Day 19. つるつる
〈木の塔〉に入った頃から、グラムは一つの誘惑を抱えていた。
大樹を刳り貫いた塔の中。中心に、最上階まで繋がる螺旋階段がある。その手摺が、多くの外来客に目に入るからか、良い木材で綺麗にニスを塗られて、つるつるピカピカになっているのだが――一度、この手摺に尻を載せ、上から下まで滑り下りてみたい、と思っているのだ。
「くだんなっ!」
その秘めた想いを双子に打ち明けてみたのだが、呆れ
た顔を揃えられて一蹴された。四つの灰色の目が「しょーもないガキだな」と訴えていて、半ば覚悟はしていたものの、傷つく。
「え、なんでそんなこと思い付く?」
「なんか面白そうじゃん」
「塔の高さは知ってるよな。昇降機が当たり前に設置される高さだぞ? 長いし加速がついて、無事に下まで行けたとしても怪我するだろ」
「バランス取り続けられていられるかも怪しいし……人目とか迷惑とかさぁ」
わりと現実的なことを言う辺り、面白くないなと思う。
「その現実を見ろ。お前の体重と加速度、手摺の摩擦から考えて、間違いなく制御できない速度が出る。それで地面に着地しようとしたとして、足をやるのがオチだ」
「呪文混じえて話さないで」
リグの目が半分伏せられる。
「そんなことして何になるの?」
リズはずっと、正体不明の生き物を見る目でこちらを見ていた。なんとなく懐かしい気分になる。故郷でグラムが何かに挑戦しようとしているとき、村の女の子たちがしていた目だ。リズもやっぱり女の子かー、と思う。
「その挑戦するのが良いんだ。で、最後まで滑って怪我しなければカッコいいじゃないか」
「……馬鹿?」
白い目で見られるまでがセット。
そっか、街っ子には男のロマンが分からないんだなー、と故郷の友人たちが懐かしくなる。彼らとは一緒にいろんな悪ふざけをしたものだが。
……なんて、不満を冗談混じりに溢してみると。
「……そんなに高いところから滑り落ちたいのなら、手伝ってやるよ」
これが話に聞く吹雪ってやつなのか、と思わせる、身が切れそうなほどの冷たい笑みをリズが浮かべた。
あと、滑り落ちたいとまでは言っていないんだけど。
「屋上から、氷の坂を作ってやる。ちゃんと滑るように磨いて、水も流しておこうか。きっと速度が出るぞぉ」
据わった目は、マジだった。
一度言い出した手前、なかなか引っ込みづらかったが。
「……いえ、ごめんなさい。やめときます」
なまじできそうなだけに強がったら死ぬな、と悟り、素直に頭を下げた。




