第14話 中間試験⑥ 決着
須磨伊里高校中間試験の内容
・試験内容は学校生活、授業態度、小テストの成績などの内申点の総合で評価される。
・評価「1」が1つでもあれば補習対象となる。
・評価「2」が2つ以下、残りが評価「3」以上で合格とする。
・合格者は1週間の自由行動、豪遊が認められる「合宿」に参加できる。
――合宿について――
須磨伊里高校が提携するリゾート地への1週間の宿泊である。
費用は全て学校側が負担し、生徒は自由に無料で豪遊出来る。
補習対象となった生徒には、合宿への参加は認められない。
つまり中間試験とは、合宿に参加する生徒を見極める試験である。
中間試験終了まで残り5日。
黒音は星明に、須磨伊里高校の抱える問題行為援助交際、他クラスへのいじめ、暴力行為などを記録したスマホをみせる。
黒音は生徒の抱える秘密を全て握っており、彼女が暴露すれば、学級崩壊は間違いなく起きるだろう。
星明は黒音が暴露する前に、彼女から全ての記録を抹消しなければならない。
だが、どうやって取り返そうかと思考を巡らせた結果、星明に、1つの勝ち筋が見えた。
――生徒会室――
星明は吹雪会長に、黒音の事を報告した。
「そうか……彼女は全ての秘密を知っていると。……困ったな、それでは何時でも彼女の気分次第で明かされるということだ。」
「そこなんです。問題は、黒音がなぜすぐにでも暴露しなかったのか、答えは全てそこにあるんです。」
「……聞こうか。」
星明は吹雪に話した。
吹雪は安堵し、一息ついた。
「そうか……有り得るな、だが確証がない限りは賭けになるぞ?」
星明は迷いなく、真っ直ぐな目で答える。
「大丈夫です。彼女の傾向を考えれば、この戦いはもう勝ったも同然です。」
「いらない心配のようだな。せいめいがそこまで自信あるのなら、私も信じよう。」
「黒音は……合宿に参加出来るのでしょうか?」
「何も無ければ、黒音は補習を受けることはないだろう。あんな目に合わされながらも、せいめいは優しいな。」
「怖いですよ?彼女は。けど、合宿にいなかったら、近藤が寂しそうにすると思うので。」
「お前らしいな。では、この録音ももう用済みって事で削除していいんだな?」
「ええ、もう黒音は動画を消していたので、その時点でもうその録音にも効力はありません。」
吹雪は黒音が星明に脅していた時の録音を削除した。
「これで、ようやく決着が着くな。」
「ありがとうございます。これで、終わらせられる。」
「待て、本当に、大丈夫なのか?」
吹雪は確認した。
「……不安なら、中庭に来てみてください。俺が黒音をそこに呼び出して片をつけるので。」
星明はそう言って生徒会室を出て、中庭に黒音を呼び出した。――
――中庭――
雨が降りそうで降らない曇り空は、黒音の感情に似ているドンヨリとした暗さだった。
中庭で待っていると、近藤がやってきた。
「近藤!?何故ここに?」
「星明、昨日屋上で黒音と何をしていた!?」
近藤は、怒りだっている様子だ。なぜこんなに怒っているのか俺には分からない。
「は!?昨日は黒音と別に何も……話していただけだ!!」
「何を話していたのかは知らねえがそれだけじゃねえだろ!!黒音がいつもより暗い表情だったから、何があったのか聞いてみれば、お前にヤラれるかもしれないと答えていた!!」
「ちょ!?ちょっと待て!!それは誤解だ!!俺は黒音には手を出してはいない!!」
困惑する星明、それは当然のこと。星明は黒音に何一つ手を出してはいない。彼女に触れてさえいない。
近藤はなぜ激昂しているのか、その答えはすぐにやってきた。
「言い訳しても無駄だよ?私は星明君に、弱みを握られているから。」
黒音がやってきた。
「黒音!?近藤に何を吹き込んだんだ!!」
「すっとぼけないで?星明君は私をここに呼び出したのは、私を中間試験に合格させる代わりに、今日までの非礼を体で償えって、昨日屋上で話していたじゃない。」
「星明、お前それは……」
「黒音?本当に何を言っているんだ。俺はそんな事を一言も喋っていない。合宿についても、黒音が何もしてこない限り、俺もこの件は揉み消すつもりだったんだぞ?」
