第17話 ビーチでナンパをしない男に人権は無い
須磨伊里高校で中間試験を無事に乗り越えた生徒にはご褒美が用意される。
それは1週間のリゾート地での合宿だ。費用は全て学校側が負担し、生徒たちの負担は一切なく、まさに豪遊出来る、至福の時間である。
合宿1日目、星明はナンパされている桜ノ宮高校の生徒「白咲 日和」を助けて、彼女から連絡先を貰った。
星明が高校に入ってから連絡先を繋がったのは初めてである。
「全く、どんな善行積んだらそんな絵に書いたような展開が起きるんだよ。」
「あのなぁ信、これでも相手は強そうな男2人だったんだぞ?助けに行っても返り討ちにされる可能性が高い。」
「いや、それで穏便に済んだんだろ?そこが運がいいって言ってんだよ俺は。
お前が彼女と色々やっている中、俺は成果ゼロだぜ?1発殴らせてくれねえか?」
信はたくさんの女子に声をかけて行ったが、どうやら全て断られたみたいだ。
「逆に信は下心出すぎだ、もっと隠さないと。ビーチでのナンパで爆死すれば、1週間もたないぞ?」
「偉そうに、1人繋がれたからと言っていい気になりやがってよ。」
「繋がったと言っても他校の生徒だ。関わる機会はほぼ無い。桜ノ宮高校って言ってたな。」
信は、その高校名を聞いて、口が塞がなかった。
「なっ!?おま、桜ノ宮高校って言えばお嬢様系が集う超エリート女子校じゃねえか!!」
「……嘘だろ!?さっきの人、マジのお嬢様だったって言うのか!?」
「どうした星明、何かやばい事でもあったのかよ。」
近藤が話に入ってきた。
「近藤、星明はナンパに絡まれてる女子を助けて連絡先を貰ったらしい、それもお嬢様のだ!!」
「マジかよ星明……すげぇじゃねえか!!」
近藤の反応は、信とは違い、喜んでいる。
「星明、そこまで来たならもうお前の勝ち確だ、その子は絶対に気が合うぞ!?」
「バカ言え、相手は1個上だったんだぞ!?タメ口でもいいって言われたが、正直……」
「ふっざけんな星明!!お前が本気じゃねえならその人を紹介しやがれ!!その人が可哀想だ全く!!」
「悪いみんな、俺ちょっと弱気になってた。せっかく相手から繋がってくれたんだし、誘い出してみる。」
星明は立ち上がり、白咲へ連絡した。
「せいぜい楽しめよ!!宿に戻った時、お前が暗い顔してたらぶん殴ってやるからな!、それまで絶対に捕まえてやるよ!!」
信はもう一度、ナンパしに走っていった。
「近藤、お前はやっぱり黒音一筋か?」
「何を言ってるんだ星明、俺は確かに黒音のことは好きだが、せっかくのビーチイベントなんだぜ?捕まえるしかないだろう!!
いいか星明!!よく覚えておけ!!
ビーチに来てナンパをしない男に、人権は無い!!成功できるかどうかではない、やるかやらないかの問題だ!!
それが、男を見せるってことよ。」
日差しが近藤を輝かせるように、このカッコつけた名言のようなセリフは、妙に説得力があった。
そして近藤も女子を捕まえに行ってしまった。――
――数分後――
星明は白咲と連絡を取り、待ち合わせしていた。
「ごきげんよう星明君、また会いましたね。」
「し、白咲さん……すみません緊張しちゃって。」
「もう、無理して固くならなくていいですよ?女の子を堕としたいなら、もっと力を抜くべきです。」
白咲さんを改めて見ると、言葉を失う……すごく、すごくすごく可愛い!!
なんと言うべきか、彼女と話すと心が安らぐ。中間試験での苦労が、黒音への闇が晴らされるかのように、白咲さんは、天使だ!!
