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転生駒姫は、親バカな父・義光と従兄の政宗を和解させて東北大同盟を作り処刑フラグをへし折ります!  作者: 双瞳猫
第1部:転生幼女、親バカ父と暴走従兄の喧嘩を止める

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第3話「処刑回避の絶対条件。それは『豊臣に付け入る隙を与えない』こと。」(前半)

駒姫は、協力者確保に動きます。


地の文を中心に改稿しました(5/3)

 目が覚めたのは、まだ薄暗い夜明け前だった。

 城のどこかで、ガチャリ、ガチャリと冷たい鎧を磨く音がしている。重い兵糧を運ぶ慌ただしい足音が廊下を行き来し、出陣を待つ馬のいななきが遠くから風に乗って届く。出陣準備の音だ。山形城全体が、ヒリヒリとした戦の気配に満ちたまま夜を越えていた。

 私は布団の中で目を開けたまま、じっと木目の天井を見上げた。


 ——さて。頭の中を整理しよう。

 昨夜、義姫様(叔母様)への文は書き上げた。密使の手配は今日、氏家殿に頼むつもりだ。そこまではいい。問題は、その先だ。

 そもそも——なぜ、私は大崎合戦を全力で止めなければならないのか。

 感情論ではない。「身内同士で争うのは悲しい」とか「血を見る戦は嫌です」とか、そういうお花畑な話ではない。もっと冷たく、もっと切実で、合理的な理由がある。

 私は頭の中で、一つのフローチャートを描いた。

 最終目標:一五九五年、豊臣秀次への輿入れを断固として断る。

 これが、私の処刑フラグをへし折るための絶対条件だ。前世の記憶によれば、史実の駒姫は十五歳でこの理不尽な要求を断れなかった。断れなかった——というより、断る力がなかったのだ。お父様がどれだけ嫌がって泣き叫ぼうとも、天下人・豊臣の圧倒的な圧力の前では抗えなかった。

 では、断るためには何が必要か。

 豊臣が「あそこには手を出せない。断られても仕方ない」と認めるだけの、強大な軍事・外交力だ。

 東北の大名が一枚岩となって「この要求は呑めない」と突っぱねられる状況。それだけの武力と結束があれば、さすがの秀吉も無理強いはできない。

 では、その力をどうやって作るか。

 最上家と伊達家の、強固な同盟である。

 東北最大の二大勢力がガッチリと手を結べば、それだけで日ノ本有数の軍事力になる。お父様の謀略と政宗従兄様の武勇が組み合わされば——豊臣といえど、軽々しく手は出せないはずだ。

 では、その同盟を作るために、今すぐ何をすべきか。

 大崎合戦を止め、両家の無駄な疲弊を防ぐ。

 ここだ。私の生き残りを懸けた全ての起点は、ここにある。

 処刑まで七年。でも実質的なタイムリミットは二年——そう、たったの二年しかない。

 一五九〇年、豊臣秀吉は小田原征伐を行う。北条氏を滅ぼし、天下統一を完成させるあの大戦だ。その時、東北の大名たちは否応なく秀吉の前に頭を垂れることになる。その決定的な場面で「最上と伊達は同盟を結んだ強固な勢力だ」と見せつけられるかどうかが、全ての分岐点となる。

 小田原評定まで、あと二年。

 「七年あると思ったら大間違いだ」と、私は薄暗い部屋の中で静かに呟いた。「戦国時代は、のんびりしていると死ぬ」


 夜が明けた。

 私は文机の前にちょこんと座り直し、改めて「惣無事令」について考えを巡らせた。

 昨日、お父様が縁側でぽろりとこぼしていた言葉——「南の猿が惣無事令とやらを出しおった」。あの時のお父様の目には、猿と呼ぶ軽侮の色の奥に、確かな警戒の光があった。この人はわかっているのだ。わかっていながら、武士の意地と面子のために止まれない。

 惣無事令。先年の天正十五年(一五八七年)、豊臣秀吉が九州平定の直後に発した命令だ。

 内容は一言で言えば「大名同士で勝手に戦うな」。領土紛争は秀吉が裁定する、私戦は禁止——そう聞けば、争いをなくす穏やかな平和令のように聞こえる。

 でも実態は全く違う。

 前世の私が史学科で学んだ解釈を言えば、これは「法律の形を借りた支配の道具」だ。違反した大名は「秀吉への反逆」とみなされ、改易や討伐の正当な口実を与える。「法を守れ」と綺麗事を言いながら、実際には「従うか、滅ぶか」を迫っているのだ。

 そして今、大崎合戦はこの惣無事令に真っ向から違反している。


 ——最悪のシナリオを、描いてみよう。

 最上と伊達が大崎合戦で激突する。どちらが勝っても、両家は激しく消耗する。兵を失い、兵糧を使い果たし、国力がガタ落ちする。そこへ秀吉が「惣無事令違反」を口実に介入してくる。疲弊しきった両家は、強い立場で交渉などできない。豊臣の理不尽な要求を呑むしかなくなる。

