Day 30. びいどろ
シャボン玉の膜のようだ、とまだ十四だったルビィは思った。実際はもっと分厚くしっかりしたものなのだが、その薄さが、空気で容易に凹んだり膨らんだりするのが、ルビィにシャボン玉を連想させた。
それは、びいどろというらしい。手で握りこめるくらいの大きさで、形はまるで平底フラスコ。管の端を口に加え、笛のように息を吹き込むと、平底がぺこぺこと鳴る。笛のような音が奏でられるわけではないので、本当にちょっとした玩具だ。だが、なんと繊細な玩具だろう。
このびいどろは、ガラスでできている。
高熱を使うも加工性に優れていて、液体に触れても金属と違って腐食することのないそれが、 まさかこんな繊細なものまで作れるだなんて。ルビィはこれまで、グラスと瓶と窓ガラス、それからガラス玉くらいしか見たことがなかったから、想像もしていなかった。
「これが技術だ」
ルビィにびいどろを差し出した、初老の職人が自慢げに笑う。ガラスを溶かす炎の照り返しで、金色の前歯が強い光を弾いた。
「何年という研鑽の積み重ね。工夫と理解。全てを併せた結果が、これだ」
ルビィはそっと指先で平底を触った。少し爪を立てれば、容易に割れてしまいそうなそれ。だけど皮膚は、確かにガラスの滑らかさを確かな感触として認識していた。
「役に立つか、などは知らん。少なくとも儂には、こんな玩具しか作れんよ」
初老の男はルビィの手からびいどろを取り上げた。そして作業台の片隅に押しやり、代わりに筒に入っていた青のガラス棒を手に取った。
「だが、その玩具で培った技術が、別の技術を作るものだ。——見ろ」
職人は、まず一つガラス玉を作ると、別の色のガラスの棒を手に取った。青い炎で先端を溶かし、まだ赤々としたガラス玉の表面を撫でる。また色を変えて、繰り返す。
熱が取れたガラス玉の水中に、もし触れられたのならたちまち崩れてしまいそうな、白い花が沈んでいた。その繊細な技に見習い技師は息を呑む。
それが、ルビィが魔具職人として迎えた転機の一つ目だった。




