表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生駒姫は、親バカな父・義光と従兄の政宗を和解させて東北大同盟を作り処刑フラグをへし折ります!  作者: 双瞳猫
第1部:転生幼女、親バカ父と暴走従兄の喧嘩を止める

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/16

第3話「処刑回避の絶対条件。それは『豊臣に付け入る隙を与えない』こと。」(前半)

駒姫は、協力者確保に動きます。

 目が覚めたのは、夜明け前だった。

 城のどこかで、鎧を磨く音がしている。兵糧を運ぶ足音が廊下を行き来し、馬の嘶きが遠くから届く。出陣準備の音だ。山形城全体が、戦の気配に満ちたまま夜を越えていた。

 私は布団の中で目を開けたまま、天井を見上げた。


 ——さて。整理しよう。

 昨夜、義姫様への文を書いた。密使の手配は今日、氏家殿に頼む。それはいい。問題は、その先だ。

 そもそも——なぜ、大崎合戦を止めなければならないのか。

 感情論ではない。「身内同士で争うのは悲しい」とか「戦は嫌いです」とか、そういう話ではない。もっと冷たく、もっと合理的な理由がある。

 私は頭の中で、図を描いた。

 最終目標:一五九五年、秀次への輿入れを断る。

 これが、処刑フラグを折るための絶対条件だ。前世の記憶によれば、史実の駒姫は十五歳でこの要求を断れなかった。断れなかった——というより、断る力がなかった。義光がどれだけ嫌がっても、豊臣の圧力の前では抗えなかった。

 では、断るためには何が必要か。

 豊臣が「断られても仕方ない」と認める、軍事・外交力。

 東北の大名が一枚岩で「この要求は呑めない」と言える状況。それだけの力があれば、さすがの秀吉も無理強いはできない。

 では、その力をどうやって作るか。

 最上家と伊達家の、強固な同盟。

 東北最大の二勢力が手を結べば、それだけで日本有数の軍事力になる。義光の謀略と政宗の武勇が組み合わされば——豊臣といえど、軽々しく手は出せない。

 では、その同盟を作るために、今すぐ何をすべきか。

 大崎合戦を止め、両家の疲弊を防ぐ。

 ここだ。全ての起点は、ここにある。

 処刑まで七年。でも実質二年——そう、二年だ。

 一五九〇年、豊臣秀吉は小田原征伐を行う。北条氏を滅ぼし、天下統一を完成させる。その時、東北の大名たちは否応なく秀吉の前に頭を垂れることになる。その場面で「最上と伊達は同盟を結んだ強固な勢力だ」と見せられるかどうかが、全ての分岐点だ。

 小田原評定まで、あと二年。

 「七年あると思ったら大間違いだ」と、私は静かに呟いた。「戦国時代は、のんびりしていると死ぬ」


 夜が明けた。

 私は文机の前に座り直し、改めて「惣無事令」について考えた。

 昨日、義光が縁側でぽろりと言っていた言葉——「南の猿が惣無事令とやらを出しおった」。あの時の義光の目には、軽侮の色の奥に、確かな警戒があった。この人はわかっている。わかっていながら、止まれない。

 惣無事令。先年の天正十五年(一五八七年)、豊臣秀吉が九州平定の直後に発した命令だ。

 内容は一言で言えば「大名同士で勝手に戦うな」。領土紛争は秀吉が裁定する、私戦は禁止——そう聞けば穏やかな平和令のように聞こえる。

 でも実態は違う。

 前世の私が史学科で学んだ解釈を言えば、これは「法律の形を借りた支配の道具」だ。違反した大名は「秀吉への反逆」とみなされ、改易や討伐の口実を与える。「法を守れ」と言いながら、実際には「従うか、滅ぶか」を迫っている。

 そして今、大崎合戦はこの惣無事令に真っ向から違反している。


 ——最悪のシナリオを、描いてみよう。

 最上と伊達が大崎合戦で激突する。どちらが勝っても、両家は消耗する。兵を失い、兵糧を使い果たし、国力が落ちる。そこへ秀吉が「惣無事令違反」を口実に介入してくる。疲弊した両家は、強い立場で交渉できない。豊臣の要求を呑むしかなくなる。

