第2話 近藤勇気と浦原黒音
共学化した須磨伊里高校に入学した星明。
成績はそこそこ、体力には自信があるそんな彼が入学した理由は「彼女を作るため」
そんな彼は昼休み、食堂で昼食を終えて外の自販機で飲み物を購入した時、校舎裏から声が聞こえてきた。
聞き耳を立てると、男女2人の声のようだ。
「人目の付きにくい場所で男女2人の会話は非常に興味深い。今後の参考のために、しっかりと目に焼き付けねば……」
そうして星明は不本意ながらに陰から覗いた。
星明が見たのは、男子が女子に土下座して告白している様子だった。
「一生のお願いです!俺の……彼女になってください!!」
……っ!?!?それはさすがに生き急ぎすぎだろ!!相手も引いている……が、まあこれも青春のうちの一つか。
相手の答えはいかに……
「ご、ごめんなさい!!今忙しいからまた後でね!!」
ショートヘアの女子はそのまま立ち去って行った。
可哀想に、土下座した彼はそのまま立ち上がることはなかった。
仕方なく、慰めようと彼に接近した。
「大丈夫か?」
「なんだお前は!?見ていたのか!?全力の告白に失敗したこの俺を陰から見ていたというのか!!」
「待て!楽しんでいた訳じゃない。……いやすまない、あまり好かれないことしてしまったな。」
それも当然だ。目撃したとはいえ、見世物ではない。
彼には失礼なことしてしまったのは事実だ。
「ごめん、お詫びと言ってはなんだが飲み物あげるよ。」
俺は彼に、午後の紅茶を渡した。
「なんなんだよお前……優しいじゃねえかよぉぉぉ!!」
彼は失恋のショックを思い出したのか号泣した。
……こいつ、多分バカだ。
――泣き終えた彼と共に、ベンチに座った。
「すまねえな、情けないところを見せてしまった。」
「いや、別に情けなくはないだろ。土下座して告白なんて簡単に出来るもんじゃない。
よっぽど長い付き合いだったんだよな。」
彼は首を横に振った。
「いや、知り合ってまだ間もないんだ。」
「は!?おま、まさか出会ってすぐに呼び出して告ったのか!?」
「そこまで早くはねえ!ただ、最初の自己紹介をした時に、彼女の笑顔を見た途端、惚れちまったってだけさ。」
……いや十分早えだろ。
だがここまでバカ正直だとむしろ敬意に値する。
「俺は安井 星明、お前は?」
「近藤 勇気。近ちゃんでも、勇気君でも、好きに呼んでくれればいい。」
「勇気か……お前、カッコイイな。」
「なんだそりゃ、お世辞で言ってるなら慰めにもならねえぞ。」
「お世辞……?そんな訳ないだろう。
お前は名前の通り、一目惚れした相手に臆することなく土下座してまで告白した。
これはお世辞なんてものじゃない。それにお前は背が高くて筋肉質だ。モテる要素は詰まっている。
とにかくカッケェよ、お前。」
俺があんたみたいに土下座してでもすぐに告白する勇気があったら……
「ま、お世辞でも何でもいいさ。俺は彼女を諦めきれてない。もう一度告白しに行く!!」
近藤は立ち上がりすぐに向かおうとする。
俺はすぐさま腕を掴む。
「は!?待て待て待て!!いくらなんでも急ぎすぎだ!結果は目に見えている!!」
必死に止めようとする星明の声は近藤には届いていなかった。
「邪魔するな星明、俺はこの機を逃せば一生後悔することになる!!
1人の男の告白を止めるんじゃねえよ。」
星明の手を振りほどき、彼は行ってしまった。
つけてみようとしたが、もうすぐ昼休みが終わってしまう。
「まあ、放課後もう一度探してみるか。」――
――放課後、ベンチに哀愁が漂う背中をした近藤を発見した。
「バカだな近藤、なぜそこまで彼女にこだわるんだ。
お前が告った人、すれ違った時すごい申し訳なさそうな顔してたぞ。」
「……彼女、浦原 黒音は愛想がよく誰にでも笑顔で優しく接してくれる。
しかもスタイルもそれなりに、胸もデカい。」
「お前体目当てで諦めなかったのかよ……」
「否定はしない。俺も男だ、性欲に嘘はつけない。だが!!黒音は優しすぎるが故に、ヤンキーの奴らも目に付けてる!!
あいつらの黒音を見た後にヒソヒソとグループで会話してるのを見て、俺は彼女を守らねばと思ったんだ!!
