Day 13. 繰り返し
リオルタールの周りには、『天才』と呼ばれる人間が三人いる。幼馴染のリグとリズ。そして、自分の実兄ジョシュア。魔術の申し子みたいな二人が傍にいるので霞みがちだが、リオルタールは兄こそが一番凄いと思っている。
兄のジョシュアは昔から頭がよく、一を知れば十を導き出す思考力と、千の中から一を拾うひらめきを備えていた。それを『天才』と他人は言う。何も知らない人はすぐにその言葉で兄を括って片付ける。だが、生まれてからずっと兄を見てきたリオルタールは知っている。それはすべて、兄が呼吸をするように反復をこなしているからだ、と。
決して『天才』などではない。
一つ知見を得れば、ノートの上でも実践でも頭の中でも、その知見を生かす術を幾度も幾度も検証するのだ。そしてそれを知識として蓄積する。兄の類まれなる思考力とひらめきは、膨大な知識量の賜物である。
みんな、それを知らない。口惜しいことに。
「え、君、あのジョシュアの弟なんだ」
〈木の塔〉に入ることのできたリオルタールが名乗ると、みんな口を揃えてそう言う。兄は有名だ。主にその『天才』ぶりと、尊大に見られがちな言動で。
そして哀れみの眼差しでリオルタールを見下ろす。
「大変だねー」
〈木の塔〉の図書室。シャナイゼの街に聳える巨大な木の中身を刳り貫いて広大なフロアとした区画に、ところ狭しと本棚が並べられている。リオルタールは、見習いたちが受ける講義の課題をこなすための資料を借りに来た。そして貸し出し手続のために名前を書いて、お決まりの展開に至る。
「お兄さんに手伝ってもらえばいいのに。……無理か、あの性格じゃ」
兄は尊大で人を見下す言動をしがちだ。それは反復により得た知識による自身の裏付けに過ぎない。……まあ、もう少し他人の心情に寄り添ってものを言えないのか、と弟自身も思うのだけれど(何故かこれは反復による習得がない)――まるで人でなしみたいな言い方をされるのは、弟として腹に据えかねる。
リオルタールは唇を引き結び、カウンターに積み重ねられた本を睨みつけた。リオルタールは、兄とは違い引っ込み思案な性格だった。それがまた、兄への誤解に拍車をかけるということを知ってはいるが、何度繰り返しても上手く立ち回ることができず、こうしてだんまりを決め込むことになってしまう。
カウンター向かいの魔術師は、哀れみの目でこちらを見ている。正直、腸が煮えくり返る思いだ。だが――
「お、リオルじゃーん。元気?」
ニヤついた先輩魔術師とリオルタールの膠着は、飛び込んできた第三者の声によって解けた。長い黒髪と灰色の目、灰色のローブの魔術師がこちらに手を振っている。解けた髪型を見るまでもなく、リオルタールにはそれが幼馴染の双子の妹のほう――リズだと分かった。
「お、無機化学物性の本。講義の課題?」
積み上げられた本のタイトルを読み、すぐに看破する。
「そうみたいなんですよー。お兄さんに教えてもらえば良いのにねぇ」
遠回しに兄を批判する魔術師の嘲りの言葉に、
「ねー。でもリオルは、ジョシュアのこと大好きだから」
同調したリズは笑顔を浮かべつつ、その視線を凍りつかせた。
「ちゃんと自分で考えた上で、お兄ちゃんに相談したいんだよね。同じ土俵に立って議論したいんだもんね」
魔術師はヘラヘラした顔を凍りつかせた。
「ほんと、つまんない奴はみんな同じことしか言わないんだから。繰り返し対応するこっちの身にもなってほしいなぁ」
リズの笑顔のこめかみに青筋が浮いているのに気づいたリオルタールは、そろそろ彼女を止めないといけないことに気が付いた。彼女はすぐ手が出るたちであることを、同じ光景を何度も繰り返しているリオルタールは知っているから。




