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くろねこの冒険~目指せ!異世界一周~  作者: 葉桜丸
第一章 はじめまして、異世界
37/102

37話 怯える犬と賢者の秘密

誤字の報告いただきました、ありがとうございます。

GW中に2回更新を目標にがんばります、世間様と違い10連休じゃないんですがね(涙)

広々とした店内をなんとはなしに眺める。

店の外がものすごいからどうせまともな品揃えじゃないんだろと思ってたけど、棚に並ぶ雑貨は以外と種類があってカラフルだった。古い感じだけど壊れてる物も見当たらない。

ちょうど抱っこされてて視界が高いので、一番近い棚をじっくり観察してみる。

ふむふむ、鍋は銅っぽいけど皿やコップは木で出来てるな。

カトラリー類はあっちか、スプーンにフォーク、ナイフ、さすがに箸はないか…なんじゃありゃ?でっかい先割れスプーンみたいのもあるな、あれじゃでかすぎて口に入らねーだろ。調理道具かなぁ。


なんつーか、並んでる品物は皆素朴だった。

だいたい木彫で角がなく、丸っこくてもっさり&やぼったい形状。皿も分厚いし、布小物や麻っぽいずだ袋も生地や縫目が粗い。

テーブルとかの家具ももちろん全部木製で、複雑な形状のはなし。得体の知れない反物状の布とか、樽にたくさん入った木の棒、オルゴールっぽい小箱、小さい座布団に載せられた変な棒切れとか。何あれ。

んー、ぱっと見て全体的に、あんまシャープな雰囲気のは見当たらないなぁ。某遊園地の土産物コーナーっぽくもある。アメリカンカントリーなんちゃらっていうデパートの物産展でこういうの見たっけ。

俺が人間で、かつ金を持ってたら、多分うっかりいくつか衝動買いしちゃってることだろう。なんつーか、素朴で可愛らしいのだ。


店内をぐるっと見ていた目線が、犬耳のおっさんのしっぽで止まる。ふかふかだ。

それにしても、本当になんでこの村の犬猫が怯えてるんだか。しかも、子供らの話からすると大人も様子がおかしいらしいし、ちょっと不安が拭えない。

そもそも、この世界って魔物いるんだよね。直に見たのはスライムだけだけど。やだなー、村がいつのまにか魔物に囲まれてるとかないよな?


頭の上ではキャシーと雑貨屋のおっさんが和やかに会話していた。

でかい犬がたまにこっちをじっと見てるのが不安だ。今、俺動けないからな、頼むからもうなめ回さないでくれよ。

「そうなのよ、この村ってあたしくらいの子が少ないじゃない?」

「あー、言われてみりゃそうだなぁ。お嬢と、坊ちゃん達と、アンジェくらいか。他はまだちっちぇーからな」

「そう!ちょっとぼーっとしたとこがあるけど、こいつが…あら?あいつ、どこ行ったの?」

「ミィ?」


言われてみれば、奴がいないな。

店の外か?俺があんな目にあってたっつーのになんで助けてくれないのかと思った。


キャシーが少し苛立ちながら鼻息荒く窓から顔を出し、表を眺めた。ハンカチに巻かれ彼女の胸に挟まった俺も自然とそっちを向く。

あ、いたわ。

予想通り、店の外にごちゃごちゃ並んだ商品を真剣な顔で見つめている。この雑多な山に気になるもんでもあったのか。

「ちょっと!クルル」

「…あ」

キャシーが俺を抱えてないほうの手でぶんぶん手招きすると、クルルはやっと気がついて我に帰り慌ててドアに向かった。一瞬俺を見て怪訝な顔をしたが、俺がこうして湿った春巻きにされてるのはお前のせいなんだぞ。