 そして一五九五年——弱った義光の手元に、秀次からの要求が届く。

 「駒姫を側室に」

 義光は嫌がる。でも断れない。なぜなら、もう力がないから。

 「……これが、史実で起きたことだ」

 私は静かに呟いた。燭台の炎が、朝の光の中で薄く揺れている。

 でも逆に考えれば——大崎合戦さえ止めれば、話は変わる。

 最上と伊達が「惣無事令を守った模範的な大名」として小田原評定に臨めば、秀吉への立場が全く違う。「東北の二大勢力が手を結んで、ちゃんと法を守っています」という姿勢は、外交上の強力な武器になる。

 「惣無事令は、秀吉が東北を喰うための罠だ」

 私は筆を取り、頭の中の整理を紙に書き付けた。七歳の姫が書く文字としては、あまりにも整いすぎているが、今は気にしない。

 「違反すれば討伐の口実になる。守れば——守れば、こちらが主導権を持てる」

 史実の義光は、この罠に気づいていた。でも一人では止められなかった。

 ——だから、わしが動く。

 ……あ。

 「わし」って言ってしまった。

 お父様の口癖が、完全に移っている。これはまずい。


 午前の陽光が縁側に差し込む頃、私は氏家守棟うじいえもりむねを呼んだ。

 氏家が現れたのは、それから少しして後だった。

 年齢は四十代の終わり頃だろうか。引き締まった体躯に、落ち着いた色の小袖。顔立ちは実直そうで、目だけが静かに鋭い。義光が信任する知将、という評判は、この目を見ればわかる気がした。

「姫様、お呼びでございますか」

 深々と頭を下げる。礼儀は完璧だ。でもその目の奥には——「この姫様は何を言い出すのか」という、警戒と好奇心が混在していた。

 ——昨日、軍議の廊下で目が合った時から、この人はずっと私を観察している。

「はい。お願いがあって」

 私は愛らしく微笑んだ。七歳の姫として、完璧な笑顔のつもりだ。

「……何なりと」

「義姫様に、この文を届けていただきたいのです」

 懐から、昨夜書いた文を取り出した。丁寧に折り畳まれた、小さな紙。

 氏家の目が、わずかに動いた。

「……姫様が、義姫様に?」

「はい。父上と政宗様の争いを、止めたいのです」

 短い沈黙が流れた。

「……それは、殿のご意向でございますか」

 核心を突く問いだ。さすがは知将、と私は内心で思った。

「父上は……まだご存知ありません」

 氏家の眉が、かすかに動いた。

「でも——」

 私は一瞬だけ、迷った。

 ここで「七歳の姫」の仮面を外すのか。この人を信じるのか。

 ——信じるしかない。一人では動けない。

「このまま戦えば、最上家も伊達家も、豊臣に喰われます」

 声のトーンが、変わった。愛らしい姫の声ではなく、もっと静かで、もっと真剣な声に。

「守棟様、あなたもそれはわかっておられるはずです」

 氏家が、動かなくなった。

 七歳の姫が言うべき言葉ではない。しかも——正しい。この人の目が、そう言っていた。

 長い沈黙が流れた。縁側の外で、春の風が庭木を揺らす音がした。

「……姫様は」

 氏家が、静かに口を開いた。

「いつから、そのようなことを」

「生まれた時から、少し……人と違うのかもしれません」

 私は微笑んだ。嘘ではない。転生者だと言えないだけで、事実だ。

 氏家がまた、黙った。

 この人の頭の中で、何かが動いているのがわかった。「姫様が普通ではない」という認識から、「では、この姫様をどう扱うべきか」という判断へ——その思考の過程が、目の動きに出ている。

「……一つだけ、お聞きしてもよろしいでしょうか」

 氏家が、静かに言った。

「姫様は——何のために、これをなさるのですか」

 私は一瞬だけ、黙った。

 この問いは、予想していた。でも答えるのは、少し怖い。

「……生き延びるためです」

 正直に言った。

「そして——大切な人たちを守るために」

 氏家の目が、わずかに細くなった。何かを確かめるような目だ。

 また、沈黙。

 今度は長かった。庭の風が二度、三度と吹き抜けた。

 やがて氏家は、深く、深く頭を下げた。

「……承知いたしました」

 その言葉の重さを、私は全身で受け取った。

 ——第一の協力者、確保。

 内心でそう呟きながら、私は「ありがとうございます、氏家殿」と、できる限り愛らしく微笑んだ。



本日UPは第4話までを予定しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