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くろねこの冒険~目指せ!異世界一周~  作者: 葉桜丸
第一章 はじめまして、異世界
50/102

50話 幕間・勇者ヤマダ運命の出会い

忘れていた幕間を挟ませていただきます。

読んで下さった方、ありがとうございます。

高い天井から大きなシャンデリアが釣り下がる荘厳な部屋で、青年は玉座に座り厚い紙の束をぺらぺらとめくっていた。

その顔は紙のように白く、目の下には隈ができてしまっている。表情も暗く今にも死神に連れていかれそうなほど陰鬱な空気を背負い、瞳は濁りどんよりとしていた。

「陛下、少しはお休み下さいませ。心配なのは承知しておりますが…」

横に控える老人が労るように声をかけた。部屋の中にいる誰もがその言葉に内心で同意し、若い王を気遣っているのだ。

だが、幽鬼のように酷い顔色をした青年は微かに目を臥せるだけで、手元の書類から視線をはずそうとしない。

老人は痛ましい気持ちでそれを見守っていた。



彼はすでに三日ほど一睡もせず、ある人物の行方を探していた。

三日前の夜、彼にとってこの世で一番大切な、唯一の家族である弟が拐われてしまったのだ。しかも不届きにもこの国で最も警備が厳しい王城からだ。

王弟陛下が最上階の寝室で眠っているところに賊が忍び込み、部屋を守っていた護衛騎士を皆殺しにして拐っていったという。

偶然にもその現場を目撃したメイドがいたのだが、彼女もまた賊の凶刃にさらされ瀕死の状態で発見された。

この女性が幸運にも生き長らえ賊の姿を証言したことにより、事件はすぐ解決に向かうはずだったのだ。

賊の首魁は日付が変わる前に捕らえられ、ほどなく隣国へ連れ去られる寸前で王弟陛下の乗った馬車も捕縛される、はずだった。

だが、騎士達が追い付いた時には、不運なことに馬車は魔獣に襲われ崖から落ちた後だった。

崖の下で賊の一味と思わしき死体は発見されたが、どうしたことか王弟陛下だけが見つからない。

それから二日たった現在にあっても、その行方は…

「…元凶はわかったのか」

「!?は、はい。 国の者だとはわかっております。 」

言いながら、大臣は部屋の温度が急激に下がっていくのを感じた。

肌にピリピリと棘が刺さるような感覚、これは陛下の…魔力。抑えることの出来ない殺意が溢れ、部屋を満たしていた。

広大な謁見の間には随所に近衛が立っているのだが、彼らの顔色も一様に青い。だが気を失わないのはさすがとしか言い様がない、並の魔人では意識を保つことすらできないのだから。

「かまわぬ、殺してでも首謀者を吐かせろ」

「…っ。承知いたしました」

普段の温厚な姿とは別人のように冷たい怒りの籠った瞳を見て、傍らの近衛長も息を飲む。

ああ…一体誰なのだ?決して怒らせてはならない者の逆鱗に触れたのは。

部屋にいる者はみな、姿も知らない犯人を呪わしく思うしかなかった。



 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



暖かな暗闇にいた。まどろむように朧気な意識が、ふわふわとした夢の中からゆっくり目覚めていく。

始めに違和感を感じたのは音だった。パチパチと、薪がはぜるような軽快な音がすぐ近くで鳴っている。その音のするほうからは焦げ臭い匂いも漂っていた。これは…火を焚いている?

私の部屋に、暖炉などという原始的な暖房器具は置いていない。実験のために一度だけ触ったことはあるが。

でも…なんか、暖かいな。それにこの音と匂い、妙に落ち着く…

なんともいえない心地よさにまた眠りに落ちそうになったが、はっと我に帰り瞼を押し上げた。

おかしい、頭が…厳密には枕にしているものが妙に暖かいのだ。それに何故だかすごくいい香りがして…

困惑していると、ぼやけていた視界が徐々にクリアーになってきた。

「○×□×?」

一瞬目の前にいるものがなんだか理解出来なかった。だが知らない言語ながら鈴を転がすように可愛らしい声で語りかけられ、無意識に唾を飲み込む。

こ、これは一体…どうしたことだ?

