第15話 中間試験⑦ 完敗
須磨伊里高校中間試験の内容
・試験内容は学校生活、授業態度、小テストの成績などの内申点の総合で評価される。
・評価「1」が1つでもあれば補習対象となる。
・評価「2」が2つ以下、残りが評価「3」以上で合格とする。
・合格者は1週間の自由行動、豪遊が認められる「合宿」に参加できる。
――合宿について――
須磨伊里高校が提携するリゾート地への1週間の宿泊である。
費用は全て学校側が負担し、生徒は自由に無料で豪遊出来る。
補習対象となった生徒には、合宿への参加は認められない。
つまり中間試験とは、合宿に参加する生徒を見極める試験である。
中間試験終了まで残り5日。
黒音が今まで握っていた、須磨伊里高校の生徒の問題行為を記録したスマホの中身は、全てダミー、偽造だった事が発覚し、黒音本人の証言を星明、吹雪に握られてしまう。
だが、この中庭での近藤の星明への暴力、近藤のスマホを星明が破壊、黒音の偽造行為、これら全てが生徒会長の吹雪が握っており、処分は吹雪が決める。
本来であれば、星明、近藤、黒音は中間試験に合格出来なくなるが、星明はある提案を吹雪に示した。
「吹雪会長!!お願いがあります!!この1件、全て無かったことに出来ませんか!?」
星明の咄嗟の提案は、吹雪以外、予想外のことだった。
「せいめい……2人のことを思ってのことだろう、しかしそれは難しいぞ。今回の1件は、あまりに重大すぎる。」
「別にいいよ星明君……無理して庇う必要はない。」
黒音は戦意喪失したか、声にすら力がこもっていない。
「何とかできませんか!?このまま処分を下されたとしても、黒音が重罪なのは必至……退学にでもなれば、近藤は元気が無くなり、俺も……つまらなくなってしまいます。」
星明にとって、黒音は強敵だった。今回の戦いで、星明は頭を悩ませながらも、どこか一興に感じていた。
「本当に、このままでは誰1人報われない結末を迎えます!!それは、この学校のためにはなりませんよ!!」
星明は必死に説得する。
「……ごめんなさい。」
「黒音!?なんで急に……」
回答に悩む吹雪を前に、黒音が謝罪してきた。
「吹雪会長、今回の件は全て私が招いた事です。不審な行動も、星明君への弱みも、全て私の責任です。星明君と、勇気君の罰も、全て私が受けますので、どうぞ処分を。」
黒音は、吹雪に土下座した。
「何やってるんだ黒音!!お前らしくねえじゃないか!!」
「ダメだ!!」
吹雪の大きい一言で、現場は静寂になった。
「今回の件を黒音、お前に全部背負わせるつもりはない。ましてや、1人背負って退学など、そんな甘い罰では許さん!!
お前の罰は、この学校生活で償え!!そして星明!!お前はまた怪我を増やしたな?これ以上生徒会の仕事を疎かにするな!!愛理先生には私から伝えておく。また怪我をすれば容赦はしない!!
