第10話 中間試験② 万事休す
須磨伊里高校中間試験の内容
・試験内容は学校生活、授業態度、小テストの成績などの内申点の総合で評価される。
・評価「1」が1つでもあれば補習対象となる。
・評価「2」が2つ以下、残りが評価「3」以上で合格とする。
・合格者は1週間の自由行動、豪遊が認められる「合宿」に参加できる。
――合宿について――
須磨伊里高校が提携するリゾート地への1週間の宿泊である。
費用は全て学校側が負担し、生徒は自由に無料で豪遊出来る。
補習対象となった生徒には、合宿への参加は認められない。
つまり中間試験とは、合宿に参加する生徒を見極める試験である。
中間試験終了まで残り9日、星明は黒音が近藤に何か仕掛けて来ると考えており、黒音は星明と近藤の仲を切り裂くことを企んでいた。
夜、星明は今後の黒音の行動について必死に考えていた。
「一体、黒音はどんな手を使ってくるんだ。
ノート作戦は成功したと思いたいが、彼女に見透かされていた気がする……」
――ヴーッッ!!ヴーーッ!!
星明が黒音への対策に頭を悩ませていると、携帯に着信が鳴った。
「誰からだ??」
知らない電話番号からだった。
星明は恐る恐る、電話に出た。
「はいもしもし……」
「私だ、吹雪だ。」
生徒会長の吹雪からの連絡だった。
「吹雪会長どうしたんですか?こんな時間に。
というか、どうやって連絡先知ったんですか。」
「すまないが、今その質問に答えている余裕は無い。緊急事態だ、すぐに学校に来てくれ。
安心しろ、門は開けている。」
――ツー……
吹雪会長の電話は終わった。
星明はすぐに制服に着替えて、学校に向かった。――
――須磨伊里高校――
夜の校舎は緊急時もあったせいか、かなり不気味に見える。
吹雪会長の言う通り、門は鍵がかかっておらず、扉も開いている。
星明は生徒会室まで難なくたどり着いた。
「失礼します。」
生徒会室には吹雪会長だけだった。
「意外とすぐに来てくれたか、早速だがこれを見てくれ。」
吹雪は学校の予算が書かれた書類を星明に渡した。
「これは……今年度の予算案ですが……」
「そうだ、君が休んでいる間に私がまとめたものだが、どうにも数字が合わないんだ。
恥ずかしながら、私は数学が少々苦手でな。それも期限は明日までだ。どうしても君には手伝ってもらいたかった。」
書類は全部で6枚、各項目の数字を見直すと確かに誤りがあった。
「任せてください。本来は俺がやらなければいけなかったこと。吹雪会長のミスは俺が拭いますよ!!」
「ありがとうせいめい。この恩は必ず返そう。」
星明は早速作業に取り掛かった。
――時刻は深夜2時――
訂正し、完成させた書類を吹雪会長に渡した。
「本当にありがとう、これで合宿への費用も問題は無さそうだ。」
「あれ、もしかしてこの予算案を訂正しなかったら合宿は行けなくなっていたのですか?」
「いいや、この学校は元々資金力のある学校だ。だから合宿という豪遊イベントも毎年行うことが出来る。」
「では何故、この時間まで居残りを……」
「データの漏洩を防ぐためにだ。緊急事態と君に伝えたのも、この書類には確かに誤りがある。
この誤差は必ずどこかで大きな損害となる。
ましてや合宿前に、この学校の資金が流出したとなれば、合宿は中止だ。」
……確かに、この学校のセキュリティ面はとても強固なものだが、誰かが意図的にセキュリティを解いたとしたら?