「なんだ、その猫以外にも新入りかい?」

「ワフッ」

「ええ、教会に新しく入った子で猫人なの。さっき食堂でみんなに色々食べさせられてたから、おじさんならもう知ってるかと思ったわ」

「おいおい人を噂好きみたいに言わないでくれよー。初耳だよそんな子が来たなんて。チビじゃない子供なんて珍しいな、訳ありかい?」

へぇ、教会に子供たくさんいたけど、孤児院みたいなもんか。たしかにちびっちゃいのばっかだった。


ガチャ。


その時ドアが開いてクルルが中に「キャイーン!?」


入ってくる前に突然甲高い悲鳴が。

反射的に声のしたほうを見下ろすと、大きな黒い生き物が床に仰向けに引っくり返っていた。

「ヒューン、ヒューン…」

「ボビー!?ど、どうしたんだ!?」

犬耳のおっさんが驚いて駆け寄る。

ボビーは怯えたように鼻をならしながら、ガタガタブルブルと全身を震わせていた。畳まれて上に向けられた脚は四本ともぷるっぷる揺れている。

「え、あれ?なんでボビー…どうしてこんな怯えてるのよ」

「ボビー、しっかりしろ!何も怖がるモンないだろ?ほら、よーく見ろただの獣人の子だぞ」

「ヒューン、ヒューン…」

倒れた犬に必死で寄り添い励ますおっさん。

キャシーも俺も、クルルの後ろに誰かいるのかと思い…しかしそこには誰もいなかった。

俺達の目線に気づきクルルも後ろを振り向くが、やはり何もないらしく困惑した表情で店内に向き直る。

「「「………」」」

「しっかりしろ、ボビー!」

「ヒューン、ヒューン(ガタガタブルブル)」

少しの間の後、クルルはそっと扉を閉めた。

縮こまり震える黒い犬とおっさんを見下ろしながら、俺とキャシーはただ無言で立っていた。



結局、なんかいたたまれなくなってキャシーと俺も早々に雑貨屋を後にした。

おっさんは心底申し訳なさそうにクルルへ謝ってたけど、少しだけ疑わしい感じに眉毛が寄ってた。まぁ、わんこがあれだけ怯えてたら疑惑も浮かぶだろうな。


ちらっと頭上を見上げると、無表情ぽくも悲しそうなクルルの顔。

ふぅむ、慰めてやりたいが春巻の身では動くことすらままならない。というか、いい加減このハンカチから解放してくれ。

「ミー」

クルルの手の中で鳴き声をあげるとやっと気づいてくれた、体に巻かれたハンカチをくるくるとはずしてくれる。


はー、窮屈だった。

やっとこ拘束から解き放たれ、大きな手のひらの上でぐーっと足を突っ張り、体を伸ばした。

まだ全身が犬臭いし、毛繕い…したほうがいいんだけど、なんか舐めるの嫌だな。どうしよう。


まだ少し湿っている前足を眺めて悩んでいたら、頭に何かがふわりと触れた。

「ミゥ?」

クルルが、俺の頭を撫でている。それはいいんだが、ものすごく沈痛な顔をしていて可哀相になってきた。

とりあえず頭上の手にすりすりと匂い付け。

大丈夫だから気にすんな、ほら俺は怖がってないぞー。

「………」

お、少し表情が和らいだ。

でっかい手に頭突きしたり頬を擦り寄せていたら、隣に立っていたキャシーがほっとしたように息を吐き出した。微笑みながら俺の背中を指で撫でつける。

「さっきの…そんなに気にすることないからね?人間と一緒よ、何かたまたま気になることがあって怖がってるだけ、だと思うから。ボビーは単純な奴だし、何日か村で顔を合わせてればすぐ見慣れるわよ」

