盾程度なら一撃で破壊してしまう。


ゴブリン、オークともに、人間を襲うと男は基本的に殺して食い、若い女は巣へ連れ帰る。繁殖のためだ。

まぁゴブリンがそれに成功することは滅多になく、少なくとも俺はあまり聞いたことがない。

ごく稀にまだ幼い子供が村の外へ出てしまい、運悪く被害にあうくらいか。


人里の外へ出て活動するのは、基本的に何かしら自衛手段を用意してある者だからな。商人、冒険者、護衛付きの乗合馬車などだ。

ゴブリンの襲撃よりも盗賊のほうが警戒されてるかもしれない。


しかし、オークの場合はというと…辺鄙な場所にある小さい村などでは、頻繁に被害が報告されているのが現状だ。

過去には、大きな群れに襲われ里を囲む壁を破壊されてしまい、皆殺しになった村も存在する。

そういったことから、少なくともこの国でオークといえばそれなりの警戒を向けられるのが常。

冒険者ギルドや町、村の警備隊では目撃情報を共有し、地域ごとに一定の数を越えないよう定期的に間引きを行っている。

それでもやはり、移動に時間のかかる僻地にある村などは手が回らないことがある。そういった場所ではギルドを運営する余裕がなく…ギルド本部でもたまに議題に上がってはいるようだが、解決策が見えたことはない。

結局そういう諸々で、冒険者の上前を跳ねてるだとか陰口をたたかれる冒険者ギルドだって、予算と人員のギリギリ加減に毎月悲鳴を上げているのが現状だったりする。


もちろん、この森も例外ではない。

騎士団が指揮し数か月おきに大規模な調査と討伐、冒険者ギルド主体で月数回はオーク討伐依頼が出されていた。

こんな、村どころか街一つ攻め滅ぼすかのような数が人知れず繁殖しているなど、ありえない事態なんだ。


あの広間にいたオーク達は身につける武器や防具こそ並以上だったが、村を襲った奴等ほどの知性は感じられなかった。

だが、数は力だ。もしもこの全てが同時に俺達の村を襲っていたなら、騎士団と自警団が全員でかかっても対処は出来なかったろう。

単体なら高ランク冒険者の俺らのほうが強いのは間違いない、だが各々が一度に相手できる数を考えれば。

背筋に冷たい汗が流れた。


村で相対したオークジェネラルを思い出す。

この洞窟を根城にしていた群れの親玉は、あいつで間違いない。だが洞窟内にもこれだけの戦力を残していた。

やはり、あれはただのオークではなかったのだ。戦力を分散させて非常時に備えるなど、オークの頭で出来ることではない。

しかし、親玉は倒した。そして先程の戦闘員と思しきオーク共も残らず仕留めた。だから、この先にいるのは…おそらくメスが一匹。

それ以外では非戦闘員や寝所、物資の類。


通常オークのメスは、オスの20分の1程度の数しか生まれてこない。

メスはオスよりは頭が良く、体も大きいものが多い。そしてオス以上の怪力と、途方もない食欲を持つ。

彼女らは成長の過程で淘汰され、一つの群れに一匹だけが残る。そして成熟とともに群れの女王として君臨するのだ。

女王となったメスは、最早歩くこともなくただひたすらに巣の奥で餌を貪り、オスを食い、子を生み続ける。


なので、まぁオークのメス自体の討伐はけっこう簡単だったりする。自重が重すぎて全く動けないから。

離れて弓や魔法を放ち続ければいい。

周りを守るオス共さえ片付けば、の話だが。


しかし、通路の奥から漂うこの禍禍しい空気は何事だというのか。

ただのオークの女王ではありえない、察知系スキルを持っていない俺達ですらわかるほどの濃密な気配。

奥へ進むにつれて体が重くなった錯覚を覚える。一歩進むごとに足が上がらなくなるようだ。状態以上魔法?いや、もしくは闇魔法…?


こんなところにリッチが生まれたわけでもあるまいし、ゴーストの集合体、とも違う…

それにオークジェネラルの最後の言葉はどういう意味だったのか。

俺の後ろに続く自警団の奴らも不快感をあらわにしながら周囲を見回している。特に獣人は皆少々苦しそうな様子が見受けられた。だが、この程度こいつらなら気合で吹き飛ばせる。むろん、俺も。

油断なく盾を構え先を行く騎士達の後ろに続いて、堅い岩肌を踏みしめた。



 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



かすかな木漏れ日だけの薄暗い森の奥で、洞窟の入口に陣どり、ひたすら待つこと二時間ばかり。

自警団の待機班はちょっとリラックスしてるというかだらけてきているようだった。そうでもない限り、現状が理解できない。

「飛ーべ飛べハッシュー♪空ーのかなたーまでー♪」

「ミー♪」

「行け!錐揉み急降下ー♪倒せ!邪悪な魔物共ー♪」

「ミッミャー♪」

俺は最高の気分で、間下から聞こえる低音の歌に合いの手を入れていた。

ただいま俺は、モヒカンさんが頭上に掲げた手の上でスーパー〇ンポーズで腹這いになり、くるくると回されている。必殺技のとこではすかさずパンチ。

「負けるな進めー僕らのヒーロー、英雄ハッシュー♪」

よし、ラストに決めポーズ!


びしっ!


モヒカンさんに中空で支えてもらいながら変身ヒーローみたいなポーズを決め、渾身のドヤ顔。


ぱちぱちと拍手が巻き起こる、褒め称えるってよりか笑ってる奴ばっかだけど。

「ジャック、上手、だぞ」

「ミー」

だろ?だろ!?

かっこよかっただろ俺、今ならサインしてやってもいいぞ!


心地いい汗をかいたせいか、爽やかな疲労に包まれてクルルの肩へ乗る。

ふー、さすがに疲れたけど、もはや振り付けも完璧だぜ。すっごく達成感ある。


モヒカンさんが小皿に水をいれて出してくれたので、ありがたく飲ませていただく。

「やー意外な才能だな!役者じゃねーか、ちび」

「今年の祭りは猫演劇にする?」

「はははっ、そりゃいい!ガキ共にゃ大ウケするぞ」

背中を叩きあい大笑いする自警団の連中。


さっきの歌はなんでも、伝説の英雄を讃えるもので、毎年収穫祭とかお祭りの劇中で披露されるらしい。

なんか今年の祭りはいつもより気合いが入ってるとか、普段より客が多いから盛り上がるとかなんとか言ってる。


暇だったモヒカンさんが何度も歌ってるのを聞いてて、俺もすっかり覚えちゃったのだ。

この「英雄ハッシュ」、日曜日の朝テレビでやってる子供向けアニメのような筋書きのお話で、村の子供達はこれを聞いて育つんだそうな。

テレビもラジオもネットもない世界、娯楽も少なそうだしお祭りの規模も大きいんだろうか。俺も見たいな。



思えばこの世界に来てから色々あったけど、さほど危険な目にも合わずやってこられた。

だから、きっと心のどこかで油断していたのかもしれない。

まさかあんなことが起こるだなんて、この時は思ってもみなかったんだ。


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