Day 15. ラナンキュラス
「エリナ、ティナちゃん。見て。ラナンキュラスが入ったよ」
店の奥に声をかけると、子ども特有のバタバタした足音が迫ってきた。ひょっこりと顔を出す二人の女の子。一人はアーシャの妹、今年九歳になるエレナ。いつも元気いっぱいで騒がしい。もう一人は、エレナより一つほど年齢が下のティナ。こちらは対照的に、引っ込み思案で大人しい。性格の違う二人だが、だからこそ相性が良いようで、いつもアーシャの家で遊んでいた。
その二人を呼んで、アーシャはたった今仕入れたばかりの花を見せる。アーシャは花屋だ。シャナイゼでは花の栽培はほとんど行われず、商品はもっぱら他所からの輸入品。今回のこのラナンキュラスは、西から来たお嬢様のメイジェーンの伝手で手に入ったもので、いつも南から仕入れているアーシャの店の品としては珍しいものだった。
中心を花弁で幾重にも包み込むような、玉の形の花。赤、オレンジ、ピンクに黄色、色も豊富だ。見ているだけでも楽しくなる。
妹たちは目を輝かせながら、花を見ていた。微笑ましい光景だが、室内でも帽子を深く被り、長いスカートにマントを重ねたティナを見ていると、少しだけ複雑な気分になる。彼女は異形だ。人の身体に、狐の耳と尾が付いている。かつて人が作り出した異形の存在の、子孫。望んでそう生まれたわけではないのに、化物として忌み嫌われる。そして、ティナ自身も、かつて人間にひどい扱いを受けていたらしい。一時期は、言葉も発することができなかった。
ティナが必要以上に衣服を重ねるのも、妹たちが外ではなく家の中で遊ぶのも、全てその見た目の所為。本当は子どもらしく奔放に外を駆け回ったほうが楽しいだろうに、人目を気にして石を投げられるのを恐れて、家の中に引き篭もっている。ここに来ているのも、保護者の送り迎えがあってこそだ。
可哀想だ、とアーシャは思う。だからアーシャはティナのため、せめて子どもたちが遊ぶ場所として家を提供し、時折こうして珍しい花を見せて心を慰めるようにしていた。
ティナは、ラナンキュラスを気に入ったらしく、先ほどからじっと花を見つめている。それも、桶に入れられた花全体を、ではなく、一輪の花房を穴を空けそうなほどに。
「気に入った?」
声をかけると、ティナは花から視線を逸らさずに頷いた。彼女はもう喋れるようになっているが、癖が抜けないのかまだ言葉少なだ。
「じゃあ、一輪分けてあげるね。帰りに持ってって」
そう言うと、ようやくこちらを振り向いた。キラキラした瞳で、小さく「ありがとう」と言われる。お喋りではないが、礼儀正しいし、こうして素直に厚意も受けられる。預かり先で大事に育てられている証拠だ。
ティナの視線は、またラナンキュラスに戻った。食い入るように見つめている。そんなに気に入ったのか。
理由を聞いてみると。
「あのね……この花の中に何がはいっているのかなって」
「入る?」
「お話で、妖精さんからもらうお土産の包みみたい。あと、花の中を開けたらお姫様とかいそうだなって」
マントの上からでも分かるほど、彼女のしっぽが揺れ動いていた。何よりも隠したいと思っているだろう、それでいて隠すのに苦労しているだろう部分が。
それは、アーシャたちに気を許してくれている証左。それを嬉しく思うけれど。
ティナがいつか、こんな限られた場所でなく、大勢の前で、太陽の下でありのままに花開かせることができる日が来るのを、アーシャは願わずにはいられなかった。




