Day 02. 予感
ジョシュアは常々、もったいない、と思っていた。
幼馴染の双子の兄妹のことだ。ジョシュアが知る限り、この世界の誰よりも魔術師としての才能を有している。並外れた魔力と、魔術に対する鋭い勘を持つ。魔術を使うために生まれてきたような二人。
だが、なんともどかしいことに、リグもリズもあまり勉学に熱心ではなかった。
嫌いではないようだ。同年代に気違い呼ばわりされるほど勉強が大好きなジョシュアの話に、いつも付き合ってくれる。議論も交わす。知識不足による的外れな見解こそあるが、筋の通った受け答えをしてくれるのを見る限り、頻繁に学びを得ていることが分かる。しかし、本人たちは娯楽に走りがちで、成績も人並み。ジョシュアからしてみれば、向上心がない。
普通はそんなものだ。だが、やはりどうしても、もったいないと感じてしまう。進路を決める時期となると、なおさらだ。
「ジョシュアはやっぱり、〈紫枝〉?」
シャナイゼ地方の中枢ともなる魔術研究機関〈木の塔〉は、その研究分野を六つの〈枝〉に分け、それぞれを色で識別している。〈紫枝〉は、魔術の原理そのものを研究するところだ。ジョシュアはここで魔術研究に従事すると決めていた。リグとリズたちもだ。
「もちろんだ。お前たちは?」
「悩んだんだけどねー。私はやっぱり〈青枝〉かなぁ」
「俺は〈緑枝〉だ」
長い黒髪に灰の瞳。髪を括っているか、いないか。一見してその違いしか分からないほど瓜二つの兄妹は、信念というにはほど遠い、ジョシュアからしてみるといまいち締まらない口ぶりで、呑気に己の進路を語る。
歴史的観点から魔術を紐解く〈青枝〉。風土と魔術の関りを探る〈緑枝〉。ジョシュアはそちら方面からの魔術へのアプローチを蔑ろにする気はなかった。二人だって、向いていないわけでもない。幼馴染たちが望むのであれば、そちらの道に進ませるほうが当人たちの幸せに繋がるだろう。
だが、どうしても〝違う〟と、そんな印象がぬぐえなかった。よく似た形の違うパズルのピースを嵌めてしまったような違和感。言語化が得意なジョシュアが、言葉にすることのできない予感。噛み合わせの悪い歯車のような軋み。
自分勝手な望みだ、と一度はそう思い、呑み込もうとした。
しかし。
「あー、うんそっか、なるほどねー……」
〈木の塔〉に入り、まだ教育期間であった頃。早くも特定の研究室に出入りしていたジョシュアが、研究室の許可を取ったうえで研究内容を二人に見せてみると。
「なんか重そう」
「身体が壊れるな」
「門の開けっ放しがいけないんだと思うよ。これを何かに変えるとかさぁ――」
「そもそも、開けっ放しの必要あるか?」
いつもの議論――いや、それに満たない思い付きの羅列だ、と二人は思っていることだろう。だが、傍で耳を傾けていたジョシュアは、二人が理屈を超えたところで何かを掴みかけていることを悟った。
駄目だ、と思った。自分の意地や嫉妬も、研究の成果も、全てを横においても、二人をこのままには――ずっと抱いている違和感を、放置してはいけないと思った。
だから、ジョシュアは。
「お前たち、ボクについてこいっ!」
たとえ二人に恨まれようとも、強引にでもリグとリズをこちら側に引き込むことを決めた。
この二人が世界を変える、と最初に気づいたのは、ジョシュアだ。
あれからいろいろあったが、ジョシュアは今でもこのときのことを後悔はしていない。