 そして一五九五年——弱り果てたお父様の手元に、秀次からの要求が届く。

 「駒姫を側室に」

 お父様は嫌がる。でも断れない。なぜなら、もう跳ね除ける力がないから。

 「……これが、史実で起きたことだ」

 私は静かに呟いた。燭台の炎が、白み始めた朝の光の中で薄く揺れている。

 でも逆に考えれば——大崎合戦さえ止めれば、話は大きく変わる。

 最上と伊達が「惣無事令を守った模範的な大名」として小田原評定に臨めば、秀吉への立場が全く違う。「東北の二大勢力が手を結んで、ちゃんと法を守っていますよ」という姿勢は、外交上の強力な武器になる。

 「惣無事令は、秀吉が東北を喰うための罠だ」

 私は筆を取り、頭の中の整理を紙に書き付けた。七歳の姫が書く文字としては、あまりにも整いすぎているが、今は気にしない。

 「違反すれば討伐の口実になる。守れば——守れば、こちらが主導権を持てる」

 史実のお父様は、この罠に気づいていたはずだ。でも一人では止められなかった。

 ——だから、わしが動く。

 ……あ。

 「わし」って言ってしまった。

 お父様の口癖が、完全に移っている。これはまずい。可愛くない。


 午前の陽光が縁側に心地よく差し込む頃、私は氏家守棟うじいえもりむね殿を自室に呼んだ。

 氏家殿が現れたのは、それから少しして後だった。

 年齢は四十代の終わり頃だろうか。引き締まった体躯に、落ち着いた色の小袖。顔立ちは実直そうで、目だけが静かに、そして恐ろしいほど鋭い。お父様が最も信任する知将、という評判は、この目を見れば痛いほどわかる気がした。

「姫様、お呼びでございますか」

 深々と頭を下げる。礼儀は完璧だ。でもその目の奥には——「この幼い姫様は、一体何を言い出すのか」という、強い警戒と探るような好奇心が混在していた。

 ——昨日、軍議の廊下で目が合った時から、この人はずっと私を観察している。

「はい。お願いがあって」

 私は、とびきり愛らしく微笑んだ。七歳の無邪気な姫として、完璧な笑顔のつもりだ。

「……何なりと」

「義姫様に、この文を届けていただきたいのです」

 懐から、昨夜書いた文を取り出した。丁寧に折り畳まれた、小さな紙。

 氏家殿の目が、わずかに動いた。

「……姫様が、義姫様に?」

「はい。父上と政宗様の争いを、止めたいのです」

 しん、と短い沈黙が流れた。

「……それは、殿のご意向でございますか」

 核心を突く問いだ。さすがは知将、と私は内心で舌を巻いた。

「父上は……まだご存知ありません」

 氏家殿の眉が、かすかにピクリと動いた。

「でも——」

 私は一瞬だけ、迷った。

 ここで「七歳の姫」の仮面を外すのか。この底知れぬ知将を信じるのか。

 ——信じるしかない。私一人では、城の外へ文一つ送れないのだから。

「このまま戦えば、最上家も伊達家も、豊臣に喰われます」

 声のトーンが、スッと変わった。愛らしい姫の声ではなく、もっと静かで、もっと真剣な、大人の声に。

「守棟様、あなたもそれはわかっておられるはずです」

 氏家殿が、ピタリと動かなくなった。

 七歳の姫が言うべき言葉ではない。しかも——図星だ。この人の鋭い目が、そう言っていた。

 長い沈黙が流れた。縁側の外で、春の風が庭木をサワサワと揺らす音がした。

「……姫様は」

 氏家殿が、ひどく静かに口を開いた。

「いつから、そのようなことを」

「生まれた時から、少し……人と違うのかもしれません」

 私は微笑んだ。嘘ではない。前世の記憶を持つ転生者だと言えないだけで、事実だ。

 氏家殿がまた、黙った。

 この人の頭の中で、何かが猛烈な勢いで動いているのがわかった。「姫様が普通ではない」という認識から、「では、この特異な姫様をどう扱うべきか」という冷徹な判断へ——その高速の思考過程が、目の動きに如実に出ている。

「……一つだけ、お聞きしてもよろしいでしょうか」

 氏家殿が、探るように静かに言った。

「姫様は——何のために、これをなさるのですか」

 私は一瞬だけ、黙った。

 この問いは、予想していた。でも答えるのは、少し怖い。

「……生き延びるためです」

 正直に言った。

「そして——大切な人たちを守るために」

 氏家殿の目が、わずかに細くなった。私の言葉の真偽を、魂の底まで確かめるような目だ。

 また、沈黙。

 今度は長かった。庭の風が二度、三度と吹き抜けた。

 やがて氏家殿は、深く、ひどく深く頭を下げた。

「……承知いたしました」

 その言葉の重さを、私は全身で受け取った。

 ——第一の強力な協力者、確保。

 内心でそう呟きながら、私は「ありがとうございます、氏家殿」と、できる限り愛らしく、年相応に微笑んだ。


本日UPは第4話までを予定しています。

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