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くろねこの冒険~目指せ!異世界一周~  作者: 葉桜丸
第一章 はじめまして、異世界
49/102

49話  薪を割る方法は一つじゃない

なんとなくタイトルを少し変更してみました。平仮名のほうが可愛いかな~、と(笑)

ヒュ!

ズズ…


腰を下ろして、程よい太さの木の低い位置を横向きに切り払った。

「次の、倒れる、ぞー」

「おう」

斜め上を見上げながら楽しそうに言うマリオだったが、断面からじりじりとズレていき向こう側に傾くと思われた木が停止し、円を描くようにゆっくり揺れた。あ、まずいかもしれない。

「ごめん、マリオ。端を残すの忘れ…全部、切れたか、も」

「なにい!?」

オレの呟きに気色ばむ青年の前で、不自然にゆらゆら揺れていた木の動きが大きくなり、先端のほうで生い茂る葉が音をたてはじめ、徐々にマリオ側に傾いてきた。

「わああああ!た、待避!待避ー!!」

「たい、ひ…?」

たいひ、堆肥…あ、待避か。


ズズゥーーーンッ!!!


地響きをたてて地面をバウンドする大木、マリオは尻餅をついた状態でそれを見ている。一瞬後で何故か笑いだした。その頭に、木から振り落とされた葉や枝がばさばさと舞い落ちてきた。


「…は、はっはっはっ!ホント出鱈目だよなお前!あーっはっはっはっ!」

地べたに座って腹を抱え大笑いしている。と思ったら隣に移動したオレをバンバン叩いてきた。尻を叩かれるとさすがに少し痛い、ような気がする。

ライアットに聞いたんだが、オレが奴隷であった頃のように人を簡単に叩いたり斬りつけたりするのは、普通ではないことらしい。だから、オレももし理不尽に暴力を振るわれるようなことがあったら、抵抗していいのだと言われた。

うーむ、この場合は…どうなんだろう。

「やー笑った笑った、こんな笑ったのは久しぶりだよ。それにしてもお前の爪どうなってんだ?あの太さの木がスッパリ切れるなんて、冗談かと思うよな」

「そう、か?」

「自覚ないのかよ」

またバシッと尻をはたかれた。

だから何故叩くんだろう、なんとなくしっぽで反撃しておく。ぺしっ。

「いてっ、いやモフモフで痛くないか。お前のしっぽ随分長いんだな、足と同じくらいあるぞ。これじゃ歩くのに引摺りそうだ」

オレのしっぽを両手で握りしげしげと監察するマリオ。ちょっと、掴むのはやめてもらいたい。

「しっかし、ものの10分であの堅い木を12本バラしやがるとは。あーあ。なんかいままでちまちま悩んでたのが馬鹿みたいに思えてきたぞー」

マリオがオレのしっぽを掴んだまま手足を投げ出し、どさっと後ろへ倒れこんだ。しっぽごと引きずられるようにオレも草の上に転がる。

「…痛い。ひどい、ぞ」

「うははは!」

マリオは体を起こして胡座になると、掴んだしっぽを顔にぺしぺしと当ててきた。だからなんなんだこの男は。


「いや、悪い悪い。なんかおかしくってさ。ほれ、これやるよ」

「…肖像、画?」

さっきもらったのとは違うみたいだ、なんだろう?

わくわくしながらオレも体を起こして胡坐になり、渡された紙を確認しようとしたら足音が聞こえた。

風下にいるから匂いもわかる…キャシー、それにこれはマリーとシャティだろうか。

「あ!いた、こっちにいたよー」

「村にいないと思ったら外にいたのねー」

「ええ!?一人で外に出ちゃダメって言ってたのに」

わいわい言いながら三人が近づいてきた。彼女らはいつも楽しそうだな。


あれ、今の言葉からすると、オレを探していたのだろうか?それともマリオ?

草の生い茂った地面に二人して胡座をかいたままそんなことを考えていると、すぐ近くまで来たキャシーが変な顔になった。

「…ねぇ、何やってんの?」

「まぁー…」

なんだ、マリーが頬に手をあてて赤くなっている。何かあるのか?

