表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生駒姫は、親バカな父・義光と従兄の政宗を和解させて東北大同盟を作り処刑フラグをへし折ります!  作者: 双瞳猫
第1部:転生幼女、親バカ父と暴走従兄の喧嘩を止める

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/56

第20話「政宗、駒姫を膝に乗せてご満悦——義光、歯ぎしりする」(前半)

「――んん……」

 ふわり、と。深い水底から浮かび上がるように、ゆっくりと意識が浮上した。

 鉛のように重いまぶたを押し上げると、ぼんやりとした視界に飛び込んできたのは、見知らぬ天幕の天井。

 そして、そのすぐ下。

 私の顔を至近距離から覗き込んでいる、鋭い隻眼とバッチリ目が合ってしまった。

「――目が覚めたか、従妹殿」

 低く、けれど微かに安堵の滲んだ声。

 ……え? なんで政宗従兄様まさむねにいさまが、こんなパーソナルスペースゼロの距離にいるの?

 状況が飲み込めず、私がぱちぱちと瞬きを繰り返していると、横から猛烈な勢いで巨大な影が割り込んできた。

「駒! 駒ぁ! よかった……本当によかった……!」

 お父様だ。普段の冷静沈着で腹黒い「羽州の狐」の面影なんて、どこを探しても見当たらない。そこにあるのは、愛娘の生還に泣き出しそうな、ただのパニック親父の顔だ。私を抱き起こそうとするその大きな手は、隠しきれないほど震えている。

 そんなお父様を横目で見やり、政宗従兄様がふんと鼻を鳴らした。

「俺が先に気づいたぞ、伯父御」

「……ぬかせ! 俺はずっと、一歩も引かずにここにいたわ!」

「だが、最初に声をかけたのは俺だ」

「俺の娘だぞ!」

(あ、そうか。私、倒れたんだわ……)

 二人のトップ大名による、あまりにも大人気ないマウント合戦。それを聞きながら、私はズキズキと痛む頭の奥で、すんっと冷静に状況を把握した。

 そうだ。濁り酒を甘酒と勘違いして一気飲み、急性アルコール中毒で華麗に自爆したんだった。

(……目覚めた私を前に、東北の双璧がこれ? 嘘でしょ?)

 全然笑えない。笑えないけれど――なぜだか、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。

 処刑回避の打算とか、人脈構築とか、そういう面倒な計算は全部抜きにして。この二人は、本気で私のことを心配してくれていた。

 その時、政宗従兄様の後ろから、幽霊のように青白い顔をした片倉景綱殿がそっと顔を出した。

「駒姫様、ご気分はいかがですか……」

 ……その顔色、昨日よりさらにヤバくなってない?

 胃の辺りをそっと押さえている手には、もはや悲壮感すら漂っている。この人、私のせいで寿命縮めてるよね。ごめんなさい、片倉様。本当に苦労人すぎる。

 傍らに控えていたお医者様が、深々と頭を下げた。

「大事ございません。しばらく安静にしていれば、すぐにお元気に戻られるでしょう」

 その言葉に、天幕の中にいた全員が、ほうっと深い安堵の息を吐き出した。

 どうやら、私が倒れた直後から、お父様と政宗従兄様はずっと私のそばに張り付いて「俺の方が心配している」「いや俺だ」と、不毛すぎるデッドヒートを繰り広げていたらしい。

(本当に、この人たちったら……)

 私は内心でこっそりと苦笑しながら、七歳の幼女らしい、とびきり愛らしいスマイルを浮かべてみせた。

「お父様、従兄様。ご心配をおかけしました。もう、大丈夫です」

 お医者様のお墨付きも出たことで、中断されていた宴会がようやくリスタート。

 私はお父様の隣にちょこんと座り直し、今度こそ絶対に間違えないように、細心の注意を払って侍女に頼む。

「――お、お水をお願いします」

 運ばれてきた冷たい水が、火照った喉を心地よく潤してくれた。


 宴会が再開されて、しばらく経ったころのこと。

 政宗従兄様が、不敵な笑みを浮かべて私を手招きした。

「従妹殿よ。ちょっとこちらへ来ぬか」

「……え?」

 戸惑う間もなかった。政宗従兄様はひょいっと軽い手つきで私を抱き上げると、あろうことか、そのまま自分の膝の上に乗せてしまったのだ。

(――って、えええええええっ!?)

 私の脳内はパニック一色。絶叫マシーンに放り込まれた気分だ。

 いや、わかる。わかるけど。七歳の幼女を膝に乗せるなんて、この時代なら親族間の微笑ましいスキンシップだ。現代の感覚で「セクハラ!」なんて叫ぶのは野暮だってことも。

 ……でも、問題はそこじゃない。

 私は、恐る恐る「あの方」の顔を窺った。

 お父様の顔が、みるみるうちに絶対零度の般若へと変貌していく。背後からは、視覚化されそうなほどのドス黒い怒りのオーラが立ち昇っていた。

「……殿……っ」

 最上家重臣・鮭延秀綱殿が、引きつった顔で小声で制止するが、もはや手遅れ。お父様はすでに腰を浮かせ、いつでも抜刀できそうな態勢に入っている。

「――政宗ぇ」

 地を這うような、底冷えのする声。

「殿! ここは宴の席! 他家の目もございますれば……ッ!」

 氏家守棟殿が滝のような冷や汗を流しながら必死に袖を引くが、お父様は「わかっている」と言いつつ、目が完全に据わっている。絶対わかってない。怖い。

 一方、大崎義隆様が「あ、あの……」と空気の読めないオロオロぶりを披露していたけれど、悲しいかな、完全にモブ扱いである。

 そして、政宗従兄様の後ろでは――。

 片倉景綱殿が「……胃が、また……」と、静かに胃を押さえて膝を突きかけていた。

(――主君が暴走し始めた。俺の胃壁が死ぬ)

 景綱殿のそんな悲痛な心の叫びが、もはや幻聴として聞こえてくるレベルだ。

 私は政宗従兄様の膝の上で、借りてきた猫のようにカチコチに固まっていた。

(これは……処刑回避的にアリなの!? いや、お父様と従兄様がここで決闘でも始めたら、せっかくの同盟が灰になるんですけど!)

 けれど。

 困り果てているはずなのに、政宗従兄様の膝の上は意外なほど温かくて。

 猛禽類のような鋭いオーラを放つ独眼竜の腕の中は、悔しいけれど、妙な安心感があったのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