第6話 星明と百合の悩み
露苦出無子高校との一件から、星明のキズは治っていった。
「はい、これで無茶しても大丈夫。」
星明は保健室の担当「奥田 愛理」先生に、完治してもらった。
「助かりました愛理先生。」
「良いのよ、保健室なんて常に暇なんだし、サボりに来る生徒もたまに来るぐらいだし。
それに……サボりに来たのが男子だったら、しっかりと教育しなくちゃね!!」
「流石にそれはまずいですよ……」
愛理先生は、全男子が注目するぐらいのスタイルの良さで、とても優しい。
だが彼女の欠点は、年下好きであり時折、男子生徒に手を出してしまうこともあるらしく、襲われた男子は、その事を覚えていないらしい。
よって、保健室にサボりに来る生徒は、女子が多いのだとか。
俺はいつ、愛理先生に襲われるのかと構えていたが、完治するまで何もされなかった。
おそらく、正当な理由で保健室を利用する男子には手を出さないかもしれない。
「ほんと、無茶したらダメよ?ここは病院じゃ無いのだから。」
「はい……気をつけます。」
コンコンッ
と、誰かがドアをノックした。
「失礼します。神崎百合です。」
「神崎先輩!?どうしてここに……」
「どうしてって、怪我をしてるからよ。」
「彼女、この間生徒会の仕事で、階段から落ちてしまってね、足を痛めてしまったのよ。
打撲で済んだから良かったけど、骨折とかしてたらねえ?」
「先生やめてください、彼の前であんまり……」
神崎先輩は、階段から落ちてしまい、左足を打撲していた。
そのおかげで、彼女は水泳の練習を休むことになってしまい、生徒会の仕事に専念していた。
「神崎先輩、すみません!!自分が動けなかったばかりに、先輩に仕事を任せてしまって!!」
「いい、せいめいは悪くない。吹雪会長からのお願いだったから。」
星明が休んでいる間、吹雪は百合に星明が果たせなかった仕事を任せていた。
「とりあえず、今後のスケジュールの相談をしましょう。」
「ありがとうございます!!……」
……百合は星明を睨みつけた。
「あっ……じゃあ自分はこれで失礼します。」
神崎先輩の睨みの意図は理解したので、俺は邪魔にならないよう、すぐに保健室を出た。
「……先生、地方大会に間に合いますか?」
神崎は、先程とは一変して、悲しげな口調で質問した。
「幸い、出場に支障はないわ。でも、大会までの間、リハビリに専念しなければいけないという条件付きよ。」
「それって……生徒会も休めって事ですよね?」
「その通りよ。あなた、最近無茶し過ぎよ?怪我をする前でも、生徒会の仕事がない日でもフラフラだったじゃない。」
「そんな事……分かっています。でも、私は……」
神崎は口が止まった。
「私は、何?」
「いえ……何でもありません……」
「とりあえず、大会に望むなら私の言うことに従いなさい。大人の意見は受け入れるものよ。」
「……はい。」
神崎は、顔を上げなかった。――
――数日後、生徒会室――
「おい星明!!随分と寝てたようじゃねえか。」
「すいません、抜けた穴は必ず埋めます。」
「んな事はいい、そう言って自分も怪我してまた穴が増えるのがオチだ。仕事量は増やさせねぇ、百合の野郎の分は俺がやる!!」
「……ありがとうございます。」
心なしか、星明の元気の無さに氷河は気づいた。
「おい星明、なんでそんな暗いんだ。」
「暗い?暗いですか??」
「副会長舐めんな、あの一件の前の時もお前は静かだったが、落ち込んではいなかった。
だが今のお前は何か抱え込んでいるように見えるんだよ。」
……星明は、数秒の沈黙後、言葉を発した。
「氷河副会長、男って何なんですかね。」
「何気持ちのわりい事考えてんだテメェ。」
「男って!!喧嘩が強ければいいんですか!?力があればいいんですか!?倒れなければいいんですか!?守るべきものを守り切れればいいんですか!!