私の頭を膝に載せ、真上から顔を覗きこんでいた少女が柔らかく微笑んだ。ドキンと胸が高鳴る。

不思議なことにその姿から目が離せない。

その少女の肌はすべらかそうで張りがあり、大きな黒い瞳は長い睫毛で縁取られ、慈愛に満ちた輝きを宿していた。

年の頃は13くらいだろうか?小柄な体躯ながら肉付きは良いらしく、ふっくらとした頬の線があどけない。卵のようにつるりとした顔を縁取る黒く長い髪。サラリと肩から零れ落ちる一房の髪、それが目に入っただけで唇が震えた。

よく見れば、彼女の髪には小さな花の飾りがつけられている。繊細な細工の施されたそれは、高貴な身分を示す物に違わないだろう。服装は質素そのものだが…

こんな可愛らしい女性が、我が国の貴族にいただろうか?兄について何度か舞踏会にも参加したことがあるけれど、そういえば髪も瞳も黒い者は見たことがないと思い当たる。

「△□×、○×○□」

再度気遣うように語りかけられ、思索を放棄した。

そうだ、この言語はなんなのだ?この私が全く理解できない、まがりなりにも王族として周辺国で使われている言語は完璧に理解していたつもりだったが…

慌てて記憶を引っ張り出すも、やはり先程聞いた言葉に合致するものには思いあたらなかった。

少女の表情が段々困惑に染まっていく、眉根を寄せる仕草は妙に色気がある…

…は!?ま、まただ。この女性を見ていると頭が働かない。何故だ。

体を起こし頭をふるふると降るも、すぐ傍にいる少女から漂う花のような甘い香りに注意を引かれ、動悸が激しくなるだけだった。

私は一体どうしたというのだ、もしやなにか病気に感染した…?

「×□△?」

「○××△、□○」

少女が何か言うと、少し離れた位置から低い男の声が聞こえた。

はっとして顔を上げると、扉を開いて入ってきた鎧姿の男と目が合った。


………。


無言で睨み合う。

理由は分からないが、こいつは敵だと、そう確信した。おそらく男もそう思ったのだろう、射殺すような目を私に向けている。

しかしふいに頭に何かが触れ、この睨み合いを終わらせた。

「□×△△?○△×」

「うっ……」

思わず口から呻き声がもれてしまった。

私の頭に載せられていたのは、小さな手だった。髪の流れをなぞるように優しく頭を撫でられて、頬が熱くなる。

うう、彼女はなんと言っているんだ?

この言語を理解できないということがどんどん悔しくなってきた。このままでは彼女の名前を聞くこともできないではないか。


傍らの少女に意識が向かうあまり、自分が知らない場所にいるということに私が気づくのはその少し後であった。



 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



「では、3時間ほど離れていると、もう影響が現れると?」

「はい…」

小さな、でも確かに発せられた、質問を肯定する言葉に衝撃を受ける。

質問をした皇太后様も片方の眉を上げ、困ったようにこっちを向く。

しかしその視線が私の膝の上に止まると、ゆるゆるとその目尻が下がっていった。それに合わせて柔らかな頬のラインがぷるんと揺れる。

室内に控えているメイドさん達も、皆抑えきれないといった様子で満面の笑みを向けている。

椅子に座る私の膝の上に、小さな子供がちょこんと乗っかっているのだ。

治癒師のおじいさんが診たところ、5歳くらいの男の子だそうだ。あまりにも可愛らしい外見から女の子だとばかり思っていたので、慌ててスカートからズボンに着せ替えたことは本人には教えないほうがいいだろう。


この子が発見されたのは、昨夜遅くのこと。

皇太后様の馬車の一団が国境を目指す長旅の途中、突然の豪雨から立ち寄った村で深夜遅く土砂崩れが起きてしまった。

崩れたのは村の裏手で幸い建物からも離れていて、外に人もいなかったことから被害者はゼロ。でも、村を囲む魔物避けの塀が一部壊れてしまった。

これを朝まで放置しておくのは甚だ危険ということで、村人に混じって私たちも補修工事に乗り出した。土砂降りが続いてて二次災害の恐れがあるっていうし、ほっておけなかったのだ。

が、その作業が終盤に差し掛かった頃、土砂の中から小さな子供が掘り出されて大騒ぎになる。

緊迫した空気の中で村中の家を回り点呼を取るも、やはり全員無事であった。となると、この幼い子供はたった一人でどこから来たというのか。


見つかった時の彼は岩に挟まれあちこちに怪我を負い、全身泥だらけで服もボロボロ。意識がないばかりか酷い出血で瀕死の状態だった。

たまたま私達がいたから魔法で治療出来たが、もしいなかったらおそらく助からなかっただろう。それくらいギリギリの有様だった。報告を聞いたメイドさんの中には貧血を起こした人もいるくらい。

