第8話 別にあんたのことなんか
百合の秘密を知った星明は、過去の事件から閉ざされていた百合の心を解放させること成功。
溜まりに溜まっていた百合の闇は、涙となって溢れ出た。
「いつまで、抱きしめてんのよバカっ。」
「はっ!すいません!!調子に乗りすぎちゃいましたかね……」
先輩であろうと、目の前で泣き崩れる女子を前に抱擁しない訳にはいかなかった。
……が、雰囲気に飲まれてしまったようだ。
「それで、大会の事はどうするのですか。」
百合は過去のオーバートレーニングと生徒会の仕事による過労の影響で、大会出場が危ぶまれている。
出場するには、生徒会の仕事を休み、リハビリに専念する他無い。
「……辞退するわ。」
「なっ!!取り下げるんですか!?貴重な大会を!!」
「まだ来年が残っているから大丈夫よ。それに、今のコンディションで出場出来たとしても、恐らく3着に入れるかどうかも怪しい。」
「……神崎先輩がそう言うなら、話してきます。これからは生徒会に専念を?」
「そのつもりだけど、今は完全回復するまで生徒会も休むわ。
今になって、私の身体中から悲鳴が聞こえるのを感じる。
自分で管理しておきながら、気づかなかったなんて、ほんと……」
百合は自分の体の悲鳴に気づかないほどに、弱い部分を隠し通していたのだろう。
あと一歩遅かったら、恐らく百合の選手生命は完全に潰えたであろう。
力が抜けた神崎先輩は、だいぶ楽になっているはずだ。
「神崎先輩、表情が柔らかくなりましたね。」
「急に何言ってんの、キモイんだけど。
……まあ、色々と軽くなった気がするのは間違いないわ。
あんたに感謝するわ、どうもありがとっ。」
「それはどういたしまして、自分はこれで失礼します。応援してますよ先輩!!」
「うっせバカっ。」
星明が保健室を出たあと、百合はしばらく布団に籠っていた。――
――翌日、生徒会室――
俺は吹雪会長に、神崎先輩が大会を辞退し、生徒会もしばらく欠席する事を伝えた。
「本当に、百合がそう言ったのだな?」
「はい、恐らく本当に限界だったのでしょう。俺でも分かるぐらいに、疲労溜まってましたから。」
「そうか……せいめい、百合はああ見えて優しい子なんだ。しっかりと、生徒会としての関係性を深めてくれ。」
「はい!!……ところで吹雪会長。」
「どうした、せいめい。」
俺は、一つだけ気になる事を吹雪会長に質問した。
「吹雪会長は、この須磨伊里学校で中学で起きた事件を知っているんですか?」
吹雪会長には神崎先輩の過去は話せない。
だが、警察も介入するほどの騒動で生徒の事を考えてる会長なら、把握していてもおかしくはない。
「事件か……詳しくは知らないが、水泳部で暴力行為が発生した事件ならあった気が。」
「そうですか、ありがとうございます。」
「何か気になることがあったのか?」
「いえ、なんでもありません。それでは失礼します。」
星明は生徒会室を出た。
――中庭――
星明は1人、ベンチに座って考えていた。
……吹雪会長は事件の事はやはり耳に入っていた。だけど詳しくは知らなかった。
もし、詳細に知っているのなら、吹雪会長の生徒を思いやる性格なら、高校の地区大会で出会うまでに、神崎先輩と会っていたはずだ。
考え事をしている星明に、後ろから誰かが飛びかかってきた。
「ぶわっ!?」
「よう星明!!怪我は治ったみてえだな!!」
「許斐……先輩!?なんでこんな所に……」
「何でって、私もこの学校の生徒だからだよ馬鹿野郎。
あー以前会った時は特服だったからな!!」
ミニスカートの制服カーディガン姿の許斐先輩は新鮮だ。
