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転生駒姫は、親バカな父・義光と従兄の政宗を和解させて東北大同盟を作り処刑フラグをへし折ります!  作者: 双瞳猫
第1部:転生幼女、親バカ父と暴走従兄の喧嘩を止める

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第42話「角館の鷹、山形城へ——戸沢盛安、最上に仕る」(後半)

 謁見が一段落したところで、お父様が促した。

「駒、戸沢殿にご挨拶しなさい。妙、竹丸も」

 お母様が、静かに頭を下げた。控えめで、完璧に奥ゆかしい所作だ。大崎家の出であるお母様は、こうした公の場では常に一歩引いている。けれど、その双眸はまっすぐに盛安殿を捉えていた。柔らかい目の奥に、人を見定める静かな光がある。お母様はいつもそうだ。引いているように見えて、決して何も見逃さない。

 一方の弟・竹丸は、公式の場への初お目見えとあって緊張でかちこちになりながら、ぎこちなく頭を下げていた。……かわいい。けれど、今は微笑んでいる場合ではなかった。

 私の番だ。

盛安殿の前に歩み出ると、彼がすっと視線を落とした。

その漆黒の瞳が、わずかに細くなる。

(——七歳の姫を見て、何を思っているんだろう。まあ、『最上の姫が大崎合戦を止めた』『上杉との一件でも裏で動いた』なんて噂は、隣国にも届いているはず。どんな化け物かと身構えていたのかもしれないね)

 私は背筋を伸ばし、できるだけ落ち着いた声を響かせた。

「戸沢左衛門尉様、お会いできて光栄に存じます」

 そこで、意識して一拍の間を置いた。

(——言うべきか、言わざるべきか)

 一瞬だけ迷った。けれど——前世のカンニングだろうと何だろうと、この人の覚悟を無下にはしたくない。私は迷いを振り切った。

「仙北から山形まで、さぞ遠い道のりでございましたでしょう。しかし——その一歩を踏み出されたことが、奥羽の未来にとって、どれほど大切なことか」

 盛安殿の目の色が、ガラリと変わった。

「戸沢家の誇りをその胸に抱きながら、民を守るためにあえて頭を下げる。それは……武将として、最も気高く、最も難しい決断の一つだと思います」

 シーン……と、謁見の間が完全に静まり返った。

 謁見の間の空気が、一瞬にして凝固したのが肌で分かった。

 盛安殿が、静かに問うた。

「……なぜ、そのようなことを仰る」

(——あ。やっぱり、踏み込みすぎちゃったかな)

けれど、嘘をつくつもりは毛頭ない。あの『御用に罷り立ち』という一文の奥に、この人のプライドと苦悩がすべて詰まっていたのだ。大量の古文書を読み込んできた私には、行間から滲む血の跡が、見えて、分かってしまうのだから。

 横から、お父様の声が飛んできた。

「駒、なぜそう思ったのだ」

 お父様も純粋に不思議そうだ。こういう時のこの人は本当に素直である。

「……先日拝見した、書状の言葉から、そう感じたまでにございます」

 私は、できるだけ自然に答えた。

 盛安殿が、息を呑むように静かに繰り返した。

「書状の……言葉から」

 その目の奥で、感情が激しく揺れ動くのが見えた。『あの形式的な定型句の奥底まで、この幼子は見抜いたのか』という畏怖に似た驚愕が、静かに、けれど確かに宿っていた。

 背後で、鮭延殿が小さく咳払いをした。

(——この咳払いは、『よくやった』か『余計なことを言うな』か……)

……うん、たぶん後者(冷や冷やした)だ。

でも盛安殿には届いた。それだけで、私の賭けは勝ちだった。


 ***


 謁見の後、お父様が「盛安殿、少し話をしよう」と促した。

 場所を移したのは、奥にあるこぢんまりとした執務室だ。謁見の間よりも格段にくつろいだ雰囲気だが、部屋を橙色に照らす燭台の炎が、二人の顔をどこか厳かにも浮かび上がらせている。

 私もその場に同席していた。お父様が「駒も来い」と、私の袖を引いたからだ。

(——また私を神輿みこしにする気ね。まあ、いいけど)

 お父様が、どっかと腰を下ろして腕を組んだ。

「盛安殿。我が最上、そして米沢の伊達、さらに仙北の戸沢が真に一つにまとまれば、もはや奥羽の地に敵などはおらん。……そして、中央の関白とて、この奥羽を軽んじることはできなくなるはずだ」

 盛安殿が、わずかにその精悍な眉を動かした。

「……すでに、秀吉殿まで見据えておられるか」

「ああ」

 お父様が少しだけ間を置いた。そして——不敵な笑みを浮かべて私を見た。

「……そもそもは、この駒が言い出したことでな」

(——やっぱり私に振った! お父様!)