治癒師の指示の元、皇太后様が借り受けていた村長宅の部屋で手当てをして、さぁもう安心だから少し休みましょうとなった。が、そこで問題が起きた。


私と皇太后様が別室に行って一時間ほどたった頃、治療が終わって安定していたはずのその子が急に弱り始めたのだ。

容態を診てくれていた治癒師さんが泡を食って駆け込んできて、慌てて見に行ってみたら彼の顔は真っ青、呼吸も弱々しく時折咳き込んでいて体はガタガタと震えていた。意識がないまま自分の肩を抱いて歯を食いしばり涙を流す様子は普通ではなく、指先なんて紫色になっていて。

でも、慌てて私が近づいたらそれが嘘みたいに治まって、頬に血の気が戻っていったの。


それから治癒師さんが色々な検査をした結果、朝方にその理由が判明。

世にも珍しい体質らしいんだけど、この子は体内の魔力が何故だか外気に漏れてしまい、すぐからっぽになってしまう。

この体質を持って生まれてくる人は100万人に一人と言われていて、だいたいは生まれたその日の内に息を引き取るそう。

専門用語ばかりの病気の説明は難しすぎて半分くらいしか分からなかったけれど、どうもこの世界の生き物全般は体内に魔力がないと著しく衰弱し、その状態が続くと肉体の機能自体が徐々に働かなくなるみたい。

生まれ持った魔力量には程度の違いがあっても、全く魔力を持たずに生まれることはありえないのだそうだ。

だから、それが完全に失われた状態というのは不健全で、不完全。例えていうなら体内の血液が半分になるくらいまずいこと。


それを防ぐためには、彼が自分の体内の魔力を外へ出さないよう抑えられなければならない。でもそれは高い技能と才能を持った熟練の魔法使いであってもかなり難しいことらしく、一朝一夕には身に付かないそうだ。

むしろ、この子がこの年までどうやって生き延びていたのかが甚だ疑問だと治癒師さんが唸っていた。


解決策があるとするなら、失った魔力がすぐ補填できるのならひとまず大丈夫とのこと。

だけれど彼の場合元々持つ魔力量がとても多い事が災いして、相当強い魔物の魔石を常習的にたくさん用意する必要があり、現実的な策じゃないみたい。

そこでなんと、そんな絶望的とも思える問題をあっさり解決させる方法があった。私の存在である。


知らなかったけど、私はものすごくたくさんの魔力を持っているそうだ。しかも、それを維持しコントロール出来ている…治癒師さんは生来の天才とか言ってた。

ま、召喚勇者だからかな?

で。そういう、稀にいる濃い魔力を纏った人…私みたいなのの傍にいれば、失われた分の魔力をそこから取り込むことが出来るらしい。

治癒師さん曰く、私は自分が必要としている以上の魔力を作り出していて、その余剰分が周囲に振り撒かれているだけだから、私自身の負担にもならない。ただ、ざっと聞いた感じだと半径3メートル以内にいなきゃいけなくて、3時間も離れていたら彼の体内の魔力量はまずいことになるらしい。


昨日から今朝にかけての事を思いだしながら、膝の上で動かない…ちびっこのつむじを見下ろす。

今朝目を覚ました時は元気そうで目に光があったのに、だんだんと表情が暗くなり今では泣きそうな顔で俯いてしまっている。

皇太后様やメイドさん達は彼の憂いを晴らそうと色々頑張っていたんだけど、なにせ言葉が通じないのだ。

目が覚めたら知らない場所に知らない人達、パニックになって泣き出すかと思ったけれど、こんな小さいのに泣くことも騒ぐこともせず、ただひたすら唇をぎゅっと閉じて大人しくしている。その健気な姿がまた彼女達の母性本能をくすぐる。


「困りましたな。話を聞いた限り、ヤマダ様から引き離す場合は同等の魔力を持つ魔法使いに預けるしかない訳ですが…」

ナイトさんが複雑な顔で呟く。他の人達も一様に眉をしかめていた。


私達は今、国全体から追われているのだ。

まぁそうはいっても、王様のことが嫌いで皇太后様に敬意を持ってる人達がすごく多いので、こうしてナイトさんの手引きで休憩を挟みながら進むことが出来ているわけだけど。さすがに、国境に近いこの村に何日も留まっていたら危ないだろう。

