第1話 安井 星明と吹雪 愛
桜の咲く季節。
それは全ての人が新しい人生を踏み始める瞬間である。
入学、卒業、入社など、これからの楽しみが待ち構えているだろう。
だが一部の人は人生に楽しみなどは無い。
「地獄」である。
――須磨伊里高校――
偏差値の高い進学校でも、運動部の強い名門校でも無く、勉強さえすれば誰でも入れる中高一貫校。
元々女子高だったが最近共学化したため、男子の数も増えてきた。
だが今まで無かった男女恋愛も増え、人間関係の悪化も著しくなっていき、いじめや性的行為も増えてしまい、学校内は地獄のような環境になってしまった。
……とはいえ、その問題はどこの学校にも存在する。
教職員はその事を理解していたため、表面上対策しているように動いた。
――入学式
教頭やPTA会長の長い長い無駄なスピーチがようやく終わり、俺たちは教室に戻る。
俺の名前は「安井 星明」
天才ほど頭は良くないがそこそこの学力はある。
運動センスは無いことは無いが、日々運動しているため体力には自信がある。
そんな俺がこの高校に入った理由は1つ。
「彼女」を作ることだ。
今までに女友達は作ってきたがそれ以上の関係に発展する女子は出来なかった。
とにかく俺はこの須磨伊里高校で彼女を作る。
……それが目標だったが入って1ヶ月経った時、分かったことがある。
俺は入る学校を間違えてしまった。
この学校、ヤバい女子しかいなかった……!!
――1年生5月、それは生徒会役員選挙が行われる時期である。
須磨伊里高校では生徒会役員の任期は3月までと決まっている。
4月に新3年生の中から生徒会長と副会長、全学年から書記と会計を募集し、立候補した者以外、他に候補者がいなかった場合はそのまま当選される仕組みである。
俺は進んで会計の役職を立候補した。
そして運良く、他に立候補者がいなかったのでそのまま当選した。
そして生徒会長も他に立候補が現れなかったため、そのまま当選された。
そうして俺は新生徒会長に呼ばれて、生徒会室にやってきた。
――生徒会室――
「失礼します。新しく会計になった安井です。」
ソファが2つ、真ん中にテーブル、そして正面に会長の席と机、正に生徒会室だ。
そして、その席には生徒会長が座っていた。
「初めましてだな。男子の生徒会入りは君が初めてだ。」
真剣な眼差しで凛々しい声、邪なことをしようものならすぐにでも返り討ちにあうほどの隙のなさ、黒くなびいて輝く美しい髪、健康的なスタイルの良さ、これが……須磨伊里高校の生徒会長!!
一目見ただけで刺さってしまった俺にはさすがに胸の鼓動が激しくなっていった。
「まあそう照れるな。これから君には多くの仕事をこなして貰う故、この生徒会室での時間が増えるからな。早々に慣れてもらわないと困る。」
生徒会長の心優しい言葉に、肩の力が抜ける。
「す、すみません。やっぱり生徒会長というのはかっこいいなと……」
「憧れすぎだ、そこまで高嶺の花ではない。
自己紹介が遅れたな。私の名前は「吹雪 愛」
吹雪ちゃんでも、愛ちゃんでも好きに呼ぶといい。」
会長はとても親しみやすく話しかけてくる。
おかげで緊張が和らいだ。
「安井 星明です。呼び方は……好きに呼んでください。」
会長と違って自分にはこれといった愛称がない。
「そうか、では君のことを「せいめい」と呼ぼう。よろしくな、星明君。」
「こちらこそよろしくお願いします。」
せいめい……か、今までそう呼んだ人はいなかったから少し新鮮な気持ちになった。
「ところで、君はこの学校に入学した動機はなんだ?」
うっ……早速答えにくい質問が飛んできてしまった。
彼女作りなんて言えばどうなる事やら。
「えっと、彼女が欲しかったから……っ!!」
しまった!!つい口に出てしまった!!
まずい……会長がすごい睨んでくる!!
「すみません!!今のは冗談というか口が滑ったというか……」
必死に弁明してる時、会長の口から予想外の言葉が聞こえた。
「なんだ、本心では無かったのか、ガッカリだな。」
……え?今、ガッカリと?
「私は自分の気持ちを偽らない人が好みなんだ。大半の男子は恋愛目的でここに来たのだと分かりきったことだからな。」
そうか、会長はその上で質問をしてきたんだ。
だったら変に誤魔化そうとした俺は!!
「すみません!会長の言う通り、俺は恋愛目的で入学しました!!今まで彼女は出来たことなく!他の友達がどんどん作っていってるのが羨ましくて!!」
これでいい、下手に誤魔化すよりかはマシだ。
「ふっ、君は面白い男だ。他の男子よりかは素質があるな。」
……どういう意味だ?会長は俺を認めたのか?
「まぁお互いの事はこれから話し合っていくとしよう。君には期待しているよ。これからよろしくな。」
会長が握手をしようと手を差し出してきた。
「はい!力になれるよう頑張ります!よろしくお願いします!」
俺はそのまま握手をした。
……やけに握る時間が長い。
「あの、吹雪会長?もうそろそろ手を離しても?」
俺はもう力を抜いているのに、会長は全く手を離さない。
「会長……?」
「っ!!すまない!!つい夢中に……ああいや!ぼーっとしていた!!男子の手はさすがに強いな!!もう行ってくれ!!悪いことをしたな!!」
吹雪会長はそのまま後ろを向いたままだ。
「……では失礼します。」
俺はそのまま生徒会室を後にした。
だが手に残った吹雪会長の感触と反応……今は何も知らない方がいいだろうか。
俺はこの時点で薄々、吹雪会長の性格に気づいていた。
――星明が出た後、吹雪は会長席に座った。
「……初めて、初めて男子の手を握ってしまった!!はぁぁあああ♡♡」
吹雪は、男子とコミュニケーションを取ることは造作もないが、中学から高校3年生までに触れ合ったことは一度もなかった。
そして、吹雪は初めて触れた星明の事をもっと知りたいと思うようになった。
「せいめい君、君の手からは凄まじい力を感じ取った!!だが握手だけでは足りぬ……もっともっと、彼に触れてみたい!!
次に会うのが楽しみだよ♡せいめい君♡」