 内心で盛大にツッコミを入れていると、盛安殿の鋭く静かな視線が、真っ直ぐに私へと突き刺さるのを感じた。

(——よし。ここは私が、最上の、いや、奥羽のグランドデザインを語るべき場面ね?)

 私は小さく息を吸い、姿勢をスッと正した。

「戸沢殿。関白秀吉様による天下統一の足音は、もうすぐそこまで迫っています。東北の諸大名が揃って足並みを揃え、一丸となって参陣すれば、中央に対して奥羽の圧倒的な存在感を示せるでしょう。しかし……もし私たちがバラバラに動けば、一枚岩ではないと見透かされ、各個に撃破され、いいように押さえ込まれるだけです」

 盛安殿が、何も言わずに私をじっと見つめ続けた。

 密度の濃い、長い、長い沈黙が室内に満ちていく。

「……わずか七歳の姫君が、そこまでの大局を読まれておいでか」

 その声は、驚きというより——目の前の現実を、静かに受け止めるような響きを含んでいた。

 お父様が「そうだ。だから……」と言いかけて、ふと口を噤んだ。

 少し考えて、言い直した。

「……いや、細かな理屈はいい。盛安殿、共に奥羽の地を守ろう。それだけだ」

 盛安殿はしばらくお父様の顔を見つめ、やがて、静かに首を縦に振った。

「……畏まり申した。戸沢家はこれより、最上、伊達とともに奥羽の命脈をお守りいたそう」

 確固たる覚悟に満ちたその言葉が、夜の執務室に静かに、深く落ちた。

(——決まった)

 私は、胸の奥で静かに、けれど熱く呟いた。

(最上、伊達、そして戸沢。東北大同盟の第三の柱が、今日、確定した。次は……)

 燭台の炎が、ゆらりと揺れた。


 ***


 山形城を発った戸沢盛安は、愛馬に跨がり仙北・角館への帰途についていた。

 燃えるような夕陽が、出羽の険しき山々を一面の橙色に染め上げている。角館を囲む山も、山形を抱く山も。同じ奥羽の大地が、いま同じ夕陽を浴びて神々しく輝いていた。

「殿、最上の地はいかがでございましたか」

 傍らを進む側近が、静かに問いを投げかけた。

「……思っていたよりも、遥かに悪くなかった」

 盛安は、短く静かに答えた。

 規則正しい馬蹄の響きを聞きながら、城内での出来事を胸の中で反芻する。

(——最上義光殿は、確かな器を持った男だ。勝者の傲慢を見せず、戸沢家の武勇を心から必要だと認めてみせた。あれは……取り繕った虚飾ではなく、本物の言葉だった)

 そして——あの、駒姫。

(わずか七歳。なれど、形式的な書状の行間から我が懊悩を読み解いた。そればかりか秀吉の天下統一の趨勢を観て、奥羽の諸将を一つに束ねようとさえしている。……あの幼子が義光殿を操っているのか、それとも、義光殿があの化け物を育て上げたのか)

 どちらでもいい、と思った。

(結果として……この奥羽が真に一つにまとまろうとしている。我が戸沢の民が生き残る道は、そこにしかない。それこそが、何より大切なことだ)

 夕闇に溶けゆく山々が、最後の輝きを放っている。

その景色を見つめながら、盛安はふと、己の出立の朝を思い返していた。

角館城を出る時——己の境遇を「誇り高き鷹が、自ら狭き籠に入るようなものだ」と、血を吐くような屈辱を噛み締めていた。

しかし、今は違う。

(——鷹は、籠に囚われたのではなかったのだ)

眼前に広がる夕暮れの山並みは、どこまでも広く、遠く、果てしなく続いている。

(あの最上の地で……鷹は、より大きな空を見つけたのかもしれない)

馬が、角館へと続く街道を静かに踏み締めていく。

出羽の美しい落日が、新しき世の夜明けを告げるように、奥羽の大地をどこまでも深く、橙色に染め上げていた。



戸沢盛安の「鬼九郎」という渾名は、史料に実際に残っています。

二十代の若さで仙北を統べ、その苛烈な戦ぶりから恐れらました。

盛安が最上への従属を選んだのは、弱さではなく、民と家を守るための冷徹な合理性の勝利と思います。

ちなみに角館は、以前作者も訪れましたが、武家屋敷と桜並木で知られる美しい町です。

盛安が見つめた「角館の秋の錦」は、今も変わらず奥羽の山々を彩っています。


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