その証拠にジャックちゃんは全然平気でしょ、と笑い飛ばす。

クルルはそれを聞いて一瞬嬉しそうな顔になったのだが、すぐまた物悲しそうに目を伏せた後で俺を見つめた。

「オレと一緒に、いなければ、ジャックは、他の猫と、仲良く…?」

「う…」

ボソボソと呟いたクルルに、きまずそーに呻くキャシー。村の猫達に逃げられたのも気にしてるな、これは。


しかし、確かに試してみる価値はあるか?だがそれで上手く交流できて猫友が出来たとしても、クルルがよけい落ち込むのは間違いないだろうし。

なんか、気が進まないな。


誰にでも懐っこい動物が、自分にだけ懐かないってのは、多分相当ショックだろうなぁ。経験がないから分からないけど、俺だったらちょっと泣くかもしれない。

陰気な空気を醸し出しながら俺を撫でるクルル。キャシーもだんだんつられて悲しくなってきたらしく、泣きそうな顔でおろおろしてる。

どうしたもんかと思いつつ、とりあえず必死にクルルに元気出せ!とアピールをし続ける俺だった。

しゃべれないし、筆談しようにも文字が書けないし。何も出来ない毛玉の身が虚しい。



 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



文机で手元の古い本に目を落としながら、左手で傍らをゴソゴソと探る。たしかこの辺にあったはず、目が悪いのはどうにも面倒で困る。

小さい物入れの中は色々な物でいっぱいだったが、目当ての物はなかなか見つからない。むぅ。

眉間に皺を寄せながら苦戦していたら、トントンと肩を叩かれた。

「ライ、これか?」

「おお、ありがとう」


差し出されたのは、薄く半球状になったガラスに枠と持ち手をつけたもの。

“ムシメガネ”という、繊細な細工の施されたそれは、聞くところによると異世界から伝わった物らしい。


この世界の技術で同じものを量産出来ればいいのだがかなり難しいらしく、職人は数人しかいない。さらに近年、物語の中で記述があったことから噂が広がり、希少価値だけがいたずらに上がっている。


これを使えば、小さな文字も大きく見えるのだ。ムシメガネを片手に持ち、本のページを捲る。おお、はっきり見える。


自分のように視力が大幅に低下したものにとっては誠にありがたい道具である。

これを参考にして作られたメガネというものもあるのだが、それはさらに高級品な上、洒落者の貴族に人気が出てしまい常に品切れになっている。本来は目の悪い者を助ける道具だというのに、全く貴族という生き物はワガママだ。


「うーむ、やはり似たような話は載っとらんか」

「朝から何を真剣に調べているんだ?こんなに散らかして、足の踏み場もないじゃないか」

「後で片付けるから気にするなぃ」

「おいおい…」

苦笑いしつつ、床に散らばった本を拾ってせっせと本棚へ戻してくれているのは、古くからの友にしてこの村の村長であるディーノである。

若い頃からそうだが、きれい好きでマメな性格をしていて散らかった部屋を見ると片付けずにはいられないという、難儀な奴だ。まぁ、せっかく来たんだから存分に片付けていっていいぞ。


「で?この大量の資料から調べものは見つかったのか」

「うむ、見つからぬ」

なんともすっきりしない、もやもやした気分だ。

本から目を離さないワシの様子を見て、ディーノも足元の本を数冊手に取った。

「…隷属の魔道具大全、魔力の原理、慢性魔力枯渇からの復活?なんだこりゃ」

本のタイトルを確かめて眉をしかめた。元々深い皺の刻まれた額にさらに皺がよる、こうして見るとこやつも年をとったものだ。


家には今までに集めた魔法に関する本や諸々の文献が山ほどある。

あまりにも増えたので、普段読まない物はアイテムボックスにつっこんであった。今はそれを引っ張り出しているため、本棚に全部は入りきらないのは明白だろう。また分類しておかねば。


「ワシが連れてきた子供、おるじゃろ?猫人の、顔に傷のある」

「ああ、あの子か」

「隷属の首輪をつけとったんだが、妙でな。ああいったものは着用者の魔力で作動するばかりか体内の魔力を無駄に放出させて衰弱させ、長くつけたままにしとくと寿命が縮むか死んでしまうのが一般的じゃろ。だがあやつは10年もつけておいて特に弱った様子もない。飯を食ってないせいで、ひどく痩せてたくらいじゃ」

ワシの話を聞く内、ディーノもその異様さに気がついたようで腕を組み考え始めた。

「…話に聞いたくらいで詳しくはないが、確かにおかしいな。奴隷の突然死が多い一番の理由だし、魔力と生命力は密接に繋がっているはず。もしや、後で突然影響が現れる可能性も?」

苦々しく思いながら深く頷く。


そう、それが恐ろしいのだ。

今はなんともなく見えても、体の中がどうなっているのか今の自分には判断がつかない。

うーむ、つくづく不便だ。

「昔はたいして気にもとめていなかったが。魔力感知というものは便利だったんじゃなぁ、集中して見れば大概の異常はすぐ見抜けたからのー。今の、道具頼みの魔力感知ではなんも分からん」