背後を確認するも、木が生えているだけだった。

戸惑っていたが、シャティが口許に手を添えて言った言葉に納得した。

「あのねクルルくーん、そんなに密着してたらホモだと思われちゃうよー」

ほ、ほも?えーっと確か…あ。

確か女神教で定める大罪の一つだ、男同士で恋愛関係になることを言う言葉…

すぐ横に並んだマリオと目が合う。

互いの膝がくっつく距離で胡座をかき、オレのしっぽを握るマリオ。あぁ、確かに…やましいことは何もないけど、なんだかこの近さはまずい気がする。

二人して頷きあい、ずりずりと尻で移動し距離をとった。

「あー、離れちゃうのぉ…」

「マリーったらがっかりしなーい。ナイショの趣味がバレちゃ…もがっ」

「ななななーに言ってるのよぉシャティったらーほほほほほっ」

う、マリーがなんだか怖い顔で笑いながらシャティの口を抑えてる。あの顔は、何も聞くなと言っているようだ。

キャシーも不思議そうにそれを見ている。そこでオレは違和感に気がついた。


キャシーが、ジャックを連れていない。

もしやマリーかシャティが?とも思ったが、やっぱりジャックは見当たらなかった。まさかポケットには入ってないだろうし。


黒い子猫を探して彼女らの足元を観察していた時、マリオがふらりと立ち上がった。

まだ腰が辛そうだ、腹の辺りからは血の匂いもする。

考えてみたらこの状態で何故外を歩いていたんだろう、普通の人間だったらベッドに横になっているんじゃないだろうか。

「マリー、ほれ」

「え?なーに…!?」

「シャティにはこれ」

「何なに?キミ、肖像画は仕事にしか使わないって言ってたじゃ…ああああああ!!」

「あっはっはっ!おいクルル、こういうのも楽しいな!お前のお陰で価値観が変わったぜ」

な、なんだ?オレが、何かしたのか?

真剣な表情で肖像画を凝視しているマリーと、なんかすごい顔で肖像画を片手に持ちもう片方の手でマリオのシャツの裾を掴みぶんぶん降ってるシャティ。シャツを伸ばされながらも地べたで笑い転げているマリオ。

オレはキャシーと顔を見あわせて、ただ呆然とそれを見ていた。



しばらくたって三人が落ち着いた頃になって、ようやく声をかけられる雰囲気になった。

「そういや、あんた達知り合いだったの?」

マリオの鞄の中を漁って様々な肖像画を眺めていたキャシーが、思い出したようにマリーに聞いた。

マリーはたった今我に帰ったように手元の肖像画から視線を上げ、オレとキャシーがいるのに気づくと目を丸くする。オレ達の存在を忘れていたんだろうか。

「そ、そうよー、彼は森で行き倒れかけてたのを私達が助けたのぉ。まだ怪我が酷いから動かないほうがいいんだけどねぇ」

「猫ぉー、猫ぉー、ふわふわふわふわぁー」

「ほら、シャティも!そろそろ正気に戻りなさぁい」

肖像画を見つめ鼻息を荒げていたシャティの後ろ頭をマリーがポコっと叩く。

「いてっ、…あ、君らもいたんだっけ。えーっとボク確かクルル君を探しに来たんだよね?」

え?オレを?

不思議に思い隣を見ると、キャシーが半目になりこっちを睨んでいた。

「…別に、なんでもないわよ」

なんでもない、のか。

あれ、でもそれじゃなんでオレを探してたんだろう。疑問に思うが、聞いてはいけない気がして言葉を飲み込んだ。

何故かマリーとシャティはそれを見て笑っていた。


「で。それよりマリオ。貴方これどういうことぉ?こんな本物そっくりな絵が描けるだなんて、聞いてないわよぉ!?」

「あ!?そうださっきのあれ!あのもふもふとか目のキラキラの再現度なに!?これもらっていいの!?」

「おう、お近づきの記念にもらっといてくれ」

「やったぁー!!」

「そういえばなんだったのそれ。あたしにも見せて」

おお…良かった、マリーとシャティの声に気を引かれたらしく、キャシーは今怒っていた理由を忘れてしまったようだ。何故怒っていたのかは気になるが…

彼女は一つのことに気を取られると他の事を忘れてしまうみたいだな。たしか、前のめり?とか言うやつ。


そんな事をこっそり考えていると、シャティから肖像画を見せてもらったキャシーが、目を輝かせて歓声をあげていた。

「わぁ!!すごい、これ本物にしか見えないわね。猫の肖像画なんて初めて見た、いいなーあたしも欲しい!」

「おー、いいぞ。お嬢は…猫よりクルルとお揃いのがいいか?」

何故かニヤリと厭らしい感じの笑顔でマリオが言う。


そういえば、オレもさっき紙をもらってたっけ。持っているのを忘れていたが折れ曲がってしまったかもしれない、慌てて紙を確認し軽くぱたぱたと払い、指の形につきかけていた皺を伸ばす。

