第9話 中間試験① 始動
梅雨の6月、須磨伊里高校では中間試験が行われる。
それは従来の筆記試験では無く、普段の学校生活、授業態度、定期的に行われる小テストの結果で総合的な内申点を評価する仕組みである。
内申点のうち、「1」が1つでもあった場合は即、補習対象となり、「2」が2つ以下で残りは「3」以上が合格ラインとなる。
補習対象となった生徒は、中間試験後の合宿に参加することはできない。
合宿では、リゾート地に宿泊し、1週間の自由行動が認められる。
費用は全て学校側が負担し、生徒達は無料で豪遊することができ、まさに、至福の時間である。
そのため、生徒たちはその合宿に参加したいがために、普段から真面目である。
――教室で、星明は考えていた。
「総合的な内申点が3以上であるなら問題は無い。合宿に行けない生徒って美咲さんや許斐先輩みたいな暴走族じゃないと……」
星明は普段から真面目であるため、内申点に問題は無い。
だが、成績発表までに問題行動でも起こせば、内申点は大きく変動する。
「以前みたいに、露苦出無子の奴らが来た場合は、暴力行為は避けないといけないな。」
成績発表まで残り10日、問題を起こすことなく、星明達は合宿に参加出来るか試される。
――中間試験終了まで後10日――
星明のいる3組の教室で、星明は近藤と中間試験について話していた。
「そういえば、近藤は成績は大丈夫なのか?」
「はんっ!何を言う星明!!俺はこう見えて、勉強はバッチリだぜ!!」
カバンからテストの解答用紙を取り出した近藤は星明に点数を見せつける。
「なっ!87点から100点まで高得点揃いだ……!!」
「へっへっへっ、こう見えて俺は頭脳明晰何だぜ?いいか星明、頭が良い男はモテる!!」
予想外な事に、近藤は賢いようだ。
恋愛の時はバカになるが、勉学が出来るのはモテ要素としては十分だ。
「マジかよ近藤……カンニングを疑った自分が情けないぜ……」
「勉強さえ出来れば!!いつか黒音を堕とせる!!そして、ゆくゆくはっ……!!」
「いつまで黒音の事を引きづってんだ、もう諦めろよ。」
そう、俺は黒音の本性を知っている。
黒音が近藤を思わせぶりの態度で接しており故に、近藤の告白を何回受けても、黒音は近藤を嫌うことはない。
黒音は近藤のことを弄んでおり、いつか切り捨てられ、次のおもちゃは自分となる。
黒音からこの事を話せば、俺は殺されてしまう。
「合宿、楽しみだね♡2人とも!!」
後ろから黒音が話しかけてきた。
「黒音!?びっくりさせんなよ……」
「おう黒音!!合宿時はみんなで集まってゲームをするぞ!!王様ゲームだ!!」
「うん!それはとても楽しみだね!!約束するよ!!星明君もどう?」
「いや、俺はいいや。けど近藤、王様ゲームは辞めといた方がいいと思うぞ?」
少なくとも黒音が王様を引いた時は、ヤバいことを命令するに違いない。
「残念だね、それよりも勇気君、次の時間ノートを貸してくれない?前回の授業の課題を終えれてないんだ……」
黒音の上目遣いのお願いに、近藤は鼻息を鳴らす。
「当然だ!!いつでも返してくれればいい!!」
「待て近藤!!」
俺は渡そうとする近藤の腕を掴んだ。
「星明君……?どうしたの急に。」
「な、なんだ星明……」
「2人、同じクラスだったよな?次の授業でノートを貸せば、忘れ物として近藤の内申に響くぞ。」
星明は同じ科目のノートを取り出して黒音に渡した。
「星明、お前……」
「本当にいいの?星明君は最後の時間だけどそれまでに間に合うか分からないよ?」
「大丈夫、その時はその時だよ。」
「分かった!!じゃあ遠慮なく貰うね!!ありがとう!!」
黒音は喜びながら自分の教室へ戻って行った。
だが、近藤は気に食わぬ顔で星明に問いかける。
「おい、どういうつもりだ星明。」
「ん?どういうつもりって何だよ。」
「ふざけるな!!俺ができる男だって事を見せたかったのにお前は!!」
「落ち着け!!近藤の内申点を思っての行動だ!!黒音の事は俺は興味は無い!!」
「んなこたぁどうでもいい!!俺の見せ場を奪おうってんなら、俺はお前を許さない。」
そう告げた近藤は、教室を出た。
……悪い事をしたな近藤、だが黒音がそろそろ何か仕掛けてくるんじゃないかとみて念の為に対策しておいた。
本当に、準備しておいてよかった。
――星明のカバンには、同じノートが入っていた。
星明は黒音が中間試験という時期に、何もして来ないはずが無いと仮定し、授業内容と課題を2冊目のノートに全て丸写ししていた。
これにより、黒音が近藤からノートを借りる事になった際、自分から渡すことが出来れば忘れ物にはならず、内申点には影響しない。
「黒音、お前が何考えているのか分からないが、近藤を傷つけるつもりなら全力で阻止させてもらう。」
――5限目終了後――
黒音からノートを返してもらった。
「本当にありがとう!!今日出来なかったら内申点に影響してたところだよ。」
「そう……なら良かった。近藤は、やっぱり怒っていたのか?」
「勇気君、ちょっと不機嫌そうだった。
ところで星明君、何で同じノートを持っているの?」
……しまった!!いつものようにノートを取り出している!!
いいや落ち着け……勉強好きならノートをもう1冊持っていてもおかしくはない。
それで誤魔化せばいい。
「いやこれは、復習のためにもう1冊持っていたんだ。こう見えて勉強は必死なんだ。」
「ふーん。なら今日返さなくても別に良かったね。」
「ま、まあ……それもそうだな。」
「そう、じゃあ私は行くね!!」
黒音は戻って行った。
だが今日だけでは黒音の攻撃はおそらく終わらないだろう。
「なんか、見透かされているような気がする……」
星明の疑惑は、間違いではなかった。――
――黒音は女子トイレに入り、我慢していた笑みを浮かべる。
「フフっ、アーハハハハ!!すごいわ!!全部私の計画通り!!
星明君がノートを2冊持っていたことは意外だったけど、おかげで勇気君と星明君の仲に亀裂を入れることに成功した!!
でも大丈夫!!2人の仲はちゃんと元通りにしてあげるから!!」
黒音は、その後何の変哲もなく教室に戻る。
黒音の手から近藤を守る星明、2人の友情を崩そうとする黒音。
2人の戦いは、もう既に始まっていた。