豪遊出来るほどの資金を流出は絶対に避けなければならない。だから吹雪会長は予算案のデータと実際の金額をこの時間まで見直していたんだ。
「でも吹雪会長、なぜ氷河副会長に頼らなかったのですか?あの人は自分より成績良かったはずです。」
「そうだな、今回君を呼んだのは今から話すことが本題だからだ。
これを見ろ、この学校の監視カメラの映像だ。」
吹雪会長が見せたパソコンの画面の映像、そこには黒音の姿が映っていた。
「これは、黒音……浦原黒音という他クラスの女子ですよ。」
「そうだ、せいめいと同じ学年のな。そして続きだ。」
映像には、黒音が職員室に入っていき、そこから数十分後に出てきた。
「黒音が呼び出された……??でも彼女はそんな問題行動を起こすような事は……」
「問題は、その黒音が職員室を出てきてからだ。私は予算案のデータを見ていたら、明らかに書き換えられている数字に変わっていた。
この時間、職員室には誰もいなかったことは確認している。
誤差が生じたのも、彼女が原因だと思わないか?」
「……黒音の性格については、あまり話せません。正直、この映像だけで黒音が改竄した犯人だと決めつけるのは難しいでしょう。」
「そうか……せいめいが彼女の事を話せないのなら仕方が無いな。
理由はともあれ、彼女が職員室に何らかの用があって入っていったことに変わりはない。
彼女は私から話しておこう。」
「いいんですか?黒音は何考えているのか分からない人ですよ。」
「問題は無い。」
吹雪会長のその一言で、自分からはそれ以上何も言えなかった。
ともあれ、本当に黒音が予算案を改竄したというのか?
なんの意味があって……
「ひとまず、仕事は終わりだ。君には助けられた。特別に家まで一緒に付き添ってやろう。」
「そ、そんな大丈夫ですよ。むしろ吹雪会長の家までついて行って送ってあげたいぐらいです。」
「本当に……お前と言うやつは……」
吹雪は突然、星明を抱きしめた。
「会長ッ!?いきなり……どうしたんですか!!」
「すまないっ!!私は我慢ならなかった!!君といういい男が!!君は本当に健気だな!私はもう、手を出さずにはいられなかった♡せいめい♡何なら家の中まで入れてやってもいいぞ♡」
ま、まずい、吹雪会長の息がどんどん荒くなっている!!会長に声をかけても聞こえていない!!
「吹雪会長落ち着いて!!まずいですよ!!」
「何がまずい?♡私では不満なのか?♡私もう我慢ならないのだ♡」
吹雪の力はだんだん強くなっていく。
だが力比べではやはり星明の方が上だった。
会長の力を押し返し、壁に押さえつける。
「な、なんだ。せいめいもやる気十分ではないか♡いいぞ……好きなだけ……」
「本っ当に勘弁してくださいよ、俺は……
あれ?吹雪会長?」
吹雪は、気を失っていた。
というより、眠りについたようだ。
「吹雪会長……眠ってしまった。」
吹雪会長の寝顔を見るのは初めてだが、こうも美しい顔で無防備な状態だと、理性を保つことは難しくなってくる。
「とりあえず、移動させよう。」
星明が吹雪を抱き抱えると、扉から人の気配を感じた。
「だ、誰かいるのか!?」
「私だよ!星明君!!」
気配の正体は黒音だった。
「く、黒音……!?お前……何でここに。」
「私は夜中にランニングをしているんだけど、たまたま校門が開いていて生徒会室の明かりがついていたから、覗いたら星明君と会長が♡」
「待て、本当に意味が分からない。なぜお前がここにいる!!」
黒音が近づこうとする度に、星明は1歩離れる。
星明の心拍数は徐々に上がってきた。
「やけに怯えてるね。私の話でもしていたのかな?」
「質問に応えろ!!なぜここにいるんだと聞いている!!」
星明はあまりの恐怖に、黒音に敵意をむきだしてしまっている。
「怖い顔、そんな声出したら会長起きるよ?
そんな事より、さっきの会長とのやり取りを動画に残しちゃったんだけど、これを切り取ると、明らかに星明君が会長に手を出しちゃってるような写真になるよね。
これはバレたら当分は学校行けないかもねえ。」
「それは……違う!!そんな事を俺は!!」
「あ、ごめんごめん!!星明君はそんな悪い人じゃないことは皆知ってるよ!