そうして何気なく手元を見て、意表をつかれた。

なぜなら、オレがもらった紙にはオレが描かれていたのだ。それに気のせいかもしれないけど、なんだか本物のオレより頭が良さそうな…


ふいに、柔らかな物が耳に触れた気がして顔を上げると、キャシーの顔がすぐ傍にあって驚いた。彼女の髪の毛がオレの耳に触れていたらしい。

一瞬遅れて顔を上げたキャシーも目を丸くして、慌てて離れていく。そうか、オレの手元を覗きこんで紙を見ていたんだ。彼女はなんというか、たまにすごく距離が近くてドキドキする。

「ちょ、ちょっとマリオ!なんであたしにもこれって…人の肖像画もらってどうしろっていうのよ!」

顔を真っ赤にして大声で怒るキャシーだったが、マリオもマリーも、シャティまで何故か笑っていた。

小さな子供がいたずらをしたのを見るような笑い方だ。それを見てキャシーはもっと赤くなって眉を吊り上げている。それでも怒りが収まらなかったようで、手を振り上げて走っていった。


それからキャシーは一通り文句を言った後、マリオの頬っぺたを引っ張りながら細かく注文をつけて、自分用にジャックの肖像画を作ってもらった。

紙の大きさいっぱいにジャックの全身が描かれていて、実物よりも大きいくらいだ。すごく可愛い。

「いいなーいいなー!ねぇマリオ、ボクにもそれと同じの描いて!ちゃんとお金払うから!」

…う。

か、金…オレもあの肖像画が欲しい、けど。金は、どうやったら手に入る…

自分にこんな感情があったなんてと驚きつつ、抑えきれない物欲にとり付かれひっそり葛藤していると、妙なことにマリオも悩み始めた。

目を閉じてあーとかうーとか唸りながら、腕を組んで口をへの字にする。

「うーーーーん。やっぱ、貴族以外の奴からはあんま金取りたくないんだよなぁ。それにお前らは知りあいだし、いいかなって」

え?どういう意味だろう。

マリオの困ったような呟きを聞いて、マリーとシャティが怪訝な顔をする。片方の眉を下げ、なんだか微妙な表情だ。

「家族じゃないんだから、物をやり取りするのに無償っていうのはどうかと思うわよぉ。まして、こんな立派な肖像画なんだしぃ。そもそも絵はスキルで描けても紙は作れないんでしょぉ?」

「あ、そういやそうだな」

「タダでいいなんて言ったら、ボク村中の猫の絵を一枚ずつ欲しいって言っちゃうよ」

「ね?知り合い相手でも、せめて自分が損しないようにしなきゃたかられて終わりよぉ。どこぞの貴族の篤志家でもあるまいしぃ、対価は要求なさいねぇ~」

はぁ、そういうものなのか。

人の欲しがる物を無料であげるなんて善人だ、としか思わなかったが、どうやらそれは良くないことのようだ。でも、ならあの肖像画は一枚どのくらいの金で手に入るんだろう。


マリーとシャティにあれこれ言われながら肖像画の値段について悩むマリオを見つめ、会話の行き先を知りたくて様子を伺っていたら、キャシーもいつのまにか横にいて彼らの話を真剣に聞いていた。


ふむふむ、肖像画に使った紙が一枚でだいたい大銅貨2枚…大銅貨って、いくらなんだ?

うん?実際は大きい紙一枚で店に作ってもらって、それを12枚に切ったのが、これなのか。そういえばよく見ると端が少し歪んでるところがあるな。

えー…あ?うーんと?実際は、切る時にうまくできなくて何枚かダメになっている、と。

へ?紙は店によって値段も質も違う?時期によっても値段が変わる?サイズも、厚さも…え?ええ?

