Day 09. 見逃す
甘くなった、と自分でも思う。
罪を裁き、禁忌を葬る役目を負うウィルドは、これまで誰にも手心を加えることはなかったというのに。殊に彼女に関しては、ありとあらゆることを〝見なかったこと〟にしてしまうのだ。
〈禁術〉に手を出してしまった、リズ・レーヴィンには。
お転婆ではあるが、悪辣ではないからかもしれない。
危うくはあるが、取り返しがつかなくなる前に手を引く賢明さがあるからかもしれない。
ウィルドにしては珍しく、その理由を曖昧にしたまま放置していた。このままでは良くない、と頭の片隅で思ってはいたものの、悪戯に失敗したような苦い顔で笑うリズを見るたびに、「まあいいか」と追及を投げ出してしまう。
それを、今回指摘されてしまった。あろうことか、ウィルドが最近付き合いのある中で、最もお気楽な性格のグラムに。
「つまりベタ惚れ」
グラムはニヤつきながらこちらを見上げる。
「……そういうわけでは」
「否定すんなしぃ〜」
ちょいちょい、と肘でウィルドの脇腹を小突いてくる。正直鬱陶しい、と思った。双子だったら手が出ていたことだろう。ウィルドも一瞬考えた。
そんなくだらない会話に付き合わされているウィルドの目の前で、リグとリズがはしゃいでいる。彼らの研究の一環で、と立ち寄ったその遺跡は、歴史的にも高名で童話・寓話の舞台のモデルともなった離宮だ。規模としては、〝ちょっと大きな館〟程度。人がいなくなって久しく、石壁に風化は見られるけれども、それがまた風情を感じられて良い、退廃的な美しさを持つ城だ。
双子がはしゃぐのも無理はない。……が。
「放っとくと、またやらかすぜ?」
苦笑気味にグラムが言う。それは、薄々ウィルドも感じていた。城巡りに大はしゃぎしていた二人は、今は中庭の噴水に夢中だ。そこに魔術の仕掛けが施されているのを見つけたからだ。術式から用途、目的。議論と解析を熱心に行っている。二人ははじめ、魔術理論ではない進路を希望していたらしいが……あの光景を見ていると、嘘だと思いたくなる。
あの熱意が、たまにとんでもないものを拾い出す。グラムが指摘しているのは、それなのだが。
「なら、貴方も止めてください」
ウィルドを茶化して指摘するくらいなら、面倒が起きる前に止めてくれれば良いのに、とウィルドは思う。あの二人、グラムのいうことはわりと聞くのだ。特段理由があるわけではないだろうが。
「おれ? おれは……」
グラムは一度双子たちへと顔を向け、ぼんやりとその様子を眺めていた。たっぷりと時間をかけ、答えが返ってくるのをウィルドが諦めかけた頃。
「あっち側だからなぁ」
首を斜めに傾けて、いたずらっ子の笑みを見せてくる。
ウィルドは天を仰いだ。そうだ。そうなのだ。何も見過ごしているのは、リズだけではない。彼女の双子の兄のリグもそうだし、グラムもまたそうなのだ。
ウィルドはどうしても、この友人たちに甘くなる。