最後に近藤!!お前もやり過ぎだ。感情を抑えろ。」
「す、すいませんでした。」
「吹雪会長……それで、いいんですか?」
「私の判断に、なにか不満があるか?星明。」
「い、いえ……」
吹雪会長の俺への名前での呼び方は珍しかった。「せいめい」と会長は愛称で呼んでいるが、今回ばかりは、さすがに真剣なのか「星明」と呼んだ。
「いいか!今回の件は全て私が預かる!!他言無用だ!!漏らせば従来の通り、処分を下す!!」
「吹雪会長……!!」
吹雪会長の発言により、星明ら3人の処分は全て無罪となった。
条件は、口外禁止のみ。黒音も、星明も、近藤も、全員、吹雪に弱みを握られることとなった。
黒音にとっては、自分が弱みを握る立場だったのを吹雪会長に握られたため、頭が上がらなかったのだろう。彼女にとってこれ程の屈辱は無いはずだ。
星明に庇われ、吹雪に土下座、得られたのは合宿への権利。戦いの結末は、実質、黒音の完敗を意味していた。――
――中間試験終了まで残り4日――
中間試験の発表は週明けの月曜日、つまり、土日を除けば実質あと1日、金曜日の今日という訳だ。
吹雪会長のおかげで、黒音の件は帳消しとなり、それ以外の問題行為は無かったはずだ。
黒音や近藤も問題を起こしてなければ、全員合宿には無事に行けるはずだ。
そんな俺は、事の結末を吹雪会長に報告するため、生徒会室にいる。
――生徒会室――
吹雪会長はまだ来ていないが、神崎先輩が出席していた。
神崎先輩は水泳部と書記を兼任し、自身の過労による怪我から、リハビリに専念していたため、部活と生徒会はお休みしていた。
そして、先輩の好感度は少し低い。
「中間試験、お疲れ様。色々あったみたいだけど。」
「神崎先輩……お疲れ様です。やっぱり耳にはしていましたか。」
「当たり前よ!あんたとその、黒音?の件をまとめるために、私も呼ばれたんだから!!」
――遅れて、吹雪が入ってきた。
「すまない、待たせたな。早速、今回の件の全容を聞こうか。」
「はい――」
――中間試験での黒音との戦い、始まりは黒音から仕掛けていた。
近藤にノートを貸すようお願いしたこと、俺が代わりにノートを貸してあげたこと。今思えば、この時は内申点を狙ったのではなく、俺と近藤の仲を裂こうとしたように思える。
次に、黒音が合宿の予算案の改ざん疑惑。
これは黒音が改ざんしたかのように見せ、彼女は何もしていなかった。俺と吹雪会長を炙り出すための罠だった。
結果、おかしくなった吹雪会長を俺が押さえつけたところを黒音に撮られてしまった。
だが、おかしくなったフリをした吹雪会長が黒音の疑惑を晴らすために、最初から録音を仕掛けていた。
これにより、状況は五分となった。
そして、黒音の持っている録音を無力化するために、俺はわざと、黒音に告白した。
その作戦で、俺は大事なものを失ったような気がするが、とにかく無力化に成功した。
そのおかげで黒音は録音を消し、吹雪会長の録音も意味を成すことは無いため、削除した。
だが、黒音の持っている記録はそれだけではなく、学校中のありとあらゆる生徒の秘密を全て握っていた。
だが実際は、全て加工したもの、つまりダミーであった。黒音が俺との会話を編集し、近藤に偽造した録音を流した。黒音への告白もあってか、近藤は黒音を守るように動いた。
俺は黒音が持っている記録は全てダミーだと指摘したが、黒音は敢えて、本物であると嘘を通した。結果、黒音に罪を付けようとする俺に耐えきれず、俺を殴り続けた。
だが黒音の表の感情が出てきたことが功を奏した。
黒音は相手を弄び慰める性格を持っている。その性格が、近藤の暴力を止めた。
近藤はその時に、暴力という問題行為が弱みであることに気づき、黒音に指摘した。
近藤だけ、弱みを握られていないのはおかしいと気づいた近藤は、黒音から記録が入ったスマホを奪い、俺に渡した。
実際は近藤のスマホだった。それにより、慌てた黒音は自分から嘘だったことを証言し、その証拠も、吹雪会長が撮っていた。――
――以上が、件の全容であった。
「俺からすれば、吹雪会長のおかげで助かりましたよ。」
「せいめいもせいめいだ。あんな目に合わされながらも、黒音にチャンスを与えた。まあ君の性格を知っているが故に、私も想定していたことだ。」
「優しい人ですよ吹雪会長、私ならこんなやつ合宿になんか行かせませんよ?」
「そういうな百合、せいめいは今回の件は実質被害者だ。そんな彼が、無かったことにして欲しいと懇願してきた。黒音の反省もあった事だ。揉み消した方が問題解決は早い。」