次々と三人の口から飛び出す情報に頭がついていけない、もはや混乱して何がなんだかわからなくなり目を白黒させその場で硬直していた。


しかし、ふいに隣がやけに静かだなと気が付く。目だけそろそろと動かし、隣にいるはずの、普段は人一番騒がしい少女の様子を確認した。

キャシーは平然と、特に力むようなこともなくただ立っていた。その余裕そうな顔に衝撃を受ける、彼女はあの話が苦も無く理解できているのか…!?

驚愕に慄いていたら、くるっとキャシーが振り向いた。

「何て顔してんのよ?あのね、あんたもしかしてあの話聞いて理解しようとしてない?」

「…え」

「いいのよあんなの、話が終わった頃に結果だけ聞けば。あんな難しい話わかるほうがどうかしてるの、商人になりたいってんならともかく。こういう計算、リタなら得意なんだけどね」

「お、おう…そうなの、か」

そういうものか。確かに、聞いてもわからないなら聞かなくてもいい…?


「あ!?ちょっとマリオ、お腹!血が滲んでるじゃん!」

突然大きな声がして思わず目を向けた。シャティがマリオの腹を指さしている。

「あーあ、だから安静にしてなさいって言われたのよぉ。そもそもそんな体でこんなとこで、一体何してたのぉー?」

「いや、村へのお礼に何か出来ないかなと。薪割りしてたんだ」

かすかに血の滲んだシャツをまくり上げ腹の包帯をきつく締め直しながらマリオが答えると、マリーがため息をついた。

「薪割りぃ?ほんっと貴方は真面目ねえ、それこそ怪我人がやるようなことじゃないでしょうに」

マリーの声は呆れたものを含んでいて、やや怒っているようにも思えた。

締め直した包帯の端を手早くぞんざいに結ぶと、しかしマリオは唇をニッと真横に引き結んだ。

「いやー、俺はたいして働いちゃいないよ。そっちの新しく割ったやつは、こいつが手伝ってくれた分だ」

「クルル君がー?って、あら、なんかここ広くなってなぁい?」

「本当だわ、そっち側ってこれから切る予定になってたとこじゃない。村を広げるからって…なんで全部切り株になってるの?」

「それに、斬り倒した木はどこにいったんだろ…んー?なんか、マリオ。これ薪割り済みの奴が一山多いよーな気がするんだけど」


口々に疑問を言う三人に、マリオは手招きをした。

含み笑いをしながら立ちあがり、さっき木を斬り倒した跡残った切り株に大きめの丸太をでんっと載せる。

「クルル!見せてやれ、お前の必殺技」

え?

ひっさつって、オレにはそんな技ないぞ。何かのスキルのことか?

キャシーに目で問われ、知らないと首を左右に降って答える。マリー達も不審な顔でオレを見た後、のっそりとマリオに目線を戻していた。

それに気づいたらしい青年はオレのほうを見ながら、丸太に右手の人差し指を降り下ろす動きをし、うんうんと激しく頷く。あ、もしかしてあれのことか。

「マリオ、薪を割る、のか?」

はたしてただの薪割りが必殺技なのだろうか。

あ、でもまた頷いてる…いい笑顔だ、何がそんなに面白いんだろう。


内心で首を捻りながらも丸太の前へ行き、マリオが位置を手で示してきたのでそこへ立った。

もう一度マリオの顔を確認すると、ニカッと晴れやかに笑い頷かれる。

「……?」

理由はわからないが、これを割ればいいんだろう。

オレは先程と同じように無造作に爪を降り下ろした。


ヒュ……カラン。


「見たか!」

「薪が…割れてる?今、クルル君が木にチョップしただけだよね?」

シャティの言葉に得意気な顔でふんぞり返ったマリオが、オレの右手を掴み上に持ち上げた。なんなんだ。

キャシーが怖い顔をして今さっき割った薪を拾い上げ、しげしげと眺める。

「まさか、これ…」

「そ。斧が壊れちまってさ、そしたらこいつが素手でいけるっつーから」

マリーとシャティもキャシーから薪を受け取り、信じられないといった風に凝視していた。

なんで皆驚いてるんだろう、獣人で爪があれば出来ることじゃ…もしかして、これは普通じゃないのか?