「白咲さん!!どこか落ち着いた場所で話し合いませんか!?ここビーチでは人が多いような……」
「ええ、私もそうしたかったので、山岳エリアに行ってみてはどうでしょう。あそこなら、景色もいいので話すにはうってつけの場所だと思います。」
2人は、山岳エリアに向かっていった。
そんな2人っきりになる様子を、背後から黒音は観察していた。
「あんまりぼろを出したらダメだって言ったのにすーぐこれだよ。ま、ひとまず写真だけ残しておくね……」
黒音が撮った星明と白咲の写真は、まだ誰にも明かされることはなく、黒音のスマホのアルバムに埋もれていくのであった……――
――山岳エリア――
島の中心部からやや右側までに緩い山がそびえ立ち、ビーチサイドエリアとホテルエリアからロープウェイが繋がっている。
徒歩でもロープウェイでも登ることが可能。
星明と白咲はロープウェイに乗って登頂する事にした。
「女子と2人っきり、緊張する!!そう考えてませんか?」
「あの……白咲さん?人の心をお見通しするような事言わないで貰えますか?……全て筒抜けにされているような気分になるので……」
「失礼しましたわ、私の昔からの悪い癖ですね。」
「それで、桜ノ宮高校も合宿というのがあるのですか?」
「はい、桜ノ宮高校と須磨伊里高校は兄弟校のようなもの、須磨伊里高校の行事と桜ノ宮高校の行事はだいたい同じです。」
桜ノ宮高校も、中間試験を終えて合宿に来ているという。須磨伊里高校と違うのは、引率教員が多い事だ。
須磨伊里高校の教師は保健の愛理先生を含めて5人。一方、桜ノ宮高校の教師は20人程来ているようだ。
「星明君は、学校生活楽しめていますか?周りに女子が多い環境で、好きな人とかは出来ましたか?」
「いえ……まだ好きな人というのは、分かりません……1部から好かれていることもありますけど、実際どうなのか分かりません。」
「そうですか……でもまだ、あなたは1年生、時間はまだまだあります。女子校の私と違い、出会いは沢山ある。応援していますよ。」
「……白咲さんは本当に優しいな。」
「そうでしょうか?まあ、私はあなたに助けられたというのもありますし、あなたには体を預けても大丈夫だと信じていますから。」
白咲は星明の横に座り、手を繋ぎもたれる。
「白咲さん!?いくらなんでもそれは……」
「嫌ですか?少なくとも私はこうしたいのです。あの時、星明君がいなければどうなっていたことか。
それに……合宿での恋愛の噂が本当なら、私はあなたで構いません。
星明君がそれでも嫌なら離れますが、満更でもないようですね。」
「嫌ではないです……ただ、恥ずかしい。」
「もっとリラックスしてください、女の子に緊張が伝わっては行けませんよ?」
星明は深呼吸をし、ロープウェイで2人っきり、しかも隣に座られている現状を受け入れて落ち着きを取り戻した。
白咲さんの手は小さく、少し暖かい。弱い力で精一杯俺の手を握っていることが分かる。
彼女はおそらく、怖いのだろう。異性と逃げ場のない環境で2人っきりというのは、しかも相手はまだ知り合ったばかりの男子。
彼女も勇気を出してのことなんだろう。僅かに見える体の震えが、それを証明している。
だったら男を見せろ星明!!こんな事で緊張しているようでは、白咲さんに失礼だ!!
星明は白咲の手を握り返す。
「まあ、分かってきましたね!!女の子への対応が。」
「分からない……俺にはこれぐらいしか分からないんです。」
「今はそれで十分です。私もようやく落ち着くことができます。」
……すまない近藤、信、俺は掴み取ったぜ。ついに女子と手を繋ぐことに成功した……!!
正直、どこまで行くかは分からないが、行けるところまで行ってやるぜ。
そうして、星明と白咲はしばらくの間、手を繋いだまま、何も喋ることはなかった。――
――一方、ビーチサイドエリアでは――
哀愁漂う体育座りをしている男2人がいた。
「信、今頃星明は何しているのかな……」
「知らねえよ、あいつは踏み出す勇気がないから、手を繋ぐこともできねえよ。」
「ナンパって、こんなに成功率低かったんだな、俺たち何をやってるんだろう。」
「諦めるな近藤、まだ6日も残ってるんだ!!それに……ビーチだけがメインじゃない、ホテルにも、たくさんのイベントはあるらしいぜ。」
「……まさか、あるのか!?合宿といえば、あれが!?」
「あるらしいぜ、絶対やらなきゃならねえ。もう既に、仕込みは終えてある。」
「準備はええな、そこまでしたいのかお前は……」
「バカ言え!!このまま何も得られずに終わって溜まるかってんだ。星明1人勝ちなんてそんなのは許せない。
近藤……お前は友達だよな??」
「……ああ!!協力するぜ信!!」
近藤と信は謎の同盟の握手をした。――
――そして、星明達が乗っているロープウェイは山頂に到着した。




