Day 10. 大学
〈木の塔〉は広義の意味で大学に分類される組織だ。つまり、『最先端の研究と教育を担う機関』である。それだけに、学校らしく講義もある。入って一年目の者たちに基礎的教育を施すためのものが主だが。
さて、〈木の塔〉は自警団的な側面も持つ組織だ。そのため、魔術研究機関であるにも関わらず、魔術を研究・使用しない者たちもある程度在籍いる。しかしそんな彼らにも――いや、だからこそ、基礎教育は必須とみなされ、各種講義の受講は義務となっている。
つまり、何が言いたいのかというと、
「魔術師じゃないからって、講義中に寝てていい道理はねえんだよ!」
魔術史の講義の最中、ルーファスは白墨を投擲する。今年二十とまだ若手の身だからこそ、研究の資金に困り引き受けた講師だったが、これがストレスの連続だった。戦士たちは基礎教育を軽視し、魔術師であっても歴史を疎かにする。何故現代魔術の体系が今この形をとっているかに絞って話しているにも関わらず、だ。地味で直接的でないものを避けがちなのは若者の常。気持ちはわからないわけでもないが、ここをしっかり身につけないと彼らが将来行く先の研究室で『質が悪い』判定をされかねず、それはまわりまわって講師であるルーファスの評価にも繋がるので、非常に困る。
何故若者たちは、こうもいい加減なのか。
特に戦士と呼ばれる連中。
しかも例のガキに至っては、寝てるくせに白墨受け止めやがるし。
「グラム・レイス! お前は、なんで毎度毎度俺の授業のときに寝るんだ! せめて起きてろ! 受講生としての誠意を示せ!」
指さし怒鳴りつけると、グラムはむくりと起き上がり、へらっと笑った。
「すんません、ちょっと寝るの遅くて、ついうっかり」
「授業を受ける立場で夜更かしなど、恥を知れ!」
「やめて、二本目! 手、白くなるから!」
ルーファスとグラムが、共通の友人を介した知り合いであることはさておいて。
〈木の塔〉では、魔術史に限らず講義中に武器や魔術が飛び交うことがままある。経営陣も講師陣も、受講生でさえあまり気にしないので、放置されつつあるが。
彼らが血気盛んなのは、何も魔物の多い土地柄の問題だけではないのだ。




