Day 29. 影
太陽は東からのぼり、南の空を駆け、西へと沈む。すなわち、シャナイゼの街では、中央にそびえる大樹の影が西から北、東へと移動する。大樹の枝葉の天蓋を横においてなお、街の南側と北側では、明暗差があるのだ。
日時計がごとく木の影が移動するその区画は、まさにそのまま、〈木陰〉と呼ばれる。フューリたちのような暗殺者や、乞食や……そんなならず者たちが集う場所だ。
「おい、フューリ」
狭くて暗い、埃臭くて煙臭い寂れたバーカウンターの前を横切ったフューリを、バーテン姿の男が呼び止める。接客に立つだけあって、 この男見た目は小綺麗だが、中身はフューリよりも汚れている腐った大人だ。店の奥の職業案内所もこの男が監督している。
「なんだよおっさん。俺、今から仕事なんだけど」
「クソのような仕事だろ? その割にはごきげんじゃねーか」
そうだったかな。フューリはとぼける。仮にそうだとしても、素直に認めるつもりはないが。
「……で?」
「サラのやつがいない。知らねぇか」
「知らねー。その辺ほっつき歩いてんじゃねーの?」
「ったくよぉ。最近勝手が過ぎるぞあの女」
苛立つバーテンダーを放って、フューリは店を出た。地上へに続く階段を登ると、まだ昼間なのに薄暗い、影落ちる街に出る。
こんな場所でも、建物は茶色と緑で統一されている。ここもまぎれもなくシャナイゼなのだ、と街そのものが主張する。
「俺らのような日陰者も受け入れるなんて、お優しいねぇこの街は」
それは皮肉だったか、それとも呆れによるものだったか。自分でもよく分からないまま、フューリはズボンのポケットに両手を突っ込んで、目の前の通りを歩きだした。
日向へと出る境に、茶色の髪の少年が立っている。太陽の下がお似合いの彼は、フューリに向かって大きく手を振った。
フューリもまた、片手をあげて応えた。