星明は困惑している。当然、星明は昨日の会話で、何一つ黒音が話していた事は合っていない。だが、黒音が星明の否定を黙らせるかのように、証拠の録音を提示した。
「これ、昨日の私との会話だよ?覚えていないなんて言わせないよ。」
黒音は録音を流した。
「――けど黒音、お前が反省し、体を俺に委ねれば、お前は合宿に行けるようになるんだ。――」
録音の声は、完全に星明の声だった。
「これ、完全に星明君の声だよね?私は覚えているよ?昨日の会話は忘れないもの。」
「星明……見損なったぞお前……!!」
「近藤は黙れ!!黒音!!俺は昨日そんな事を言った覚えはないし!!お前の体にも興味は無い!!完全な冤罪だ!!」
「冤罪かどうかを証明するものはあるの?星明君……まーたこっそり吹雪会長に録音でも撮らせたつもり?」
黒音はやはり、生徒会室でのやり取りの録音を察していた。
「……っ!!気づいていたか。」
「図星なんだね。あの時の君の絶望感は伝わったけど、その日以降、君は全然引き下がらなかった。吹雪会長が後から自主的に録音してたんだろうかと思ったけどね。
でも今回は、どうやら吹雪会長もいないみたい。それで君は、この録音の件をどうする?」
もはや、星明には言い逃れようが無かった。今回も、昨日までも、星明は黒音に常に1枚上手で負けてきた。
だが星明はまだ最後の手が1つ残っていた。
「黒音……最後に確認させてくれ。その録音は、本物なのか?」
「何言ってるの?本物だよ?正真正銘、昨日の私と星明君の会話だよ?」
「だったら……昨日お前が語っていた、生徒の秘密も全て、本物なんだな!?」
黒音は、僅かにながらも、体が少し動いた。
「本物だよ?嘘だと疑うなら、その生徒に聞いてみようか?」
「いいや無駄だ、その必要は無い。黒音、お前の握っている秘密が本当なら、近藤なんかに相談するはずがない!!」
「どういうことだ星明……黒音は嘘を言っているとでも言うのか!?」
星明は真っ直ぐな視線で黒音を見つめる。
「答えろ黒音!!生徒の秘密も、俺の録音も!!全ては偽造したものなんだろう!?全ては俺に降伏させるための餌だ!!」
星明は強い自信で、黒音に問う。
「フフッ。本ッ当に、おバカさん。」
黒音の反応は星明が予想していた反応とは違った。
「な、何だと……?」
星明の自信は、一気に崩れる。
「だから、本物だって言ってるでしょ?私がこれまで抱えている生徒達の弱みは全て私の手中にある。
アテが外れちゃったのかな?星明君の反応を見るに、私は嘘をついていると読んでた感じかな?」
「嘘だ……嘘だ、嘘だ!!そんな間違ってはいないはずだ!!お前のその記録は全てダミーだ!!」
星明はさっきまでの威勢が崩れて、勝機が見えなくなってしまった。
自然と力を失い、彼は黒音を前に、立てなかった。
「おい星明!!いい加減にしやがれテメエ!!お前は一体、何がしてぇんだよ!!」
近藤は耐えきれず、星明を殴る。
星明は抵抗する気は無く、ただただ、殴られ続けた。
「やめてあげて勇気君!!星明君はそのつもりじゃなかったよ!!悪気は無かったはずだよ!!」
黒音は表情を変え、近藤を必死に止める。
「だが黒音!!こいつは黒音を傷つけた!!俺はこいつを殴らねえと気が済まねえ!!」
星明はなすがままに、近藤に殴られ続ける。
星明は一向に抵抗を示さなかった。
「なぜだ!!なぜやり返してこねえ星明!!お前らしくねえじゃねえかよ!!」
近藤は必死に問いかける。
「近藤……それでいい、そのまま痛めつけろ……」
「何言ってやがんだ!!お前は……」
「勇気君、もう許してあげよう?星明君はもう降伏した。これ以上痛めつけたら可哀想だよ。」
黒音は優しく、近藤の肩を掴む。
「ああそうだな、これ以上は、ダメだな。」
「ごめんね星明君、勇気君も悪気は無いんだ。許してあげてね?」
星明を慰めようとする黒音、だが近藤は、その黒音をじーっと見つめていた。
「黒音……なんで俺が星明を痛めつけてるところを撮らなかったんだ?」
「え?それは……」
近藤は、すぐさま黒音を押し倒した。
「痛っ!!ちょっ……勇気君急に、どこに手をっ!!やめてっ!!」
近藤は、黒音からスマホを取り出した。
スマホは今、録音されていなかった。
