第18話 合宿終了
須磨伊里高校で中間試験を無事に乗り越えた生徒にはご褒美が用意される。
それは1週間のリゾート地での合宿だ。費用は全て学校側が負担し、生徒たちの負担は一切なく、まさに豪遊出来る、至福の時間である。
合宿1日目は夕方を迎える。
山岳エリアにて星明は白咲と山頂に到達した。そこから見る景色はまさに、島全体が見えるほど壮大だった。
「すっげー……そりゃ3大エリアの1つに入るのも納得だぜ。」
「いい景色ですね、告白やプロポーズするなら、この場所はうってつけでしょう。」
「理想的だ……でも、こんなにいい所なら、人も多いんじゃないのか?」
「それは大丈夫です。皆さんは他人の空間には興味がありません。この場所には少し、神秘的な力があるのですよ。
何故か、周りの声が聞こえなくなる、というよりかは、完全に自分たちの空間になる。と思った方がいいでしょう。
なので、皆さんは他人の告白とかに興味は無いのです。」
……確かに、白咲さんの言う通り、よく見ればカップルは何人かいるが、会話の内容は耳をすましても全く聞こえてこない。
「すごいな……でも白咲さん、なんでそんなに詳しいんだ?」
「好きなんです、ロマンチックな事が。私はよく、恋愛小説とかドラマが好きで、よく見るのですが、その影響からか普通の恋愛には物足りなくなってしまって。」
「意外な趣味持ってるんだな……って、過去に彼氏とかいたんですか!?」
「いました、というよりいます。彼氏はいますよ?」
「なっ、なな何でじゃあ今こんな!!」
彼氏持ちだと知り、慌てる星明の口元を人差し指で抑える白咲。
「静かに……大丈夫ですよ、この時間のことは誰にも話しませんから。」
「違う……!!何で俺なんかと一緒に、こんなことを……」
「退屈だったんです。私が求めていた恋愛とは違っていた。彼はすごい人だったんですけど、普通の恋愛をしていたので、私は彼に飽きてしまったのです。」
「だけど!!そんな失礼なことをしたからには、俺は……」
彼氏がいながらもこの時間を過ごしたことは消えない事実、星明は彼氏のことを思ったのか申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
「何で……手なんか繋いだりしたんですか……」
ショックを受ける星明を、白咲は抱きしめる。
「忘れたかったんです、彼のことを。私はもう、あの人の事を好きじゃない。だから、星明君には少しロマンを感じたのです。」
「ちょっとおかしいと思ってたんだ、お嬢様にしては、やけに積極的だし、異性の扱いが手馴れている感じがしたんだ。」
星明も完全に期待していたわけではない。だが白咲との出会い方、ロープウェイでの雰囲気が完全に星明の心を魅了し、今、その至福の時間が終わったことを星明の感情が証明していた。
「……やはりショックでしたか?」
「ああ、だいぶショックだよ。でも、失恋した訳ではないんだ。」
「私は……星明君の事気になりますけどね。」
「それは慰めにはならない、というより、ショックを受けた以上、もう恋愛の気持ちにはなれない。」
「まあ……少し傷が大きいようですね。でしたら、今は全てを忘れましょう。合宿の事も、恋愛のことも、過去のことも。」――
――日没後、周りの人は少なくなっていた。夜風が吹いていく。
「取り乱してすまなかった。やっぱり、男子の扱い方が上手いよ。」
「嫌でしたか?もう少し冷たい感じで対応した方が宜しかったでしょうか。」
「なあ、彼氏さんってどんな奴なんだよ、女子校ならそう出会うことは無いだろう。」
「そうですね……出会い方は星明君と同じです。通学途中、不良達に絡まれていたのをあの人は助けてくれました。」
「そらまたロマンチックな出会い方だな。……ん?通学途中??不良??」
星明は少し、ゾッとするような結論にたどり着いた。
桜ノ宮高校と須磨伊里高校は近所にある。ということは、当然あの、露苦出無子高校からも標的ってことになる。
白咲さんが不良に絡まれたとしたら、その露苦出無子の奴らに大方違いないだろう。
「……彼氏って、どこの高校生だ?」
「露苦出無子高校です。彼はそこで頭を張っているのです。」
「……嘘だ、嘘だ嘘だ!!そんな……」
「どうしたのです!落ち着いて大丈夫ですよ、彼にはあなたが思っているような酷いことはされてませんから。まだそういう事は未経験なので。」
「いや別に、そんな事は……」
まずい、まずいぞ……よりにもよって露苦出無子高校、それも頭を張ってるだと!?こんな事を知られたら命はあるのか……!?
