第5話 癒しの保健室
須磨伊里高校で極道美咲を筆頭とした暴走族グループ「レディース」に無様にも返り討ちにされた露苦出無子高校の不良達。
――露苦出無子高校――
集会が開かれており、返り討ちにされた不良達は幹部達の制裁を食らう。
「何してくれんじゃボケェ!!てめぇら露苦出無子高校の恥晒しじゃ!!」
幹部の1人、「引導 渉」が仕切っていた。
「お前らボケ共がレディースの奴らに手ェ出されたのが原因やのに何返り討ちにあっとんじゃ。
代表しとった進藤 強志はどこいったんじゃボケェ!!」
下っ端の中から肩を担がれた進藤が出てきた。
「す、すいません引導さん。極道美咲とか言う女に一撃でやられて……」
「女がどうとかどうでもええんじゃい!!お前このしくじりはどうケジメつけんねん!!
タダでさえ弱い引導グループが、トップ2に追いつく事出来んくなったやろがい!!」
露苦出無子高校の暴走族グループは3つに別れている。
「引導グループ」「晒野グループ」「鬼道院グループ」
そして、その3つのグループをまとめる総長が「金剛 力」である。
引導グループは中でも最弱のグループであり、実力の無い彼らにとって、人権は無いに等しい。
「よりにもよってあのレディースに揃いも揃ってやられまくりやがって!!」
極道美咲率いるレディースは、1つのグループで3つの勢力と同等である。
つまり、極道美咲の実力は、総長の金剛力と並ぶ。
「ええわい!こうなったら時間かけてでも奴らの弱み探したるで!!
あっちの仲間に連絡せぇや!!じっくりと情報収集させてもらうでぇ。」
引導は不穏な笑みを浮かべて、汚名返上を企てる。
それは12月25日、後に「惨劇のクリスマス」として語られる事件に発展する。――
――須磨伊里高校 生徒会室――
生徒会長の吹雪はレディース総長の極道美咲と話していた。
この2人は正に、須磨伊里高校の表と裏の顔である。
「久しぶりすぎて、迷子になったりはしないか?」
「舐めてんじゃねぇよ。これでも総長やってんだ、方向音痴じゃあバラバラになるだけだろうが。
で、可愛い可愛い後輩ちゃんの吹雪が今や生徒会長とはな。」
「不満か?」
「いいや?むしろあんたが適任だ。今までの奴らはやる気がなかった。
将来の安定のために「生徒会長」という地位だけを得るためだけに動いていた。
でもあんたは違う、この学校の未来を見据えて物事に取り組んでいるように見える。」
「そういう事なら、あまり期待しない方がいい。この学校が抱える問題を全て解決出来る確証は無い。」
「はん!弱気になってんじゃねえよ!!安心しろ、私はお前のことを気に入っている。私が裏番張ってる限り、お前は目先の問題に集中出来る。」
「よく言うよ。本当の目先の問題は美咲だ。我が校に暴走族がいる以上の問題なんてあるか。いい加減に卒業したらどうなんだ。」
「うるせぇ!!……1つだけ言っておくよ。
露苦出無子の奴ら、今まで以上に殺気立っているから気をつけな。
私からの要件はこれだけだ。」
美咲は生徒会室を出た。
「……まだ先輩が居てくれるおかげで助かってますよ。」
吹雪は、1人小さく呟いた。――
――保健室――
気を失っていた星明と近藤は目を覚ました。
「なあ星明、俺たち、みっともねえよな。」
「何だ急に、気持ち悪い。」
「喧嘩が弱い上に、女子に助けてもらうなんてさ、あの美咲さん?の言う通りだぜ。」
「それはそうと、お前が急に特攻するからだろ。そんなの……」
「だから星明!!俺は決めたんだ!!もっと強くならなくちゃいけないんだって!!
だから俺は、筋トレをする!!