「黒音!!なんで俺の弱みを握らないんだ!!なんで俺だけを特別視する!!星明の弱みを握っておきながら、俺の弱みを握らねえってか!?」
「ちょっ、勇気君落ち着いて!!私は何も、勇気君を特別扱いなんて……」
「随分と、慌ててんじゃねえか黒音、動揺することでも無いだろ。」
星明は立ち上がった。
「星明君……!?なんで……」
「近藤が可哀想じゃねえかよ。お前のこと大好き人間なんだぞ?1人だけ黒音に秘密を握って貰えないのは酷なんじゃねぇのか?」
「黒音、俺はお前のことはずっと好きだ。その気持ちは変わらない。けどよ、俺はお前に嫌われようとも、1番の友達を裏切ることはねえ!!」
「その割には随分と本気で殴ってたじゃねえかよ。」
「うるせぇ!!お前もお前だ星明!!意味わかんねえまま俺に全て託しやがって、俺はどうすれば正解なのか分からねえままこの状況に持ってきた!!後は好きにしろ!!」
近藤は黒音のスマホを星明に渡した。
「ちょっと勇気君!!返してよ私のスマホ!!こんな事をして、2人共合宿には行けなくなるよ!?」
「今更何言ってんだ黒音、俺はもう弱みを握られてるんだぜ?そんな状態で合宿なんか楽しめるわけがないし、もうそんな事はどうでもいい。」
星明はスマホを地面に叩きつけ、踏みつけて壊した。
「……本当に、これは本物の罪だよ?星明君が今行ったことは紛れもなく事実よ?」
「だから、それがどうしたって言うんだ。証拠でもあるのかよ。」
「はぁ?何とぼけてんのよ、お前の足元に証拠はあるでしょ!!私のスマホが!!」
黒音に先程までの余裕の笑顔が消え、怒り慌てふためく表情になっていた。
「らしくないな黒音、さっきまでの余裕はどこに行ったんだよ。」
「ふざけんなっ!!私のスマホを壊しておきながら!!……ってあれ?」
黒音はポケットに違和感を覚えて、手を入れてみた。そこから、スマホがもう1台出てきた。
「なんで?私スマホは2つ以上は……」
「悪いな黒音、黒音のスマホなんて最初から取っちゃいねえよ。今壊したのは俺のスマホだ。」
「勇気君!?なんで……スマホなんか!!」
近藤が黒音からスマホを取った時、実はどさくさに紛れて、自分のスマホを、黒音がスマホを取られたかのように思い込ませて、自分のスマホを取りだしていた。
黒音のスマホは、最初から取られてはいない。
「俺のスマホ軽々と壊しやがって、ちゃんと弁償あるんだろうな星明!!」
「うるせぇ!!俺を思いっきり殴りやがった罰だ。ちゃんと用意してあるから心配すんな。」
「い、イカれてるわあんた達……」
「本当にイカれてんのはどっちなんだよ黒音。結果的にお前のスマホはあるんだし、弱みは握ったままじゃねえか。」
「うるさい!!お前らの弱みを握るために、どれだけの偽造を!!……っは!!」
黒音は、思わず口を塞いだ。だがもう遅かった。漏れた言葉は、一言一句星明の耳に届いた。
「やっと……認めたか。」
「ちっ、違う!!私は何も!!」
黒音は否定するが、星明はそれをさせまいと自分のスマホを取り出した。
「悪いな黒音、全部ここに声が入った。これを持って訴えたら、お前は間違いなく補習、それどころか退学になるかもな。」
星明のスマホは中庭に呼び出した時から、録音を開始していた。全ては黒音の弱みを握るために。
「そんな……私は……私は!!」
「もう見苦しいぞ黒音、いい加減に負けを認めろ。」
吹雪がやってきた。
「吹雪会長!?なんで……」
「想定外だったか?私の存在を、ここにはいないと勝手に決めていたのは黒音だろう。
そして、一部始終をしっかりと撮らせてもらった。これでお前たち全員、合宿には行けないな。」
吹雪も記録をしっかりと撮っており、これにより、黒音は完全に弱みを握られてしまった。
黒音はもはや立ち上がることはできず、力を失ってしまった。
「黒音……これでお前の敗北は確定した。でも、このまま終われば、きっと誰も得をしない結末を迎えると思う。」
「何よ……同情でも買うつもり?」
星明は、吹雪に提案した。
「吹雪会長!!お願いがあります!!この1件、全て無かったことに出来ませんか!?」
それは、誰1人予想してなかった事だった。ただ1人、生徒会長を除いて……