はぁとため息をつき、机に広げた本のページに顎を載せた。

さすがに目が疲れたわい、こめかみが重い。茶でも淹れるか。


机に突っ伏したワシを遠慮がちにちらちら見ながら、ディーノが何か言いたそうにしている。おっさんがそんな風にもじもじしてても可愛くないぞ。

「あー、一応聞いておきたいんだが、子供達に話はしたんだよな?」

「なんの話じゃ」

「いや、村の…アレの計画が前倒しになっても、子供らへの話はギリギリになってからする!と。ワシに任せておけと言っていたろう?」


…あ。


「おい、まさか言ってないのか!子供らに早めに教えると混乱させるとか言うから、みんな苦労してバレないように準備してきたのに!?どうすんだよ、もう冒険者が一組来ちまってるぞ!」

おおう、まずい、すっかり忘れていた。子供らへは教会でまとめて説明するつもりだったのに。

「はぁ、まあ仕方ないか。キマイラ騒ぎがあったしな、お前一人に全部任せるようなことになって悪かったよ。子供らへは各々の家で夜にでも話すよう伝えておくさ」

「す、すまんのぅ」

問題は解決したが、ワシの村の中での信用がちょっと傷ついたかもしれん。



ちょっと不安になりつつも手元の魔法ランプの魔石に触れ、明かりを消す。

これは魔道具の一種で、魔力を全く持たない人にも扱えるかなり特別な品だ。

一般的な作りの物だったら、この魔石部分に魔力を少しだけこめる必要がある。人間であるならみんな、ほんのわずかでも体内に魔力があるのが普通だから。


ランプの明かりが消えると、室内は薄暗くなる。暖炉には火を入れていない、やはりこの時間になると手元が見えないな。

「やはり…その、魔法は」

少し間をおいて遠慮がちにディーノがぽつりと呟いた。

久しぶりに聞かれたな、昔はいやというほど聞かれた言葉だ。

「使えぬよ。今は魔石頼みじゃが、昔蓄えておいた分とガルムのお陰であと数十年は安泰じゃ。あんなもの不用だと思うとったがとっておくものじゃな、ほっほっほっ」


魔力量が大きい大粒の物だけ数えても、一財産である。あらゆる属性の石をアイテムボックス内に貯めてあるが、小粒の物も含めて金額に換算するとどうなることやら。


重い気配を感じて顔をあげると、ディーノが俯いて唇を噛んでいた。ふうむ。

「お前が気にすることはない、さすがに馴れたしの」

「あれほどの大魔法を一日中でも使い続けていられたのに…女神様も本当に意地が悪い…」

「ほれ、迂闊な事を言うでない、女神教のお偉いさんにでも聞かれたらコトだぞ。まーあれじゃ、仲間内でも一番暴れたんじゃし、命があるだけましじゃろ」

心なしか下がってしまった奴の肩をポンポンと叩き、よっこいせと立ち上がる。

茶でも飲むかと声を掛ければ、すでに湯を沸かしてあると言われた。さすがマメ男。


「それにしても、気になるのぉ」

「あの猫人の少年か。神官殿がいれば診てもらえたんだが、タイミングが悪いな。ま、俺達大人が用心して見ててやるしかないだろう」

「そうじゃの」


さて、一休みしたら次はまた会議だ。

ワシが戻ってから犬や猫が怯えているとあちこちから相談が来とるし、村の外で次の任務にあたる騎士達は盗賊の見張りも続行中。村の解放もついに始まり、初の一般冒険者が来たところだし、と。問題事には事欠かないな。


歩き出そうとしたら目の前がすーっと暗くなる。だがこんなのはいつものこと、慌てずそのまま落ち着くのを待つ。


この慢性魔力枯渇状態になってから早10年、ずーっと貧血ぎみだ。急に立ち上がるとクラクラしたり倒れたりする。

怪我や病気の回復も遅いし、魔道具を使えばいくつかの魔法も使えるのだが、やはり自前の魔力で使うよりも効果が鈍いし、使い勝手も悪い。

始終体が重くて頭もぼーっとしているし、馴れたとはいえ季節の変わり目などはしんどいものがある。地味に消化器官が弱っているのも辛い。



ふと、体が辛いときは一緒に笑いあっていたことを思い出した。二人して笑っていると不思議と痛みや苦しみが気にならなくなったな、今となっては懐かしい。


ワシと彼女は似た悩みばかり、始めは互いに杖をつき支えあって歩いていたものだ。

体が多少馴れてきてからも、これらの症状は改善されることはなく。それはそれは苦労をしたものだ。

思い出せばもう昔の話のようだ。彼女と過ごした日々を思い出し、無意識に微笑みを浮かべていた。


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