いいか星明、筋肉がある男はモテる!!」
「バカ言え、そんなの俺の方が元々筋肉ついてるってんだ。」
「でもお前すげーよな。喧嘩も俺よりそれなりに強くて、力もあって、何で彼女いねぇんだよ。」
近藤の質問に、星明は顔を伏せた。
「やめろ。それ以上は……」
「ま、別に言いたくないんならいいぜ。それでも今のお前はかっけぇと思ってるからよ。
でもな星明、これだけは一つ言っておくぜ。
お前が何やらかそうとも、過去に何かやらかしたとしても、俺はずっとお前のダチだぜ。」
「近藤……」
2人の元に誰かがカーテンを開けた。
「2人共目が覚めたみたいだね!!星明君も、勇気君も、無理しないでね?」
「なっおま!?なんでここに……」
星明はゾッとした。
「どうした星明?何驚いてんだよ。」
何故なら、浦原 黒音が目の前にいるからだ。
「黒音……なんで保健室に??」
「そりゃだって私、保健委員なんだよ?生徒の健康管理をチェックするのが私の仕事だから。」
「予想外だったか?星明、黒音は保健委員なんだぜ?怪我した俺達を治してくれる、正に癒しの保健室だぜ!!」
「ここは病院じゃないから、喧嘩は程々にね。勇気君が倒れた時、本当に心配したんだから。」
「黒音……!!心配かけちまってすまねぇ!!グスッ!!」
悔し涙なのか、嬉し涙なのかは分からないが
俺は黒音の言っていることは、少なくとも間違いではないことは察した。
「星明君も、心配させないでよね?」
屈託のない笑顔で手当する黒音、俺は彼女に悟られぬように、心臓の音を必死に隠した。
「2人とももう大丈夫みたいだから、何時でも保健室出られるからね!!」
「ありがとう黒音!!俺はやっぱりお前のことが好きだ!!」
「それは嬉しいけど、今は答えられないよ!」
「近藤……黒音、こんなバカに付き合ってすまねえな。」
「ううん!!私は役に立てたら何でもいいよ!!星明くんも、困ったら私を頼っていいからね!!」
黒音は2人の治療をした後、保健室を出た。
「じゃ、俺はお前より怪我は軽いから、お先に失礼するぜ!!」
黒音の後をついて行きたいだけだろ、と思った星明は、そのまま手を振った。
保健室に1人残った星明はもう一度横になる。
「ちくしょう……」
考え事をする星明。
バンッ!!
保健室のドアを強く開ける音がした。
「何だ!?」
「失礼するよ!!星明はどこだい!!」
「こ、ここに!!」
やってきたのは美咲と許斐だった。
「星明、お前怪我はもう大丈夫見てぇじゃねえか。もう1人は居ないのに、お前はいつまで寝込んでんだよ。」
「な、俺ももうすぐ動いたところだ!!」
「無理すんなって!!美咲さんから受けた傷は簡単に治りやしねぇよ!!」
許斐は星明を無理矢理押し倒した。
「いっ!?」
「そんな状態で、また奴らが攻めてきた時に、お前はまた守ってもらうのかよ?
今はただ休んでさっさと回復しろや。」
「な、何しに来たんだあんた達は!!」
「星明、口の利き方には気をつけろ。私と音娘は、お前より年上だ。」
「美咲さんは優しい方だろ?こう見えてあんたのことを気にかけてんだからよ。」
「見舞いに行きたいって行ったのは音娘の方だがな。」
「さっさと、要件を言っ……言ってくださいよ。」
「物分りが早くて助かるぜ、要件は美咲さんじゃなくて私の方だけどな!!
星明!!お前の事、よく良く考えれば好きになったんだ!!失望させてくれるなよ?
話は以上だ!! 」
「な!?からかっているのですか!?」
「話は終わりだ。次は無いぞ。」
2人は保健室を出た。
「な、何だったんだ……」――
――美咲と許斐は学校を出た。
「音娘、さっき言っていたこと、本当なのか?」
「さぁ、なんでしょうね?でもあの時のあいつの目は、死んでいなかった。
私好きなんですよ、ああいうのって、本当のいざって時になると意外とかっけえんすよ。」
「お前の男を見る目は、鈍ってなかったらいいがな。」
2人は、バイクに乗って走っていった。




