Day 03. 振り返り
「はい、じゃあ週報告会をはじめまーす」
入口を挟み左右の壁に並べられた、物ひしめく大きな棚。細長い部屋の手前と向こうを割る、衝立のように置かれた本棚。その手前側には、六人掛けの大きな円卓が大部分を占めており、非常に狭苦しい研究室の中。
現在は〈召喚術〉を研究している、リグたちクラウジウス研究室四人は、その円卓に着いていた。それぞれが自分の前に一枚の用紙を置いている。この研究室は、週次でこのように会議を開き、行動記録や研究成果とその考察を一枚の紙に纏めて持ち寄って、研究内容の共有と進捗確認などをしていた。
発表は、まず研究室の長クラウジウス。三十を前にして早くも研究室を持ったその人は、、波打つ亜麻色の髪を少し長くして〝無造作〟にしていた。ありきたりなローブを着ておいて割と洗練されている印象なのは、身嗜みを整えているからだろう。とっつきやすそうな顔で、朗々とリグたちの研究を取り纏めた結果を話す。
次の報告者は、リグたちの幼馴染たるジョシュアだ。クラウジウスとは一八〇度代わって、見た目にも偏屈な人間である。切れ長の瞳も尊大な口調も、おそらくみなが侮られていると錯覚する。リグたちはもう慣れたので、何も不快に感じない。
理論検証を担当する彼の報告を聴き終えて、ようやくリグとリズの番となる。二人して行うは、実測と分析――つまり、クラウジウスの纏めからジョシュアが打ち出した理論・仮説を実践し、その所感を得ること。もちろんただ実践するだけでなく、考察もする。データからの読み取りは、二人して比較的得意な分野だ。
これらをすべて総括し、次の方針を立てる。これがこの研究室のサイクル。
「しかし……」
紙を回収し、クラウジウスに渡したジョシュアが、切れ長の目でこちらを見つめる。常に睨まれていると勘違いされがちな彼だが、今回は本当にリグたちを睨んでいた。
ヤバいな、と二人して感じる。目配せし合うまでもなく、互いに確認し合う。生まれてからずっと一緒の妹との意思の疎通など、隣にいれば何もなくともできる。
――じゃなくて。
「……最近、お前たち、また出張ばかり行っていないか?」
魔術研究機関である〈木の塔〉は、一方でこのシャナイゼ地方一帯の治安維持も請け負っていた。町村の外を跋扈する魔物に対抗するのに、魔術が都合が良いという理由。〈木の塔〉の研究者は、基本任意でその治安活動に参加する。
リグとリズは、参加している側だった。ジョシュアのいう『出張』は、その治安活動のことを指す。
「いやあ、だって、仕事飛び込んでくるんだし」
「受けているのはグラムだろう。少し多すぎる。奴に控えるように言え」
「はーい……」
しおしおと身を縮めて返事をする。
本当のことを言うと、難しい。依頼を受けて適任の小隊に割り振るのは上。隊長は可否を判断する権限はあるものの、特段の事情がない限りは断らない。友人も一般的な判断に基づいて隊員を連れて行っているだけで――つまるところ、自分たち一存で制御できることではない。
……のだが、その辺りをジョシュアに言っても無駄だ。彼の苦言の本質は〝リグたちの成果のなさ〟にある。
もっと研究に注力しろ、と言われている。
――別に、蔑ろにしてるつもりはないんだけどな……。
だが、結果だけ見れば、そのように見えても仕方がないだろう。今日提出した報告書の内容が乏しい自覚はある。
どうやらリズとやりかたを見直す必要がありそうだ。