だが黒音に振られてしまった……」
まあ……振られた男の言い訳にしか感じなかった。
だがこいつの芯は相当強いはずだ。そんな簡単に折れるとは思わない。
「星明、恋愛において最もやってはいけないこととはなんだと思う?」
「は?そりゃ、告白する勇気もなく別の相手に奪われる事だろ?」
「それも答えの一つだ、俺はこう考える。
恋愛において、最もやってはいけない事、それは……
相手を好きだと認識した自分の感情に疑いを持つことだ!!」
「つまり……どういうことだってばよ。」
「いいか!恋愛というのは時間との勝負だ!!気になる人が出来た瞬間から始まる!!
だが!!時間が経てば経つほど熱は冷め始め、やがて好きではなかったのかと疑問を持ち始める。
疑問を持ち始めた瞬間に、恋愛は終わるのだ。」
「恋愛は時間との勝負か。間違ってはいないかもな。」
「その通り、どうやって成功するかなどを考えてもそれは時間を使って手段を減らした一撃必殺しかない。
それは他の選択肢を捨てた諸刃の剣も同然。
俺は今この最高潮の恋の熱で実行した。
結果は……見ての通りだがな。」
「近藤、何となくお前の言ってることは理解したぞ。
でもやっぱりバカだ。
お前の主張は全て、自分を肯定するに過ぎない、彼女の気持ちを考慮してないんだ!!
だからこの結果になった。」
「ああ、その通りだ。星明、一つだけ言っておこう。
後悔する恋愛だけはするなよ。」
上から目線で偉そうに……だけど嫌いでは無いな。
「なんだそりゃ、だけど、好きな人を困らせたりするもんじゃねえよ。」
近藤は立ち上がり、去っていった。
「俺も、そろそろ帰るとするか……」
その時、俺は背後から気配を感じた。
「ん!?誰かいるのか??」
草むらの陰から、女子が出てきた。
「あ、初めましてだよね?えっと……星明君?勇気君と一緒に話していたのを聞いていたから名前覚えちゃった。」
噂をすれば、どうやら本人が出てきた。
「浦原 黒音さん?」
「そう!やっぱり私のことを話してたんだね勇気君。」
「まあ……あいつ悪いやつに見えないし、今まで通り接してやってくれ、その方があいつもほとぼり冷めるだろうし。」
だが、黒音の返事は反対だった。
「ごめんね、それは出来ない。」
「何か彼から酷いことでも?」
彼女は横に首を振った。
「ううん、勇気君には何もされてないし、別に好きでも嫌いでもないよ。ただ、可愛いなぁと思って。
もちろん、星明君も可愛いところはあると思うよ!」
「な、何の話だ?可愛いところ?」
彼女は笑顔に答えた。
「うん!だって一生懸命に必死に告白して土下座までするって可愛いじゃん??
そんなに必死になってしかも、2回も告白されるなんて思わなかったし。」
「おま……本気で言ってるのかそれ。あいつは、近藤は不器用なりに告白したんだぞ。」
「うん、だから勇気君のそういう所が可愛いなって。星明君と恋愛について必死に語り合ってるのも可愛いなって。」
「……近藤と同じクラスだよな?気まずくなったりしないのか?」
学年は全学年5クラスに分けられており、安井は3組、近藤と黒音は1組に在籍している。
「大丈夫だよ。気まずい空気になんかは私がさせない。
彼の失恋は私が慰めるからね♡」
「意味が分からない、黒音、お前は何がしたいんだ。」
「したいこと?簡単に言えば一つだよ。
男子全員、地獄に落として足掻くところを見たいかな!
あ!もちろん、星明君も対象だよ!仲間外れなんてそんな酷いことはしないからね!!」
「黒音、さっきから本当に何を言っているんだ。」
日が暮れるにつれて、彼女の不気味さが増していく。
学校のチャイムは6時間目を終了後、1時間おきに鳴っていく。
2回目のチャイムが鳴り響いた。
時刻は18時。
「ごめん!これから塾があるんだった!あ、最後に一つだけ言っておくね!!」
黒音は接近して耳元に小さく囁いた。
「今話したこと、誰かに話したら殺すから(ボソッ)。」
そう囁いて、離れた彼女は笑顔を向けた。
「それじゃあまたね!!」
近藤から聞いた黒音と、黒音本人、どっちが本当の黒音なのか分からなくなった。
「まあ……本気じゃあないと信じるしかない。」