でも、聞くところによると私と同じくらいの魔力を持ってる人というのは、そうそういないらしい。

てっきり召喚された人間は皆こうなのかと思っていたんだけど、それもちょっと違うみたい。あのナントカっていう馬鹿勇者も魔法を使っていたんだけど、あれはそこまで魔力を必要としないんだそう。

逆に私はというと…滅茶苦茶魔力を必要とする魔法を毎日使いまくっていた。それはなんと聞いてびっくり、「鑑定魔法」だった。まさか、そんなに燃費の悪い魔法だったとは露知らず。

それのせいもあり元から高い魔力がさらに高まった結果、私はなんと世界トップレベルの魔法使いになっていた、らしい。今でも攻撃魔法は使えないんだけどね。



そんな訳で、この子をどうすべきか。

誰も妙案がなく困り果てているのだった。

村で世話になっている村長とかにも相談したんだけど…この子を村へ置いていった場合、多分すぐに魔力が空っぽになり死んでしまうだろうとのこと。村に魔法使いはいるけども保有魔力は少なく、到底私には届かないようだ。

もし運良く生き延びたとしても、村長以下では彼の存在を隠し通す事は難しく、この土地を治める領主に捕まって良くて奴隷、悪いと王様に献上されてしまうだろうという。


それというのも、この子はちょっと変わった容姿をしているのだ。私から見てもたいがいだけれど、この異世界においてもまず見かけないくらい珍しいみたい。

日に透けるような白い肌に腰まで届く艶やかな細い髪に、耳は長く先が尖っている。魔力の高さと合わせて考えると、どうやら種族はエルフらしい。

種族的な特徴からか顔の作りが良すぎるのが目を引くけど、問題は髪。

銀色…淡く水色がかったプラチナブロンドで、日差しを受けると虹のように七色に輝いて見える。

朝日があたってからそのことに気がついたんだけど、陽光に髪を照らされて立ってるだけで、まるで天使か妖精のように綺麗。うん、これは悪い人には知られてはいけない存在だと思う。

さらに、この世界でエルフっていうのはダントツで魔力が高く…その力を悪用されることは間違いない。実際、奴隷であったり魔法実験の被検体であったりと、この国の裏社会では物のようにお金でやりとりされるエルフが多いと聞く。聞くだけで吐き気がする話だ。


色々考えていくと取れる手は限られて来る。

まず、この子をこの土地に置いていくことは出来ない。

皇太后様の安全を最優先するなら見殺しにしたほうがいいんだろうけど、そんなの多無理だ。皆の目が語っている。

となると、この子を一緒に連れていくことになる…すぐそこの国境を超えて、隣国サンドリーヌへ、と。


でも、その場合も問題は山積みだ。

私達の偽造身分証と変装道具はナイトさんによって準備されている。さらに明日、私達が国境の砦を訪れるタイミングに合わせて協力者が多数居合わせ、私達の審査が始まると同時に彼らがそれとなく騒いで、砦の兵士達の注意を引く手筈になっていた。

各地の国境にはおそらくすでに私達の人相書が届られているはずで、でも騎士さん曰くそっちはそれほどそっくりな絵でもないようだ。この国の、っていうかこの世界では「肖像画」というものはえてして過剰に美化されているものらしい。

さらに不可思議なことに、一般的な貴族とかは例え身分を隠したい時でも決して庶民のような格好はしないそうな。森の中でも山の中でも、薄くてひらひらキラキラした格好を厳守するものらしい。

馬鹿なの?って思うけれど、これは事実なようだ。理解できないわ。


だけれど皇太后様は若い頃評判の美人だったらしく、今でも当時の絵姿が出回っている。その絵姿っていうのがかなり本人に似せた素晴らしい物で、顔の特徴がよくわかるみたい。

なので兵士達の誰かがそれを持っていたとしたら、変装していてもじっくり見られてしまったら気づかれる恐れが高いのだ。美人て大変なのね。


膝の上の幼児の頭を撫でながら考え込んでいたら、ふうとため息が聞こえた。

「運は天にありと言うわ。なにより、ここでこの子を見捨てたら自分という人間を嫌いになってしまう。これからも自分を好きでいるためにも、なんとかするしかないでしょうね」