「ちょ、ちょっとクルル?少し手を見せてもらってもいい?」

「私も気になるわぁ」

キャシーがそろそろと近寄って来て、何かと思ったら右手をつつかれた。とりあえず嫌なことでもないので頷いておく。

そうだ、そんなことより聞くべきことが。

ジャックのことを思い出しキャシーに聞こうとしたら、マリオがじろじろとオレを見下ろしていた。

「おーおー、モテモテだな」

「もて?いや、これは、違うんじゃ…それより、も。キャシー、ジャックは」

「あー!?なにこれ、斧が折れてるよ!」

あ。シャティが気づいた、マリオがうまく隠しておいてくれたのに。

オレの手をこねくりまわしていたキャシーが、山と積まれた薪の裏から引っ張りだされた二つに分かれた斧の残骸を見て目を丸くしていた。



結局斧について白状させられて、何故か壊したオレではなくマリオが弁償することになってしまった。マリー曰く、不慣れな人に適当な指導をした結果だから当然とのこと。

でも、壊したのは間違いなくオレなのに。そう思うと申し訳なくて耳が下がってしまう。

オレの頭の上でぺたんこになった耳を見て、何故かシャティが真顔で「可愛いかも」と言っていた。猫以外の生き物も可愛いのか…この人の猫に対するちょっと激しい愛情表現を見た身としては、ちょっと警戒してしまう。


それから、オレは手の爪を何度も出したり引っ込めたりさせられ、木切れを何度も爪で切るよう言われたり、様々な質問もされた。

なんだろう、悪い事をしたと疑われているような気分がしたが、マリオはその様子をずっと笑いながら見ていた。オレが、自分に詰め寄る彼女らの剣幕にうろたえていたら「堂々としてりゃいい」と笑い飛ばされてしまった。


女性3人がどうにか何かに納得できた後、ようやく自分の聞きたかったことを聞けた。

彼がどこにいるか、キャシーは微笑みながら教えてくれた。

「ジャックちゃんなら村の猫達と昼寝してるわよ。仲良くなれたみたいだし、少しそっとしとこうと思って」

…良かった。ジャックは、無事に他の猫達に受けいれられたんだ。

嬉しいんだけれど、やはり寂しい気持ちも湧いてくる。でも、ジャックのためを思うなら我慢しなくては。

「今ジャックちゃんより少し大きい子猫が5匹いて、その母猫が面倒見がいい子なの。ふわふわの、えーっと何回子猫産んだかしら?ともかく熟練のお母さんだから、どんな子猫でもあの子に任せておけば立派に育ててくれるわ」

「そう!マロンっていうんだけど、それが綺麗な白猫でねー!お父さん猫がこれまたイケメンなんだ。あと村の猫の中で一番の年寄りがコロンっていって、これがまた面白い子なんだよー」

キャシーとシャティが嬉々として村の猫達について教えてくれた。オレは…まだその中の一匹(の尻)しか見てないなぁ…やっぱり寂しいかもしれない。

でも、こうして話を聞けるのは嬉しい、ジャックと似た年頃の子猫がいるのなら馴染むのも早いだろう。もしかしたら兄弟みたいに育ててくれるかもしれない。


「ヒヒーーーンッ!!」

ガラガラガラガラ…!


突然聞こえた馬のいななきと、不自然なほどに乱れた馬車の音。

通常、馬車はそれほどスピードを出さないで走らせる、馬も車体も傷んでしまうからだ。だが、今聞こえた鳴き声は…悲鳴のようにも聞こえた。車輪が走る音も雑音が多くリズムもおかしい。

あんな調子で走らせていたら、よほど頑丈な馬車でもない限り車軸がもたないのではないだろうか。昔、盗賊達が馬車を飛ばし過ぎて壊してしまい大変な目にあったことを思い出した。

「なんか、今の馬の声おかしくなかった?」

「確かに変ねぇ、暴れ馬かしらぁ。東門のほう?ちょっと様子を見に行きましょうか」

眉をひそめ心配そうに音のしたほうを見る3人、だがその時聞こえてきた音にオレの心臓が大きく跳ねた。

「……ッ」

考える前に体が動いていた、馬車が走って行ったと思わしき方角に向かって全力で体を沈みこませ、足をがむしゃらに前へ踏み出す。いっそ地面に胸をつけるほどに前傾姿勢をとり、駆けた。


耳に届いたのはかすかな子猫の鳴き声と、少女のくぐもった叫び声。

オレが、ジャックの声を聞き間違えるはずがない。さっきの声は、悲鳴だ。ジャックが、助けを求めて泣いている。

後ろで誰かが待てと言った気がしたが、オレは前だけを見ながら森の中へ飛び込んで行った。

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