許斐先輩は、先日の露苦出無子高校との一件で知り合った。須磨伊里高校の暴走族レディースの副総長だ。
露苦出無子との一件で、本心かどうか分からないが、どうやら俺の事を好きになったらしい。
「んで、まーた悩み事ですかー?らしくねえなぁ。」
「大した事じゃないですよ。ただ……っ!!」
星明は一つ気づいた。
「許斐先輩!!須磨伊里中学で起きた暴行事件ってご存知ですか!?」
「うお、どうした急に……それなら知ってるぜ、古井 防力が起こした事件だろ?」
「……!!その人って水泳部の顧問とかでしたか?」
「確かそうだったような気がするぜ、あいつマジでキモかったからなあ。
特にあの警察への暴れっぷりはヤバかったぜ。」
「普段からあいつは女子のスカートやらおっぱいやらチラチラ見てたんだよ。
視線がもうバレバレっつーの?いつ手出されるかヒヤヒヤだったぜ。
んで、クビになったそんな奴を美咲さんは捜して古井をボッコボコにシメちまったんだ。」
「その人がどれだけ嫌われてたかがわかりますね。」
「ま!そんなクソみたいな奴の話しよりさ、ちょっと付き合えよ!!どうせ暇なんだろ?」
「いやこの後俺……!!」
許斐と星明の前に、誰かきた。
「せいめい?何やってんのこんな所で。」
「っ!?神崎先輩!?足は……」
「リハビリ中だけど、この状況、何?」
「なんだ百合じゃねぇかよ。」
「えっ2人は知り合いですか!?」
「知り合いっていうか、幼なじみだぜ。」
許斐と神崎は、小学校の頃からの付き合いらしい。
「で、音娘が随分とくっついているけど邪魔したようね。」
「いや神崎先輩、これは……」
「あー……悪い百合!!私は星明を狙ってたんだ!!」
「許斐先輩それ結局本気ですか!?」
「……?本気じゃ無かったら抱きついたりしねえよ。」
「へぇー、せいめいは昨日、私の事襲った挙句抱きしめてきたのに?」
「星明お前まじか、女子に、怪我人に手ぇ出す奴なのかよ。」
「違いますって!!俺は女子に暴力は振るいませんって!!」
「そりゃそうだぜ!!百合!!そんな訳で星明は貰っていくぜ。」
「せいめい、昨日あんたがやったこと、私忘れないから。」
「やっぱり行くとこまでやったのかよ。」
「あぁもう!!いい加減にしてください!!俺は神崎先輩が泣き崩れてたので抱きしめました!!それだけですよ!!
許斐先輩も、早く離れてください!!解ける誤解も解けませんよ!!」
「ちぇッ、わーったよ。」
許斐は星明から離れた。
「ま、私も美咲さんの所に行かなきゃだし、邪魔したな!!」
許斐は颯爽と去っていった。
「……神崎先輩、本当にあれは何でもないですから。」
「別にいいわよ、あんたは何も悪くない。
けど、満更でも無さそうなあんたを見て、やっぱりキモイと思ったわ。」
「神崎先輩、俺は……」
「別に、あんたのことなんか信用出来るって思った訳じゃないし、あれとこれは別。
別に、あんたのことなんかどうでもいいと思ってるから、恋愛とか好きにすればいいじゃない。」
……怒ってる、間違いなく怒ってる。
神崎先輩は動揺して無理やり強者の時を装っている。
だけど許斐先輩と幼なじみと聞いて、俺は一つだけ確認したかった。
「……一つだけ聞かせてください。許斐先輩には、どうして頼らなかったんですか?
やっぱり、見せたくなかったからですか?」
「……音娘には心配かけたくなかった。それだけよ。」
百合はリハビリに戻って行った。
ベンチに座った星明は空を見上げた。
「なんか……思っていたよりも、この学校は色々あるな。」
彼女を作るために入学した星明だったが、星明は彼女作りよりも、須磨伊里高校の抱える問題に、気になっていた。




