Day 12. 謂わぬ色
リビングの、寝室へと繋がる廊下への扉が開く。部屋に入ってきたその人は、半分ほどしか開いていない赤い瞳でティナを一瞥した。
「おはようございます」
ぶっきらぼうなあいさつに応じて、先に朝食の席についていたティナはだんまりのまま頭を下げた。彼が怖いからではない。ティナは、言葉を発することができないからだ。さんざんご主人様に仕込まれたので、理解はできる。だが、しゃべるとなると……どうしても恐怖に喉がひきつる。昔は、言葉を口にすると殴られることのほうが多かったから。
彼――レンは、それを理解してくれている。だから、ティナをとがめることはない。でも、慰めることもなかった。彼はティナの容姿が嫌いだから。狐の耳と尾を持つ、およそ人間のものとは言えない異形の姿が。
でも、虐めることもない。ムスッとした顔でティナを見るだけで、避けたりもしない。優しい人だとティナは思っている。
「今日、ルビィは……」
レンはテーブルにより、出掛けた保護者が残した書き置きを見た。
「わ、今日は子守担当か……」
がっかりした様子に、ティナは慌てて身の回りを見回した。探しているのは、小さく切った紙の束を輪っかで綴じた単語帳。言葉を発せないティナが意思疎通を図る手段。
結局身の回りではなく、赤いスカートのポケットの中にあった。滑る指で急いでめくる。
それをレンが制止した。
「いいです。何が言いたいか、おおよそ察しは尽きます」
ティナは手を止め、呆然とレンを見上げた。だって、彼はやりたいことがあるのに。嫌いなティナに付き合うなんて、嫌に決まっているのに。
だから、迷惑をかけないよう、『おとなしく家にいる』と伝えようとしたのに。
レンは下を向いて溜め息を吐いた。
「くだらない遠慮はしない。……ただ、今日は僕、買い物に行きたいので、それには付き合ってもらいますよ」
つまり、レンはティナと一緒にいてくれるばかりか、何処かに連れて行ってもくれるのだ。耳と尻尾を隠さなければいけない、面倒な見た目をしたティナを。大嫌いな異形の姿をしたティナを。
やはり、レンは優しい。
なんだかんだ言いながら一緒にいてくれるこの〝お兄ちゃん〟が、ティナは大好きだった。