でも、会長に手を出したとなれば一部の人間は黙ってないんじゃないかな?」
「黒音……何が目的だ、俺をどうする気なんだ。」
「星明君の弱みを握っちゃった事だし、この中間試験で私の邪魔をしないでもらえるかな?」
黒音の要求は、実質星明の降伏。
それだけだった。
「黒音……俺が悪かった。頼む……その動画は消してくれ。」
星明はあまりの状況の不利に、膝から崩れ落ちた。
「そんなに心配することはないよ。ただ残しておくだけにしておくね?星明君可哀想だから♡
それと、職員室に入っていったのはわざとだよ?
星明君が生徒会だから、会長か誰かしらから私のことを星明君から聞き出すんじゃないかと思って怪しい行動をしていたの。」
まるで、黒音の理想通りに事が動いている。
このままでは黒音に勝つことは出来ない。
もはや弱みを握られたまま合宿なんて、とても楽しめるもんではない。
「それじゃ星明君、中間試験最後まで頑張ろうね!!」
黒音は生徒会室を去っていった。
「クソがぁぁぁ!!俺はっ!!俺はっ!!」
星明は地面に頭を何度も叩きつけ、しばらく立ち上がれなかった。
「大丈夫かせいめい、らしくないじゃないか。」
吹雪会長が目覚めて、星明に語りかけた。
「吹雪会長……すみません、俺は……」
「全く、黒音という人物がどういうやつのか分かった。恐ろしい相手だな全く。」
吹雪はスマホを取りだして星明に見せた。
「これって……録音??」
「そうだ、一部始終をしっかりと録音出来ている。つまり、君の冤罪は晴れるって訳だ。」
「なんですかそれ……ですが……もう黒音には勝てないですよ。彼女は本当に、手強いんですよ。」
「相当、追い込まれたみたいだな。だが今日の相手は、生憎と私がいたから良かった。
せいめいから黒音の話を聞いた時から録音を開始した。そうしたら本当に黒音が出てきたから無理に目を覚まさずにいて良かった。」
吹雪会長の抱きつきは、おそらく演技だったのだろう。黒音がここに来ると読んでいるなんて考えもしない。
だが、1枚上手で行かない限り彼女に勝つことは出来ない。
「すみません吹雪会長……俺は、まだ諦めたくないです!!」
「そうか、やれるのか?」
「会長のその録音は、念の為に削除しておきましょう。」
「……!!なるほど、君がそう言うなら録音は削除しておこう。」
吹雪会長は、録音を削除しなかった。
「ありがとうございます。これでもう、俺は黒音には戦えないですね。」
「らしくないな、ひとまずこの時間だ。早急に帰ろうか。」――
――吹雪はタクシーを呼んで、星明を自宅まで送った。
「ありがとうございます。これで遠慮なく彼女と戦えそうです。」
「ああ、困ったことがあればいつでも頼ってくれ。信じているぞ。」
吹雪を乗せたタクシーは発進した。
一度は詰みかけた場面だったが、吹雪の録音がある限り、状況はさほど不利ではない。
録音を削除したと言ったのは、まだ黒音が生徒会室の前に居るかもしれないと考えたからだ。
実際、校舎は誰もいなかったが、吹雪会長も察したのか、嘘の演技で通した。
もはや黒音への対策には可能性というものがある限り、その手段を潰していかないと彼女には勝てないだろう。
だが、黒音が今回標的を俺にしたのは少し気になる。
近藤はまだ彼女に潰されてはいない。
黒音に勝つ鍵が近藤にあるとするなら、彼女の狙いはおそらく……!!
「人間関係の亀裂!!」
俺がノートを渡した時も、吹雪会長への押し倒しも、「星明」という人間の信頼への攻撃!!
黒音の企みが何となく分かってきた!!
おそらく次の一手は……!!
――中間試験終了まで残り8日
星明は、黒音に反撃するために、大胆な手段を使う。――




