第3話 生徒会長に惚れた少女
5月、須磨伊里高校では生徒会選挙が行われて新年度の生徒会役員が決まった。
・生徒会長3年2組 「 吹雪 愛」
・副会長 3年3組「氷河 恋」
・書記 2年1組「神崎 百合」
・会計 1年3組「安井 星明」
――以上が生徒会メンバーである。
そして、彼らの活動は生徒会室から始まるのである。
――生徒会室――
「――以上だ。他に誰か話は無いか?」
吹雪会長の話が終わった。
初めての会議だったからか、力が一気に抜けた。
「はい!生徒会長、共学化した事により、体育の授業でも男子の視線が怖いという女子の声が集まってきています。」
書記の神崎が議題を挙げた。
「既に5月の気温は夏日に近い暑さで、汗で透けた体操服に男子からいやらしい視線を感じるとの声もあります。」
「無茶苦茶だそんなの。共学化した以上それはしょうがないことだろうが。」
副会長の氷河は反論する。
氷河は男子で少々気荒い性格だが、成績は優秀で副会長の座に着いたらしい。
「仕方の無いことはわかっています。男子全員がそうじゃないこともわかっています。
ですが少数の男子のせいで声が出ている以上健全な男女にも影響は出てきます。
それは当然、吹雪会長にも被害は及びます!」
「落ち着け百合、難しい問題だが男子の数はまだ少ない。別々に授業をすることも難しい。」
吹雪会長はおそらく真っ当な答えをしたのだろう。
男女間による問題は、永遠の社会問題だからな。
「ですが吹雪会長、いずれ実害は必ず出ます。早めの改善案をお願いします。」
「分かっている。心配する事はない。」
「ちっ、めんどくせぇ奴らのせいで俺らにも被害被る。星明!!お前も目のやり場に気をつけろよ!!」
「は、はい。それは大丈夫です。」
「……もう他には無いな。以上で解散とする。せいめい、百合、2人に作業を頼みたい。」
吹雪会長は星明の事を「せいめい」と呼んでいる。気に入ったからなのか呼びやすいのか理由は分からない。
――会議は終わり、星明と百合は生徒会室に残る。
書類の入ったダンボールを倉庫に持っていくだけの簡単な仕事だ。
だが気になるのは、神崎先輩と共同ってところだ。
力仕事なら氷河副会長に適任だと思うが……
「神崎先輩、重い箱は俺が運ぶので先輩は無理しなくていいですよ。」
「いい、そんな気遣いは結構。さっさと運んで終わらせるわ。」
……冷たい人だ。
神崎先輩はショートヘアで背が少し小さい。
だが彼女は水泳部で大会でも優勝するほどの実力者だ。
書記の仕事も両立させるほど、実力は本物だ。
そんな神崎先輩にも難があり、男子を嫌っている性格だ。
だがその原因は少し特殊なようで。
彼女は、吹雪会長の事が大好きらしい。
そのため、周りの男子を近づけさせないといった説がある。
それが本当だとすれば氷河副会長の事は尚更嫌いなのでは……
――倉庫――
一言の会話もなく、3往復して作業は終わった。
さすがに2人汗をかいた。
「先輩お疲れ様です。せっかくだし飲み物買ってきましょうか?」
「いらない。もう日が暮れたしさっさと帰るよ。」
神崎は足早に去ろうとする。
そんな先輩を俺は呼び止めた。
「ちょっと待ってください!神崎先輩は今日の仕事、自分より多く運んでくれました。しかも神崎先輩、一息も休憩入れずに動いてたではないですか!!
自分でこんなに汗かいたのに、神崎先輩は疲労が溜まっているはずです!!