にっこり笑う皇太后様のふくよかな頬に浮かぶえくぼを見て、ちょっとだけほっとしてしまう。やっぱり彼女は人の上に立つべき器を持っている。

そうだ、今考えるべきことは彼を見捨てるかどうかじゃなくて、どうやって全員無事に国境を越えるか。それだけだ。

腕を組み首を傾け、妙案はないものかと再び考えはじめる。腕が太くなったせいで組み辛いな。


…は!?そ、そうだ、これならもしかして…いや、でもどうだろう?ううーん、でも案外これなら…

私は、ふと思いついたちょっとした作戦を皆に恐る恐る説明してみた。



 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



「おーし、行っていいぞ。お嬢ちゃん、年寄りに長旅は辛いだろうからばあさんを大事にしてやれよ」

「あ、ありがとうございます…」

気の良い国境兵達に見送られながら、ぺこりとお辞儀をする。ガラガラと音をたてて馬車が国境線を振み越え、険しい岩山に向かう街道へと進んでいく。


まさかのまさか、私達は国境をあっさりと通過できてしまった。

兵士達が詰所に張り出された手配書と皇太后様の顔を何度も見比べ始めた時は、もうダメかと思った。隊長と思わしき大男が懐から皇太后様の絵姿を出した時は、捕まる前にこっちから攻撃するか!?とさえ考えた。

しかし大男は、他の兵士達と一緒に絵姿と皇太后様を見比べると、顎を撫でながら首を傾げ「うーむ、考えすぎだったか」「特徴は似てるけど…隊長、さすがに1カ月かそこらでここまで体格は変わらないでしょ。気のせいですよ」と言い合ったのだった。

そこからはもう、粗末な服に着替えたメイドさんと騎士さん達の身分証を簡単にチェックして、馬車の積荷をざっと見ただけでごくあっさりと審査は終了した。

こんな簡単でいいの?とも思ったけど、皇太后様と私以外は手配書もないし、ナイトさんの用意した偽造身分証は完璧。身元のわかりそうな鎧や武器類、高級な衣類とかは一切合財処分してきたので怪しむ部分もないと思い当った。

不安だったエルフの子についてはその体躯の小ささを利用して、馬車内部に設けた隠し収納に隠れていてもらったからね。大人しくて利口な子供じゃなかったら失敗してたろう、言葉が通じないというのに作戦を理解して、本当に利口な子だ。



怪しまれないようスピードを上げずのんびりと進む馬車の中、向かいに腰かけた皇太后様の様子をそろーっと伺う。その表情は無、ひたすらに膝の上に乗せた幼児の頭を撫で続けることで心の平穏を取り戻そうとしているのが見て取れた。ご、ごめんなさい皇太后様…


一言で言うと、この作戦の肝は…私と皇太后様の…体型の変化である。

お城から無事逃げ出して連日馬車でひたすら移動する日々の中、なんというか娯楽がなかった。出来ることもないし夜も基本テントで寝るから疲れが取れないし、いつまた追手が現れるかと最初の内は不安で、めっちゃストレスが溜まっていた。

そんな毎日の中で、私の「食料召喚」スキルが癒しになるまでそう時間はかからなかった。

具体的に言うと、めっちゃくちゃ食べた。ひたすらおいしい物を召喚して皆でことあるごとに食べまくった。庶民の私には縁がなかった高級品も、食べたことのない物でも召喚できるから嬉しくって…夜中にミ○タードーナ○全種類とか…うぅ。何故あんな暴挙を…

その結果、女性陣を中心に当然のごとくというか、体重が。うぐ。

腹の立つことに男性陣は、馬車での移動中に交互に馬に乗ったりしてたせいかたいして太らなかったらしい。殺意が湧いた。


だが、その体型の変化こそが今回は役に立ったのだった。

特に皇太后様の変貌ぶりは失礼ながらなかなかのもので、急遽用意してもらったワンサイズ上の服に、内側に綿をつめて膨らませて老婆っぽい化粧をほどこしたら立派な「太めのおばあちゃん」に変身した。

私も似たような感じ…今、絶対鏡は見たくない。

言いだしっぺだから文句は言えないけど、騎士さんの励ましが地味に傷ついたよ…「むしろそのくらいのほうが、私はふくよかで可愛らしいと思いますよ」って何?正直にデブって言われたほうがましよ、耳に刻み込まれたわよ。


皇太后様と無言で見つめ合い、頷きあう。

絶対に痩せてやる。言葉はないが二人の心は一つになった、それがわかる。

瞳に闘志を燃やしつつ、さりげなく着てる服のお腹部分をちらりと確認する私達を見上げて、エルフの幼児は不安げに首を傾げるのだった。

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