Day 07. 星座
満点の星空は、街に住む者には珍しい。銀砂の撒かれた空は、物事に心を動かす機会のなくなったフューリでも思わず息をのむほど美しかった。星の並びを目で追う。空に何本も線を引いてみるものの、うまく像を結ばず、やがてあきらめた。
風がそよぎ、草原を揺らす。巨樹の膝下とは違い、ここはひどく見晴らしがいい。空のすべてを視界に収められそうだ。
「知ってる? 旧世界の人間は、星空の点で絵を描いたんだって」
フューリは星空を見あげたまま、地面に転がる人物に声を掛けた。
人々が『星座』と呼ぶそれ。誰かが何気なく語っていた知識を、フューリはそう咀嚼して理解していた。
「昔の世界の神様が、死んだ英雄が忘れられるのを惜しんで、その人を空に飾ったんだって。だから、夜になって空を見上げたら、 みんなその人を思い出す」
残念ながら、フューリにはそれができなかった。星と星が像を結ばないから、〝その人〟を見ることができない。見ることができないから、その人が誰かを判断する事ができず、故に思うこともできない。
でも、消えたわけではない。何処か別の場所で、誰かが正しくその姿を見つめているのだろう。英雄はやはり忘れられない。生を終えてもなお、みなの前に姿を現すのだ。
「いやだねぇ、死んだ後も、無様な姿を衆目に晒されるなんてさ」
死んだあとに飾られるのだから、それはきっと死んだときの姿だ。どんな姿だろうと――例え綺麗な形だろうと、他人の見世物にされるのは冗談じゃない。
「今の神様が昔の神様みたいなことをするか知らないけど」
フューリは、ようやく足元に目を向けた。
そこに転がるのは、虫の息となった男だ。地面の上にうつ伏せになって、濁った目で草の根元を見つめている。
男の身なりは良かった。シャナイゼでもそれなりに権力のあった男だった。ただ、悪徳が過ぎて他人の恨みを買ったようで、こうしてフューリに暗殺された。
功績も一応はあるらしい。だが、それよりも恨まれたことのほうがこれから話題になるのだろう、と思う。
実に哀れだ。良い記憶で他の人の中に残らないのだから。
だから、せめて。
「あんたの死体は、神様でも見つけられないようにきっちり隠しておくからさ。だから安心して眠りなよ」
その無様な死に様だけは、衆目に晒されないようにしてやろう。この人を殺すしかなかったフューリの、せめてもの情けだ。




