1/31
Day 01. 春の形見
一面に吹き渡る風が揺らすのは、色の薄い草ではなく、水面だった。雨の時季をほんの一瞬しか知らないような水はけの悪い土地は、一雨で容易く水没する。此度の雨は普段に比べて遅い雨で、これからの季節に向けて背を伸ばした草が、哀れにも溺れかけていた。
〝辺り一面鏡のような〟とは、さすがにいかない。それでも、静かの海が雲の流れを映す光景に、リズは息を呑んだ。湿気を含んだ涼やかな風。地面を浸すほどの大量の水。何もかもが、乾いた土地に住むリズには珍しい。
胸が高鳴る。同時に、締め付けられるような感覚にも襲われる。
そして、ほんの少しの〝ズレ〟。
――まるで、異邦人になった気分。
ここはリズの故郷たるシャナイゼだ。しかし、目の前に広がるのは馴染みのない風景――非日常。彼女を作り上げてきたこの土地も、ふとした拍子に違う顔を見せることがある。
それが何を意味するか。今のリズには分からない。
しかしその気付きが、いずれ何かをもたらすような気がした。
水に溺れた草は、いずれ腐り、新たな芽の糧となるだろう。
育った芽はいったい何を見るのだろうか。
春の終わり。ふとした隣の非日常がリズに囁きかけたもの。
この美しい光景ともに、胸の奥に密かに宿り続けることだろう。