勇気があればいいんですか……」
「おい、本当にどうしまったんだ星明。」
「すいません、自分が彼女出来ない理由に、ちょっと原因を探っていたところでした。
けど、今の自分には見つけれそうにないです……」
「気持ちわりーし意味分かんねえ、俺が言えんのはあんまりごちゃごちゃ考えるなってことだ。
いいか星明!!お前は自分が思っている以上に弱くはねえぞ!!喧嘩でもなんでも!!
俺や美咲らに言われたぐらいでへこたれるようじゃぁ、彼女なんてのはそうそうに出来ねえぞ!!」
「……っ!!氷河副会長……」
「お前の強さは図太い執念だろ。過去に何があったかは知らねえが、本気で彼女作りたいという思いでこの学校に入ったんだろ?
お前の強み、もっと活かせば美咲にも勝てるぞ。」
「それは言い過ぎですよ。でも、ありがとうございます。何となく吹っ切れました。」
「しっかりしろ、二人のメンタルケアなんかごめんだぜ。」
「2人……?神崎先輩もそこまで落ち込んでいるんですか?」
「ったり前だ。生徒会の仕事で負傷したおかげで、今回の大会出場の危機って所だ。
もちろん、大会出場辞退ってだけなら多少は落ち込む事もあるだろうが、百合の場合はそんなもんでは無いらしい。」
「氷河副会長!!仕事は全て済ませたのであとはお願いします!!」
星明はすぐに生徒会室を出た。
「待て!!おま……ちっ、病み上がりだって言うのに、もう終わらせやがった。」
生徒会を出た俺は、真っ直ぐに保健室に行く。
神崎先輩の信頼を得るためにも、この大会は大いなるチャンスだ。
――保健室――
「失礼します!!って吹雪会長!?」
「せいめい、怪我はもう大丈夫なのか?」
「何しに来たのよせいめい、私と吹雪会長との時間を邪魔して。」
「ああいや、えっと……」
慌てふためく星明を見て吹雪会長は立ち上がった。
「どうやらなにか言いたいことがあるらしい。私はこれで失礼するよ。」
「あっ……吹雪会長……」
吹雪は保健室を出た。
残った星明と百合はしばらく沈黙を貫く。
「……で!!何しに来たのよ一体。」
「神崎先輩、大会出られないんですか??」
「ま、今のままだとね。でも、しっかりリハビリに専念すれば出られるわ。」
「それなら、良かったです。でも、神崎先輩は何か、別のものを背負わされてるような気がします。」
「何?私の素性を探りたいわけ?キモイからもう帰って。」
「……!!帰る訳には行きません!!」
「バカっ!大声出すなって……」
「神崎先輩が怪我をしたのは生徒会を少し休んでた自分の責任でもあるんですよ?
先輩はそれでも自分の分までやってもらって、そんな自分が神崎先輩に少しでも贖罪を果たしたらダメなんですか!!」
「マジで、あんた何なのよ……何が目的なの。」
百合の質問に、星明は少し照れくさそうに答えた。
「それはだって、神崎先輩、かっこいいんですもん。」
「……は?」
「大会で優勝する、生徒会の仕事も両立させる。こんな事、俺には出来ませんよ。
そんな先輩がかっこいいんですよ。かっこいい先輩の事、俺は好きですよ。」
百合は星明の一言に、顔が赤くなった。
「はぁ!?急にあんた何言ってんのよマジで!!」
「いやいや、恋愛的な意味じゃないですよ!!でも、そんなかっこいい人の役に立ちたいんですよ俺は。」
百合は恥ずかしそうにしばらく顔を伏せた。
そして、しばらくの沈黙後。
「せいめい……あんた、周りのみんなから期待されて、何かに励んだことはある?」
「……ありますよ。中学の頃、体育祭の時にリレーのアンカーを任せられて、無事に1位取れました。」
「そう……じゃあそれがもし、期待に答えられなかった事を考えたことはある?」
「それは……ありません。」
「……周りの誰にも、吹雪会長さえも言わないと約束出来るなら話してあげる。」
「いい……ですよ?」
神崎先輩が吹雪会長にさえ言えない事とは何だろうか。
誰にも言えないことを俺に打ち明けるということは、少なくとも自分を認めてくれたと受け止めていいだろう。




