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転生駒姫は、親バカな父・義光と従兄の政宗を和解させて東北大同盟を作り処刑フラグをへし折ります!  作者: 双瞳猫
第1部:転生幼女、親バカ父と暴走従兄の喧嘩を止める

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第38話「東北諸大名の動揺①——南部信直の警戒」(前半)

数話の間、東北諸大名の動向に触れます。ちょっとの間、主人公はお休みです。

 山形城下の農村で、七歳の姫が農民たちに塩水選を教えていた頃——。

 北奥羽の空は、すでに秋ではなかった。

 三戸城みのへじょう。陸奥国三戸郡、南部家の本拠。出羽の山形とは、奥羽山脈を挟んで遠く隔たった、北の果ての城だ。

 出羽の秋風が「少し肌寒い」なら、北奥の秋風は「容赦がない」。空の色からして違う。南の空が橙色に染まる頃、ここはもう鉛色の雲が低く垂れ込めている。石垣の一つ一つが、じわじわと冷やされていく。秋というより、もう冬の入り口と言った方が正確な空気だ。山形の農村で枯れ葉が舞っている頃、三戸城では人々がすでに、来る冬の長さを覚悟して息をひそめている。

 評定の間に、南部家の重臣たちが集まっていた。

 上座に座るのは、南部信直なんぶのぶなお。四十二歳。北奥の雄と呼ばれる男だ。精悍な顔立ちに、長年の戦と政務が深く刻んだ皺。目は鋭く、しかし今この瞬間は、その鋭さの奥に何か重いものを抱えた色がある。

「——伊達が最上と手を結んだ」

 信直が、静かに口を開いた。

 評定の間が、しんと静まり返る。

火鉢が、赤く燃えていた。

しかし信直には、その熱が届かない気がした。

胸の奥が、じりじりと冷えていく。

火鉢の温もりでは、どうにもならない冷たさが、そこにあった。

「上杉の本庄繁長が庄内へ侵攻した。最上は伊達に援軍を求め、政宗が実際に兵を動かした。尾浦城は守られ、上杉は撤退した」

 一語一語を、確かめるように置いていく。感情を排した、武将の声だ。

「これは単なる机上の約束ではない。伊達が実際に動いた——つまり、最上と伊達の同盟は、実効性のある本物だということだ」

 重臣の一人、老練な顔をした吉田政重よしだまさしげが、静かに問うた。

「殿、では我々はどう動くべきとお考えか」

 信直は、すぐには答えなかった。

 視線を、卓上に広げた地図に落とす。

 奥羽の地図だ。南には伊達の領地が広がっている。西には最上。北には——津軽為信つがるためのぶ。あの男は今、南部家の家臣という立場でありながら、虎視眈々と独立の機会を狙っている。東は海だ。

(——四方を、囲まれている)

 信直の指が、地図の縁を静かに辿った。

「……今は動けん」

 信直が、静かに言った。

「豊臣の目が東北に向いている。軽率に動けば、惣無事令違反の咎めを受ける。最上が上杉との戦いを乗り切れたのは、秀吉への報告書を先手で送ったからだ。我々には、今その先手を打つ材料がない」

「……御意」

 重臣たちが、一斉に頭を下げた。

 しかし信直の内心は、その「御意」の言葉とは裏腹に、ざわざわと波立っていた。

(——義光め)

 最上義光。出羽の狐と呼ばれる男。長年、南部家にとって「西の厄介な隣人」だった。しかし今回の一件で、その評価を根本から改めなければならなくなった。

(伊達と手を結ぶとは……本当に抜け目がない。しかも、上杉が動く前に伊達への書状を送っていた。先を読んでいた。あの男は、本当に先を読んでいた)

 評定が終わった後、信直は一人で私室に戻った。


 三戸城の私室は、質実剛健な造りだった。

 余計な装飾はない。武具が壁に掛けられ、文机の上には書状が積まれている。窓の外から、北奥の冷たい風の音が、絶え間なく聞こえてくる。

 信直は地図を広げた。

 改めて、奥羽全土を眺める。

(——南は伊達。西は最上。北は津軽。東は海)

 南部家は、四方を囲まれている。

 これは今に始まった話ではない。南部家が北奥に根を張ってきた長い歴史の中で、常にそうだった。しかし——これまでは、まだ「間隙」があった。

(伊達と最上が対立していた。だから南部は、その隙間を縫って動けた。伊達が最上に向かっている間は、南部への圧力が分散される。最上が伊達に対抗している間は、西の脅威が薄れる。その均衡の上に、南部家は立っていた)

 しかし今は——。

(その間隙が、消えた)

 信直の指が、地図の上をゆっくりと動いた。山形から米沢へ。米沢から仙台へ。仙台から三戸へ。最上と伊達が手を結んだ今、その連携が南部家に向けられれば——。

(伊達一方向からの脅威なら、まだ対処できる。しかし最上と伊達が同時に来れば……南部は持たない)

 冷静な分析が、冷たい結論を導き出す。

 武将として、信直は感情で物事を判断しない。感情で判断する武将は、戦場で死ぬ。長年の経験が、そう教えてきた。それでも——今この瞬間、胸の奥底で何かが、じりじりと焦げるような感覚がある。

(豊臣が東北を動かす日まで、南部は力を蓄えるしかない。しかし……その日が来た時、南部は豊臣に服従するのか。それとも……)

 答えは、まだ出ない。

 出せる状況ではない。

 信直は地図を丁寧に畳み、文机の引き出しにしまった。外の風の音が、少しだけ強くなった気がした。


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