「本当にありがとうございます。黒音も、あれから大人しいようですよ。」
「ま、あんたの苦労が報われたならいいんじゃない?せいぜい合宿を楽しみなさいよ。」
「そうだな……全力で楽しんでこい、それがお前たち全員の償いだ。」
「吹雪会長、神崎先輩……ありがとうございます!!」
星明は生徒会室を出て、飲み物を買い、屋上に向かった。――
――屋上――
午後の紅茶を手にし、風を浴びながら補給する。ひと騒動あった後の甘いものを摂取するのは最高だ。
「偶然ね、星明君。」
「なっ!?黒音!!」
いつの間にか、黒音がいた。
「全く、甘いんじゃないの?星明君。近藤君も、まだ私に好意を向けている。みんな頭おかしいんじゃないの?」
黒音は人前以外で、俺と話す時は、裏の感情、つまり素の状態で話すようになった。
「別にいいだろ、お前が居なくなったら、あいつは寂しがるだろうし、俺も、対等な相手がいないと面白くない。」
「対等って……一緒にしないでくれる?」
「悪かった、けど……お前に追い詰められてる時は、意外と楽しかったぞ?黒音が次にどんな手を仕掛けてくるのか、ずっとワクワクしてた。」
「冗談きついよ。追い詰められた星明君はずっと絶望していたよ?もう勘弁してくれって土下座したり、人の土下座ほど気持ちのいいことはないね。」
「……自分が吹雪会長に土下座をしたこと忘れたのかよ。」
「忘れるわけないでしょ。生まれて初めての屈辱だった。あれ以上の屈辱はそうないでしょ。
あの時は私もどうかしてた。私って優しいんだろうね。星明君と近藤君の罪も私が背負おうとした。そんな必要なんて全くないのに。」
「黒音らしいじゃねえか。人を壊して、治す。そんな事出来るのは黒音だけだ。」
「褒めてるの?慰めなんていらないよ。でも私は決意した。
星明君の事、いつか地獄に落としてみせる。星明君の秘密とか知りたいしね!!」
黒音は笑顔で言ってくる。だがそんな事はならない。そんな真似はさせない。
「やってみろ黒音、お前に俺の過去は知ることはない。」
「やっぱり……何かあったんだよね?大丈夫だよ、星明君が過去に何やらかしたか知らないけど、私が肯定してあげるよ!!」
「ふざけんな、お前に同情されて溜まるかってんだ。」
「ますます気になっちゃった♡でも、今は大人しくするよ。今の私は無力だし、でも、いつか力をつけた時は、あんたを容赦なく殺す。」
星明と黒音は激しく睨み合い、そして、黒音は表の感情に戻り、笑顔で離れていった。
1人、星明は残ったまま、紅茶を飲み干して、ペットボトルを握りつぶした。
そのままゴミ箱に捨てて、屋上を離れていった。――
――中間試験終了――
迎えた月曜日、それまで、問題行為は無く、星明の成績は無事に合宿への参加を手に入れた。
黒音と近藤も、3人は吹雪の裁量で、問題は帳消しになり、全員、合宿に参加出来るようになった。
――食堂――
近藤は大いに喜び、はしゃぐ。
「いよっしゃぁぁぁ!!リゾート地で豪遊だぁぁ!!」
「落ち着けバカ!!元はと言えば、吹雪会長のおかげだってことを忘れんな!!」
「いいじゃねえかよ、お前だってスマホ壊したんだし、新しくなったスマホで色々引き継ぎするの大変だったんだからよ。」
「悪かったよ近藤、お前まで巻き込んでしまって。」
「なぁに、今更謝るんじゃねえよ!!全て終わった事だし、遊び切るぞ!!」
「楽しみだね勇気君、星明君!!」
黒音がやってきた。
「おお黒音!!リゾート地だ!!お前の水着姿を見ることになるとは思わなかった……!!」
「やだな恥ずかしいよ。」
2人は呑気でよろしいこと、いいや近藤だけか。黒音はおそらく、はらわた煮えくり返ってる所だろうが、今は喋らないでおこう。
「星明君も、合宿は楽しみだよね!!」
「まぁ……そのために頑張ったんだしな。」
「知ってる?合宿では、毎年、恋人が出来なかった人は運命の出会いを果たすんだって!!
星明君にとってはすごい重大イベントだね!!」
「おいちょっと待て、俺がいつ彼女を……というか、運命の出会いだと!?」
「チャンスじゃねえか星明!!お前の夢を掴んでこい!!」――
――こうして、中間試験は何事もなく、誰1人脱落せずに、合宿に参加するようになった。
黒音が言っていた合宿の噂を吹雪会長にも確認したが、どうやら信ぴょう性は高いらしい。
リゾート地の1週間の豪遊、それはどんなことが待っているのだろうか。
この時は楽しみでしょうがなかった。