「落ち着いてください、彼はあなたが想像する人より、穏やかですよ。というより、今はそんな事を忘れましょう。登っている時のあなたはとても良かったです。」
「……1つ聞かせてくれ白咲さん。俺はあなたを信用していいのですか?」
「はい、私はあなたを信用していますので。」
「即答だな、その答え自体怪しいけど、でも白咲さんの身に何かあれば、その時は俺が!!」
「そろそろ時間ですね、戻らないと怒られてしまいます。星明君も、戻らないとそろそろ来ますよ?」
白咲は手を振って降りていった。
「そろそろ来るって何だ?」
――耳をすましていれば、何か接近してくる音が聞こえてくる。
――ブゥン…ブオオン、ブンブンブゥゥゥン!!!
バイクの音が聞こえてくる、それも大勢のバイクが……!!しかも、聞き覚えのあるエンジン音だ!!
星明の前に、集団が現れて、囲まれた。
「お、お前たちは!!」
「よお星明、こんな所でひとりで何やってんだよ!!」
「お前は、極道 美咲!!」
現れたのは暴走族レディースだった。
「おいコラァ!!美咲さんを呼び捨てにするとはいい度胸じゃねえか!!」
「ちょっと待て待て!!何でレディースがここにいるんだ!?」
「星明、気づかなかったのか?引率教員の数の少なさに、なんで5人しかいなかったのか教えてやるよ。私らが自警団を担っているからだよ!!
吹雪が会長に着く前から、私らは可愛い姫達に危害が及ばないように、見張ってんだよ。」
「む、無茶苦茶だ……!!学校側は恐らく、このレディースに一任している。暴走族が引率する高校なんて……」
「まあ折角の合宿だ、乗れ星明!!走りながら色々教えてやんよ。聞きたいことは山ほどあるんだろ?」
断れば、恐らく殺される。俺は美咲さんの言うことに従うしかなかった。――
――ホテルエリアに着いた白咲、そこにはガラの悪い学生たちがいた。
「おい嬢ちゃん、どこに行くってんだよ。」
「可愛い顔してんな!!俺たちと遊ばねえか?」
「その制服は、露苦出無子の生徒ですね?」
「ああ?だったら何だよ。」
「……彼はいますか?」
「彼ってなんだコラ!!」
「おいちょっと待て……この子、もしかしてあの人の嫁なのでは……!?」
「そういや噂に聞いたことがある、あの人が助けた白い長髪の青い目をした少女に手を出せば、殺されるって!!」
「す、すみませんでした!!お通りください!!」
「そんなに謝らないでください、彼はいるのですね?」
「は、はい!あの人は部屋でゲームをしています!!」
「そうですか、誤解になるので他の方々にお伝えください、露苦出無子高校筆頭、金剛 力の彼女、白咲 日和には手を出すなと。」
「しょ、承知しましたァァ!!」――
――星明にとって、合宿という名の至福の時間は、1日目にして終わってしまった。
須磨伊里高校、桜ノ宮高校、露苦出無子高校の3校がこの離島リゾートに来ている。さらには暴走族レディースと、金剛率いる露苦出無子の勢力まで。
星明が白咲と関係性を深めていることを知れば、大戦争は免れないだろう。
合宿終了までの残り6日、至福の時間は冷戦状態となった。