このままでは水泳にも影響が出てきますよ!!」
俺はなんで必死に止めたのか、この時は分からなかった。
だが神崎先輩は足を止めた。
「あんた、私のなんなの?」
すごい睨みつけてくる。
「私の体調に気を使ってくれてるならそれはどうも、けど体調管理の事は私が1番よく知っているから大丈夫。
こんなのいつもの練習より遥かに楽な量よ。
マネージャーにでもなったつもり?」
「そんな事はありません。俺に神崎先輩のマネージャーは務まりませんよ。
それでも労らせてください。
神崎先輩、自分では大丈夫と言いつつ、途中足がつまづいているのを見逃しませんでした。」
「っ!!うるさい!私が大丈夫と言ったら大丈夫なんだよ!!私の足を見て細かいところに気づいたりキモすぎ!!」
「それでも!!心配したらダメなんですか?この学校の生徒会役員として、先輩を応援するのはダメなのですか!!」
「……っっっ!!!」
自分の熱意に、神崎先輩は言い返せなかった。
「いい加減に気持ちを受け取ってやれ百合。」
吹雪会長が現れた。
「なっ!吹雪会長、こんな時間まで!!」
「私も仕事の量が多いのだ。今ようやく落ち着いてきたところで帰ろうとした所で、君たちを目撃した。」
吹雪は2つの飲料水を渡した。
「吹雪会長、俺にもいいんですか?」
「当然だ。新入生でありながらも君は早速貢献してくれた。今後に期待しているよ。」
さすが吹雪会長だ……
「百合、君も頑張ってくれた。これから忙しくなるから無理だけはしないでくれ。
それと、せいめいの事を受け入れて欲しい。
彼にはやましい事なんてない、百合が思っているような男子では無いんだ。」
「吹雪会長……っっ!せいめい!!今回は吹雪会長に免じて認めるわ。
でも、変な事しようものなら私が許さないから。
吹雪会長、お水頂きますね!」
そうして、神崎先輩は去っていった。
「すまないな。百合と君の相性を試させてもらった。」
「そんな、まあ結果はこの有様ですけどね。」
「百合が私の事を好きなのは知っている。
2年の時、私は水泳の大会に出てた彼女を見たんだ。」――
――1年前、地区大会――
百合の泳ぎは速く、2位との差を大きくつけて大会新記録で1着だった。
「いい泳ぎだったな。私は素人ではあるが、それでも目が離せないほど見事だった。」
「あ、ありがとうございます。あなたは……」
「私は吹雪 愛、君と同じ高校で来年、生徒会長に立候補する者だ。今は書記を務めているがな。」
「生徒会長……!!私はそんな人に、褒められたのですね!!」
吹雪に褒められた神崎は涙がこぼれ落ちる。
「おやおや、そんなに感動することだったのか。」
「ごめんなさい!私は今まで褒められた事がなくて、家庭でも厳しい練習をしてきましたからその苦労が報われたのだと感じて……!!」
「それは大変だったな、優勝おめでとう。」
泣き崩れる神崎を抱きしめる吹雪だった。
――数日後――
やたらと吹雪の元に手紙が送られてくる。
それは神崎からの感謝の言葉であった。
だが日に日に量が増えてきて、吹雪は神崎を呼び出した。
「ごめんなさい!吹雪先輩にはあの時、感謝しきれなくて!!」
「私は大したことはしていない、感謝の手紙は嬉しいが、大量にあると返しきれなくてすまない。」
なぜあの大会の時だけしか会わなかったのにここまで感謝されるのかは分からなかった。
それでも神崎の思いを無下にするのは良くないと判断した吹雪は、あることを提案した。
「私に恩返しをしたいのなら、来年生徒会に入ってくれないか?私の力になって欲しい。」
「いいんですか?そんな事で。」
「もちろんだ。その為には私も、会長の座につかねばならないが。」
「吹雪先輩の元で役に立てるなんて……!!光栄です!!先輩のためなら私はなんでもします!!」
――こうして、大量に送られてきた手紙は止まった。
ある日、事件が発生した。
いじめられていた男子がいじめっ子の女子に暴力を振ったのだ。
それは学校中大騒ぎになり、男子生徒には、退学処分が下された。
生徒会会議でも、いじめの発端と騒動の原因を情報共有された。
吹雪も、さすがに頭を抱えた。
「吹雪先輩、今回の騒動は一体……」
「全くだ、今回のことはさすがに男子生徒を擁護出来ない。」
男子生徒は、女子の体育中に更衣室から下着を盗み出し、私物化していた。
ところが目撃した他の女子達にバレてしまい、男子生徒はその女子の言いなりとなってしまった。
……が、その要求も日に日に酷くなっていき、耐えきれなかった男子は仕返しに暴力を振るってしまったのだった。
だが人目の多いところで行ってしまったため
騒ぎは大きくなってしまった。
「そんな……どう足掻いてもその男子が悪いじゃありませんか!!」
「当然だ。彼が退学してどうなったのは知らないが、あの状況で退学処分に済んだことは幸いだ。
普通なら飛び降り自殺でも有り得たからな。」
「でも、吹雪先輩が頭を抱える理由が分かりません。どうしてそんなやつのことを考えてるのですか!」
「共学化した以上、このような男女間の問題は絶対に出てくる。
同じことを繰り返さないためにも、私は務めるだけだ。」
「だったら、そんな先輩に迫る魔の手を私が追い払います。
いいえ、全ての男子から先輩を守り抜いてみせます!!」――
――現在――
大会で報われた彼女の恩返し、それが今の神崎先輩の行動ということだ。
「私に対する彼女の思いは徐々にエスカレートしていって今の冷たい百合になってしまった。
これは紛れもない私の責任だ。」
「吹雪会長……会長が全ての責任を背負うことはありませんよ。」
「どういうことだ?」
「神崎先輩の男子嫌いな性格を解消させるためには、男子の手で解決させるのが1番です。
時間はかかってでも、俺が解決してみせます。」
具体的なことは思い浮かばないが、恐らく鍵は
「水泳」
先輩が大会で初めて会った吹雪会長に褒められただけで泣き崩れるのは、その練習量に何かがある……
だがその秘密を知るためには神崎先輩に信頼されなければならない。
「せいめいと百合に仕事を与えたのはやはり間違いではなかった。
期待しているぞ。」
吹雪会長は立ち去った。
……そんな2人の会話を、神崎が隠れて聞いていた。
「安井せいめい…吹雪会長と2人っきりでいい感じに話して…!!他にも生徒会室に呼ばれたりなんて……
絶対に認めてやるもんか……!!」




